壁があればどこでも出現!ストリートアート・グラフティの世界

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グラフティというアートをご存知でしょうか。
このワードでピンとこない方でも、一度は見た事があるかと思います。代表的なグラフティとは、街中の壁やポスト、シャッターなどに良く見かける、スプレーやペンキで描かれたイラストや文字のことです。他にも車やカバン、服などペインが施されたものもグラフティと呼ばれます。
そこで今回は街中で展開されているストリートアートとグラフティについて、考えてみようと思います。

編集・執筆 /YAMADA, AYUPY GOTO

●グラフティってなに?

先程少し紹介させて頂きましたが、グラフティとは、街中の壁などにスプレーやペンキで描かれた落書き(アート)のことを指します。60年代ニューヨークのヒップホップカルチャーの流行から誕生したと言われています。
日本人の方であれば、街中のお店の壁やトンネルの壁に落書きされたものを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。

グラフティライターの暗黙ルール

好きなとき好きなように描かれていそうなグラフティですが、ライター(グラフティを描く人のこと)の中では、グラフティを描く際に暗黙のルールが存在します。
大きく2つあります。

・描く場所は巨大な建物、公共施設、電車などにとどめ、
個人が所有する商店のシャッターや家の壁には描いてはいけない

・すでに描いてある場所に上書きをする場合は、
それよりレベルの高いものを描かなくてはならない

といった、シンプルなものです。
今日までに、落書きにとどまらないアートとしての芸術性、クオリティが高まってきたのは、このローカルルールが存在したため、自然と全体のレベルが淘汰されていったのではないかと考えられています。
これらは海外での場合なので、日本でのストリートグラフティ活動の多くは犯罪になってしまいますが、(もちろん海外でも犯罪ですが、現実的に黙認されていたり日本ほど厳しくはない)グラフティが発展していきた海外においては、野外アート活動をする上で最低限のモラルを守ったルールだと感じます。
しかし、こういったルールを破って所有地にまで落書きを行うライターが増えたことによって、日本でのアートとしての認知の低さに加え、モラルの低下により日本でのグラフティは世間に良いイメージを持ってもらえない原因となっているようです。

●グラフティの画材や種類の名称

日本では夜間に活動している人が多く、実際に描いているところをあまり見ませんね。
どのような画材で絵を描いているのでしょうか。

画材は大まかに、
スプレー、ペンキ、フェルトペン
が代表的なものになってきます。
ライターによって使うものは違ってきますが、スプレーの使用率が一番高いのではないでしょうか。
壁との距離、勢いで強弱をつけて描いていくのは、まさにアート同様。かなりの技術がいるように思えます。

次に、グラフティで描かれるスタイルの種類です。
文字がメインのもの、イラストがメインのもの、様々ありますが、それぞれに名称があります。

・スローアップ
単色や2色程で数分で描かれたもの

・ピース
様々な色彩を使い、文字や絵を構成としたもの。
∟レター
文字で構成されたもの。
∟キャラクター
人物や動物をメインとしたもの

★グラフティ特有の角張ったフォントをブロックバスタと呼びます。

なんとなく、ああ〜見た事がある!と感じられるのではないでしょうか。
マスターピースが得意なライター、レターが得意なライターなど、得意分野は人それぞれ違うようです。

●有名なアーティスト

国内外で活躍するアーティストを何人かご紹介したいと思います。

海外アーティスト

バンクシー

引用:http://yoso-walk.net/banksy

グラフティ界で知らない人はいない、超有名ライターです。
次々に街中に出現するハイクオリティの作品にはファンが多く存在しています。
その芸術性の高さから、アンジェリーナ・ジョリー、ブラッド・ピッド夫妻が100万ポンド(1.8億円)で落札したことも。
ロンドンの街はバンクシーの作品で溢れていますが、政治的な風刺絵が多いため政府から消されてしまうこともしばしば。作品を発表し出した当初は警察に追われつつも市民から支持を得るといったありがちな構図でしたが、バンクシーの支持率が爆発し、その結果彼の作品を消すか残すかの国民投票が行われました。結果は97%が残す方に傾き、国から容認された存在に。バンクシーの作品は存在するだけで観光スポットともなりうるので、ガラスケースで保護されることもあったりと、落書きではなく芸術作品として街に残されています。自身が監督を勤めた映画『バンクシーの世界お騒がせ人間図鑑』は、アカデミー賞にノミネートされました。

キング・ロボ


引用:https://www.flickr.com/photos/nolionsinengland/14659670949
覆面で活動をしており、素顔を晒すことはありませんでした。90年代の日本ストリートアートに最も影響をもたらしたと言われる人物。この時代に、彼の作風をマネたグラフティが日本の街中にも広がりました。

グラフティ戦争!?

バンクシーとキング・ロボのグラフティ対決です。
もとより因縁の関係にあったこの二人ですが、キング・ロボの作品にバンクシーが上から描きくわえたことから始まったもの。
これに怒ったキング・ロボは、当時引退していたものの、このバンクシーによる宣戦布告にライターとして復帰しました。
何度か続いたこの上書きですが、キング・ロボの作業中の落下事故による死亡により、幕が閉じました。
双方相手に対して敵意はあったものの、完全に上書きするのではなく、元ある絵を活用しながらの作品に仕上げるなど、それぞれがアーティストとしての戦い方、表現が見受けられます。
こちらの戦いはたちまち話題になり、特集番組を組まれるほどになりました。

キース・ヘリング


引用:http://www.sagawa-artmuseum.or.jp/plan/2015/04/post-54.html

人型のカラフルポップな作風で見た事のある方は多いのではないでしょうか。
彼もまた、ウォールアーティストの一人でした。ストリートアートの先駆者の一人であり、31歳という若さで亡くなりましたが、現在もなお厚い層からの支持を得ています。Tシャツやインテリアとしての展開もあるキース・ヘリングの作品は、ストリートアートの枠を超えて、芸術作品として親しまれています。

スティーブン・パワーズ


引用:http://ism.excite.co.jp/art/rid_E1398823981004/pid_3.html

レターを得意とするライター。質感をも感じさせますね。彼のクオリティ高い作品は評価を得ており、過去には展覧会も開催されています。

エドゥアルド・コブラ


引用:https://www.christiantoday.co.jp/articles/21541/20160726/seibu-sogo-christ-wall-painting.htm

ブラジルサンパウロ出身のウォールアーティスト。カラフルな色相で著名人をモチーフとした作風が多く、巨大な壁画をいくつも制作しています。グラフティというよりは、もはや壁をキャンバスにした絵画のような大作が多く並びます。
まだ記憶に新しい、2016年リオ・オリンピックにて32000平方フィートの巨大な壁画を任されたアーティストです。

そのときの様子がこちら

ジャン=ミシェル・バスキア


引用:https://cragycloud.com/blog-entry-759.html

混沌とした作風ですが、現代で言うコンテンポラリーアートのような魅せ方を60年代に既に行っていたのがバスキアです。一見ノートの中の落書きのようですが、それを最先端のアートとして確立させたのは、このバスキアの作品であったと言えるでしょう。
また巨匠アンディ・ウォーホルとの親交も厚く、個展を開いたりお互いの創作を刺激し合う仲であったと言われています。

日本のアーティスト

SUIKO


引用:http://www.suiko1.com/portfolio.html

国内外で活躍中のアーティスト。習字からインスピレーションを受けて制作しているのだとか。
ドクターペッパーやディズニーとのコラボレーションもしており、作品を目にしたことのある方も多いのではないでしょうか。
壁にとどまらず、作風を維持しながらデザインワークも手がけており、色々なメディア展開がなされています。

●アートとモラルの狭間

近年、グラフティに関するモラルの低下が国内外で問題視されています。
ストリート・グラフティは街中に描くことが前提になってきます。先程挙げたように、個人所有地への描き込みの禁止が暗黙のルールとなっていましたが、近年ではそれを無視し、どこでも壁があれば描いてしまうライターが増えてきています。
それでなくても、日本はグラフティへの理解が少なく、どんなにクオリティが高い作品であったとしても、芸術だと捉えない人々からすれば落書きに過ぎません。海外よりも規制は厳しく(もちろん海外でも犯罪と見なされることはある)、無許可のもの、公共施設への描き込みは、どこに描いても犯罪になってしまいます。
かつてキース・ヘリングは駅構内に作品を出現させましたが、それは壁に直接描いたのではなく、黒い紙の上にチョークで描かれていたといいます。無断で張り出すことも違反にはなりますが、剥がせば何事も無かったかのように元通りになるそのやり方は、ウォールアーティストの中でもモラル面で善良な提示の仕方であったと考えます。
もちろん、グラフティがいけないことだというわけでは全くありません。日々の制作によって素晴らしい作品が生まれる可能性があることも事実です。しかし、モラルに反するやり方は、世間から白い目を向けられグラフティ全体の価値さえも下げてしまうことになります。なので、やり方を考えて作品を作っていく必要がありますね。

●さいごに

日本でも街中で見かけることのあるグラフティ。ワッと目を引くものもありますよね。スプレーやペンキでの表現、自由度はとても高く、独特のフォントやグラフティならではの表現は、見る人を圧倒する力をもっています。
しかし、日本ではそれらがあまり良いイメージを持たれていないこともまた事実。
どの国にも、素晴らしいアーティストは存在します。それぞれの国で決められたルールの中、その力を存分に生かせることができたらいいなと感じています。素晴らしいカルチャーの1つなので、今後も発展してくことを願います。

(2019.08.05更新)

(2016.9.27)

著者

山田実優

武蔵野美術大学でグラフィックデザインやパッケージデザイン、ブランディングデザインを主に勉強しています。 舞台鑑賞や洋服巡りが好きです。

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