「香り」が感情や記憶を呼び起こす。香りを味方につけたブランディング・UX設計とは

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皆さんは香りを嗅ぐだけで「嬉しい」「落ち着く」などの感情を抱く経験をしたことはありませんか? 例えば、祖父母の家に遊びに行くと、祖父母の家特有の香りがしますよね?その香りを嗅ぐことで「昔縁側で昼寝をしたこと」「いとこと遊んだこと」などの記憶・経験が蘇り、祖父母の家と認識します。香りで人は感情や記憶を思い出すことができます。
近年、UX(ユーザーエクスペリエンス)というデザイン設計の言葉が浸透しつつありますが、「香り」はデザインをする上で重要な要素となってきています。今回はなぜ「香り」が人の感情や記憶に残りやすいのか、香りを味方につけたブランディング事例などをご紹介します。編集・執筆 /OSARAGI, AYUPY GOTO

目次

  • 1.「香り」は人の感情に強く影響する
  • 2.「香り」を利用したブランディング
  • 3.近い将来、「香り」を操る仕事はUXデザイナーが担う?
  • 4.最後に

 

1.「香り」は人の感情に強く影響する

人は知覚(視覚、聴覚、触覚、嗅覚など)を用いて、体の外とインタラクション(相互作用)をして、何かを感じたり、記憶をしたり、外の世界とコミュニケーションをとっています。
 
数ある知覚の中で最も感情や記憶に残りやすい感覚は「嗅覚」と言われています。
それには脳と知覚の科学的な理由があるのです!
 
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    嗅覚以外の感覚はすべて視床という部分で感覚情報を処理し、皮質の適切な部分にその情報を送ります。それに対し、嗅覚は視床を経由せず、その感覚データは扁桃体という感情の情報を処理する部分へ直接送られます。さらに、扁桃体がある部分の近くに記憶を司る海馬にも接続されるので、より人の感情や記憶に残りやすいのです。

 
また、香りで呼び起こされる感情や記憶幼少期のものが多い傾向にあります。多くの男性が、昔お母さんが作ってくれた料理の香り・味が忘れられず、奥さんに「あの香り・味を再現してもらいたい!」とお願いすることがあるようです。これは嗅覚の感情や記憶が強く影響しているからだと言えるのではないでしょうか。

 
つまり、香りはUX設計をする上で大変重要なアイテムなのです。

 

参考……【logmi】匂いが記憶を呼び起こすのはなぜ? 嗅覚と脳のつながりから解き明かす

 

「香り」を利用したブランディング

アメリカでは「香り」のブランド化を専門としている企業が20社余りあるそうです。これらの企業は特定の印象や感情を呼び起こす独特の香りを特定のブランド向けに作っています。現に世界シェアNO.1のScent Air社は、香り創りのプロフェッショナルとして、ホテル、レストラン、カジノ、商業施設など、世界109カ国、設置10万箇所以上の実績を誇っています。
 
このように香りがビジネスになる時代が到来したのです。香りだけで「あのブランドだ!」と直接ユーザに訴えかけ、記憶してもらうことは可能です。では実際に企業の事例を見ていきましょう。
 
参考……オライリージャパン インターフェースの心理学 -ウェブやアプリに新たな視点をもたらす100の指針

ANA(全日本空輸)

ANA(全日本空輸)は日本の航空企業です。国際線、国内線ともに国内最大規模を誇っています。

乗客のオンとオフの切り替えを香りで誘導

引用:http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20110125/258196/?i_cid=LfTop

 
2010年にANAは新プロダクト・サービスブランド「Inspiration of Japan」を開始させ、業界初とも言われたオリジナリティ溢れる新ブランドは世界で注目されました。ラウンジ、機内食、シート、サウンドロゴなどハードからソフトに至るまで随所に改革が図られたのです。
 
その改革の中で、香りもブランド設定に加えられ、ANA独自の香りは「イノベーティブ」「際立つ個性」「モダンジャパン」の3つのキーワードを踏まえて開発されました。高野槙(こうやまき)や吉野檜(よしのひのき)といった和の香りと、ミントやローズマリーなどの洋のハーブを絶妙にブレンドした、完全オリジナルの香りです。甘く心地の良い香りの中に檜などのキリッとした和の香りで引き締めています。
 
この香りはANAの空港ラウンジのエントランス、機内で乗客に配るおしぼり、アロマカードに採用されました。空港や機内は様々な人々が利用する公共性の高い空間であるため、慎重に検討を重ねた上での決定だったそうです。
 
ただ香りをずっとユーザに嗅がせるのではなく、飛行機に乗る前の待ち時間やリラックスをしたい時に絞ることでメリハリができ、「ANAは落ち着くなぁ」という感情を潜在的に埋め込んで来ます。
 

アトレ

アトレはJR東日本グループの一つで、首都圏を中心にアトレやアトレヴィなどのショッピングセンターを運営をしている駅ビルのデベロッパーです。地域によって館内の雰囲気や仕様を変え、安らぎや発見、ほっとする感覚を大事にしています。

屋内で感じる四季の香り

引用:http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20110125/258196/?i_cid=LfTop

 
2006年にアトレはリニューアルオープンした亀戸店のパウダールームを皮切りに、一部店舗のアロマを導入しました。アロマは品川や巣鴨、吉祥寺、田端の計5つのアトレ、アトレヴィに導入されているようです。(2006年時の情報)
 
パウダールーム内に香る香りは四季によって変化をし、「毎日のように利用する施設であっても新たな発見を作り、よりアトレの印象深くしたい」とアロマの導入に踏み切ったそうです。
 
筆者(Mayu Osaragi)もアトレには数回行ったことがありますが、まさか四季によって香りを変えているとは驚きでした。一般的な駅の化粧室というとそこまで良い香りがするとは言い難いので、アトレの化粧室に行った時には感動しました。気軽に立ち寄ることができて、尚、化粧室が落ち着く綺麗な空間であれば、何度も施設を利用したいと思いますよね。
 
確かに、駅に近く、毎日のように利用する施設だとなかなか印象は薄くなりがちです。そこで人が一番記憶に残るという嗅覚を刺激し、印象を深めるというのは理にかなった方法ですね。四季の変化を鼻で楽しむことができるパウダールームは、メイクのお直しも楽しくなりそうです。
 

シェラトン(Sheraton Hotels & Resorts)

シェラトン(Sheraton Hotels & Resorts)は、アメリカのスターウッド・ホテル&リゾーツ・ワールドワイドというホテルチェーンが運営するホテルブランドです。現在では世界70カ国以上、435を超えるホテルと88のリゾートを誇る、世界最大級のホテル企業となっています。

ラウンジに漂う歓迎の香り

引用:https://www.miyakohotels.ne.jp/tokyo/restaurant/list/bamboo/index.html/

 
シェラトンホテルのラウンジ(ロビー)に訪れると、シェラトン独特の香りが歓迎してくれます。イチジク、ジャスミン、フリージアをブレンドした「ウェルカミング・ウォームス」と呼ばれるアロマを独自に作り出し、「ここは癒しを提供するシェラトンです」ということを感覚を通して認識させてくれます。
 
ラウンジはホテルの顔と言っても過言ではありません。最初の印象で次に旅行で訪れた時に泊まるかどうかが決まります。旅路の果てにやっと辿り着いた今日の宿、とてもリラックスができるいい香りが漂っていれば「なんていい日なんだろう」という気持ちにさせてくれることは間違い無いでしょう。
ホテルのUXに香りは欠かせない要素であると言えます。
 
シェラトンを始め、他のホテルでもこのようなオリジナルの香りを制作し、香りでユーザーを出迎える取り組みを行っているところがあります。皆さんもホテルに行った際には香りを気にして入ってみるといいかもしれません。
 

ケンタッキーフライドチキン

ケンタッキーフライドチキンは、KFCコーポレーションのブランドであり、フライドチキンを主力商品としたファストフードチェーン店を運営するアメリカの企業です。

食欲をそそるフライドチキンの香り

引用:https://www.kfc.co.jp/menu/detail/?menu_id=514

 
ケンタッキーフライドチキンは私たちにとってとても馴染みがあるファーストフードではないでしょうか。皆さんの中でケンタッキーのフライドチキンを食べたことがないという人は、多くいないはずです。
 
創業者であるカーネル・サンダースが開発に9年も費やしたという「オリジナルチキン」。秘伝の“11ハーブ&スパイス”が含まれており、ケンタッキー独特の風味と香ばしいチキンに仕上がっています。その秘伝スパイスのレシピは大切に受け継がれ、70年以上たった今でも人々を魅了し続けています。
 
その秘伝のレシピによってもたらされたチキンは、他店のチキンとは異なる香りを発しています。店の前を通りかかっただけでも「あ!美味しいケンタッキーのフライドチキンの香りだ!」と不思議と記憶を呼び起こさせます。
 
料理を提供する企業では「香り」がその商品のイメージに直結します。例えば、生臭い匂いがしてきたらその商品を買いたいとは思いませんよね?(笑)。よってケンタッキーフライドチキンの強烈なチキンの香りは人々を空腹にさせるだけでなく、人々の記憶にケンタッキーのブランドは安心で美味しいということを定着させているのです。
 

3.近い将来、「香り」を操る仕事はUXデザイナーが担う?

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ご紹介した通り、近年は人が集まる場所をビジネスとしている企業において、「香り」は切っても切り離せない重要なUXになっています。
 
日本ではまだまだ「香り」を用いたブランド化は認知されていないように思いますが、香りを味方につけ、ブランドをより強固なものにしている企業も徐々に増えてきているようですね。香りが持つ強烈なインパクトで、ユーザーの心をがっちり掴んでいます。
 
今は特定の場所や紙媒体などに香りが用いられることが多いですが、もし、スマートフォンが進化し、「香り」を放出できる機能ができたとしたら、「この画面のボタンを押すとシトラスの爽やかな香りが香る」「LINEが来たら自分のお気に入りの香りを登録してカスタマイズできる」などの機能も生まれそうです。媒体を使用する際のUXも、香りが重要性を増すのではないでしょうか。
 
また、鑑賞者の様々な知覚に訴えかける作品展示、すなわち、体験型展示(インスタレーション)が増えています。
 
このことから、UXを専門とするデザイナーを始め、それ以外のデザイナーにとっても「香り」をデザイン設計する機会が今後増えて行くかもしれません。
 
今までデザインの対象物であった「モノ(紙、木、鉄、などの実体が伴うもの)」から「目に見えないモノ(人の経験、フロー、感覚など)」にまでデザインの幅が広がってきています。これからの時代、「UXを考えることができない、ただモノを作る人」は、デザイナーとして生き残るのは厳しいように思います。

 
【UXとは何であるか知りたい方はこちら】
「UI/UX」の「UX」って何?|仕事百科

 

 

4.最後に

普段は全く気にしない感覚としてある「嗅覚」ですが、UXを考える上で不可欠な要素であることを理解していただけましたか?「香り」は人にとって強烈な印象や感情、記憶を植え付けるアイテムです。
 
ただ、それだけ人々の感情に強烈に訴えかけられる感覚である為、利用するときは慎重になる必要があります。というのも、香りからどのような印象を受けるのかは人によって異なるからです。
 
ターゲットにしているユーザーの過去の経験から、例えば、「これは20代には馴染みのある香りだろう」と当りをつけて、ブランドに生かしていく必要があります。
このポイントさえ押さえれば、UX設計をする際にはインパクトのある仕掛けを作ることができるでしょう。近年、インタラクションデザインが注目を浴びたことで、今後ますます嗅覚を含む人間の知覚に訴えかけるデザインが要求されてきています。その中でデザイナーが社会に果たす役割の幅も広がっていくのではないかと思います。是非、皆さんも「香り」に敏感になって「これはこうするためにこの香りを使用しているんだ」と分かるくらいに身の回りのものを観察してみましょう!

(2017.9.13)
Mayu Osaragi

著者紹介

大佛茉由Mayu Osaragi

武蔵野美術大学造形学部デザイン情報学科所属。インタラクションデザインを勉強中です。最近switchを手に入れ、マリオカートをしています。
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