『教会の宗教画を地元の人が手直ししたところ、元の絵とまったく違う仕上がりになってしまった』という海外のニュースを見た方はいらっしゃいますか?修正するくらいだったら、なんだか自分にもできそう!と思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、作品の修復には専門的な知識と技術が不可欠なのです。時が過ぎるごとにどうしても劣化してきてしまう作品達。時には災害などで大きく破損してしまうこともあります。今回は、汚れてしまった作品の修復を専門としている「保存修復師」というお仕事についてご紹介します。
編集・執筆/RINA SAITO, AYUPY GOTO
イラスト / Miyagi Takumi
目次
- 1.保存修復師とは
- 2.保存修復師の仕事の流れ
- 3.求められるスキル
- 4.保存修復師になるには
- 5.最後に
1.保存修復師とは?
【保存修復師】とは、歴史のある絵画や彫刻、現代美術作品などの修復を仕事としている人のことです。
個人や公共機関から依頼を受け、民営の修復会社に所属し、作品の修復を専門に行う保存修復師と、学芸員と同じように美術館に所属し、収蔵されている作品の修復やクリーニング、そして保存場所の温度や湿度の管理などを行う保存修復師がいます。しかし、フリーの修復師や修復会社に修復を依頼をする場合もあるので、美術館によって形態は異なります。
海外では、コンサヴァター(Conservator)と呼ばれ、美術館に所属し、汚れや傷などがついた、破損する一歩手前の作品のケアをする仕事があります。
MOMAの作品の搬入出の様子!コンサヴァターも出てきます。
2.保存修復師の仕事の流れ
修復の方法や使う道具は作品によって異なります。決まった方法があるわけではありませんが、今回は代表的な例をいくつかご紹介いたします。
⑴作品の修復の依頼を受ける
個人、公共機関、美術館などから依頼を受け、作品修復が始まります。
⑵作品状態の検査
作品の状態を知るため、顕微鏡やレントゲン、紫外線、赤外線を使い、表面からは見えない構造や材料を観察していきます。作品の分析、調査を行い最適な修復方法や保存方法を探っていきます。
⑶修復作業
絵の具が剥げ落ちている部分や、図像がわからなくなってしまっている部分には、オリジナルの作品と同じ色を再現し、もともとの図像になるよう手を入れていきます。
その他にも、ほこりなどがつき変色している作品には汚れを落とすクリーニングを行い、もともとの色を復元していきます。
3.求められるスキル
海外では、保存修復の修士号を持っていることが必須とされますが、日本では明確な資格が必要なわけではありません。
しかし、画材や素材、文化財に対しての知識だけでなく、化学や物理などの専門的な知識が求められます。かつ、経験を積み独自の修復方法を開拓したり、常に素材に対していろいろな視点から研究していったりと確かな技術力も大切になります。ただ保存修復といっても、作品によって画材や技法が異なるため東洋の絵画、油絵、仏像などの彫刻……と人によって修復する分野も細かく分かれています。どの分野でも、芸術作品たちはこの世界にひとつしかないオリジナルのものばかりです。その作品を修復するということは、失敗などで修復がさらなる破損につながることはあってはならないのです。それだけ重要で繊細な仕事だからこそ、豊富な知識と技術が必要なのです。
4.保存修復師になるには
保存修復師になるには、大学や大学院で文化財の保存修復や保存化学の学科、専攻で専門的に学んだり、修復会社が開講している教室を受講するのが一般的です。卒業後は、美術館や博物館、修復会社などで技術と経験を磨き、保存修復師としてのキャリアを積んでいく人が多いようです。
特に油絵などの西洋が本場の技術は、海外の美術館や工房で数年間研修を行い経験を積むことで、フリーの修復師になったり、自分の修復会社を設立して活動したりできるようになります。しかし、保存修復師はまだまだ知名度が低く、個人で依頼する人もあまり多くありません。そのため、修復師と並行して大学で保存修復を教えている人も多いというのが現状です。
5.最後に
保存修復師の役割は、価値ある作品を綺麗な状態でより長く後世へ残すという、とても意味のある仕事です。
そして、なによりも価値ある作品に実際に触れられることが、保存修復師の醍醐味だと思います。しかし同時に、ひとつひとつ状態や構造が違う作品たちの修復はとても繊細で根気のいる作業です。美術作品を後世に伝える上でなくてはならない保存修復師のお仕事。興味がわいた人は、ぜひ自分でも調べてみてくださいね。
(2018.7.23)
著者
はたらくビビビット
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