「子どものためのデザイン」と聞くと、おもちゃや文房具などを想像しませんか。しかし、子どもたちを取り巻く環境はそれだけではありません。大人でさえ注意をして扱わなければならないものを万が一、子どもが手に取ってしまったらどうでしょうか?子どもの視線でモノを見ると、大人は気づけていないデザインの危険や不完全さがあります。今回は子どもに配慮されている製品や、サービスのデザインについてご紹介します。
編集・執筆 /OSARAGI, AYUPY GOTO
▼目次
・今、子どもを取り巻く環境
・キッズデザインとは
・キッズデザイン受賞作品
・これからの子どもの環境の懸念点
・最後に
今、子どもを取り巻く環境
こどもは身体的にも精神的にも、まだまだ発展途中の段階。特に幼少期は人格が形成される、非常に大切な時期です。
しかし、残念なことに、5~9歳の死亡原因の第2位は「不慮の事故」です。*1そして、1〜4歳の子どもの死亡原因第2位も「不慮の事故」です。本来ならすくすくと健康に育つはずの子どもたちが、予期せぬ事故によって命を奪われているという悲しい事実があります。
*1……厚生労働省 平成28年度 人口動態統計月報年計(概数)の概況より
不慮の事故の例
・ 歯磨き中に事故で乳幼児が入院 2015/9/24(木)
・ ドラム式洗濯機の中で男児死亡 2015/6/25(木)
・ 12階の窓から1歳児が転落死 2015/5/31(日)
・ 第3の洗剤、乳幼児の誤飲多発 2014/7/25(金)
乳児において、事故として多いのが誤飲、窒息、転落などです。
中には保護者の不注意による事故もありますが、モノを作っている側の責任も大いにあります。技術革新が進み、物事が便利になる一方で、大人に比べて弱い立場にある「子ども」は、ないがしろにされている印象を受けます。「子どもは使わないから」という理由だけで、デザインをする上で考慮せず、万が一、子どもが触れてしまったらという想定がなされていないため、このような悲劇が起きているのです。昔から子どもの事故がニュースで話題になることは多かったはずなのに、何度も事故が起きてしまうのは何故なのでしょうか。
それは、モノを作っているクリエイターの「全ての人が安心して使えるようにしないといけない」という意識が甘い、というのも理由の一つではないかと思います。
しかし、「全ての人が安心して使うことができる」モノを作ろうと思うと、当然、予想以上に労力も時間もお金もかかってしまします。全ての人に対してどうなるのかというシミュレーションをしていくのは、非常に大変な作業です。ですから、事故の原因となったモノはそれを安全に使うことができない人は対象外にし、その対象者でしか使われないことを想定しているのです。
このまま「最低限の安全」が確保されないまま「ものづくり」が進むとどうなるでしょうか。極端なことを言うと、将来的にAI(人工知能)を盛り込み、限られた人しか扱えないプロダクトを作ったとき、専門外の人が扱うととんでもない事故が起きてしまう可能性もあります。
「安全」はデザインにおいて一番大切なことであると思います。
それはたとえデザイン物の「ターゲット外」であっても、子ども〜老人という幅広い全ての人たちが安心して使うことができるように作らなくてはいけません。人に危害を及ぼしてしまうようでは、本来のデザインの力は十分に発揮できていないと思います。
そんな中、「子どもたちのためのデザインがあるべき」という考えが持ち上がり、「キッズデザイン」と呼ばれるモノが増えて来ました。キッズデザインとは一体何なのでしょうか。
キッズデザインとは
キッズデザインとは、次世代を担う子どもたちの健やかな成長発達につながる社会環境の創出のために、デザインのチカラを役立てようとする考え方であり、活動です。 「子どもたちの安全・安心に貢献するデザイン」「子どもたちの創造性と未来を拓くデザイン」「子どもたちを産み育てやすいデザイン」。この3つのデザインミッションのもと、成り立っています。
「デザイン」というと、モノの色や形といった、外見的なものを思い浮かべがちですが、キッズデザインには、使いやすさ、安全性なども含まれています。対象となるものも、子ども用の製品やサービスだけではなく、大人向けのものも含まれています。
子どもたちを取りまく環境の中にある全てのものが、子ども目線で考えられて、子ども基準で作られている、そんなキッズデザインに満ちあふれた社会の実現を目指して、さまざまな人たちと協力し合ってすすめていきたいと考えています。
キッズデザインを推進している団体は「キッズデザイン賞」と言う試みもしています。キッズデザイン賞はキッズデザインの理念を実現し、普及するための顕彰制度です。
【キッズデザイン賞の公式サイトはこちら】
KID DESIGN AWARD 2017
次にキッズデザインを取り入れられたモノについて見ていきましょう。
キッズデザイン賞受賞作品
子ども歩行者発見!巻き込み事故リスクを減らすサイドモニター!
最優秀賞 大賞 金賞(2014年度)
車の左折する際の「巻き込み事故」はとても多い事故です。特に、小さな子どもは、背が低いために車の死角に入り、運転手から見えないのです。そこで、そんな問題を解決するため、マツダ株式会社が巻き込み事故リスクを減らすサイドモニターを開発しました。
サイドミラーにカメラがついており、人が接近するとその危険を素早く通知してくれます。子どもが多い公園付近や幼稚園の近くなどはもちろんですが、バイクのすり抜けなどの安全確認時にもより活躍しそうです。車は最も死亡事故を生みやすい乗り物とも言えるので、安全性をどんどん高めていくことが期待されています。
キンダーマーカーたふっこ
最優秀賞 大賞 金賞(2007年度)
これは、株式会社フレーベル館が開発した「子どものためのデザイン」がぎゅっと詰まったマーカーです。マーカーのふたの誤飲の事故が多いですが、万が一ふたを飲み込んでしまっても窒息しないように、6 つの通気孔がついた構造になっています。また、ペン先はとても固くできており、力を入れてグイグイ描いても、ペン先がつぶれにくくなっています。
筆者(Mayu Osaragi)も幼い頃、よくお絵かきをしていましたが、ペン先が潰れてしまうこともしばしば……。ちょっと悲しい気持ちになったことを思い出します。子どもの力強い筆圧に耐えうるマーカーであれば、お絵描きを邪魔しないのでとても使い心地が良さそうです。
蒸気レスIHジャー炊飯器
最優秀賞 大賞 金賞(2009年度)
炊飯器から出る蒸気は吹き出し口から上方10cmでも60℃以上と言われています。炊飯器が子どもの背丈でも届くようなところに設置がしてあると、やけどのリスクがあるということです。そこで、株式会社三菱電機は蒸気レスの炊飯器を開発しました。蒸気が出ないだけでなく、棚にしまいやすい形にもなっており、使い勝手にもこだわっています。
また、炊飯器を除いても火傷をしやすい製品は数多く存在します。最近、ポットなどは子どもがコードに引っかかってポットのお湯がかからないようにコードと本体をつなぐ部分が磁石になっていてパッと取れるようになっています。
今後、親が注意深く見ていなくても安心して置いておける家電が増えていってほしいですね。
これからの子どもの環境の懸念点
このように数々の製品やサービスが「キッズデザイン賞」を取り、「キッズデザイン」の認識は広がりつつあります。
しかし、インターネットはどうでしょうか。
最近はインターネットサービスが発展し、ますます暮らしも便利になっています。現代では誰もが気軽にインターネットを利用でき、子どもたちもすでにスマートフォンやタブレットを使用しています。そういったデジタル機器を使いこなし、創造性を育んでいくことでも注目されています。
2017年1月の時点で小学生のスマートフォン所有率は60.2%にまで登りました*2
*2……デジタルアーツ株式会社 未成年の携帯電話・スマートフォン利用実態調査
ですが、ネットリテラシー*3のない子どもたちが安易にインターネットを利用するのは危険です。インターネットは気軽に利用ができる反面、知識がないと、個人情報の管理、ネット犯罪、ウイルス感染などに巻き込まれてしまいます。
技術革新が進み、インターネット利用者の若年化が進む一方で、大人は子どもたちにインターネットの使い方を十分に教育できていないと思います。また、作られたばかりのツールでもあるので、整備がまだまだ行き届いていません。
そういったリスクを防ぐには、一度 子ども目線に立ち返り、インターネットサービスや製品を見直していくことが重要です。
*3……情報ネットワークを正しく利用することができる能力のこと。
最後に
本来であれば健やかに成長していくはずの子どもであっても、思わぬ事故で亡くなってしまう事案がとても多いです。未然に防ぐことができたと思うと残念でなりません。そうならないためには製品やサービスを作る私たちの認識を変えていかなければなりません。
常に子ども目線で製品やサービスを作ることができれば、着実に悲劇は無くなります。また、子ども目線でものづくりをすることで、子どもからお年寄りまでの幅広い世代にも優しいデザインを作ることができます。
そして、最近はインターネット利用者が若年化していますが、子どもがインターネットを利用する時「どこまでして良くて、どこまでしてはいけないのか」という判断がつかないまま、触るのは大変危険です。
インターネットはここ数年で急激に発達が進んでいます。「子どものインターネット利用」については、早急に対応していくべき問題であると思います。
この記事をきっかけに、みなさんが「子どものためのデザイン」を考え、実際に取り込んでいただけたらうれしいです。
(2017.7.4)
著者
はたらくビビビット
ポートフォリオとデザインのリファレンスメディア