皆さんは本屋さんにぷらっと立ち寄った時、表紙に見入ってついその本に手を伸ばした経験はないですか?
本の表紙をデザインしているのは装丁家という職業の人たちです。本の「装丁家」とは、表紙を含めカバー全体をデザインする人のことを言います。今回は、そんな本の顔とも言える本の表紙をより魅力的に見せる装丁家についてご紹介したいと思います。
編集・執筆 / ARAAKEMAYU, AYUPY GOTO
目次
- 1.装丁家とは
- 2.一冊の本の装丁ができるまで
- 3.必要なスキル
- 4.装丁家と作品
- 5.最後に
1. 装丁家とは
本の装丁家とは
装丁(そうてい)とは、本のカバー、表紙、見返し、扉、帯のデザイン、また製本材料の選定までを含めた、本を作る一連の工程のことを言います。そして、装丁を担当する専門家のことを装丁家(そうていか)と呼びます。
装丁とブックデザインの違い
本をデザインする「ブックデザイン」と「装丁」には、同じ意味で使われる場合もありますが、微妙な違いがあります。
本をデザインする上で大まかに「ブックデザイン」・「カバーデザイン」・「カバーイラストレーション(カバー絵、装画)」という三つに分けられることがあります。このような場合は、「ブックデザイン」というのは、カバーを除いた部分、すなわち書籍全体のデザインのみを意味しています。
【装丁】
本のカバー、表紙、扉といった『本の外側のデザイン』
【ブックデザイン】
外側のデザインを含め、本の中身(判型、版面、本文書体など)編集的要素を含めた『本のトータルデザイン』
2. 一冊の本の装丁ができるまで
それでは一冊の装丁ができるまでの流れを見てみましょう。
①編集者さんと打ち合わせ
まずはじめに、編集者さんから本の依頼を受けます。その時、本の内容や編集者の意向、購入のターゲットとなる読者層などを把握します。
②イメージを膨らませる
先行している本文の原稿を読み、その内容から世界観やイメージを膨らませます。編集者さんから「こんなイメージで、色はこんな感じで」といったふうに、ある程度具体的にお願いされることもありますが、多くの場合は、本の内容だけを教えてもらいデザインを練ることが多いです。本文を全く読まないという方もいたりと、装丁家さんによってやり方は様々です。
③選定
次に表紙にどんな写真やイラストなどを使うのかを考え、編集者さんに相談します。そして決まったらその素材をどう見せるのかを演出していきます。ただ作りたい本を作るのではなく、限られた予算内で素材を考えなければなりません。
④発注
装画(カバーに使うイラスト)が決まったら、その装画をお願いする方に発注を頼みます。時には既にある作品を借りることもあります、ここでも予算内の中で考えながら決めていきます。
⑤カバーのレイアウト
ここからいよいよ本の顔、表紙の制作です。表紙のカバーラフ案を数種類作っていきます。できたら編集者さんに投げかけ、一発で決まることもあれば何回も修正を重ねたのちに決まることもあります。
⑥本の素材選び
ここでは、本の素材を選んでいきます。デザインが決まったら、カバー、帯と表紙、扉の順に作っていきます。そして、編集者さんにレイアウト、文字校正のチェックをしてもらいます。そこで、編集者さんから本の資材と呼ばれる用紙、加工、色数などにかかる予算を言われ、その予算内で資材を選びます。
⑦入稿
編集者さんから、チェックを受けたら印刷所に渡すデータを作成し入稿します。紙で出力した見本を持参したり、制作環境を書いた印刷支持書を用意したりなど、入稿には細心の注意を払います。
⑧色校正
入稿後、初稿と呼ばれる色校正が出てきます。支持通りに色が出ているか、イラストは原画通りか、版ズレがないかをくまなくチェックします。
⑨完成
入稿からおよそ一ヶ月後には、出来上がった本が書店に並びます。本がたくさん売れ重版がかかり、著者が賞を受賞したりすると、帯だけを作り変えて入稿することもあります。
3. 求める能力とスキル
必要なスキル
装丁家になるためには、まず基本としてデザインや印刷の基礎知識が必要となります。その他にも多くの本が並ぶ書店でその本がどう目に映るかを考える「色彩感覚」、編集者さんから渡された原稿を読み文章をグラフィックに落とし込む「読解力」、本のカバーにその一冊の本の魅力を伝えるという「情報収集能力」も持っていなければなりません。
そして、編集者さんと何度も打ち合わせを重ね制作していかなければならないため、「コミュニケーション能力」も必要となってきます。また、本に愛着を持てる人や読書や創造が大好きな人、自分だけの世界を表現することが好きな人であることは大前提であると言えるでしょう。
装丁家になるためには
本の装丁は、編集者さんと装丁家の関係性が重要になるため、ある程度同じ装丁家の方に頼むというケースが多くあります。そのため、若手デザイナーがすぐに活躍できるというわけではありません。装丁家を目指すためには、一般的に雑誌や書籍などの出版物のデザインを行うデザイン事務所などに就職するか、あるいは装丁家のアシスタントとして経験・実績を積むことが夢への入り口となります。
4. 装丁家と作品
今回は本のカバーだけで思わず手にとってしまいたくなる、本の装丁を手がけた装丁家を紹介していきたいと思います。
● 祖父江慎さん(そぶえ しん)
人文書や小説、漫画など多くの書籍の装丁を手がけている装丁家。
一冊の本を作るのに多くの仕掛けやこだわりを持つ祖父江さんは、今まで手がけた2500冊の本の展覧会「祖父江慎+コズフィッシュ展」も開催しています。(※現在は終了しています。)祖父江さんが手がける本には一見型破りな装丁という印象がありますが、本を構成する全ての一つ一つの要素に徹底的にこだわりを持ち、緻密に計算されたものばかりなのです。
● 鈴木成一さん(すずき せいいち)
多くの有名な小説を手がける装丁家。鈴木さんが手がける本は、不要な要素をそぎ落とし徹底的にその本の個性を削り出して他の本とはかぶることのない装丁が特徴です。
● 名久井直子さん(なくい なおこ)
女性の心を引きつける、可愛らしい本を手がける装丁家。
名久井さんが手がける本は、まるでテキスタイルデザインのような模様や色使い、書体を使い装丁しています。女性の人は、本の表紙の可愛らしさから思わず手にとってしまう人も多いはずです。
● 坂川栄治さん(さかがわ えいじ)
これまで3000冊を超える本の装丁を手がけた装丁家。装丁という仕事だけでなく、広告・PR誌・CD・映画・空間デザインのディレクションをするなど幅広く活動しています。「本の顔/坂川栄治」では、自身が今まで手がけた装丁の中から180冊が紹介され、一冊の装丁ができるまでが詳しく書かれています。本の装丁に興味のある方は必見の本になっています。
● 最後に
いかがでしたか?装丁家という言葉は一見耳にしたことがないかもしれませんが、私たちの生活の身近にある「本の表紙」をデザインしている職業なのです。本の顔とも言える、本の表紙をデザインする装丁家は本をより魅力あるものにするために必要不可欠な存在です。ぜひ本屋さんに立ち寄る時は、本の顔に注目してみると楽しいかもしれません。
(2016.9.20)
著者
はたらくビビビット
ポートフォリオとデザインのリファレンスメディア