自然の持つ美しい造形を楽しむ 剥製・骨格標本の世界

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みなさんは剥製や標本についてどのようなイメージを持っていますか?
学校の理科室に置いてあった蛇とマングースの剥製や、田舎のおじいちゃんの家になぜか置いてあるようなキジの剥製、あるいは洋画の中でインテリアとして飾られている動物の頭部や蝶の標本を思い浮かべるでしょうか?
動物の標本や剥製というのは勿論、保存加工された「生きていない」動物。つまり【死体】あるいは【死体の一部】です。しかし【死体】であるにも関わらず、剥製や標本にはあまり恐ろしさを感じないどころか、その姿が美しかったり、形がその生物の生前の姿とは違うユニークなものだったりと、眺めているのが楽しくないですか? 今回の記事では、そんな剥製・骨格標本を愛する筆者が、その魅惑の世界について皆さんにご紹介していきたいと思います。

編集・執筆 / NISHIDA, AYUPY GOTO

剥製/骨格標本とは

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【剥製(はくせい)】:動物(主に鳥・獣)の皮を剥ぎ、内臓・肉を除き、中に綿などをつめて縫い合わせ、防腐法を施して、生きている形に擬して作ること。また、そのもの。

【標本】:生物学・医学・鉱物学などで研究用、または教育用とするため、個体またはその一部に適当な処理を施して保存したもの。標品。【骨格標本】は、石灰質などの硬い骨格が発達する動物において、それ以外の部分を除去することで標本とするものである。

(広辞苑第五版より引用)


生物を採集した場合に、観察した生物をいつまでも変わらない形で保存するために行われるのが標本作成であり、それによって作られたものが標本です。
また、趣味のコレクション博物館での展示学校における理科学習のためにも標本は作成されます。この場合は形の保持とともに、見栄えのよさが重視されます。狩猟の獲物を剥製にする(いわゆるハンティングトロフィー)も、そういった意味では標本です。

『驚異の部屋』と剥製・骨格標本

ヨーロッパの博物館・美術館にはバロック期のヴンダーカンマー(驚異の部屋)に発祥するものが多いそうです。

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(http://madamsteam.com/column/102)

【ヴンダーカンマー(驚異の部屋)】
世界中の珍しい物(異国の工芸品や一角鯨の角、珍しい貝殻、動植物の標本やミイラ、巨大な巻貝、オウムガイで作った杯、ダチョウの卵、象牙細工、ミニチュア細工、錬金術の文献、異国の武具、数学や医学用の道具、天球儀や地球儀、オートマタ、東洋の陶磁器、聖遺物やアンティーク等々)を、種類や分野を問わず一部屋に集めたもの。


ルネサンス期からバロック期にかけて王侯や富裕な市民は珍しいものの収集に熱を入れました。それが後に公開展示されるようになり、現在の博物館の形になっていきます。その収集対象の珍しいものの中でも欠かせない存在が動物の剥製や骨格標本でした。

ロンドンにある、世界で有数の博物館である【大英博物館】(British Museum)もハンス・スローン卿のヴンダーカンマー(驚異の部屋)の収集物を基にして作られたものであるそうです。

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(http://www.britishmuseum.org/visiting.aspx?lang=ja)

【大英博物館】
・見学はすべて無料
・開館時間:10:00–17:30
・毎日開館しています 
・住所:British Museum, Great Russell Street, London, WC1B 3DG
・WEBサイト http://www.britishmuseum.org/visiting.aspx?lang=ja

見に行こう!沢山の剥製・標本を見ることができるスポット

日本国内でも剥製や骨格標本を見ることができるスポットがあります。是非間近で剥製や骨格標本を見てみてください!

▼ インターメディアテク(IMT)

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(http://www.intermediatheque.jp/)


インターメディアテク(IMT)は丸の内JPタワー内にある、日本郵便株式会社と東京大学総合研究博物館が協働で運営をおこなう公共貢献施設です。IMTでは、東京大学が1877(明治10)年の開学以来蓄積してきた学術標本や研究資料など、「学術文化財」と呼ばれるものが常設展示されています。

展示品それ自体もそうですが、展示空間があまりにも素敵なので、筆者は初めて訪れた際には「ここに住みたい……帰りたくない……」と本気で思いました。棚の使い方など、日本の一般の博物館とはイメージが違う展示法をしています。

【インターメディアテク(IMT)】
・開館時間:11:00-18:00(金・土は20時まで開館)
・住所:東京都千代田区丸の内2-7-2 KITTE 2・3階
・WEBサイト http://www.intermediatheque.jp/

▼ 東京大学総合研究博物館

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(https://haveagood.holiday/plans/49274)

東京大学には明治10年の創学以来、総数にして600万点を超える各種学術標本が蓄積されています。そのうち、博物館に収蔵されているものは寄贈されたものなどを含めて、現在300万点を超えるそうです。
常設展示も良いですが、2012年に東京大学伊藤国際学術研究センター内のフロアを使って展開されていた遠藤秀紀教授による「生きる形」展という展示も、非常に興味深い内容だったことをよく覚えています。
意図的に解説がつけられていない骨たちがずらっと並ぶ展示空間で、自然の生み出したフォルムの不思議さや美しさに圧倒されました。

【東京大学総合研究博物館】
・開館時間:10:00―17:00(ただし入館は16:30まで)
・休館:土曜日・日曜日・祝日・年末年始・その他館が定める日
・住所:東京都文京区本郷7-3-1 東京大学本郷キャンパス内
・WEBサイト http://www.um.u-tokyo.ac.jp/

▼ 国立科学博物館

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(http://museum.tachikawaonline.jp/15_kokuritsukagaku/)

国立科学博物館は、1877(明治10)年に創立された、日本で最も歴史のある博物館の一つであり、国立の唯一の総合科学博物館です。452万点を超えるコレクションを保管しています。
動物園で飼育されていたジャイアントパンダの剥製や、忠犬ハチ公の剥製、世界に4体しかないニホンオオカミの剥製など、少し親近感がわくような貴重な資料を沢山見ることが出来ます。また、地球館に展示されている大型哺乳類剥製標本群など、さまざまな動物たちがズラリと並ぶ光景は何度訪れても楽しめます。

【国立科学博物館】
・開館時間:月曜 9:00~17:00(入館は16:30まで)
      金・土曜 9:00~20:00(入館は19:30 まで)
・休館:毎週月曜日
・住所:上野本館 〒110-8718 東京都台東区上野公園 7-20
・WEBサイト http://www.kahaku.go.jp/

体験してみよう!自分で作ることも出来る標本

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(▲ 画像は筆者の実際に作成した標本です)

眺めているのもとても楽しい標本ですが、それだけでは足りなくなってきたら……実は自分で作成することができます。勿論、個人で出来ることには限界がありますが、それでもやってみたい! という方の為に、標本作成をする際に参考になる情報をいくつかご紹介します。

なにわホネホネ団

なにわホネホネ団は、大阪市立自然史博物館を拠点に活動している骨格標本作成サークルです。現在は団員数が300名をこえているそうです。

「おもに鳥や哺乳類の皮を剥いたり、骨格標本を作ったり、大阪市立自然史博物館などに収めています。気味が悪いと思われがちな死体を大切な資料として収集し、解剖してさまざまな情報を読み取り、記録するのがホネホネ団の目的。鳥や哺乳類が大好きで、ながめるだけでは飽きたらず、さわって細かい体のつくりを観察してみたい!それができるのが、ホネホネ団の皮むき・骨格標本作りです。」

(サイトより引用)

筆者はこのホネホネ団が発行する「獣の標本作製ガイド」を参考に、ひとりででモルモットの皮をなめして標本にすることが出来ました。非常にわかりやすく解説されています。
入団や見学も出来るそうなので、実際に骨格標本作製が体験してみたい方・興味のある方は是非サイトをご覧になってみてください。

なにわホネホネ団

▼ 猟師工房

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(▲ 画像は店内にある壁の一部)
猟師工房は「獣との共生を考える狩猟集団」です。捕獲した鳥獣の素材を最大限に有効活用するために設立されました。
店舗は埼玉県飯能市にあります。野生鳥獣被害対策のために捕獲された鹿や猪の、肉・骨・皮など、頂いた命を余すところなく有効活用した商品を扱っているということで、鹿や猪の頭骨をはじめ、角や骨を利用したキーホルダー等も販売しています。

剥製・骨格標本がメインではありませんが、店内には大量の頭骨が並んでいたり、猟師さんに見てもらいながら大型の動物を解体することができるイベントが定期的に開催されたりと、貴重な体験をすることが出来ます。筆者は以前、鹿の解体を体験しました。

骨格標本の作成の際には必ず「解剖・解体」という手順を踏むことになります。解体は慣れが大いに必要な作業だなと思うので、こういった場所で経験してみると役に立つと思います。

猟師工房

(おまけ)【ヒト】の剥製・標本(プラスティネーション技術・人体の不思議展)

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さて、今までは動物の剥製や標本についてお話してきましたが、実は【ヒト】の剥製・標本も存在するってご存知ですか?

学校の理科室に置いてある(怪談の中ではよく夜中に徘徊している)人体模型や骨格標本は勿論レプリカですから、素材は人間ではありません。
しかし、スプラッタ映画や幻想小説のお話の中では無く、現実世界に模型やレプリカでは無い本物の人間が素材の剥製や標本が存在します。

【プラスティネーション (Plastination)】
人間や動物の遺体または遺体の一部(内臓など)に含まれる水分と脂肪分をプラスチックなどの合成樹脂に置き換えることで、それを保存可能にする技術のこと。

従来は死体の実物の標本といえば、ホルマリン液漬けになっているものや剥製のようなものだったのが、ドイツのグンター・フォン・ハーゲンスが開発した、このプラスティネーション技術により、臓器の腐敗や悪臭を発生させず、生々しい外見のままの標本を作ることが出来ました。

日本では1996年から1998年ころまで各地で「人体の不思議展」が開催され、人間の死体を輪切りにスライスにした標本や、血管網だけを残した標本、胎児を子宮に入れた状態の妊婦の死体の実物の標本、皮膚を剥がされて筋肉や内臓だけになった死体の実物標本、スポーツをしているポーズをとっているものなど……死体標本が展示され多くの人々が来場しました。

しかし世界各地を巡っていた展覧会は、その後主催団体が変わって以降、死体の扱いに関して物議が醸されるようになり開催中止になったそうです。日本でも開催は中止されました。
私は幸運にも「人体の不思議展」が日本で開催され話題になっていた最初の頃に親に連れていってもらった記憶があるのですが、人の身体そのものが標本になっているという状態を観察するという機会には、大きな衝撃を受けました。

展示というものが果たして「見世物」であり、死体の展示は死者への冒涜になるのか? というのは、展示する側の企画意図で大きく変わりそうですが、
世界には聖人の遺体をガラスの棺桶に安置して拝むという文化や、日本でも即身仏(江戸時代に人々の救済のために自ら断食した僧の遺体/ミイラ)を拝む文化がありますし、博物館ではエジプトのミイラが頻繁に展示され巡回しています。(日本では上野の東京国立博物館が常設でミイラを展示しているので、通年でみることが出来ます)しかし、それらは死者を冒涜しようとしている行為ではありません。

ひとつの技術としての「プラスティネーション」や、模型でない「本物の人体の標本」というものの存在は、生物について考え研究する際には非常に興味深いもの・価値のあるものであるように思います。

今後どのようになっていくかはわかりませんが、疑わるかたちではなく、きちんと標本の一つの形態としてプラスティネーションが利用され、一般的に見ることが出来るようになったら、それは生き物について考える上で大きな助けになるのではないかと、筆者は個人的に思います。

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おわりに

さて、今回は剥製や骨格標本の世界をご紹介してきました。剥製や骨格標本は、生き物の持つ形をじっくり観察できる素晴らしいアイテムです。その生物が好き、そのフォルムが好き、その色彩が好き……と、人によって心に刺さるポイントは違うかと思いますが、自然によって生み出された生き物の形には、その生物が生きるのに最適化してきた様々な理由や歴史が潜んでいて、自分がなにか一から形を生みだそうとした時には大いに参考になるところがあるのではないでしょうか。是非標本・剥製の世界を覗いて、自身の制作活動に活かしてみてください!

(2017.7.30)

著者

西田歩未

武蔵野美術大学大学院造形研究科修士課程美術専攻日本画コース在学。読書と標本・剥製集めが趣味です。

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