進学か就職か?美大生の進路、大学院に行くメリットとデメリット

topさて、今回の記事では、現在美大の院生である筆者が、美術・芸術大学の大学院に進学するとどんな良いことがあるのか、また悪いことはあるのか?実際に大学院に進学した方々にご協力いただいてアンケートをとったので、ご紹介していきたいと思います。大学院に進学するか就職するか迷っている方がいたら、是非こちらの先輩方の意見を参考にしてみてください。

編集・執筆 /NISHIDA, AYUPY GOTO

はじめに

筆者の通う大学(武蔵野美術大学)では、1月末が院試の季節です。自分が学部4年生の時に、卒業制作もいよいよ大詰めといった時期(12月)に提出書類を書いていたことを思い出します。現在美術系大学の学部生の皆さんがもし、大学院に進学するか、学部卒業後すぐに就職するかという選択に迫られた時、身近に相談できる相手がいない場合はとても不安ですよね。
 
というわけで今回は、筆者含め何人かの美大・芸大大学院生及び大学院卒業生たちが、どのような理由で院に進学し、どのようなことにメリットやデメリットを感じて過ごし、そして卒業後どのような進路をたどるのか、具体的な例をいくつかご紹介していければと思います。
あくまでそれらの回答はそれぞれの回答者の方の選択や生き方ですが、これからどうするか迷っている方にもこんな可能性があるんだな……と自分の未来を具体的に想像し、選択する際の参考にしていただけたら良いなと思います。
 

◆院に進学した理由と、卒業してみて感じたメリットとデメリット

では早速、実際に院進学した美大生・芸大生にアンケートをとり、回答いただいたものを順番にご紹介していきたいと思います。
 

“>

太郎 さん

武蔵野美術大学大学院 日本画コース

Q.あなたが大学院へ進学した理由を教えてください。

より深く制作について考え、作品を作っていきたいと思った為。

Q.大学院進学をして良かったと思う点、メリットだと思うことがあれば教えてください。

教授との距離が近くなり、生徒というより作家同士として接してもらえること、大学の設備(アトリエ、備品、図書館など)を2年間使えること、内外で展示機会があること。

Q.大学院進学をして良くなかった、これはデメリットだったと思う点があれば教えてください。

大学という限られた世界に居続けることになること、社会に出るのが2年遅くなること。

 
Q.大学院修了後の進路(現在やっていること/現在院生の方は卒業後やること)について教えてください

院1年から始めた中学の非常勤講師(美術)を続ける予定です。

 

▼これから院進学をしようか迷っている学生に対して一言。
進学したい院の教授や修了生の作品、アトリエの様子などはチェックした方がいいと思います。

 

回答ありがとうございました!

◇院生は教授との距離が近くなります。近くにいる人の言葉や影響というのは自身の制作活動にも大きくかかわることなので、よくチェックしておくのが良いですね。また院の修士課程は2年ですから、1年のうちに卒業後の足掛かりを作っておくのも大切かなと思います。
 
 
 

amahara

Caさん

東京芸術大学大学院 絵画専攻

Q.あなたが大学院へ進学した理由を教えてください。

社会へ出る準備期間として学部入学時から進学を考えていた為です。

Q.大学院進学をして良かったと思う点、メリットだと思うことがあれば教えてください。

研究内容を深められたこと、その分野の人脈や情報を得られたことはよかったことだと思います。時間としては二年間あったので、一年目に大学内での研究をみっちり行って足場を固め、二年目はそれを元に外へ出ることで、焦らず色々と試すことができました。

Q.大学院進学をして良くなかった、これはデメリットだったと思う点があれば教えてください。

学部時代と違って同じ学年に在籍する仲間が減ることで、身近な刺激は減ってしまったかなと感じました。内部進学者も多く、新たな風が吹くわけでもなかったので、新しい出会いは外に求めることになりました。
また私の場合は学部一年生の頃から6年かけて修了しようと決めていたので少し悠長に構えてしまっていた部分もあり、外へ出ていく活動をもっと早くからしておけばよかったなと感じています。

 
Q.大学院修了後の進路(現在やっていること/現在院生の方は卒業後やること)について教えてください。

作家活動によって生活していけるように、大学在学中に取得した資格などを活かしながら動いています。

 

▼これから院進学をしようか迷っている学生に対して一言
学部で学問的にやり残したことがあると感じていて、学べるチャンスがあるのであれば、学部卒業後ストレートの院進学は良い経験になると思いますが、就職までの猶予と考えているならば、思い切って学校というくくりの外へ出るのもひとつの選択肢だと思います。

 

回答ありがとうございました!

◇学部入学時から院進学も含め6年間を自分の時間として考えると、時間の使い方も変わりそうですね。
 
 
 

%e6%a9%8b%e5%8f%a3

Hさん

東京藝術大学大学院 美術研究科文化財保存学専攻

Q.あなたが大学院へ進学した理由を教えてください。

保存修復について学べる場は限られていて、国内の大学では院以上にしかなかったからです。

Q.大学院進学をして良かったと思う点、メリットだと思うことがあれば教えてください。

学部とは異なる専攻なので、新しい知識がたくさん得られる。ここでしかできない貴重な体験も多い。とにかく毎日充実している。

Q.大学院進学をして良くなかった、これはデメリットだったと思う点があれば教えてください。

特に思いつかないです。

 
Q.大学院修了後の進路(現在やっていること/現在院生の方は卒業後やること)について教えてください。

この分野は10年以上続けてやっと一人前。とにかく経験を積みたいです。

 

▼これから院進学をしようか迷っている学生に対して一言
やりたいことが明確ならば、迷うことはないと思います。

 

回答ありがとうございました!

◇非常に簡潔でかっこいいですね。保存修復の分野は院にしかない、ということで、学びたいことがはっきりしているなら迷う事はなさそうです。
 
 
 

%e3%81%8f%e3%81%86

くうさん

東京藝術大学 彫刻専攻

Q.あなたが大学院へ進学した理由を教えてください。

制作を続ける為です。

Q.大学院進学をして良かったと思う点、メリットだと思うことがあれば教えてください。

大きい作品を作れたこと・コネクションが増えたこと。

Q.大学院進学をして良くなかった、これはデメリットだったと思う点があれば教えてください。

特にないです。

 
Q.大学院修了後の進路(現在やっていること/現在院生の方は卒業後やること)について教えてください。

造形教室を開きます。

 

▼これから院進学をしようか迷っている学生に対して一言。
モラトリアムの延長のために院進学するのは避けた方がいいと思います。目的を明確にして頑張ってください。

 

回答ありがとうございました!

◇大きな作品が作れる、というのは作業スペース的にも得られる時間的にも院生の大きなメリットだと思います。個人で借りた部屋を作業場にすると、案外小さいサイズが限界だったりします。
モラトリアムの延長のために院進学するのは避けた方がいいというのは厳しい言葉ですが、実際その通りだと思います。目的は明確にしたいですね。

 
 
 

%e7%86%8a%e5%b4%8e%e6%82%a0%e7%b4%80

KUMAさん

関西大学大学院 建築学専攻

Q.あなたが大学院へ進学した理由を教えてください。

研究活動(論文化)を通じ、自分が建築に惹かれる理由を確かめたかった事がきっかけです。
 
今はまだ目に見えないものを模索し、形あるものに向かっていく設計行為(デザイン)だけでは無く、既に起きている現象・既に形あるものが生まれた由縁を明かす事(再現性を持つ事)が論文化の意味と捉えました。大学院で「研究対象としてのデザイン」を思考する事は、自分が惹かれる建築の由縁を解き明かす事であり、それは逆説的に自分の設計行為を明らかにする事、再構築する行為であると考えたからです。

Q.大学院進学をして良かったと思う点、メリットだと思うことがあれば教えてください。

卒業制作を通して深めたテーマ(方向性)にフォーカスして取り組むための膨大な時間を得られる点にメリットを感じます。
 
学部生の時は大学教育として身に付けるべき基本的なカリキュラムが存在し、ある種普遍的で最大公約数的な学問体系を取り込む時間でした。カリキュラム上のデザイン課題に取り組みながら設計活動や思考のトレーニングをし、与えられた課題に対して形でもって応じる行為を続けました。卒業制作では初めて自分自身の方向性を模索し、自発的に課題を設定する事で、自分を出発点としたデザインを追求しました。
 
大学院では卒業制作で捉えきれなかった事、すぐに社会に出ては思考しきれない範囲に及んで、卒業制作のその先を探求する事が出来ます。一度限界までやりきった過去を、また別の角度から捉え直す時間を得るために大学院に進学をしました。

Q.大学院進学をして良くなかった、これはデメリットだったと思う点があれば教えてください。

ゼミ活動に強制的に参加させられていました。
 
大学院に進んで得た時間は自分のための時間投資と考えていたため、時にデメリットを感じました。たとえ自分の所属するゼミの総意・意見であっても、鵜呑みにしてしまわない姿勢や思考態度を持つべきと感じていました。

 
Q.大学院修了後の進路(現在やっていること/現在院生の方は卒業後やること)について教えてください。

2017年に組織設計事務所へ就職をしました。
 
大学院までに培った技能・追求し続けてきた方向性を糧に実務に取り組んでいます。
個人的な問題提起を皮切りとして続けてきた大学時代とは異なり、設計チームや協働者間の中で、如何に多くの人が共有可能な価値を提案出来るか模索を続けています。
 
建築設計を取り巻く協議や意見調整、理解を得るための資料作成等、学生からすれば雑務と思えてしまうような業務も、状況をマネジメントしていくデザイン力を培う意識で取り組んでいます。
 
組織設計事務所の設計者は、楽器のオーケストラに例えると、コンダクター(指揮者)的な視座でもって設計を行う立場なので、設計(デザイン)とマネジメント、エンジニアリングを統合して行える設計者にいち早く成る事が当面の目標です。

 

▼これから院進学をしようか迷っている学生に対して一言。
自分が今の道を志したきっかけに今一度立ち戻って考えてみてください。
 
単純なきっかけから始まっているように思えても、その小さな動機だけで産みの苦しみを継続出来たはずで、今も真剣に悩む事が出来ているはずです。自分はたったそれだけの事を知るために大学院に進学をしましたし、今も始まりの動機を知るために、あるいは始まりを再構築するために社会へ出て設計を続けています。
 
もし、学部を卒業し社会に出るか、大学院に進学するかという2つの選択肢で悩んだら、社会に一度出て、別の大学院に入学し直すという第3の選択肢も含めて検討をしてみてください。

 

回答ありがとうございました!

◇【社会に一度出て、別の大学院に入学し直すという第3の選択肢】というのも一度視野にいれるのは良いと思います。何人かの方の言うように、院とは大学の中に籠って外と離れることで、ある種偏ったコミュニティの中で一つのことだけに向かう時間を得ることです。しかし、アウトプットの研究よりインプットの方が圧倒的に足りない時期というのもありますから、外に出てインプットして視野を広げてから研究に戻るのでも良い気がします。
 
 
 

nishida

nishida(筆者)

武蔵野美術大学大学院 日本画コース

Q.あなたが大学院へ進学した理由を教えてください。

学部4年間は日本画を研究するのにあまりにも時間が足りないと感じた為。実際、教職や学芸員資格などを取ろうとすると学科や実習に追われ、制作にゆっくり時間をかけるというのは難しい。

Q.大学院進学をして良かったと思う点、メリットだと思うことがあれば教えてください。

時間が出来ること。個展をやったり、学外での活動も学部の頃よりずっと着手しやすくなる。自分のやっていきたい活動は何なのかということを突き詰めて考えることができる。また、何かの体験をしたい場合も時間を作って行動に移しやすいという自由さがある。個人の制作スペースが広く与えられるというのも良い点でした。

Q.大学院進学をして良くなかった、これはデメリットだったと思う点があれば教えてください

スケジュール管理能力がきちんと持てないと、ただダラダラと無駄な時を過ごすことになります。作品ひとつ創るにしても、どのように時間を使うか、どのように自分のペースを作っていくかということは非常に大切なスキル。私はそれがなかなか掴めずに苦労しました。
また、学外で自分でアクションを起こしていかなければ、学内の非常に狭いコミュニティの中で視野が狭まっていくし、そのことに気づけない。私が2年間で勉強になったと思えたことはだいたい学外の活動で得たことです。

 
Q.大学院修了後の進路(現在やっていること/現在院生の方は卒業後やること)について教えてください。

ゲーム会社でデザイナーとして働きます。現在はインターンに通いながらゲーム内デザインについての課題に取り組み、学んでいます。

 

▼これから院進学をしようか迷っている学生に対して一言。
自分の中にきちんと目的があるなら院への進学を選択することを後悔することは無いと思いますし、そこで得るものは学部ではけして手に入らないものです。院に進んだからこそ気づけることもあります。私は、「自分がやりたいことは実は絵を描くことではなかった」というかなり根本的なことに気が付いたので、そういった人生において大きな節目になるかもしれません。

 
◇筆者は現在絵画とは関係ないデザインの仕事や字書きをしているわけですが、院まで進学したからといってその研究していたことに一生縋り付かなくてはいけないわけではありません。絵画をやったことを後悔はしていませんし、そこで得たことが力になっているなと感じることも多いです。
一つのことを探求するという【行為】にたっぷり時間をつかって「これではなかった!」と知るのもひとつの成果ではないでしょうか。

 
pict

◆大学院進学のメリットとデメリットまとめ

さて、実際に大学院に進学した方々にアンケートをとってみた結果、このようなメリットとデメリットがあげられました。これから大学院進学を考えている方は是非参考にしてみてください。

【メリット】
・大学の設備(アトリエ、備品、図書館など)を使える
・制作スペースが広く与えられる
・大きい作品を作れる
・内外で展示機会がある
・その分野の人脈や情報を得られる
・コネクションが増えた
・新しい知識がたくさん得られる
・膨大な時間を得られる
・研究内容を深められる

【デメリット】
・大学という限られた世界に居続けることになる
・ゼミ活動に強制的に参加させられる場合もある
・身近な刺激は減ってしまう
・狭いコミュニティの中で視野が狭まっていく
・社会に出るのが2年遅くなる

最後に

大学院がどんなところなのか、直接の先輩がいないとなかなか実感がわかないと思います。集めてみた回答を見て、参考になりそうな先輩や考えはありましたか? 大学院進学にはメリットもデメリットもありますが、もし興味があるなら是非挑戦してみてほしいなと思います。もちろん進学するために必要な勉強や準備はありますし、力が足りなければ落ちてしまう場合もあります。しかしそれだけに、得られる2年という時間や経験はかけがえのないものだと思います。どうぞ、皆さんが良い選択をできますように。

(2018.2.16)
nishida

著者紹介

西田歩未nishida

武蔵野美術大学大学院造形研究科修士課程美術専攻日本画コース在学。読書と標本・剥製集めが趣味です。
記事一覧へ