膨大な作画数と時間の集大成。手描きアニメーションの「制作手法」と「注目若手作家」を知ろう

美大生にとって一番長い休暇、春休みが到来しますね。制作やアルバイトに精を出す時間もあれば、家でゆっくり過ごす時間も多いのではないでしょうか。そんな長い夜には、家で作品を鑑賞してみるのはどうでしょう。今回は、WEBで見ることができるアニメーション作品と、クリエイター達をご紹介いたします。いったいどんな手法で制作しているのか、一緒に探っていきましょう。
編集・執筆 /RINA SAITO, YOSHIKO INOUE

目次

●アニメーションとは?
●アニメーション作品、クリエイターのご紹介
●最後に

●アニメーションとは?

日本では、アニメーションと言えば、「スタジオジブリ」を思い浮かべる人も多いのでは?「千と千尋の神隠し」や「ハウルの動く城」など名作を数多く生み出していますよね。ここでは、アニメーションの定義と、よく使われる用語を説明していきます。

アニメーション

そもそもアニメーションとは、複数の静止画を連続して表示することで、物や風景の動きを表現する映像手法です。日本では、漫画のようにデフォルメされたキャラクターなどが登場する物語を「アニメ」と略して呼ぶことも多いです。
少しずつズラした絵を1秒間に何枚も表示することで、キャラクターの表情や体、背景を動かします。いわゆる「パラパラ漫画」と原理は同じなのです。

アニメーション用語集

ロトスコープ

ロトスコープとは、モデルをカメラで撮影し、その一枚一枚をトレースしてアニメーションを作る技法です。初期のディズニーのアニメーション映画「白雪姫」や「シンデレラ」の一部にも使用された技法で、人の動きを細かく表現できるのが特徴です。

フルアニメーション

フルアニメーションとは、映画で使われていた1秒間を24コマのフィルムで制作されているのにならって、1秒間を24枚の絵を使い表現する手法のことです。非常に滑らかな動きになりますが、同時に手間のかかる手法なので、実際のテレビで放映されているアニメなどは、1秒あたり8〜12枚程の絵で表現される「リミテッド・アニメーション」であることが多いそうです。

●アニメーション作品、クリエイターのご紹介

シシヤマザキ さん


ロトスコープの技法を使って、自分が踊った姿をトレースし、水彩で手書きのアニメーション作品を制作している、シシヤマザキさん。LUMINEのCMや、YUKI「好きってなんだろう…涙」のPV、シャネルや資生堂のPV制作も手がけるなど多方面で活躍されています。

水彩画がそのまま動いたようなシシさんの作品は、手書きの温かみが感じられるアナログ画材の良さと、登場キャラクターの動きが人間らしくリアルになる、昔からの手法であるロトスコープが相まっていて、新しいアニメーションの表現になっていると思います。

シシヤマザキ さんの制作手順

1. 音楽を聴きこみ、イメージを膨らませる
2. 自分が踊る動画を撮影
3. Adobe After Effectsで音付け、動画を編集
4. トレース用の画像を制作、ライトボックスを使いトレース
5. Adobe After Effectsでアニメーションを作成

参考 https://www.cinra.net/column/wacom/himitsukichi24-1.php

HP http://shishiyamazaki.com
Twitter @shishiy
Instagram @shishiy

井上涼(いのうえ・りょう) さん

井上涼(いのうえ・りょう)さんの作品は、デフォルメされたキャラクター達が独特な動きをしながら、ストーリーが展開していくのが特徴です。音楽やアフレコも自分で制作しており、独自の展開、動き、カメラワークが合わさって井上さんの世界観となっています。一度見たら記憶に残る、印象的な作品にやみつきになるファンも多そうです。
2013年からTV番組「びじゅチューン!」にて、美術作品を題材としたアニメーション作品も手がけており、様々なアニメーション作品が放映されています。

制作手順

1. 歌詞を決め、楽曲を制作
2. コーラスを録音
3. 手書きで線画を描く
4. Adobe Photoshop、Adobe After Effectsで色つけ
5. Adobe Photoshop、Adobe After Effectsでアニメーションを制作

参考 https://blogs.adobe.com/japan/illustrator-30-30-30-ryo-inoue/

HP http://tanoshimida.com
Twitter @kitsutsukijanai
びじゅチューン! http://www.nhk.or.jp/bijutune/

水江未来(みずえ・みらい) さん


抽象的な、細胞のようなモチーフで、フルアニメーションの作品を制作している水江未来(みずえ・みらい)さん。2019年現在は、多摩美術大学の情報デザイン学科で非常勤講師としても勤務されています。
水江さんが作り出すアニメーションは、どの部分が動き出すか分からない様子が幻覚のようにも、画面いっぱいにうごめく微生物達のようにも見えます。こんなに細かい作風ですが、絵コンテやラフなどは描かず、ダイレクトに一枚一枚手描きで制作しているそうです。筆者は、水江さんの原画を拝見したことがあるのですが、色付きのペンで描いているように見えました。

HP https://miraifilm.com
Twitter @MIRAI_MIZUE

ぬQ(ぬきゅう) さん

オリジナルのキャラクターが作品をまたいで繰り返し登場する、ぬQさんのアニメーション作品達。ぬるぬると動くキャラクター達と、キラキラとした都会の街が印象的な作品です。
オリジナル作品の他にも、水曜日のカンパネラ「見ざる聞かざる言わざる」やチャットモンチー「こころとあたま」のPV、PARCOやローソンの新商品のCMも手がけるなど多方面で活躍されています。

ぬQさんの作品は、主にAdobe Photoshopを使い、毎秒24枚描く「フルアニメーション」の手法で制作されています。ご紹介した「ニュ~東京音頭」では、「世田谷大陸」と「ニュ~東京」間での出来事を作品にしているそうです。

HP(個人)http://nuq.o.oo7.jp
HP http://jpnk-jp.com/artist/nuq/

久野遥子(くの・ようこ) さん

可愛らしいキャラクターと空間を高いデッサン力で空間で描く、久野遥子(くの・ようこ)さん。
どんどんと視点が変わるため、まるで3DCGなどでシュミレーションしたように見えます。ゆらゆらと舞う蝶の目線のようで、どんどんと作品の世界観に引き込まれていきますね。可愛らしいキャラクターが登場するファンタジックな部分と、グロテスクな部分両方が見えるストーリーも魅力的です。

岩井俊二監督作品である「花とアリス殺人事件」では、ロストスコープアニメーションディレクターとして参加されていました。近年は、漫画「甘木唯子のツノと愛」も制作しており、文化庁メディア芸術祭 マンガ部門新人賞を受賞されています。

卒業制作である「Airy Me」は、約2年をかけ、総計3000画を手描きで完成させた作品です。音楽家のCuusheさんのミュージックビデオとして制作されました。
近年作られたアニメーション作品も、水彩やアクリルガッシュのようなアナログ画材で描かれているように見えますね。

HP http://kunoyoko.tumblr.com
Twitter @kunoyoko

●最後に

今回ご紹介した作家の方は、手描きアニメーションだけでなく、イラスト、漫画と多方面に活躍する人が多いようです。 よくよく考えれば、一枚一枚のイラスト作品の集積がアニメーションになっているので、イラストや時間軸のある漫画を描く作家が多いのは当然なのかもしれません。漫画やイラストに対し、アニメーション作品は作業数が多い分、どうしても膨大な時間がかかってしまいます。アニメーションをつくってみたいと思ったら、まずはロトスコープの手法などを使って制作してみるのはどうでしょうか。自分の作品が動くと感動もあり、楽しいですよ。興味が湧いた人は、ぜひ試してみてくださいね。
 

(2019.2.4)

著者

齊藤梨奈

多摩美術大学 絵画学科 油画専攻を2019年3月に卒業。 古着屋、雑貨店巡り、服やアクセサリー作りをするのが好きです。

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