理想の表現を求め、インプット千本ノック!有名アーティストのMVも手がける、新卒フリーランスの学生時代|映像作家 市川 稜さん

好きなアーティストやバンド、アイドルの楽曲に、あなたはどのように触れていますか?音楽サービスやテレビ番組もありますが、YouTubeなどの動画サービスでMV(ミュージックビデオ)を見て楽曲を知る……という方も多いと思います。MVは、楽曲の世界観やアーティストの魅力を伝える、重要なアートワークの1つです。
今回は、MV制作やライブ演出など、音楽関係の仕事を中心に活動を行なう市川稜さんにインタビュー!映像制作のお話から、新卒でフリーランスとなった進路選択についてまで、詳しく伺いました。編集・執筆 / YOSHIKO INOUE , AYUPY GOTO

市川 稜いちかわ りょう

Director , VJ

1996年東京都生まれ。映像作家、VJ。武蔵野美術大学出身。
ジャニーズのMVやサカナクションのティザー映像を手がけ、ULTRA JAPAN、水曜日のカンパネラのVJやハウステンボスでのプロジェクションマッピングなども行っている。テクノロジーの中に存在する情報を自らの視点で解釈し、目で見ることの出来るものへの表現へ還元することを目指す。メディアとしての映像、グラフィックス、プログラミングを包括的に、分野に拘ることのない制作をしている。
http://assassin3120.tumblr.com

MVやライブ演出など、音楽関係を中心に手がける。
1つの撮影手法でも飽きない映像をつくることにこだわりを。

― まず、市川さんのお仕事内容について教えてください。

市川さん:音楽関係を中心とした映像作品を手がけています。MV制作が多いですが、たまにライブ演出もしています。


YOTOWN / 「dive」Music Video
 
 


KEN☆Tackey / 「アイシテモ」Music Video
 
 

Attractions / 「Attractions 2018SS footage」
 
 


SHADOWS / 「Still Remember」Music Video

 
 

― MVのアートワークは、アーティストや曲の世界観を伝えるために、すごく大事な要素ですよね。MVの制作は、どのように進行されるのですか?

市川さん:プロデューサーから声がかかって仕事をもらうことが多いのですが、まずは曲をいただいて、クライアントの方と打ち合わせをします。クライアントというのは、レコード会社であったり、バンドの本人たちだったり、その時によりますね。
そこから撮りたい映像の企画を考えて提案し、クライアントの方やアーティスト本人と内容を擦り合せてから撮影に進みます。
自分の好きなジャンルや得意分野はアイデアが浮かびやすいけど、そうでないときはどうイメージを膨らませるか、毎回悩むところです。企画を出した後の打ち合わせでは、「このアングルから撮りたいけど予算の関係で難しい」など、予算との兼ね合いがいろいろと検討されます。

▼一般的なMV制作の流れ

― サカナクションの作品では、2作品制作されたそうですね。

市川さん:ライブ本編のティザー映像と、DVDの開け方を説明するような動画をつくりました。サカナクションのライブDVDは毎回特殊な形をしているので、DVDボックスそのものを説明する動画があるんです。そちらは、説明をいかにおしゃれに見せるかという技術になりますが、もう1つは、ライブ全体のコンセプトを提案するような映像です。サカナクションのライブの雰囲気が一目で伝わることが大事だったので、水中の映像をメインに使っています。あの水中の映像は、伊豆の海に潜って撮りました(笑)。

 

サカナクション / LIVE Blu-ray、DVD「SAKANAQUARIUM2017 10th ANNIVERSARY ~」 special movie
 

― かなり体を張った撮影だったんですね!海に潜るなど、撮影する際のこだわりはかなりのものだと思います。「これはこだわりたい」という撮影の手順や考え方があれば教えてください。

市川さん:撮影手法を一貫させることにはこだわっています。バンドシーンを撮るときは絶対ステディ(カム)*1を使うとか、静かな映像のときはFix*2でしか撮らないとか、そういうルールを1つ自分の中で決めるようにしています。ただ、現場で変わってくることも多くあるので、なかなか難しいですが。
いま(2018年)は手法を混合させることが主流になっているので、自分は、1つの撮影手法のなかでいかに飽きさせないかをこだわっていきたいですね。また、カラコレの作業の中で、自分の好きな色を見つけていくことも大事にしています。

*1ステディカム……カメラを持って歩くなどの移動をした際に、移動によって生じるブレや振動を抑え、スムーズな映像を録ることができる機器のこと。

*2Fix……三脚にカメラを固定すること。

スキルは独学。
制作物を発信したら、ツテで仕事が舞い込むように

― 市川さんが映像制作を始めたのは、いつからだったのでしょうか。

市川さん:高校生くらいの時に、イベントに流すプロモーションムービーのようなものを作ったのが最初でした。当時は映像をつくりたくて……というよりは、イベントのためにつくったものが映像だった、という感じでしたね。

― では、本格的に映像制作を始めたのは大学だったんですね。何かきっかけはあったのでしょうか。

市川さん:もともと「ライブ演出をしてみたい」ということから美大に進学しました。入学後、身近でライブ演出ができる場所を探していたところ、クラブのVJにいきついて。先輩に連れて行っていただいてVJをするようになりました。そこではいろんな出会いがあり、その中である人に「映像作れないの?」という話をされて、作れます!って言ったのが始まりですね。本当はそのとき、まだ作れなかったんですが(笑)。1ヶ月くらいかけて、素材からすべてAfter Effectsで編集して制作しました。
映像作品に付随するデザインまわりは学校で学んだところもありましたが、学科に映像の授業はなかったので、完全に独学です。

▼学生時代の作品。


― 完全に独学!具体的には、どのようにスキルを身に着けたのでしょうか?

市川さん:グラフィック要素の強い映像に関しては、After EffectsとC4D(CINEMA 4D)をとにかく触り続けました。毎日3つチュートリアルをして、ソフトを身体になじませ、毎日vimeoをたくさん見て……という、千本ノックみたいなことをしていましたね。
「こんな表現がしたい」と思ったら、それを実現している動画を繰り返し見て、要素や編集方法を習得していきました。自分の作品をつくるためにはどのソフトどう使えば良いのかを、見ながら論理立てていくというか。ただ、感覚としては、スキル習得のためにというより、自分が見たくて、やりたくてやっていたという感じですね。
実写のほうは、もともと写真を撮っていたので、自分が持っていたカメラで動画を撮り、それを繋いでいった……という感じで抵抗なくできました。

【市川さんの映像制作の身につけ方】
・AfterEffectsやCINEMA 4Dのチュートリアルを毎日3つする
・vimeoで作品を観て、表現方法を真似てみる

― 見て、手を動かして……を繰り返していたのですね。好きな映像作家さんや、影響を受けている映像作家の方はいらっしゃいますか。

市川さん:自分の制作のコアになっていて、影響も受けているのは山田智和監督と関根光才監督です。山田監督はサカナクションのMV等を手がけている方で、色の使い方や、シネマティックな部分を映像作品に落とし込んでいるところがすごく好きです。そして、実写を撮り始めるきっかけとなったのは、関根監督の作品です。
ただ、自分の作品がそのお二人からすべて影響しているというわけではなく、いろんな人たちの影響が融合していると思っています。また、是枝裕和監督の作品も好きで、今はあの撮影技法や雰囲気感をいかに映像の中に取り入れられるかをチャレンジしてみています。

山田智和監督が手がけたサカナクション「years」MV


関根光才監督が手がけた短編映画「RIGHT PLACE」


是枝裕和監督が手がけた映画「万引き家族」予告編

市川さん:気になる監督やアーティストを知りたいときは、「その人たちがどうやってものづくりをしているか」という思考の部分にもすごく興味があるんですよね。例えばアーティストのMVを撮るときも、その人の曲を聞いたり映像を見たりもしますが、インタビューを読むことも多いんです。その人がどういうルーツで、どういう気持ちでものづくりをしているのかに興味があって。そこから作品の着想を得ることが多いです。

― つくるだけでなく、インプットの時間も大切にしていたのですね。
また、学生時代から大きなお仕事にも携わっていますよね!そういったお仕事の依頼はどのように受けていたのですか。

市川さん:始めは知り合い伝いの依頼が多かったです。「映像をつくれる」というのがなんとなく周りに伝わると、部活のプロモーションビデオなど、いろんなことを頼んでもらえるんですよね。友達の依頼でつくったものをSNSやTumblrに投稿して、そこを見た人から時々仕事をもらっていました。
それ以外だと……中学の同級生に、高1で起業した人がいるんですよね。彼とはずっと、普通に友達として「普段こういうことをしているんだよ」というのを話す間柄だったのですが、自分が大学生になり映像制作をするようになってから、仕事に誘われる機会が増えていきました。
JALのジャンボジェットやハウステンボス、ULTRA JAPANのプロジェクションマッピングなど、現場で映し出すイベント系は、彼からの仕事で多くの経験を積みましたね。その実績をTumblrなどに載せると、そこからまた仕事につながっていって。

【学生時代の仕事の獲得方法】
・「映像がつくれる」ということを周囲に伝える
・つくった作品をSNSやTumblrに載せる

― なんと同級生からのつながりで依頼があったのですね!
仕事に課題にと忙しかったかと思いますが、大学4年次に就職活動は行いましたか。

市川さん:就職活動は……してないんですが、する気ではいました(笑)。ただ、大学三年生頃からインターンシップや現場のお手伝いなどをさせていただく機会が増えて。いろんな方とお話したり、自分に向いている働き方を考えたりしていくなかで、就職活動はやめました。
その後、先程の話にも出たプロジェクションマッピングのお仕事等があり、やっと自分の力で実写制作を始められた時期でもあったので、その辺りから卒業までに、いろんな仕事をいただくようにもなっていきました。金額感もフリーで食べていけるくらいで受けられるようになり、そのまま卒業を迎えました。

― ちなみに、大学時代はViViViTにも作品をアップしてくださっていたと思うのですが……。

市川さん:それは少し変な縁で……、大学3年生の時に働いていたインターン先のデザイン会社が、採用側としてViViViTを使っていて、自分も試しに登録してみたんです。就職先を探すというより、当時持っていた作品を投稿し、自分をプロモーションする場の1つという位置づけで使ってました。

▼市川さんのViViViTページは、お手本ページとして特別に一般公開中!
 https://www.vivivit.com/profile/public/mgwyx6bNdw

― ありがとうございます!デザイン制作会社でインターンをしていた時期があったのですね。

市川さん:そうなんです。その会社では映像制作はほぼしていなくて、クリエイティブディレクションまわりを学ばせていただきました。その経験は、いまの制作でも「ディレクションとは何か」と考えるときに活きていると思います。もともと広告をつくりたいと思って映像を始めたわけではなかったので、広告やブランディング的なところは「自分のやりたいこととは真逆だな」と思っていた節がありました。でも最近は、だんだんそれらは融合してくるんだな、というのを感じていますね。

新卒フリーランス、その働き方とは

― そして卒業後、新卒フリーランスとして働き始めます。
卒業後すぐにフリーランス……という働き方は、一体どんなものなのか読者の方も気になる部分かと思います。現在は、どのように仕事を獲得しているのですか。

市川さん:仕事をもらうときは、プロデューサーの方から声がかかることが多いですね。業界自体がめちゃめちゃ狭いので、知り合いからの紹介や、現場で知り合った人に次の仕事をもらうなどの確率は結構高いです。冒頭でお話したサカナクションのティザー映像のお仕事も、別の仕事で一緒になった方が「サカナクションの案件があるよ」と言ってくださり、「やりたいです!」と言ったところから始まりました。
いまはどこかに作品を送ったり持ち込んだり……という営業活動は特にしてません。

【卒業後の仕事の獲得方法】
・制作実績をYouTubeやTumblrに掲載する

― 映像制作の期間やギャラは、どのように設定されるのですか。

市川さん:期間はまちまちですね。納品三ヶ月後、一ヶ月後までに企画というときもあれば、短いものだとあさって撮影で二週間後納品……なんて言われることもあります(笑)。基本的には直し期間も含めて提示するようにしています。
ギャラは、その案件の予算感次第で決まります。基本的な進め方としては、先方から提示された予算のなかで企画を提案し、そこからギャラを提示されます。予算が決まってないときはこちらが見積もりを提示します。

― 提示される期間にはかなり幅があるのですね!
見積もりを出すときなど、ギャラに関して判断軸があれば教えてください。

市川さん:そうですね……お金に関しては、経験していくなかでわかってくると思います。周りの映像作家から話を聞いたり、学生時代の経験からの感覚値だったりで、「これくらいの予算ならこれくらいのギャラだろう」という、大体の予算感は持っています。
学生時代は、ギャラを日給計算することもあったのですが、その考えはしなくなりました。監督という仕事は日割りで計算できるものではないし、時間給にしてしまうとどうしても費用対効果が悪いんです。なので、プロジェクト単位で出すようにしてますね。
そこを軸にして、業界での自分の立ち位置も考えるようにしています。

― 業界での立ち位置を把握し、相場を持っておくのが大事なんですね。
それでは、映像業界にいて良かったこと、悪かったことがあれば教えてください。

市川さん:映像制作にはいろんな立場がありますが、監督に関しては、職を失うことは無いと思っています。時代に求められている職業だし、ある程度ものがつくれれば、職を失うことはほぼないでしょう。映像というメディアが本当に多くなっているので、自分がやりたい・やりたくないを選ばなければ、死なないと思います。

逆に悪かったことは……、未来について悩む時間が多いことですね。自分の名前で生きているので、作品も自分も面白いと思い続けられるように、次はどんなことができるか模索しながら進んでいます。
悩むこと自体は、長期的に見れば悪いことではないし、大切な時間だと思います。ですが、制作時間以外に、自分について考えられる時間がどうしても多いので、その分「今後どうしていこうか」を常に考えている状態にありますね。
あとは、まわりと生活時間が違うので、遊び相手があまりいなくて寂しいという点もあります(笑)。

― 悩んだときは、どのように克服するのですか。

市川さん:人と会って話をするなかで自分で納得させていく、というところですかね。先輩などと会って、「結局こういう風にしていくしかないよね」みたいな話をして自分の中で納得させています。

― 考える時間の多いフリーランスだからこそ、さまざまな葛藤があるのですね。
そんな市川さんの、今後の展望を教えてください!

市川さん:仕事では、もっとライブ演出をしていきたいですね。あとは、ドラマとか映画とか、自分以外の人を演じてる人を撮ることに興味があります。本格的に撮る予定は無いので、今はMVの中でドラマをつくることは多いですね。
映像業界は、「こういうのを撮っていたらこういうルート」という、ロールモデルが定まりやすい場所でもあります。なので、広告に手を出してみたい思いもありますが、予測できるルートを外れ、いかに自分の道をつくっていくかを考えていきたいですね。

― ありがとうございます。それでは最後に、学生にメッセージをお願いします!

市川さん:つくりましょう!つくらないと始まらないので。ディレクターになりたいのであれば、学生時代の時間にできることは、まず映像をつくることだと思います。
あとは、目指すところにもよりますが、自分の名前を知ってもらうには、自分の見せ方もちゃんと考えたほうが良いかなと思います。SNSでもそうだし、極端に言えば自分の見た目もそうです。容姿という意味ではなく、服装とか持ってるものとか、身の回りのものにこだわるという意味ですね。見た目で作家の”らしさ”がなんとなく伝わるような、イメージづけはすごく大事じゃないかなと思っています!

― 尋ねた質問に対し、じっくり考えながら真摯に回答してくださった市川さん。
自分の表現や今後について模索しながら、自身のセンスを信じ、こだわりをもって作品をつくり続ける姿勢が印象的でした。
市川さん、ありがとうございました!

  
  

(2018.10.19)
Yoshiko Inoue

著者紹介

井上佳子Yoshiko Inoue

女子美術大学卒業。 ビビビット社で、全国のデザイン・美術の学校へ行く仕事をしています。 ビビビットTwitterでもつぶやいてます( ^^ )/
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