皆さんは東日本と西日本、どちらの出身でしょうか。地元を離れて他の街に暮らす時、その土地の文化や習慣の違いに翻弄された方も多いはずです。そして、同じ商品でも東と西でローカル化されているのはご存知ですか?今回は、地域に根ざしたデザインを作るためのヒントを探っていきたいと思います。
編集・執筆 /OSARAGI, AYUPY GOTO
目次
- 1.ローカル化とは
- 2.東と西の違い
- 3.東と西で仕様を変えている商品の紹介
- 4.最後に
1.ローカル化とは
ローカル化とは「その土地に溶け込む」という意味です。 「あの店、いかにもローカルだよね」などと「田舎」という意味で使っている方を見かけますが、それは間違いです。「ローカル」とは、本来はlocalという英語の外来語で、地域の、地方の、地元の、という意味があります。
最近グローバル化に対抗して、その土地独自の文化に根ざした商品開発をしていこう!と、各地方の話を耳にしますが、それが「ローカル化」です。
その土地の環境、文化、習慣によってその土地の人が「求めるモノ」は変化します。
当然ですが、とても暑い南国の島の人が熱々のおでんを食べませんよね?また、凍えるような環境に住む北国の人が真冬にサンダルを履くこともないと思います。
上記のような地域の人の行動から、デザインや商品開発について考える上で、「ローカル化」は大変重要なキーワードになってきます。
2.東と西の違い
では実際に、日本国内の東と西で異なるものをいくつか見て行きましょう。
言葉
まず、思い浮かぶのが「言葉」です。「おはよう」を東西で比べてみました。
東
北海道 おはよー
岩手 おはよがんす
福島 はやえなっす
東京 おはよー
静岡 いあんばいです
西
三重 はやいなー
大阪 おはよーさん
鳥取 おはよーござんす
佐賀 おはよーござんした
沖縄 っうきみそーちー
「おはよう」を使う地域はとても多かったのですが、同じ「おはよう」でもイントネーションが若干異なります。北国はとても寒いので口を大きく開かずに話す術を身につけ、漁師町では漁師が船乗りの際に聞き取りやすい話し方に変化していきました。
また、大阪は昔、「商人の町」と呼ばれ、様々な情報が行き交う町でした。そのため、スピードが重要視され、早口な人が多い傾向にあります。
日本は小さな島国なのに、こんなにも話し方が違うのは驚きですね!
文化・習慣
結婚から葬儀まで様々なライフイベントがありますが、それも地域によってだいぶ異なるようです。一部ご紹介します。
住宅
北海道〜東北
北海道の住宅の特徴は「玄関フード」です。玄関フードとは玄関周りをガラスで囲ったものであり、北海道では設置している家が多く存在します。
これは肌寒い冷気や雪が家の中に入り込むのを防ぎます。そして、これは除雪用品などを置いておくスペースにもなっており、雪国では大活躍です。
また、コンビニエンスストアなどの商業店舗でもこの玄関フードを導入しているところがあります。
沖縄
沖縄の住宅の特徴は「石垣」です。沖縄は台風が多い地域のため、毎年被害に見舞われています。しかしそんな台風の暴風雨を受け止め、威力を半減してくれるのが石垣です。また、台風対策だけでなく、直射日光をさえぎり、屋敷内を涼しく快適にしてくれます。この石垣は家の周りを一周ぐるっと囲っているため、外から家の中が見えることはありません。
沖縄に限らず、台風の多い地域では家の周りに生垣などを設置することが多いようです。
このように、住んでいる環境によって、住宅の形も変化していることが分かります。
結婚イベント
北海道
一般的な結婚式は両家が主催し、普段お世話になっている人たちを招いて行われます。しかし、北海道では「二人が結婚するから皆で二人の為にお祝いしましょう」と、友人などの親しい人たちが発起人となってお祝いの会を主催したことから『会費制祝賀会』を行なう文化となっていきました。驚くことに、北海道ではこの会費制祝賀会の結婚式が9割を占めるそうです。
愛知(名古屋)
名古屋の嫁入りはとにかく派手です!「嫁入り道具」*1は娘の嫁入りに、いかに素晴らしく、煌びやかな婚礼家具を揃え、ご近所さんに「あんた、ええの持ってるね~」などと褒めてもらえるかが勝負となっています。
*1……結婚に際して,嫁および嫁側の家族が婿方に持参する荷物。
そして、その嫁入り道具は山盛りにトラックに積まれ、町内を走ります。これは「嫁入りトラック」と呼ばれます。さらに、そのトラックは決してバックはできません。なぜなら、「出戻り」に通じて縁起が悪いというジンクスがあるからです。
ただ、最近の挙式スタイルの多様化が原因で、この文化は廃れてきているそうです。今の時代、従来のスタイルで嫁入りをするのはレアになりそうですね。
仏壇
東に多い「唐木仏壇」
唐木仏壇は、美しい木目を活かした、落ち着いた重厚な風合いが特徴で、江戸時代からの100年以上の歴史を持っている仏壇です。素材は本欅無垢を利用していて、木彫りの模様が美しいです。特徴はガラス組子引き戸を持つこと、下台は和家具風にすることなどが挙げられます。唐木仏壇は宗派による違いはないそうです。
西に多い「金仏壇」
金仏壇は全体に黒の漆塗りが施され、内部に金箔が張ってある仏壇のことです。唐木仏壇と比べると重厚で豪華な印象を持ちます。浄土真宗の家に金仏壇が置いてあることが多いです。また、浄土真宗以外でも宗派に異なって金仏壇は変化しています。
食べ物
ついこの間、土用の丑の日がありましたね。実は「うな重」も東西で調理の仕方、好まれる食感が異なります。
東日本のうな重
▲埼玉県浦和市の「満寿家」うな重
関東ではウナギは背開きが基本です。昔の関東は武士道精神が根付いていたため、「腹開き=切腹」を意味する物として好まれず、背開きになったというのが有力な説です。
関東流の串打ちは竹串を使い、皮と身の間の微妙な位置に縫うように串打ちします。そして、素焼の後で蒸します。蒸すと皮が柔らかくなり、味もまろやかになります。
うな重のお味は「外はホロっと柔らかく。中もふわふわ」です。
西日本のうな重
▲三重県津市の「新玉亭」大盛りうな重
関西ではウナギを腹から開くのが基本です。商人の町として栄えてきた大阪では「お互い腹を割って話しをしよう」という意味合いがウナギのさばき方に反映されたらしいです。
関西流の串うちは金串を使い、背鰭、尾鰭、頭をつけたまま焼きます。
そして、蒸す工程はなく、地焼きします。関西では飯と飯の間にウナギを挟む「まむし」という技があります。そこでうなぎを柔らかくします。
うな重のお味は「外はパリッと香ばしく、中はふわっ」です。
このように、同じうな重でも地域によって調理法、食べられ方が異なります。
他にも「お餅」、東は「角餅」、西は「丸餅」。「カレーに入れる肉」、東は「豚肉」、西は「牛肉」などと異なります。
これはあくまで一例で、東西を見渡せば食文化が異なる点がいっぱいあります。食べ歩くと違いがわかって面白いと思います!
3.東と西で仕様を変えている商品の紹介
「どん兵衛」を徹底的に調べてから他の商品についてもご紹介します!
どん兵衛
日清食品株式会社のインスタントうどんで有名な「どん兵衛」ですが、東西で味が異なるのはご存知ですか?ついこの間まで「東西食べ比べ」という企画をしていたそうなので知っている方も多いかと思います。どんな風に違いがあるのでしょうか……?
パッケージ
表のパッケージでは大した差は見受けられません。
外装で異なるのは「成分表」と「印」だけでした。東は「E」西は「w」と表記されています。
中を開けてみると粉末スープが入っています。なんと東西で袋の色が異なりました。
つゆ
違いが顕著なのが、「つゆ」です。東はカツオダシが良く効いた醤油の濃いつゆで西は昆布だしが良く効いた薄いつゆです。
油揚げ
なんと油揚げのお味も違います!東は醤油がジュワッと香る油揚げ、西はちょっぴり甘めの油揚げでした。
見た目はそこまで変わらないのに中身はこんなに違うとは驚きました。「どん兵衛」には地域に根ざしたブランディングを展開できる秘訣が詰まっていると思います。
他にも東西で使用を変えている商品があります。
コンビニおにぎり
東では「焼き海苔」
東日本のコンビニで売っているおにぎりは、塩がぱらっと降りかかった焼き海苔が使われています。パリッとした食感の海苔が特徴です。
西では「味付き海苔」
西日本のコンビニで売っているおにぎりは昆布やカツオダシ、砂糖、しょうゆ、みりんといった材料から味付けされた海苔が使われています。ジュワッと香ばしい香りが広がる海苔が特徴です。
西では根強い「ダシ」文化が生きており、どん兵衛から始まり、おにぎりまで「ダシ」の効いた食べ物を食す傾向にあります。
パッケージには「味付き海苔」であることが強調されていますね。
同じおにぎりを食べているかと思いきや、コンビニで売っているものも違ったのですね。機会があればぜひ、双方のおにぎりを食べ比べてみてください。
冷やし中華
そのまま食べる地域
関東のセブンイレブンで売っている「冷やし中華」はこの通り、スープと和がらし、具がのった冷やし中華です。さっぱりした味なので食欲がないときでもスルッと食べられます。
マヨネーズをかける地域
一方、愛知県 岐阜県 三重県、滋賀、京都のセブンイレブンではマヨネーズ付きの冷やし中華が売られています。それはその地域に住んでいる人の多くが、普段の生活でマヨネーズをかけて食べる習慣があるためです。マヨネーズをかけると、卵のマイルドな味と程よい酸っぱさが交わり、普通に食べる時よりもまろやかな味になります。
トースト
全国的には薄切り派
関東でよく見られる「1斤6枚切」の食パン。間食としてパンが食べられるようになった関東では、サクッと食べられる6枚切りが人気を集めています。また、お煎餅のようなサクッとパリッとしたものが食べられてきたことも理由の1つではないかと言われています。
関西は厚切り派
関西でよく見られる「1斤5枚切」の食パン。主食としてパンが食べられるようになった関西では、モチモチと食べ応えのある5枚切が主流です。また、粉もん文化(お好み焼きやたこ焼きを食べる文化)である関西は、「モチモチ」としたものが好まれるのではないかと言われています。
4.最後に
私(Mayu Osaragi)は東日本に住んでいますが、私の父母の実家は西日本です。たまに祖父母の家遊びに行くと、文化や習慣の些細な違いが面白く、観察をしていました。
住んでいる環境が違えば、その人の生活、好みが異なってくるのも当然です。小さな島国でもこれだけの差が出るので、世界に出てみたらもっと面白い違いが見られるかもしれません。
たとえ同じ商品だとしても、その地域にフィットするようなものに変化をさせて、商品のブランドを定着させていることがこの記事から読み取ってもらえると思います。例えば、味は違えども、東の人にも西の人にも「うどんと言えばどん兵衛だ!」と覚えてもらえますよね。多くの企業がローカル化をした商品を売り始めていることから、「同じものを全世界で売ろう!」というのはかなり難しいことが分かります。その地域の人たちが経験してこなかったもの・未知のものは売れにくいと言えるでしょう。
ただ、地域に根ざしたデザインを行うことで、今まで知りえなかった新しいものの見方が発見でき、まだそれを知らない地域では新鮮に映ることがあります。例をあげると「恵方巻き」があります。昔は関西地方で節分行事の一環として食べられていたものですが、最近ではすっかり全国的に広まっています。
つまり、私たちが普段デザインをする上でも、「文化・習慣」はとても大切な要素なのです。ぜひ、周りの様々な商品に目を向けて地域ごとの違いを楽しみ、デザイン活動にもつなげて行きましょう!
(2017.8.6)
著者
はたらくビビビット
ポートフォリオとデザインのリファレンスメディア