ファイン系学生こそ知っておきたいポートフォリオの違い。就活用と展示用はこう使い分ける


私(筆者・松本)は2023年4月からゲーム会社のイラストレーターとして働いています。この記事では、ファイン系(日本画学科)で4年間学んだ私が就活時に感じた「展示用ポートフォリオ」と「就活用ポートフォリオ」の違いをご紹介します!私自身も友人も、ファイン系学生の多くが就活の序盤でこの違いがわからず困っているように見えました。絵画を制作してきて、就職も頑張りたい、絵やデザインの仕事をしたいという方の手助けになれば嬉しいです!

編集・執筆 / MATSUMOTO , YOSHIKO INOUE

はじめに

美術大学で4年間日本画を学んでいた私は、趣味で描いていたイラストを仕事にしたいとゲーム業界を志望して就活を始めました。
クリエイター就活に必要なのは「ポートフォリオ」。ファイン系専攻では絵画展示の際にポートフォリオを用意する習慣があるため、「一度つくったこともあるし就活用も同じ要領でつくれば大丈夫だろう」と思っていたのですが、いざ完成するとなんか違う……。いま思えば、展示と就活で用途も読み手も異なるのに、同じ考え方で取り組んでいたのが問題でした。(とはいえ同じ「ポートフォリオ」という名称で似た体裁なので、そうなってしまうのもしょうがないと思うのですが……!)

その後たくさんの内定者事例と自分のポートフォリオを比較したり、選考を受けたりするなかで「展示用と就活用のポートフォリオは似て非なるものだ」とハッキリわかりました。
ポートフォリオをつくってみたものの「なんだか企業に伝わらない」「完成作品以外に何を載せたら良いかわからない」「絵画作品をどう載せたら良いかわからない」など迷っている方は、ぜひ同じ立場の一例として参考にしてみてください。

そもそも異なるのが「ポートフォリオをつくる目的」

ポートフォリオを作っていくうえで最も大切なのは、目的(何のためにつくるのか)です。就活用と展示用ではこの目的から大きく異なるのです。

就活用ポートフォリオは、自分の強みやポテンシャルのプレゼンテーション資料
展示用ポートフォリオは、自己紹介、作品集

と捉えると、自ずと必要な情報が違いそうだと思いませんか?

ここから、ゲーム業界に提出したポートフォリオと、展示用ポートフォリオを比較しながら表紙から裏表紙まで解説していきます!※展示用と就職用どちらが良い・悪いというものではなく、あくまで目的の異なるポートフォリオそれぞれの見せ方の検証です。

ポートフォリオ一冊を解説!

1.表紙
2.もくじ
3.自己紹介
4.中扉
5.前半の作品(イラストなど)
6.後半の作品(絵画、彫刻など)
7.デッサンなど
8.その他 グループワーク・表現のチャレンジ
9.裏表紙

1.表紙

●就活用ポートフォリオ

企業へ提出する際の第一印象になるのが表紙。
私は「一番得意なことが伝わる表紙」をコンセプトに、複数作品の各中心ポイントを集めて配置しました。読み手に「この人はキャラクターが得意で、仕事でも取り組みたいんだろう」ということを表紙から伝えたいと思いました。

●展示用ポートフォリオ

展示用ポートフォリオの表紙は、多くの場合、展示会場で見られる前提なので、どの作家のポートフォリオなのかがわかりやすいようにすることが大事です。
会場に展示している作品を載せ、よく使う色でまとめたシンプルなデザインで世界観が伝わるように工夫しています。

2.もくじ

●就活用ポートフォリオ

もくじには「どのページにどの作品が載っているのか」を説明する役割がありますよね。ゆっくり見る時間がない企業に提出するポートフォリオでは、もくじは載せたほうが親切だと思います。
また作品の順番は、内定者ポートフォリオを数多く見ていると定石がわかってきます。基本的に、最近のもの・志望職種にあったもの・自信のあるものから載せていきましょう。

●展示用ポートフォリオ
展示用ポートフォリオの場合、もくじの有無はどちらでも良いでしょう。コンテンツが多い場合や、活動歴をカテゴリ別に区切って紹介したい場合はあるとわかりやすいですね。

3.自己紹介

●就活用ポートフォリオ

自身のパーソナリティを伝えられる部分です。簡単なあいさつや制作理念、ツールスキルなども書いておきましょう。作品がなくてもつくれるため、ポートフォリオのどこから手を付けて良いかわからない人は、まず自己紹介ページから始めるのもおすすめです。

●展示用ポートフォリオ

展示用ポートフォリオの場合、自己紹介ページに多くの人が求めるものは、作家性です。普段の制作、活動歴、SNS情報など、その作家を「追いたくなる」ページを目指しましょう!

4.中扉

●就活用ポートフォリオ

カテゴリごとの中扉はつけない人もいるので必須ではないですが、私はつけました。イラストとデッサンなど、カテゴリの異なる作品を一つのポートフォリオに入れていたので、ジャンルの切り替えを強調したかったからです。
ページ数やコンテンツが多い人、またもくじを作っている場合はそれに対応するためにも、見やすさやユーザビリティを考えるとあった方が良いと思います。


●展示用ポートフォリオ

就活用のものほど情報を全面に出す必要がないため、コンセプトによってはシンプルなデザインにすることもできますが、もくじページを設けている人は中扉もあると良いでしょう。
遊び心を加えることでめくりたくなるポートフォリオにもできます。

5.前半の作品

●就活用ポートフォリオ

いよいよ作品、ポートフォリオのメインコンテンツです!特に力を入れた作品、世界観が出ている作品を厳選し載せましょう。
幅や引き出しを見せられると強力なアピールになります。志望職種に寄せたジャンルの作品と、それ以外のものもあると良いです。
私の場合は、メイン作品に希望のキャラクターデザインの作品を載せ、サブで背景作品を載せました。これは志望職種以外の制作スキルもあるという幅をアピールしたかったからです。


6.後半の作品

●就活用ポートフォリオ

後半の作品では、志望業界とは違う角度から自分をアピール可能です!
一見志望業界に関係なさそうでも、基礎力、発想、世界観、色の使い方など、業務に活かせることは大いにあります。
また、授業や公募で評価の高かったもの、教授など責任ある人から評価されたものを入れると説得力が増します。評価されたり受賞したものには必ず記載をしましょう!

●展示用ポートフォリオ

作品をどう見せたいかを意識して構成を吟味することが大切です。
例えば右図は、色味を抑えた控えめな作品が映えるように、かつ静謐さが伝わるような余白の多いレイアウトにしました。
レイアウトだけでなく印刷や用紙にもこだわることで、思わず手に取りたくなる完成度を目指しましょう!

7.デッサンなど

●就活用ポートフォリオ

デッサン力は、基礎練習をみっちりやってきた絵画系美大生ならではの能力です。
デジタルイラストのデザイン業務には一見関係なさそうですが、どんなアピールになるのでしょうか?
ゲーム制作ではファンタジーなど、実在しない、非現実的な世界を構築することが多いですよね。細かいディテールやさまざまな造形への知見があると、リアリティのある表現への説得力が増すのです。ポートフォリオ提出の要項に「デッサンを含む」「デッサンかクロッキーを含むポートフォリオ」という指定がある場合もあるので、重視されていると考えて良いでしょう。
私はデッサン6点、受験期に制作した着彩デッサン3点、在学中に制作したクロッキー8点を載せました。「基礎力を見せたい」という意図があったのですが、点数は比較的多い方だったようです。内定者の事例などを参考に検討してみてください。


●展示用ポートフォリオ

展示用の場合は、受験対策用の絵画は載せないという人も多いのではないでしょうか。公募や院試に出すものでない限り、基本的にはなくても良いでしょう。
載せるとしてもデッサンで基礎力をアピールする!というより、世界観を魅せるためにドローイングやクロッキーを載せるといったように、就活用ポートフォリオとは異なる目的で載せることが多いと思います。

8.その他(グループワークやチャレンジ作品)

●就活用ポートフォリオ
グループワークや慣れてなかったけどチャレンジしてみた3DCGの作品は、面接でよく話題に挙がり、載せて良かったと感じた作品です。協調性は必須!チャレンジ精神、主体性も評価されます。

グループワークは友人と1から企画した展示活動を載せました。ゲーム制作業務はチームで行うものづくりなので、在学中の経験を通してチーム間でのコミュニケーション能力があると伝えられると有効なアピールになると思います。実際、面接で突っ込まれることも多く、技術力以外の能力で重視されているのだなと感じました。

3DCGの作品は始めたてでまだスキルとして不十分だと思いましたが、「未経験なりに3DCGへの理解があり、学習意欲がある」と伝えたかったので載せました。
現在のゲーム制作において3DCGの存在はなくてはならないものです。実務で必ず携わることになるため、必要なスキルだと思いました。

「ただイラストが描きたいだけ」でなく、得意を活かしてゲーム制作に携わりたいという理由に説得力がでたかなと思っています。

9.裏表紙

●就活用ポートフォリオ

裏表紙は、就活用、企業用ともになくても良いものです。私は膨大な数のポートフォリオを連日見ている企業の方に対し、自分のポートフォリオを見てくれたことに対するお礼と、自分の名前を改めて大きく書くことで印象付けを狙いました。

レイアウトについて

最後にレイアウトについて少しだけ解説します。ファイン系学科に所属していると、エディトリアルデザインやレイアウトデザインの授業があるわけではないので、美大生といってもどうしても独学になってしまうと思います。私もそうでした。
就活用でも展示用でも、完璧でなくて良いので、見やすさを優先し、その中で世界観を出していきましょう。特別なことをする必要はありませんが、基本的なことはしっかり守りましょう

①ページ番号を振る
②フォントは統一、フォントサイズは2~3段階に分ける(分けすぎない)
③タイトル、制作年、制作時間、アナログ作品の場合はサイズを入れる
④ゆったりページを使い、キツキツにしない(でも冗長なのも×)

ちなみに展示用ポートフォリオはデザインスキルを図るものではないので、レイアウトも基本的に自由です。作品を載せておわり!でも良いのです。ですが、少し工夫することで作家の世界観が伝わり、より多くのファンを獲得できるかもしれません。例えば、作品の世界観に合わせたレイアウトにする、メインカラーを決めて使ってみる、作品の解説を凝って物語を読ませるようなポートフォリオにする……など。
いろいろ試し、作品を創るのと同じくらい楽しんで作ってみてください!

さいごに

就活用ポートフォリオと展示用ポートフォリオ、似ているようでかなり違うものだとわかっていただけたでしょうか。
ポートフォリオは出来次第で、クリエイター就活における大きな武器になります!せっかくの強みが伝わらないのはもったいないです。作ってみたものの、なんか違う……となっていた方は、ぜひご自身のポートフォリオの構成を見直して、「誰に何を伝えるためにつくるのか」が明確になっているか確かめてみてください!

(2023.5.16)

著者

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武蔵野美術大学の日本画学科を2023年春卒業。ゲーム会社でデザイナーとして働いています。 赤っぽい色が好きで、赤い絵を描きがちです。

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