絵を描きたい、でも時間がない。何を描くべきかもわからない。はじめから大作を描こうとしても気負いすぎて、描き始めるまでに時間がかかる……画力を上げたいと思っているあなたの悩みは尽きません。そんな時にオススメの訓練法として「スケッチ」や「クロッキー」があります。
今回は「スケッチ」や「クロッキー」を使った、画力向上のコツやルール等をご紹介します。編集・執筆 / NISHIDA, AYUPY GOTO
そもそもスケッチ・クロッキーとは?
●スケッチ:sketch(英語)
下絵、素描、略図などを意味する絵画用語です。「断片的な描写」の意味で、絵画だけでなく建築、デザイン、文学、音楽などの分野でも用いられることもあります。日本語では「写生」、とくに完成作品のための下絵や試作のことを指し、それ自体を最終作としない作品を総称したものをいいます。
●クロッキー:croquis(仏語)
実在の対象を簡略に写生したもの、あるいは対象なしに自由な発想をすばやく描きとどめたものを意味する絵画用語です。主に人物、動物などの動く対象を短時間に描写する素描のことをいいます。つまり、クロッキーもスケッチの一種ということになるのですが、とくに日本では「速写」とも言われ、一般的には10分程度までの短時間で描くこと、描かれたものを限定して指すようです。
クロッキーの効果
瞬時にモノの特徴をとらえようとすることで、少ない情報量やシンプルな線で、情報を伝達する力を養うことが出来ます。限られた時間で描くことで余計な情報(細かい描写や装飾)をそぎ落として、いちばんそのモノを構成している重要な要素だけを抽出することになるので、モノを的確に捉える練習になります。本質へ最短距離で辿りつけるようになるので、同じ時間で出来ることの幅が広がり、結果的に画力が向上します。
短時間で気軽に手を動かす、ウォーミングアップ
実際にイラストレーターの方が仕事前に行うことや、ネット上で手慣らしの為の素描を公開していることも多いので、クロッキーの作品を気軽に見ることもできます。イメージとしては、長時間とりかかる大作の為の日々の準備運動、スポーツのウォーミングアップのような感覚です。
次に、より気軽に取り組めるクロッキーの方法をご紹介したいと思います。
道具を用意しよう
特別なものや高価なものを買ったり用意したりする必要はありません。
◇紙と鉛筆(あるいはシャープペンシル)
・チラシの裏やコピー紙、使いかけのノートもOK
・スケッチブックには紙の厚みや質感や色味の差、一冊の枚数が多いものや切り取り線がついているものなど種類が沢山あるので、自分の好みにあったものを選べるとより楽しくなります。私の場合は、100円均一ショップや文具店で、子供用の学習帳やらくがき帳を買ってよく使います。
●消しゴムや練り消しは使わない
道具を用意する時のポイントは、消しゴムを用意しないことです。クロッキーでは素早く対象の形をとらえること、気持ちの良い線を引くことが重要なので、消しゴム等でじっくり描いては消し、描いては消し……という風にはしません。失敗したら新しく描く、一度描いたら消せないという緊張感と共に手を動かすことが、良い形をとるトレーニングにもなります。
実際に描いてみる
では、実際にクロッキーしていきます。
●ポイント・コツ
・おおまかな流れを追うこと
デッサンのように明暗や質感などの細部を追うのではなく、短時間だからこそ、描く対象の一番印象的な部分をざっくりとした線でとらえたり、かっこいいと思う線をなぞるようなイメージで描きましょう。
・最初からうまく描こうとしない。手を動かすことを大切にする。
・ファッションが好きならファッションスナップを参考にしてみたり、お気に入りの小物を描いてみたり、身近な友人や知り合いの特徴をとらえてみるのもいいですし、好きな映像を一時停止してアクションシーンなどを描きとめていくのも勉強になります。
なんとなくイメージは沸いてきたでしょうか?
●応用編
色々な画材を試してみると、それぞれの良いところがあります。
【鉛筆】
一番身近にある画材で、使いやすいです。クロッキーの時には、細かく描写するよりもざっくりと対象を捉えることが重要なので、濃度は3B~5Bなど濃いめのものを選ぶと線がハッキリ見えてお勧めです。
【色鉛筆】
好きな色を使うと楽しいですし、色鉛筆はメーカーにもよりますが鉛筆よりも芯がやわらかいものが多いので、よりのびのびと線を描くことができます。
【ペン】
ボールペンやマジックなど、ある程度太さのあるものが良いです。ペン独特のインクの溜まりや滲みなどにより、味のある線を引くことが出来ます。
【筆ペン】
筆と絵の具(あるいは墨)を用意するのは手間ですが、筆ペンなら気軽に筆での描画を楽しむことが出来ます。一本で太い線から細い線まで自在に描けるのも魅力です。同じものを描いても力強い印象になります。
【デジタル画材】
ペイントソフトを使えばダウンロードで沢山の種類のペンを試す事が出来るのが利点です。タッチペンとスマートフォンを使えば、移動中や出先でもデジタル描画が出来ます。
他にも色々なものを使ってみると新鮮な描画ができると思います。是非試してみてください。
●色々な場所で試してみる
家の中で描くのもいいですが、時には外で描くことで面白いものを描ける可能性があります。カフェで、電車内で、旅行先で、公園で、お気に入りの雑誌資料を見ながら、人やファッション、建物の気になった形、食べ物、花、通りすがりの猫など、なんでも描いてみましょう。
実際にこれらの場所でクロッキーをしていて、年配の方やお店の人に話しかけられたり、外国人の方にnice!と声をかけられたり、そういった交流が出来ることもあり楽しいです。ですが、電車の中などで他人を描く場合には、嫌がられる可能性もありますし注意が必要です。
●時間制限を設けてみる
描くことに慣れてきたら、描く時間にも意識を向けてみましょう。
マイペースに描くのも良いですが、すばやく描く練習をしたいなら、クロッキーに特化したアプリもあります。
例えば「POSEMANIACS(ポーズマニアクス)」は絵の練習支援サービスです。秒数を選んでスタートボタンを押すと、一定の時間間隔で人体モデルが表示されます。人体を中心としたクロッキーの訓練をするのには大変便利です。
また、普段自分では描かないようなポーズを描くことが出来るので、表現の幅を広げることに繋がります。
●この作家のスケッチ・クロッキーがかっこいいい
・古典の巨匠も素描やスケッチを大切にしていました。
有名なのは完成した作品ですが、その前段階のスケッチや下図を中心に画家の作品を見てみると、形の捉え方などをみることが出来ます。
<引用 |
http://www.artmasters.ac.jp/oil/img/ingres01.jpg >
ドミニクアングルの素描
・好きな作家のクロッキーを見てみると、自分がどんな線や形に魅力を感じるのか知ることができます。
<引用 |
http://1000ya.isis.ne.jp/file_path/1543_img40.jpg >
日本のファッションイラストレーターの草分けである長沢節のクロッキー
●下図展という展示
完成品だけでなく下図、スケッチ、クロッキーだけでも展示が開けるほどの魅力があります。美術館でも度々下図を集めた展覧会というのが開かれています。
スケッチやクロッキーはただのウォーミングアップだと、侮らないようにしましょう。
●さいごに
短時間でのクロッキーは、画力向上の為に修行のようにやるのもよし、気負わずに日記と同じようにつけてみると日常の記録としても楽しいです。日々続けていれば、手が自然と動くようになり、本制作やちょっとしたアイデアスケッチも、より自由に描けるようになります。皆さんも、まずは楽な気持ちで試してみてはいかがでしょうか?
(2019/07/31更新)
(2017.5.1)
著者
はたらくビビビット
ポートフォリオとデザインのリファレンスメディア