初心者の為の基本のデッサン:中級編

今回の記事は「初心者の為の基本のデッサン」の第二弾です。第一弾の【初級編】では、本当に基礎の基礎として、必要な道具やはじめて描く時に気にすると良い点などを、ざっくりとご紹介しました。
今回は【中級編】ということで、より具体的な技術・考え方で、自分が初心者の時に知っておきたかったと思うものを挙げていきたいと思います。これからデッサンを学びたいと思っている方の助けになれば幸いです。

編集・執筆/NISHIDA, AYUPY GOTO


▼ 前回の「初心者の為の基本のデッサン:初級編」はこちらから読むことが出来ます。順番に読みたい方は、是非初級編からご覧下さい!
初心者の為の基本のデッサン:初級編

さて、はじめから技術的な話をするのも良いのですが、その前に少しだけデッサンについての抽象的なお話をしたいと思います。すぐに技術的な話が読みたい方は目次へどうぞ。

〇デッサンと光と影の話

デッサンはそもそも西洋から取り入れた描画方法です。もともと、日本にはデッサンはありませんでした。そしてフランス語の素描 = デッサン(dessin)ですが、いわゆる皆さんがイメージするであろうデッサン(陰影による立体の表現)が確立したのはルネサンス期以降です。


日本と西洋の古典絵画を見比べてみると、日本の絵画が線描であっさりと描かれているのに対して西洋絵画が陰影をとらえていて、線はほぼ使用していない、という差があるのは不思議だと思いませんか?

現代では、わざわざ海外に足を運ばなくても、ネット上の動画や写真で世界中の風景を見ることが出来て便利ですよね。インターネットを通して、世界の風景を気軽に比較できるようになって思うのは、同じ地球の上でも地域によって本当に気候が違うんだなということです。なにげない風景写真をひとつ見てみても、随分と日差しが強かったり随分と暗く、重い曇り空だったりと、驚いたことはありませんか?
気候が違えば、光が変わり、ものの見え方もまったく変わってきます。そういった差が、絵画表現の文化の差になってきたのではないでしょうか。気候と絵画って結構密接な関係を築いているのではないかと思います。

日本のような気候では、四季のゆるやかで淡い光でモノが照らされているので、生活の中で陰影をそこまで意識しないで済んでしまうのかなと思います。そこで、西洋式のデッサンをしようとすると、「光? 影? それってなんだ?」と、モノを観察する時にそもそも陰影を意識したことが無かったことに気づき、そこからその捉え方を学んではじめて、「これが光でこれが影か!」と感じられるようになります。

大抵のデッサン教室には片側から強い光を当てるライトがあったり、教室の窓はカーテンを閉めて光を制限し、電灯の位置から光の方向を理解して意識的に描きます。
まずはモノに「光」があたった時、どこに「影」が落ちるものなのか、そのルールを覚えられると良いですね。

また、現実にモノにあたっている光は、とても沢山あります。リンゴ1個を机の上に置いたとしても、窓からの太陽光、蛍光灯の光、隣の部屋の電灯の光、スタンドライトの光、テレビやパソコンのモニターの光など、様々な光があたっています。日の光や蝋燭の光しか無かった時代に比べて、光の溢れている現代はきっと光を読解するのが難しい時代になっていると思います。ですから、物体にあたる余計な光は無視してしまって、自分にとって大事な光を選別すること。

『単純な光の中で、こちら側からこの光があたると影がこう落ちて物体はこう見えると理解する』

その観察の場数を踏むことで、どんな複雑な光の中にあっても、状況を読み解けるようになると思いますし、あるいは想像上の物体に光を正しくあてることもできるようになると思います。

日本で、薄曇りの日や、うららかな陽光の中にくっきりとした陰影を見つけるのは、大変難しいです。逆に、中東や南国の快晴の光の下なら、簡単にハッキリした陰影が見つけられそうですよね。
ですからデッサン的な光や影のとらえ方が、最初から出来ないからといって嘆く必要はまったく無いと思います。「ほう、外国のひとはこのようなモノの見方をしてきたのか、考えのひとつとして学ばせてもらおう」ぐらい、気楽にとらえると良いと思いますよ。

▼では前置きが長くなりましたが、ここからはもう少し技術的なお話をしていきます!

目次

1.基本の陰影「明るい・暗い・反射光」
2.接地の話(モノの関係性)
3.全体がグレーになってしまう時(写真のモノクロとデッサンの白黒の差)

1.基本の陰影「明るい・暗い・反射光」

デッサンをする時に、嫌というほど聞くことになる「明るい・暗い・反射光」という言葉。物を描くときに、これさえ抑えておけば、だいたいそのモチーフの状況を説明することが出来ます。ここにさらに「質感」「色の濃淡」などが加わって複雑になっていきます。

光が射して、モノにあたって、陰ができて、影が落ちて、反射した光が少し射す。
光と陰と影まではわかりやすいですが、「反射光って何?」と思いますよね。
これがあると無いとでは、描いたものに出る立体感や説得力が違います。物体のまわりこみ、描いたものの向こう側にはその物体の裏面が見えないだけで存在しているんだな~と思いながら描くと、理解しやすいかもしれません。
最近ではイラスト表現でも反射光がわかりやすいものをよく見かけます。

2.接地の話(描く時に気にするポイント・モノの関係性)

デッサンをする時、最初はその物体だけ観察して描くのも良いですが、今回は【中級】ということでもう少し先に進みましょう。


図の左のリンゴ……いったいどこにあるのでしょう?
宙に浮かんでいる? そんなことは現実では無いですよね。
物体単体を描くことが出来るようになったら、今度は状況を意識して描くようにしてみましょう。デッサンはそのものの在り様をとらえるだけでなく、その物体の状況もとらえて説明することが出来ます。そして、そうすることで絵の表現はぐっと広がります。
その為に必要な考えは物体の接地面です。その物体がどの部分で地面と接地しているのか、ということを意識して描いてみましょう。接地しているところを少し強調して描くとわかりやすいです。
また、地面に落ちる影の長さや強さで、その物体にどんな光があたっているのか、どんな状況なのかを説明することができます。

3.全体がグレーになってしまう時(写真のモノクロとデッサンの白黒の差)

現代はスマホで撮った写真で、すぐに写真を加工することが出来ますが……
まずはモチーフを撮ってみましょう。
たとえばデッサンが写真のように描けば良いだけのものならば、実際にとった写真をモノクロに変換してみて、それを鉛筆で同じように描けば、最高にうまいデッサンが出来る筈ですよね?

あれ……?なんだかグレーだな? あんまりパッとしない?



そう、実際はそうはなりません。
実は「見たまま・そのまま・ありのまま」目に映ったものを紙の上に写し取っても、それは案外「いいデッサン」にはならないのです。たまに「見たまま描きなさい!」と教える先生がいますが、その言葉が上達の遠回りの原因になることが、あると思います。デッサンって全然「見たまま」じゃないのです。
先生たちは多分、ずっとデッサンをやってきて「見たまま」=「デッサン」というふうに思い込んでいるのだと思います。でも実際に初心者の「見たまま」と先生の「見たまま」の認識には、多分すごく隔たりがあります。

初心者の見ている現実風景の「見たまま」が先ほどのモノクロ画像だとすると、先生の言っている現実風景(デッサン用)の「見たまま」はこんな感じ(下図左)ではないでしょうか……(あくまで筆者の想像です)



全然違いますよね!

細かいことの積み重ねがこの見方の差になっていくのですが、余計な要素を減らし、目立たせたいところを強調する。同じ物を表現していることには変わりません。それは見る人に「よりわかりやすく」「より魅力的に」映るはずです。

デッサンが全体にグレーになってしまって困った時は、「見たまま描きなさい」というワードに惑わされずに、わかりやすくて少し強い光が当たっている状況を想像して描いてみるといいかもしれません。

▼ あわせて読んでみると良いかも? 

基礎画力アップ。スケッチ・クロッキーの習慣をつけよう
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おわりに

今回は「初心者の為の基本のデッサン:中級編」ということで、自分なりにデッサン初心者だった時に欲しかった情報・自分が躓いたのに誰にも教えてもらえなかったポイントを、【初級編】よりは少し突っ込んだ内容でざっくりとまとめてみました。また、次回の上級編では鉛筆デッサンに限らず、色を用いたデッサンについても少し触れてみたいと思いますので、その際は合わせて参考にしてみてくださいね。

(2017.10.11)

著者

西田歩未

武蔵野美術大学大学院造形研究科修士課程美術専攻日本画コース在学。読書と標本・剥製集めが趣味です。

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