みなさんは「AI(人工知能)」について、どのくらいの知識がありますか?最近では、プロ棋士が囲碁AI「Master」に敗北するというニュースが話題になりました。
ヒトと人工知能の対決は何も囲碁や将棋だけの世界ではなく、人工知能は私たちの生活を全く新しいものに変えてしまう力を持っているのです。ひょっとするとアーティストやデザイナーの仕事も無くなってしまうかもしれません……。
今回は、アーティストやデザイナーの危機とも言える人工知能の登場や、クリエイターが生き残る方法、人工知能とうまく付き合っている企業についてご紹介します。編集・執筆 / OSARAGI, AYUPY GOTO
AI(人工知能)とは
人工知能(英: artificial intelligence、AI)とは、人工的にコンピュータ上で人間と同様の知能を実現させるシステムのことです。言い換えると、言語の理解や推論、問題解決などの知的行動を人間に代わってコンピューターに行わせる技術です。
みなさんが普段生活するなかで一番身近にある人工知能は、Apple社のiPhoneやiPadなどで利用することができる、秘書機能アプリケーションソフトウェア「Siri」でしょう。Siriは、「SRIインターナショナルアップル」によって開発されたものであり、自然言語処理を用いて、話しかけることで様々な会話を楽しめたり、Webサービスの利用ができたりします。人工知能は意外にも、生活の一部に溶け込み始めているのです。
AI(人工知能)が、人に追いつくのは2045年⁉︎
今のコンピューター技術がこのまま発展し続けると、2045年には人工知能が人の脳を超えると言われています。
人の脳を超えてしまうということは、人工知能によって、ヒトが予想できないことが起こりうるということです。つまり、機械自身が勝手に判断をして物事を処理するので、ヒトが信頼できない行動を取る可能性があるということです。そう、それはまるで映画のロボットが人間を支配するような世界になってしまうのではないか……という懸念があります。人工知能の発展によって、将来なくなる可能性が高い仕事
* 一般事務員
* 受付係
* 駅務員
* 機械木工
* 寄宿舎・寮・マンション管理人
* 給食調理人
* 銀行窓口係
* 警備員
* 検収・検品係員
* 建設作業員
* 自動車組立工
* 製パン工
* 測量士
* 宝くじ販売人
* タクシー運転者
* 宅配便配達員
* 駐車場管理人
* バイク便配達員
* ビル清掃員
* 保管・管理係員
* ミシン縫製工
* 郵便事務員
* レジ係......etc
※一部抜粋野村総合研究所 (https://www.nri.com/jp/news/2015/151202_1.aspx)
これらの職業に共通するのは「マニュアルが存在し、その通りに操作、作業する仕事」です。レジ係やビルの清掃など、機械が行った方が確実だと思われる仕事に関しては、どんどん人工知能に仕事を奪われていくというデータが出ています。今日本にある49%の職業が技術的には人工知能に代替可能になっています。したがって、アーティスト、デザイナー、のような創造性や協調性といったことに重点を置いている職業は、まだまだヒトが担える仕事であると言えます。
アーティストやデザイナーも、他人事ではない
「じゃあ、大丈夫じゃん!」と安心したあなた!待ってください!アーティストやデザイナーも安心するのは時期尚早です。現在、人工知能が自動で絵を描いてくれるサービスが急増しています。特別なスキルを持たずとも、アイデアさえあれば、誰もが人工知能を使って簡単に物を作ることができる時代が来てしまいました。ここでクリエイターの脅威とも言える事例をご紹介します。
The Next Rembrandt
美術界隅の人で知らない人はいない、光と影の魔術師、レンブラント。
マイクロソフト、オランダの金融機関 ING グループが、レンブラント博物館とデルフト工科大学に協力を得て「The Next Rembrandt」というプロジェクトが立ち上がりました。人工知能の機械学習によって、まるでレンブラント 本人が描いたかのような新作を作り上げたのです。346点のレンブラントの全作品を3Dスキャンして、レンブラントのタッチ、色合い、レイアウトなどの特徴をコンピューターに学習させています。そのデータを元に、もっともレンブラントらしいと言われた「肖像画」を描くことを決定し、3Dプリンターを使って13層もの絵の具の塗り重ねて、絵画が完成しました。
(https://www.nextrembrandt.com/)(http://japanese.engadget.com/2016/04/07/ai-3d-the-next-rembrandt/)
あくまでも他人の手によって作られた作品であるため、このプロジェクトについては賛否両論がありますが、人工知能には、画家の作品を分析し、新たな作品を生み出す力があることが、証明されました。あの頃の画家が新作を作ったらどんな絵になるだろうか……と想像をしたことがある人は、いるのではないでしょうか。近い将来、今は亡き画家の新作を見れる日がくるのかもしれません。
The Next Rembrandt ホームページPaintsChainer 線画自動着彩サービス
「PaintsChainer」とは、株式会社Preferred Networksのエンジニア、米辻泰山さんが開発して、線画に着彩をしてくれるサービスです。キャラクターであれば、自動的に顔や服などを判断し、塗り分けをしてくれる賢い人工知能です。「色塗りがどうも苦手」「いい雰囲気で見せたい」といった時に大活躍すること間違いないでしょう。
私(筆者の大佛)も、魔女のイラストを描いて早速利用してみました。すると、自動的に形などを認識し、目には青色、髪の毛には黄色を塗ってくれました。全体的にほんのりとグラデーションもかかっていて柔らかい印象に仕上がりました。何も指定せずとも、これほどの精度で塗ってくれるのはとてもありがたいサービスです。
PaintsChainer ホームページOstagram
Ostagramとはロシアで開発された人工知能写真合成アプリです。ついこの間、アニメのキャラクターとパスタを合成させた写真がtwitterで話題になりました。「え?作ったの?」と思われるほど、合成と思わせない自然な仕上がりになっています。
ここでキュピピットと、フィンセント・ファン・ゴッホの《収穫》の絵画を合成してみましょう。
(http://www.g-g2016.com/aichi/point.html/)
ゴッホの色遣いやタッチと融合し、なんとも趣のあるキュピピットが完成しました。
組み合わせる画像はできるだけ細かく、画質の良いものを選ぶと、合成が綺麗に仕上がります。ちょっとした暇つぶしの時間に使うと、とんでもないアートが生まれるかもしれません。
Ostagram ホームページこれらの事例から、デザイナーやアーティストは「ただ絵が描ける」だけでは、人工知能には勝てません。そして、この他にも物作りをする人にとって有益なサービスが生まれています。
クリエイターの皆さん、危機感が湧いてきましたか?人工知能はもはや、アートもグラフィックデザインもできてしまう知能に進化しているのです。では、クリエイターが将来に生き残るためには、どうですればいいのでしょうか。
クリエイターが生き残るためには
①クリエイティブな力を磨く
人工知能にできないこと……それはズバリ0から1を作ることです。人工知能はデータを分析をし、その結果から判断して行動をします。つまり、データがなくては何も作り出すことはできません。人間は色々な視点を持って毎日を過ごしています。一見関連付けられないことに感じられたものに対しても、新しい価値を生み出す力があります。これは人にしかできない「クリエイティブな力」です。
②問題発見力を鍛える
問題解決は申し分ない力を発揮する人工知能ですが、問題発見能力はまだ不十分と言えます。
「これは何故こうなんだろう」と、その問題について考えることができるのが人間の特権です。疑問に思うことで、新たな切り口から課題を発見できる力を養うことができます。
③感情と向き合う
これがクリエイターにとって最も重要なことです。感情とは人が物事や人に対して感じる様々な気持ちのことです。最近は人の感情を理解できる人工知能が出てきてはいますが、あくまでプログラムされているだけで、本当の意味での「感情」を人工知能は持っていません。喜び、悲しみ、怒り、恐れ……などの複雑な人間の感情は、人工知能には理解ができない点ではないでしょうか。感情を用い、人々に感動を与えるような仕事は現代においてますます需要が増えています。
その一例に、「写ルンです」があげられます。「写ルンです」は1986年に発売された、使い捨てカメラです。デジカメが登場して以降はその姿を消しましたが、最近若い女性に人気が出ています。現像するまでどのように取れたかも分からず、写真の枚数にも限りがある使い捨てカメラですが、「味わい深い写り」や「ノスタルジー」を感じさせてくれる写真が人気となっています。現代において不合理で不便であるカメラを使う彼女たちの気持ちを果たして、人工知能は理解できるでしょうか。(http://fujifilm.jp/personal/filmandcamera/utsurundesu/standard/simpleace/index.html/)
このように、人間らしい力を伸ばすことによって人工知能にはできないことを、やり遂げるクリエイターになることは十分に可能です。ただ、物事を淡々とこなすだけではく、「なんでこうなんだろう?」と普段の生活に疑問を持つことから、クリエイティブな発見をすることができます。
AI(人工知能)を導入している会社
現在、人工知能を使ったサービスを展開している会社が急増しています。そんな中で、クリエイターが人工知能と人を繋げる役割が重要になってきていることをご存知でしょうか。人工知能を人間の知恵で生かしたサービスをご紹介します。
日本マイクロソフト株式会社「りんな」
女子高生AIの「りんな」とは、LINEやtwitterで本物の女子高生と会話をするようなやり取りができる会話型ロボットです。2017年4月に、やり取りをしたユーザー数はなんと560万人にのぼります。
(http://rinna.jp/)
りんなのように、対話をしてコミュニケーションをする楽しさを経験することができる「対話型インターフェース」が、未来のUIで最も効力を持っていると言われています。機械の操作が難しいお年寄りにとっても「対話」であれば、容易にコミュニケーションを取ることができます。これからの時代は会話のように自然なUIが求められてきます。
りんな ホームページ株式会社アトラエ 「yenta」
yentaは、普段は繋がる機会の少ない多種多様な領域のプロフェッショナル同士を繋ぎ、働き方の多様化、オープンイノベーションや生産性の向上を促進するマッチングアプリです。
プロフィール情報やソーシャルデータ、行動履歴を人工知能が解析して、利用者が興味を持つと予測されるビジネスプロフィールを紹介してくれます。
(https://talentbase.io/yenta)
ただ分析をするだけでなく、「人と人を繋ぐ」というUXデザインを生み、ビジネスに貢献をしている点が、人間ならではの発想を生かした人工知能サービスの成功例です。
yenta ホームページ
2社のサービスから、人工知能がもたらす力をどのように人が生かしているのか、ということがお分かりいただけたかと思います。技術発展に伴って「感性的」な要素がますます重要化しているので、クリエイターにとっては良い時代ではないでしょうか。
最後に
ルーチンワークと呼ばれる一部の仕事は機械化によって将来なくなってしまうかもしれません。しかし、そんな中で、クリエイターのような想像力や発想力を問われる仕事は現代においてますます需要が高まることが予想されます。「絵を描く」「物を作る」というスキルの他に「人間らしさ」を高めることもクリエイターが生き残る上で不可欠な要素であると思います。たまには日常の生活を忘れて、「どうしてこれはこうなんだろう?」と一日中考えてみると、新しい発見があるかもしれません。
(2017.5.26)
著者
はたらくビビビット
ポートフォリオとデザインのリファレンスメディア