教科書や美術館などで、みなさんが一番目にしているであろう作品「油絵」。どのような画材をつかって、油絵が描かれているのかご存知ですか?美大受験のために練習したい、油絵をはじめてみたいと思っている方はもちろん、普段美術館で作品を見るのが好きというだけの方でも、描き方や画材のことを知っていると、油絵の作品を鑑賞する時にも理解しやすく、より面白いものになると思います。油絵の構造や技法、油絵の具ができる前の絵の具の歴史に触れてみましょう。
編集・執筆 /RINA SAITO, AYUPY GOTO
●油絵って何を使って描いてるの?
油絵は油画、洋画、油彩とも呼ばれ、ヨーロッパなどの西洋で主に発展した絵画表現の一つです。世界で一番有名な絵画、「モナリザ」も木の板に油絵の具で描かれていて、著名な画家のレンブラントやダリ、日本で人気のある印象派の画家たちも多くの油絵作品を残しています。ここでは、一般的に油絵と言われる絵画を描く時に、必要になってくる画材をご紹介いたします。
支持体
(キャンバス、紙、パネル、布 など)
あまり聞いたことのない言葉かもしれませんが、支持体とは絵の具を乗せる側のものを指します。一般的に、キャンバスや下地材を塗ったパネルに描かれることが多いです。▼キャンバスの構造
キャンバスは木枠に厚い麻布を張ってできています。布はキャンバス地と言われ、下地材が塗られていて、油や水が布へ染み込むことを防ぐ役割をはたしています。油絵の具
油絵の具は、乾きにくい、というのが最も分かりやすい特徴です。大体のものが金属のチューブに入った状態で、お店で販売されています。同じ色でも、下地の色が透ける透明色と、透けずに発色する不透明色、の2種類があります。▼なぜ油絵の具は乾くのが遅いのか?
鉱物や植物を粉末状にした顔料、染料と言われる色の粉と、のりの役割をするポピーオイルやリンシードオイルなどの植物の油を練ったものが、油絵の具となります。これらの植物油は酸素に触れると固まる、という性質を持っていますが、反応がゆっくりと進むため、すぐに乾かずに時間をかけて描けるのです。画用液(絵の具を溶く液)
画用液、これも馴染みのない言葉だと思いますが、水彩絵の具で言うところの水です。水彩絵の具では、水を使いますが、油と水は混ざり合わない性質を持っているので、油絵の具を描く時に水は使えません。油絵の具を描く時には、専用の油(オイル)を使います。▼画用液の種類
大きく分けて、テレピン(ターペンタイン)やペトロールと呼ばれる揮発してしまう油と、絵の具にも入っているゆっくりと乾いていくポピーオイルやリンシードオイルなどの油の2種類があります。他にも画面に光沢感を出すことのできるダンマル樹脂と呼ばれるものまで、さまざまな種類の画用液があります。筆 など
油絵の具で主に使われるのは、豚の毛の筆です。他にナイロン製のものやタヌキ、コリンスキーなどの毛を使った高価なものがあります。技法に合わせて、使う筆の種類も異なってきます。油絵独特のものだと、ペインティングナイフがあります。これは絵の具を自分の好きな色味や硬さに調節する時に、パレットの上で練るために使ったり、表現や仕上がりに合わせ盛り上げて塗った絵の具を削ったり、とそのまま画面に使うこともできます。▼筆を洗う時
普段は水洗いすると思いますが、油絵の具がついた筆は絵の具を拭ってから、筆洗油という油で筆を洗い、それから石鹸などを使い水で汚れを洗い流します。筆洗油はそのまま水道に流せない!ので注意してください。▼なぜ豚毛なの?
主に豚毛の筆が使われる理由としては、油絵はもちろん画用液で薄めて使うこともできますが、水彩絵の具のように水で溶いて描いていくと言うよりは、絵の具そのものを乗せていく、という感覚に近いです。なので、筆もある程度の硬さと強さが必要になってきます。
●油絵を描くために!さまざまなテクニックを知ろう
今まで学校などで触れてきた画材とは全く違うものなので、油絵の具というもの自体を扱えるようになるまで、筆者である齊藤もたくさんの枚数と時間を重ねてきました。実際、油絵を描こう!と思った時に、馴染みのない画材なので、どうしたらいいんだろう……と迷ってしまう人が多いと思います。なので、ここでは、油絵を描くとっかかりとなるような、主に筆に絵の具をつけて絵を描く手法を画材の特徴とともに、紹介していきたいと思います。
主なテクニック一覧!
ウェット・イン・ウェット
ウェット・イン・ウェット(wet in wet)はまだ乾いていない状態の画面に対して、さらに絵の具を乗せることを指します。乾きの遅さを利用して、色を画面上で混ぜながらモチーフを描くことができる描き方です。
インパスト
インパストは、絵の具を画面から盛り上がるほど厚く塗る技法で、絵の具自体が立体感を持ち、それによって筆跡が見えたり、ペインティングナイフで削ったりすることができるようになります。ゴッホの作品などがとても分かりやすく、実物を見ると、一筆一筆の跡がよく分かります。
一方、なめらかにぼかしつつ描く手法は、スフマートという呼ばれ方をします。ドライブラシ
ドライブラシは、乾いている画面に対して、乾いた筆を使い、絵の具をぼかしながら塗っていくことを指します。かすれさせながら擦り込むことで、下の色と混ざり合って見え、エアブラシを重ねたような絵肌になります。
グレーズ
グレーズは、画用液で薄めた絵の具を画面全体に重ねていく方法です。
白などの不透明色のついた画用液をかけることは、スカンブルという名前がついています。グリザイユ
モチーフを先にモノクロで描き、後から色のついた画用液でグレーズすることで書き進める方法です。最初に色を使わないのでモチーフを明暗のみで見ることができ、立体感を表現しやすい技法だと思います。
●油絵の具ができる前の、いろいろな絵の具たち
チューブの絵の具ができるまで
1800年代、チューブ型の絵の具が発明されるまで、顔料と油をいちいち練りあわせて、毎回自分たちで絵の具を作っていました。絵の具を作ること自体、多くの道具と時間が必要だったので、油絵は自分たちのアトリエで制作していました。
絵の具を用意するのが大変だったこともあり、昔の画家は、個人事務所のように工房を持っていて、多くの弟子たちに指示を出し、多くの人間がひとつの絵画を作り上げるというシステムだったのです。チューブ絵の具ができたことで、印象派のあたりから、画家は外に出て絵を描けるようになりました。フレスコ
フレスコは、簡単に言い換えてしまうと、壁画のことです。壁に漆喰を塗り、乾かないうちに水で溶いただけの顔料で描いて行く、という手法で作られています。有名な作品は、ミケランジェロのシスティーナ礼拝堂の壁画など、今でも鮮やかな色彩で残っているものを見ることができます。
<引用 | http://art.pro.tok2.com/M/Michelangelo/06_3ce6[1]1.jpg >テンペラ
テンペラは、よく使われるものだと、黄卵と顔料などを混ぜ、絵の具を作り描いて行く、卵テンペラがあります。
多くの有名な作品も実はテンペラ技法で描かれているものも多く、代表的なものは、ボッティチェリの「ヴィーナス誕生」、「春」などがあります。
<引用 | https://si.wsj.net/public/resources/images/BN-KJ656_0921bo_G_20150918173253.jpg >
●オススメの画材!
油絵の乾くのが遅いという特性から、もっとテンポよく描きたいのに、乾かないからなかなか描き進められない……という状態もあるかと思います。そんな時に役立つ乾燥を促進する画用液や、後片付けを楽にするオススメの画材をご紹介します。
マツダ|クイッククリスタルメディウム
<引用 | https://item-shopping.c.yimg.jp/i/l/artloco_320476 >
このマツダのクイッククリスタルメディウムは、油性アルキド樹脂という樹脂で作られていて、油絵の具に混ぜて使う、乾燥を促す画材です。
このメディウムは透明度が高く、絵の具に混ぜても硬さを変えずに、不透明の絵の具でも透明色のような色合いにすることができるのです。
画用液だとシッカチーフというものがありますが、こちらは液体なので絵の具の硬さが変化してしまいます。ホルベイン ハンドクリーナー
<引用 | http://img14.shop-pro.jp/PA01306/586/product/87412610.jpg >
こちらは、普通のハンドクリームのように手につけ、揉み込み、水洗いするだけで、手についた油絵の具やベトベトした画用液もすぐに落としてしまう、とても便利なものです。油絵は水洗いするだけではすぐには落ちないので、特に冬場などに重宝します。クサカベ ブラシソフター
<引用 | http://www.art-maruni.com/upload/save_image/08061347_53e1b36de6f52.jpg >
ブラシソフターという名前の通り、ブラシを柔らかく保ちつつ筆の汚れを落とすクリーナーです。高価な筆を綺麗に長く使いたい!という時に最適な画材です。筆洗油で筆を洗った後は、リンスやシャンプーで筆の毛並みを整え、毛通りをよくするやり方もありますが、ブラシソフターはつけた後、水洗いする必要がないので、これも冬場は特に役に立つ画材です。
●最後に
今回は、油絵の筆と絵の具を使う技法を中心に紹介しましたが、他にもいろんな工夫をして油絵を描くことができ、キャンバスにいろいろなものを貼り付けたり、キャンバス以外の支持体に描いたりと、作風は人それぞれ違います。油絵を始めたいけど、画材が高いし、絵の具を使うのも難しそう……という人にも、画材の特性や昔からある技法を知れば、なんとなくイメージが湧くのではないかと思います。習作を作る時には、世界にある様々な名画を模写することも勉強になりますし、実際に絵の具に触れて見て分かることも多いので、やってみたいと感じたのなら、ぜひ一度油絵を描いてみてください。この記事が、少しでも興味を持つきっかけになったなら、嬉しいです。
(2017.6.2)
著者
はたらくビビビット
ポートフォリオとデザインのリファレンスメディア