2016年4月14日午後9時26分ごろ、九州中部地方を大きな地震が襲った。阪神大震災と同じM7.3の揺れと、1900回を超える余震の衝撃は大きく、日を追うごとに被害が拡大し、多くの命を奪い、損壊した建物は把握しきれないという。あのとき、被災地にいなかった私たちは一体何をすべきだったのか、いま被災地のために何ができるのか。現地である「熊本県」に、私(はたらくビビビット編集長:後藤)が足を運んだことで気づけた“クリエイターが被災地のためにできること”をお伝えしたいと思う。
編集・執筆 / AYUPY GOTO, イラスト / shione, 写真協力 / Kenichi Aikawa
九州中部地方の大地震から3ヶ月
九州中部地方が大きく揺れた2016年4月14日。
震度7を2回観測するなど熊本県や大分県で激しい揺れが相次いだ大地震。熊本県と大分県では多くの死者と負傷者、家屋損壊などが発生し、長引く余震の影響で日を追うごとに被害は拡大していった。
九州で大地震がおきたとニュースで知った時、私はすぐに実家の両親に電話をかけた。私が生まれ育った実家は、被災地でもある「大分県別府市」だ。確認したところ実家の辺りは、室内の家具が倒れたり、食器が落ちたりすることはあったものの、家が崩壊するなどの大きな被害はなかったようで少し安心した。
しかし、止まらぬ余震情報に心が落ち着くことはなく、携帯でつねに余震情報をチェックしていた。テレビに流れる熊本城や熊本の町が損壊してい姿を見ては、心が締め付けられる思いだった。
「私が普段仕事にしているクリエイションが、被災で困っている人の力になれることってあるのかな。一体わたしは何のために仕事をしているんだろう」
こんな風に自身の仕事を見つめ直したのは、初めてじゃない。5年前に起きた「東日本大震災」の時もそうだ。津波が住宅や人々を飲み込んでいく様子をテレビで目にして、何もできない自分が不甲斐なかった。私はあのときとひとつも変わってないのか、被災地の人たちのために何かできないのか、考えた。ただなかなか前に進めなかった。
クリエイターの私たちは「震災」が起きた時、
何ができるのか。
「世の中の役に立つもの、人に求められるものをつくりたい」
クリエイターであれば、自分の作ったもので世の中を豊かにすることや便利にすること、誰かの役に立つことを喜びにして、ものづくりをしている人が多いと思う。普段の仕事だと、パッケージをつくったり、ロゴをつくったり、Webサイトをつくったり……社会のためになる仕事ができているはず。
でも、今回のような被災が起きたとき、私たちができることは一体何なのか。私たちの仕事は人に求められていることなのか。
「デザインがなくても人は生きていける。」誰かがそんなことを言っていた。誰かが涙を流して困っているとき、不安で眠れないとき、将来が見えなくて震えているとき、私たちにできることは本当にないのでしょうか?
現地の人の声を聞きに行こう!熊本復興支援ツアー!
ライター・クリエイター100名が熊本に集合
被災地の力になりたい!助けに行きたい!と思っても、実際何処で何をすれば良いのかわからない人が多いと思うんです。私もどう進めば良いのか、支援の選択に困っていた一人でした。
ですが、そんな時に出会ったのが、地元のおもしろ情報が詰まったWebメディア「ジモコロ」が企画した #ジモコロ熊本復興ツアーでした。
【熊本震災支援イベント】黒川温泉に100人集めて
「お金を落として」「情報発信しよう」
#ジモコロ熊本復興ツアーは、上記画像にも書いてある通り、100人のライター・クリエイターが熊本県南小国町の『黒川温泉』に集って、「熊本県にお金を落とし」「熊本県の魅力を発信する」という、熊本の復興支援ツアーです。
舞台となる『黒川温泉』は、全国屈指の人気温泉地のひとつで、川沿いには24軒の旅館が立ち並び、日本的な風情と大自然が楽しめる観光地としてとても人気な土地です。2009年のミシュラン・グリーンガイド・ジャポンでは二つ星を取りました。
「入湯手形」を購入することによって、宿泊先関係なく好きな旅館の露天風呂を3カ所まで選んで入浴することができ、人気温泉街として観光客の心と身体を癒やしてきました。
ツアーに参加するだけで熊本の支援に本当に繋がるのか……?疑問に思う点もありましたが、とにかく現地の様子をこの目で確かめて、地元の人たちの生の声を聞きたいという気持ちが強かったので、参加させていただくことにしました。
気持ち、お金、カメラ、SNSアカウントを持って
熊本空港に集合!
ここからは一泊二日の不思議な熊本復興支援ツアーの様子をご紹介していきたいと思います。
7月初旬、東京・京都・名古屋・沖縄・宮崎・福岡……など、全国から117名のライターやクリエイターが、熊本に集いました。
家族や夫婦で参加する方々もいて、年齢層も幅広く、きっと不思議な集団に見えたことでしょう……。
バスで移動中。緑豊かな美しい風景に、普段コンクリートばかりを眺めている東京都民からは歓声が。笑
阿蘇山の北側、熊本県阿蘇市にある重要文化財の「阿蘇神社」へ。損壊した建物はブルーシートで覆われていました。
日本三大楼門の一つとされている阿蘇神社の楼門は、柱は折れてつぶれ、屋根は大きく傾き、すべてを確認することはできませんでしたが全壊していると聞きました。ニュースで様々な光景を見てきましたが、実物を見るとさらに圧倒され、ショックが大きかったです。どれだけ大きな地震だったのか、倒壊した建築物たちが物語っています……。
その後、南小国町のホールに参加者が乗ったバスが次々に到着して、町の方々による手厚いオープニングセレモニーが行われました。
黒川温泉を題材に作られたプロモーションムービーが上映され、音と映像美に圧倒!「南小国町」の素材そのものの良さを活かしながらも、世代関係や国関係なく惹きつけられるような映像作品となっていました。
そして、南小国町の高橋町長のご挨拶。 南小国町のことについて丁寧にプレゼンしてくださり、震災後どのように町が変わったのかスピーチしてくださいました。
高橋町長:今回の熊本震災で南小国町の建物や住宅が破損するような被害や人的被害はほとんどなく、旅館の営業もすぐにはじめることができたのですが、地震によるイメージダウンはやはり大きく、地震が起きてから約1ヶ月間で予約キャンセル数は41,736人、旅館や飲食店などの推定被害額は約10億円です。各旅館の予約状況は空白で開店休業の状態が続き、南小国町は危機的な状況です。また、南小国町のみならず、九州全体の風評被害のダメージはとても大きいです。
お客さんが来ない時期が1ヶ月、2ヶ月と続き、営業することが難しくなった旅館や、社員を解雇せざるおえない状況に追い込まれているような旅館もあります。
観光業界の頑張りもあり、少しづつ戻ってきてはいるのですが、それでも昨年の3分の1ほどの数字なんです。
東京で熊本地震のニュースを見ていたときは、震度の大きさや倒壊状況ばかりを気にして、観光地がどれほどのダメージを受けているのかなんてほとんど考えていませんでした。 ですが、実際現地に足を運んでみると、観光を楽しめる環境は十分に整っていて、イメージしていた熊本の環境とは大きな差がありました。
高橋町長の力強いスピーチを聞いて、熊本の観光被害や町のひとたちの苦しみを改めて理解したことで、震災に対する意識が大きく変わりました。先ほどまで笑っていた参加者も、現地で当事者の声を聞いたことで、真剣な表情へと変わっていきました。
そして次に、南小国町に伝わる神々の舞「吉原神楽(よしわらかぐら)」を、町の方々が披露していただきました。
天狗のお面をかぶった人々の舞はとても迫力があり、観客席に入ってきそうな大きな動きに圧倒され、つい構えて見てしまっていました。「吉原神楽」のストーリーを把握した上でみると、さらに面白みが増すとおもいます。
オープニングセレモニー終了後は黒川温泉観光へ。各自割り振られた旅館に向かい、町を見物したり、黒川温泉を巡ったりしました。
限られた時間ではありましたが、温泉手形(宿泊している旅館関係なく、3軒まで好きな露天風呂に入浴可能な札)を手にして、多数の温泉資を楽しみました。
「街全体が一つの宿 通りは廊下 旅館は客室」といったキャッチフレーズを耳にしたことがありますが、納得できる街並みと観光施策です。
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夜には総勢150名が会場に集まり、大宴会が行われました。
南小国町の方々による和太鼓演奏、小雨が降るなかも力強く太鼓を打ち鳴らし、迫力のある演奏を披露してくれました。
観客側も真剣な眼差しで和太鼓演奏に見入っていました。
室内では、南小国町で活動するバンドや、東京から参加したミュージシャン[.que](キュー)による演奏が行われました。
そして最後に、黒川温泉旅館組合の組合長である北里さんから、締めのスピーチをいただきました。
涙ながらに地震被害のこと、今後の黒川温泉のことを語る姿を目にして、関係者や参加者の目には自然と涙がたまっていました。
予約スケジュールに空白が続き、メールや電話も止まった状態だった黒川温泉でしたが、夏休みの旅行期間7月~9月に宿泊される方を対象に最大で70%割引となる「九州ふっこう割り」の実施が決定したことで、現在は申し込みが増えてきているそうです。
もともとは予約をとること自体が難しかった人気観光地である黒川温泉、地元の方々の努力によって少しずつ元の姿を取り戻してきているようです。
二日目は、特別に用意された6種類の南小国町体験アクティビティのなかから「サイクリング」「そうめん流し」など、それぞれ好きなコースを選び、南小国町を堪能しました。
どのアクティビティも町の方々が協力して準備してくださったもの
お別れの時、私たちの姿が見えなくなるまで手を振り続けてくれました。
現地の方々の愛情たっぷりなご飯、思いやりで溢れた言葉、気遣い。
こんなに心を揺さぶられた2日間はあっただろうか。
被災地を元気にしたくてきたはずなのに、
こちらが元気をもらってしまい、とてつもないパワーと感情に溢れた旅でした。
忙しく暮らしていた日々のなかで忘れかけていた何かが
自分のなかに戻ってきたような気がします。
今も南小国町のひとたちのことを思い出すと
胸の奥が熱くなります。
最後は、参加者全員で南小国のパワースポットである押戸石の丘へ。
丘を登り、頂上から見える景色は360度大パノラマで、久住連山~阿蘇五岳と火砕流台地を望む事ができました。
あまりの美しさに参加者のテンションもピークに。笑
最後は全員で丘の上に集まり、集合写真を撮影して解散となりました。
現地に足を運んで感じたこと
熊本のすべてを見たわけではないけれど、元気に活動している町は多く存在していて、熊本にいるひとたちは国内外の人たちが遊びにきてくれることを待ち望んでいます。ただ遊びに行くだけで全力で喜んでくれる。歓迎してくれる。
私たちが遠慮して距離をとる必要は全くない。熊本で生きる人たちを一人でも多く救いたいなら、今すぐ熊本に行くべきだ。
命をかけて熊本を守っている人が沢山いるから、みんなで一緒に守ろう。
言いたいことは沢山ある。
黒川温泉最高すぎるということと、ここに命をかけて、生きて、涙を流している人たちがいるから、
またすぐ会いにきたいと思う。#ジモコロ熊本復興ツアー pic.twitter.com/G4NClRWBqB— ˖*⋈ᐛ Ayupy GO (@ayupys) 2016年7月2日
クリエイターの私たちができること
クリエイターの私たちが熊本のためにできることは何でしょうか。先ほどから散々言っていますが、誰にでもできる、難しいことはひとつもないのです。
1.熊本に遊びに行こう
熊本に遊びに行くだけで、熊本の力になります。支援になります。
お金を持って、可能なかぎり使って楽しんでください。それによって熊本で働く人は笑顔になり、生きる力となるのです。
2.SNSで熊本の魅力を発信しよう
あなたが心から良いと思った瞬間を写真に撮り、コメントと一緒に、Twitter・Instagram・FacebookなどのSNSにアップしましょう。あなたの友達(フォロワー)がその投稿を見ることで、熊本に遊びに行きたい!と思ってくれる人が一人でも増えれば、それが熊本の力になります。
ご飯が豪華。自然の味 #ジモコロ熊本復興ツアー pic.twitter.com/u1dNqGGzWA
— ˖*⋈ᐛ Ayupy GO (@ayupys) 2016年7月3日
あ! やせいの カメントツが あらわれた! #ジモコロ熊本復興ツアー pic.twitter.com/4zbmP6rp8K
— 篠原修司 (@digimaga) 2016年7月3日
ツアーの最後に買ったパン。
1日たった今日のカラメル香が昨日よりも鼻にふわー噛むと優しい酸味が口に広がる!おいしい!https://t.co/wGUQ1SHnSP#ジモコロ熊本復興ツアー pic.twitter.com/H6RjlJquLI
— ジャン=ピエトロ・ロガン (@OnorakurarinL) 2016年7月4日
3.熊本の魅力を伝えるプロダクトを作ろう
ここからが、本当にクリエイターの役目です。笑
あなたが熊本にきて良いと思ったもの、感動したもの、もっと良くできると思ったものを、クリエイティブの力でさらに磨きをかけ、制作し、アウトプットしましょう。あなたの作ったものがもしかすると、熊本のプロモーションとして役立つことがあるかもしれませんし、作ったものを見てくれた人が遊びに行きたいと思ってくれるだけで、すごく価値のある、世の中のためになるプロダクトとなるのです。
東京在住のクリエイターが、自主プロジェクトとして立ち上げた『KUROKAWA WONDERLAND』。熊本県阿蘇郡南小国町の黒川温泉郷を舞台とした、美しい映像・音楽・写真からなるWebサイト。クリエイターたち自らのポートフォリオづくりとしてはじめた取り組み。海外で複数の賞を受賞している。
全国各地の「地元」の面白情報をフリーペーパーにして配布している。
最後に
熊本地震が発生したとき、「被災地の人たちの力になりたい!」そう思った人は少なくないはずです。ただ、支援方法の選択に行き詰まり、結局何もできずに進めない人が多いのではないでしょうか。
支援金や支援物資を送ることが第一だと思いますが、お金がない学生からすると、どちらの取り組みも難しいかもしれません。
そんな時は、学生の特権である“時間”を使って、募金活動を行ったり、Webサービスやプロダクトを通してメッセージを届けたり、自分の手の届く範囲で構わないので、困っている人たちのためにアクションしてみることが大切だと思います。
クリエイティブの力で世の中のためになる取り組みができたらより良いと思いますが、まず一人の人間として何ができるか意識して行動する、そんなクリエイターが世の中に増えれば、もっと世界は豊かになるのではないかと思います。
熊本で心温まるおもてなしをしてくださった皆さん、企画してくださったツアー関係者の皆さん、参加者の皆さん、本当にありがとうございました!
映像ディレクターの田村祥宏さんが制作した#ジモコロ熊本復興ツアーのダイジェストムービーも公開されていますので、合わせてどうぞご覧ください。
(2016.8.1)
著者
後藤あゆみ
はたらくビビビット編集長。 フリーランスで“『ツクル』を仕事にしたい未来の子供たちのために。”を、コンセプトとして活動。クリエイター支援、スタートアップ支援を行っています。おばあちゃんになるまでに美術館をつくるのが夢です 。
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