なぜプレゼンするのか?”伝わる”を極めた4年間の集大成 金美卒展レポ2019

毎年1〜3月は、全国の美術大学で卒業制作展が行われる季節です。皆さんは今年(2019年)、どこかの卒業制作展へ訪れましたか?
作品を展示するだけでなく、クリエイターによるトークショーや出展者のギャラリーツアーなど、特別イベントを企画している学校もありますよね。
今回「はたらくビビビット」では、金沢美術工芸大学デザイン科で「卒業制作代表プレゼンテーション」が企画されていると聞きつけ取材へやってきました!

ーー「4年間、”もしかする未来”を真剣に考え、人に伝わるようデザインに取り組んできました。」

そんな言葉が印象的だった会場の様子をレポートします!編集・執筆/YOSHIKO INOUE

●金沢美術工芸大学・卒業制作展。
会場は「21世紀美術館」!

大学4年間の集大成である卒業制作。
全国各地で行われる卒業制作展には、在校生や卒業生以外に、地域の人や家族も多く訪れます。金沢美術工芸大学の卒業制作展の会場は、なんと「金沢21世紀美術館」。学校関係者や卒業生の家族だけでなく、地域の人や観光客も多く訪れる美術館です。

金沢美術工芸大学 第62回卒業制作展
【場所】金沢21世紀美術館( 石川県金沢市広坂1丁目 2-1 )
【会期】2019年2月22日〜3月1日※会期終了
イベント:デザイン科卒業制作代表プレゼンテーション
【場所】金沢21世紀美術館 レクチャーホール【主催】金沢美術工芸大学
【日時】2019年2月26日 13:30〜※イベント終了

▼ 「スイミング・プール」(レアンドロ・エルリッヒ)

▼「カラー・アクティヴィティ・ハウス」(オラファー・エリアソン)

作品の中に入れる体験型の展示もたくさんあり、平日のこの日も、賑わっていました。期間中は金沢市民も多く訪れ、老若男女問わず、学生作品をじっくりと見てくれるそうです。

▼作品によって、展示方法もさまざま。いろんなジャンルの作品があります!


●いよいよスタート!
「デザイン科卒業制作代表プレゼンテーション」

今年(2019年)で2年目となる「デザイン科卒業制作代表プレゼンテーション」。これまで制作を支えてくれた地域の方や家族、卒業制作を見に来てくれたお客さんへの感謝の気持ちを込めて、デザイン科3専攻・5名ずつの代表者が卒業制作について語るイベントです。スペシャルゲストにはプロダクトデザイナー・鈴木元さんが登場し、各作品についてコメントされました。

鈴木 元
すずき げん さん

プロダクトデザイナー GEN SUZUKI STUDIO代表
金沢美術工芸大学非常勤講師

1975年生まれ。英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アートデザインプロダクツ科修了。IDEOのロンドン、ボストンオフィスを経て2014年にGEN SUZUKI STUDIOを設立。日用品や家具、家電など幅広い領域で国内外の企業とデザインをおこなう。
http://www.gensuzuki.jp/

大学の外の人にとっては、学生がどのような想いで制作をしているのか・プロのデザイナーはどのような視点で作品を見るのかを知る機会は、めったにありません。来場者の拍手から「こんな制作背景・制作過程なんだ!」「そんな視点で見てるんだ!」という感嘆と声援を感じました。

環境デザイン専攻の北村賢哉准教授がプロデューサー、製品デザイン専攻の山村有史さんがディレクターとなり実施されたこの企画。当日運営や広報は学生が中心となり手がけたそうです。広報用のフライヤーは、「プレゼンテーションの内容は、プロダクトからは見えない中身の部分」という着眼点から、外見だけでは触れられない部分=製品の機構の部分をモチーフにデザインされたそうです。動きのある表現は、動画のデータをシャッタースピードを遅くして撮影されたものだそうですよ。
▼視覚デザイン専攻の中村直人さんによるデザイン。

 

●プレゼンターの作品をピックアップ!

ここからは、計15名のプレゼンターから、ピックアップして作品をご紹介します!
>視覚デザイン専攻   >製品デザイン専攻   >環境デザイン専攻   

視覚デザイン専攻

米谷咲月さん「ONIGIRI NIGGY」


おにぎりが主人公のストップモーションアニメーションを制作した米谷さん。”自分を好きになれない人や、自信を持てない人にエールを送れるようなストーリー”を制作されました。
シンプルなつくりながらも表情豊かなNIGGYがかわいらしく、他のストーリーも見てみたくなりました!展示場所には、マスコットの実物も展示されていました。

 

小林莉子さん「さよなら一等星」



恋愛シュミレーションゲームを制作した小林さん。従来の「主人公の恋愛が成就するストーリー」に疑問を持ち、「失恋をエンディングにし、プレイヤーが第三者の立場から主人公を見守るゲーム」を制作しました。
実際のプレイ画面やイメージムービーが投影され、普段ゲームをしない層の来場者も世界観に入り込みやすいプレゼンになっていました。

また、このゲームは実装されており、PCゲームとしてプレイすることができます。プレゼンでは、プレイヤーからの感想も紹介されました。
「さよなら一等星」はこちらから
▼制作したゲームをTwitterで発表し、多くの方がプレイしたそうです!

 

製品デザイン専攻

都筑尭志さん「小学校の”音楽づくり”のための弦楽器」



小学校の音楽教育で重視されている”作曲”に注目し、誰でも作曲できる楽器「palettan」を制作した都筑さん。これまでの教育用楽器(ピアニカやリコーダーなど)の難点や教育現場の実情を提示したうえで、それらを解決できる楽器が制作されました。
実際に小学生が使った様子も映し出され、演奏できたときの嬉しそうな表情が、この作品の魅力を物語っていました。この作品を「音楽を自由なものに変える楽器」とし、音楽の授業を「楽しみながらも協力して、人の良いところを知れる時間になってほしい!」と語った都筑さん。卒業後は大学院へ進学するそう。今後の制作活動も注目です!
▼プレゼン中に生演奏も披露されました!

 

大橋康平さん「Antinoise」


”音環境”に注目し、ヘルムホルツの原理を応用した、空間の反響音を軽減する天井照明を制作した大橋さん。「データ上の効果と体感上の効果はどのくらい違うのか」「自分のモデルはどれくらいの吸音効果があるのか」と、リサーチと制作を繰り返したそうです。
このプロダクトには聴覚過敏の人を救う”音のバリアフリー”という側面もあり、プレゼンでは「普段意識していない、目に見えない問題をプロダクトとしてカタチにすることで、問題意識をもってもらうきっかけにしたいと思って制作した」と語りました。

環境デザイン専攻

小林愛理さん「suisai」


お風呂での親子間のコミュニケーションを豊かにするバスパネルを制作した小林さん。さまざまな親子に過ごし方のアンケートをとり、「お風呂のコミュニケーション・遊び」に焦点をあてた空間づくりを研究しました。

プロトタイプの一部を会場内で回し、来場者は作品を触りながらプレゼンを聞くことができました。こどもの手の届くところはフラットに、素材を組み合わせて二層構造の素材をつくる……など、研究を繰り返した結果、最終的なかたちに仕上がっています。イメージムービーでは実際のモデルルームで親子に遊んでもらうというもので、本格的な内容でした。

 
 
全プレゼン終了後、スペシャルゲストの鈴木さんからは「直感的に”これが美しいかどうか”を判断できるスキルは、たくさんの人が持っているわけではありません。美大で培った美意識は、社会に出たときの羅針盤となるので、大切にしてほしいです。」というコメントがありました。

●ディレクターの山村さんにインタビュー!

ここからは、本企画のディレクターである製品デザイン専攻4年生の山村有史さんにお話を聞いていきます。ご自身も卒業制作を展示し、代表プレゼンも行いました。昨年は後輩として聞きに来ていたそうです。デザイン系の学生にとってプレゼンテーションはどんな意味をもつのか、卒業制作についてを伺いました。

ビビビット:「代表プレゼンテーション」、お疲れさまでした!いかがでしたか?
山村さん:今回のように、地域の人や一般来場の方に自分の作品について伝えられる場があることは本当に貴重です。どんなものにしろ、デザインしたからには伝えたい思いがあり、それを伝えようとする姿勢が必要だと思います。
卒業制作展はいろんな方が来場してくれますが、作品についてキャプションやバナーでしか伝えられる手段がなく、理解してもらえてるかどうか不安な部分があります。もちろん会期中ブースにいて、寄ってきた方へ話しかけることもできますが、どうしても限界があります。今回は約200人の方に来場いただいたのですが、作品についての想いや情報を、口頭で多くの人へ伝えられるのはすごくありがたいですね。

▼プレゼンテーションを行う山村さん。
”複雑化する日本の葬送と墓制に対する新しい偲びのかたち”を提案した作品。

ビビビット:確かに美大生は、せっかく学校課題を制作しても、発表する相手が先生や友人など、学内の人に終始してしまうところがあるかもしれません。
山村さん:はい。今回のプレゼンを通して、デザイナーだけの頭で考えちゃダメだな!というのは改めて実感しました。これからデザイナーとして社会に出していく制作物も、使うのは一般の人です。
作品について説明するにしても、デザイナーに向けてだと素材や製法についてが気になるけど、ユーザーになりうる一般の人に向けては「どんな使い心地か」「これを使ったらどのような感情になるのか」という、自身の生活に与える影響を想像させることが大切だなと思いました。
ビビビット:これからプレゼンする機会が多くある在学生にも知ってほしいノウハウですね!
作品プロセスだけでなくイメージムービーを制作してる人が多かったのも印象的でした。

山村さん:使っている時の気分や雰囲気など、作品を置くだけでは想像しづらい部分を説明するために、ムービーまで作ってる人が多いです。
今回の企画は口頭でのプレゼンテーションですが、作者が不在でも、作品のそばのキャプションやバナー・ムービーを置くのも作品を伝えるプレゼンとして効果的だと思います。
全てのデザインには理由があるものだと思うので、相手に理解してもらう手段として言葉やムービーなどいろんなものを使っています。
ビビビット:作品をつくって終わりじゃない、プレゼン方法を考えるスケジュール設計も大事ですね……!
最後に、これから卒業制作を行う読者の方へメッセージをいただけますか。
山村さん:卒制は、自分がやりたいことをやるのが一番だと思います!僕らの専攻はテーマが自由だったので、大変だけど楽しみながら、それぞれが興味のあるところにテーマを設定することができました。
なので「やりたいことをやること」と、それに社会的意義を持たせられたら、自分と他人どちらもが興味深い、共感できるデザインになるんじゃないかと思います!
ビビビット:ありがとうございます!
そして、卒業おめでとうございます!

 

●最後に

「自分の作品について学外の人にプレゼンをする機会はあまりない」……という点は、デザインを学ぶ学生であれば共感する方も多いのではないでしょうか。今回のように展示期間中の特別イベントとして設定すると、集客にもつながり良いチャンスになるでしょう。展示会を実施する時は、ぜひ同時に企画してみてはいかがでしょうか。

今回の展示を拝見し、サービスの企画やプロトタイプ制作は通過点で、ターゲット層に実際に使ってもらったり、その様子をムービーにまとめたりしたうえで完成とする作品が多いように感じました。日頃から社会背景をベースとした問題提起をし、デザインの力で解決する訓練を繰り返しているのではないでしょうか。
金沢美術工芸大学の学生作品は、秋の美大祭などでも見ることができます。興味を持った方は、ぜひ金沢に訪れ、作品を見に行ってみてくださいね!

 
▼夕方になると幻想的な雰囲気になる21世紀美術館。展示会の余韻をいっそう盛り上げてくれました。

 

(2019.3.19)
Yoshiko Inoue

著者紹介

井上佳子Yoshiko Inoue

はたらくビビビット編集長。 ビビビット社で、全国のデザイン・美術の学校へ行く仕事をしています。 ビビビットTwitterでもつぶやいてます( ^^ )/
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