中高生には、身近な存在である”学校の先生”。クリエイティブ系の大学生・専門学生なら、中高生時代に美術の先生にお世話になった人が多いのではないでしょうか。しかし、どうやって美術の教員になるのかを知っている人は、意外と少ないと思います。今回は、中高の教員免許を取得するため教育実習に参加した筆者が、美術の教員免許を取得するために必要な知識や、美術教員になるまでの道のりをご紹介いたします。
編集・執筆 /RINA SAITO, AYUPY GOTO
目次
●美術教員ってどんな仕事?
●美術教員の免許を取るには?
●教員採用試験について
●教員に求められるスキルって?
●最後に
●美術教員ってどんな仕事?
教員の仕事というと、誰しもが学生時代にお世話になっていた職業なので、すぐにイメージが出来ると思いますが、改めてくわしく調べてみると、さまざまな種類の仕事があります。
美術教員に限らず、学校の先生は自分の担当の教科はもちろんのこと、担任を受け持っている場合は学級運営も同時に行います。その他にも、美術部などの部活動の顧問になる場合もあります。
授業は通常、学年ごとのシラバス(授業の年間計画)に沿って授業を進めていきます。美術の授業は、一定の規定はありますが自分が教えたいと思う知識・手法を選び、授業を組み立てることができ、比較的自由に設定することができます。なので、教員ごとに授業内容が大きく異なり、生徒が作り上げる作品は、彫刻や工芸的手法を取り入れたものからポスターなどデザイン性の高いものまで、多種多様です。筆者である私・齊藤も今年の2018年に教育実習に行きましたが、教育実習生も最後に【研究授業】という形で、自分が一から考えた授業を行う機会がありました。
実習生として体験して分かった、高校の美術教員の仕事
美術の授業が選択制の学校では、クラス単位で教える教科とは違い、比較的少ない人数を指導することになると思います。ですが、1〜3年生までの授業を担当する場合は、トータルで多くの生徒を担当することになります。学年ごとの違いや特性などが分かり、生徒を理解する手がかりにもなると思いますが、私は把握するまでがすごく大変でした……。しかし、生徒の把握と理解は、コミュニケーションを取る上で、基本かつ大事な部分だとも感じました。
そして、先生方は授業の入っていない時間でも、授業の準備、教員同士の話し合いや時には地域や外部の団体との連絡など、空き時間にも多くの仕事をこなしているということがわかりました。
●美術教員の免許を取るには?
美術教員の免許は、美術大学や芸術大学で教職課程を履修、もしくは美術の教員免許が取得できる四年制大学の教育学部や芸術学部に入学し、授業を履修することで取得できます。
在学中に、教育職員免許法で定められている授業/教職に関する授業(教育実習や介護等体験などの実習を含む)/大学ごとに異なる教科(美術)の授業の3種類の授業を履修し単位を取得することが必須です。免許には、大学を卒業することで得られる学位も必要となるので、教員免許状をもらうのは卒業時になります。
美術の免許以外にも、工芸の免許を同時に取得できる学科や、情報の免許しか取得できない学科もあり、取得できる教員免許は同じ大学内でも学部・学科ごとに異なります。そして、学校によっては教職に関する授業は卒業単位には含まれない場合もあります。教職の単位は取得したのに、卒業単位は足りない……。ということにならないよう、十分注意してくださいね!
免許の種類
4年制大学で得られる免許は一種、大学院では専修、短大では二種……と種類がたくさんありますが、名称が異なるだけですべて同じ美術の免許です。かつ、中学と高校の免許は同時に取ることが可能です。高校の免許を取る場合、中学の免許よりも多く授業を履修する必要がありますが、高校の免許のための授業の単位を取得することで、中学の免許が同時に取得できるようになっています。中高の免許があると、中学・高校・中高一貫教育と教えることができる場所が増えるため、両方取る人は少なくありません。小学校で図工を教えたい場合……
小学校は、一人の教員がすべての科目を教えるため、美術のみの免許はありません。小学校で美術を教えたい人は【小学校教諭免許】自体を取得する必要があります。教育学部系の学科ではおおむね取得できますが、美大・芸大では取得できない場合が多いです。
ですが、中学校の美術の免許を持っている人は、東京都や一部の政令指定都市でのみ、担当の教科だけを教える【専科の教員】になることができます。
※小学校の免許を取得したい場合には、同じように授業を履修し定められた単位を取得する必要があります。中高の免許を持っていると、取得すべき単位が免除される場合があるので、各教育委員会に確認してみてください。▼参考
文部科学省 中学校・高等学校教員(美術・工芸)の免許資格を取得することのできる大学
●教員採用試験について
実際に教員として働きたい場合には、教員採用試験を受け合格しなくてはなりません。公立学校の教員は、【地方公務員】に含まれるので、役所などの公務員と同様に各都道府県ごとに採用試験が設けられています。
美術に限らずですが、学校に一人か、多くて数人の教科の教員採用枠はなかなか倍率が高いです。30年度の東京都の美術教員の採用倍率は、中高どちらかの教員として採用される枠では8倍、小中どちらかで採用される枠では4倍という結果でした。大学を卒業し、すぐに教員として採用されるのは狭き門なので、実際は、何年間か非常勤の講師として勤務する場合が多いそうです。
※私立の場合は、もちろん教員免許は必須になりますが、学校ごとに求人を募集しているので学校独自の試験を受けることになります。試験内容は学校により異なるので、各学校に問い合わせてみてください。
▼参考
ReseMom. H30年度東京都教員採用選考、倍率4.4倍…中・高共通は7.1倍
●教員に求められるスキルって?
美術教員には、豊富な知識と実技の技術が必要になります。そして、筆者である私自身が教育実習で強く感じたのは、生徒ひとりひとりに向き合える力の重要性です。
美術の授業は、教員が説明をしながら生徒が問題を解くような形式ではなく、始めに制作の説明をした後は、生徒が自分で制作を進める形式です。そのため、制作過程で悩んだり手が止まったり、反対にどんどん早く進んだりと、ひとりひとり進度もやる気もさまざまなのです。そういった中で、生徒の個別の事情などを理解し、ひとりひとりに合った対応やアドバイスができることは必須のスキルです。
●最後に
教員は、大勢の人の人生に関わることができる、ものすごくやり甲斐のある職業です。教育実習という貴重な経験では、生徒と触れ合いながら、予想していなかったことや発見があり、多くを学べました。
教員免許を持っておけば、大学卒業後すぐでなくとも採用試験を受けることができます。教員免許を取る道のりは大変ですが、それ以上に自分のためになることがたくさん経験できますよ。卒業後すぐに教員になりたい!という人も、いつか教員になるという選択肢も欲しい……という人も、在学中、教員免許の取得を頑張ってみてくださいね!
(2018.8.17)
著者
はたらくビビビット
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