21世紀になり、『サステナブルデザイン(Design for Sustainability)』という言葉をよく耳にするようになってきました。人類は産業革命以降、地球にかなりの負担をかけてきました。現在、地球は大気汚染、水質汚染、森林伐採など、数多くの問題を抱えています。このままだと私たちは地球に住めなくなってしまう日がくるかもしれません。今回は地球環境へ配慮し、持続可能な社会を目指す、サステナブルデザインについて詳しくご紹介したいと思います。編集・執筆 / OSARAGI, AYUPY GOTO
イラスト / Miyagi Takumi
目次
- 1.サステナブルデザインとは?
- 2.今、地球を取り巻く問題
- 3.身の回りにあるサステナブルデザイン
- 4.最後に
1.サステナブルデザインとは?
サステナブルデザイン(Design for Sustainability)とは、私たちの子孫になる未来の世代の暮らしについて考え、危険にさらさないよう、人類や地球環境が持つ能力を維持し、向上させることです。
主に環境に与える影響が大きいと言われる「住まい・建築」に用いられていましたが、その考え方はプロダクトデザインをはじめ、次第にデザインの全領域へ広がって来ています。
サステナブルデザインの考え方は1989年に発足した国際組織「ナチュラル・ステップ(the Natural Step)」に影響を受けています。当時、スウェーデンの小児癌の専門医であった、カール・ヘンリク=ロベール博士が持続可能な社会に必要な「4つのシステム条件」をその中で提示しました。
(1)自然の中で地殻から掘り出した物質の濃度が増え続けない
(2)自然の中で人間社会が作り出した物質の濃度が増え続けない
(3)自然が物理的な方法で劣化しない
(4)人々が自らの基本的ニーズを満たそうとする行動を妨げる状況を作り出してはならない
デザインの条件ではないため、少し科学的な要素が入ってはいますが、当時の科学者とカール・ヘンリク=ロベール博士は環境保護と経済的発展の双方の維持を考え、このような条件を提示したことがわかります。この考え方は私たちが学んでいるデザインにも応用できるのです。
2.今、地球を取り巻く問題
私たちが住んでいる「地球」で今何が起こっているのか知っていますか?どのような問題が起きているのか箇条書きにしてみましょう。
(1)地球の温暖化
(2)オゾン層の破壊
(3)環境ホルモン・ダイオキシン
(4)生き物たちの保護
(5)川や海をめぐる環境
(6)自動車や工場による大気汚染
一部引用:http://www.nies.go.jp/nieskids/main1/ondanka.html
このように、私たち人類は地球のキャリング・キャパシティ*1をすでに超えた規模での活動を行っています。
*1……森林や土地などの環境に人手が加わっても、その環境を損なうことなく、生態系が安定した状態で継続できる人間活動又は汚染物質の量の上限を指す言葉
18世紀半、イギリスで始まった産業革命以降、大量生産・大量消費が世界各地に蔓延し、世界人口の激増、地球資源の枯渇、地球規模での気候変動と、それによる水不足や食糧危機……など、地球の存続はもちろん、人類の生存にかかわる大問題にまで発展してしまいました。
ですから、私たちが今後地球に住むためには、従来の「大量消費社会」を脱し、サステナブルデザインを遂行していかなければならないのです。
3.身の周りにあるサステナブルデザイン
では、実際にサステナブルデザインを取り入れた事例をいくつかご紹介したいと思います。建築とプロダクトデザインをピックアップしてみました。
・福島白河第一データーセンター
外気でサーバーを冷やす
『福島白河第一データーセンター』は、株式会社日本設計が手がけたYahoo!JAPANグループの東日本地域最大拠点となるデータセンターです。この建築は第6回サステナブル建築賞を始め、グッドデザイン賞、他にも数多くの賞を受賞しています。
クラウドコンピューティングなど、ITの利用が増えるにつれ、データセンターへの情報集中が進み、データセンターでのエネルギー消費の削減は緊急の課題となっています。
このデータセンターは冷涼な白河市を生かし、外気を屋内に取り込み、それを排出することによってサーバーを冷却しています。そのような自然エネルギーを活用することによって、サーバーから発生する熱負荷の83%を処理することができました。まさに「建築自体が設備機械」となっており、環境面や経済面も考慮された次世代へ引き継げる建築と言えます。
・ENOTS ミニマルチェア
プラスチックは消耗品ではない
『ENOTS ミニマルチェア』は、岩谷マテリアル株式会社が販売しているミニマルチェアです。このチェアは、JID AWARD 2016プロダクト部門賞、ドイツのred dot design awardなどを受賞したヒット商品です。
プラスチック製品というと従来は消耗品という印象がありました。プラスチック製品が出回った当初は粗悪品や紫外線に当たると変色してしまうものが多くあったからです。しかし、近年では研究が進み、耐久性の優れたプラスチックが誕生しています。
このチェアはプラスチックでできており、丈夫で軽く、日本人が座りやすいように設計されています。プラスチック製品をより長く使ってもらえるように「愛着が湧くものづくり」が実施されているのです。愛着が湧けば、人々はそのモノを手放さず、ゴミをはじめとした環境問題も解決します。
・MASU MOSS
森林資源を継続可能で循環させる枠組み
『MASUMOSS(マスモス)』は、株式会社グリーンズグリーンが販売している、日本の花木の「苔玉」と木枡を組み合わせた新しいスタイルのミニ盆栽です。森林資源を循環させる継続可能な枠組みが評価され、グッドデザイン賞を受賞しています。
MASUMOSSは、森林整備の一環でうまれる間伐材を利用した木質燃料「木質ペレット」を使用して加温、栽培されています。また、この売上げの一部は環境製費用に還流され、地域の森林整備と経済活動が循環しているのです。
そして、最近の苔ブームで、人間が自然界の苔の乱獲することによって自然の生態系に大きな影響を与えていることが問題になっていました。。よってMASUMOSSは独自に苔を栽培し、自然を破壊しない優しい苔を使っています。
地元の森林から出た間伐材を地元の園芸産業のために使うというサイクルができているのが驚きポイントです。升にスッポリと収まった見た目の可愛らしい盆栽ですが、ただ見た目のデザインが優れているだけではないのですね。
4.最後に
これから私たちが地球に住み続ける限り、サステナブルデザインは切っても切り離せない存在になるでしょう。人類の火星への移住計画などもささやかれていますが、技術的な課題は溢れ、いまだ現実味がない現状です。まずは自分たちが住んでいる地球に目を向け、限りある資源の中で長く住むことができるように努力していかねばなりません。しかし、一人だけでやるのでは意味がありません。地球に住んでいる住人として、一人一人が自覚を持ち、普段から意識をして取り組んでいくべき問題です。今生きている私たちだけでなく、未来の子孫が笑顔で毎日を過ごせるように、サステナブルデザインを考えていきましょう。
(2017.9.27)
著者
はたらくビビビット
ポートフォリオとデザインのリファレンスメディア