STARTUP DESIGN vol.04|株式会社nanapi CCO/デザイナー 上谷 真之さん

nanapi

特集

「STARTUP DESIGN」第四弾は、「できることをふやす」という理念のもと、人の暮らしを便利にするサービスを展開している「株式会社nanapi」のCCO兼デザイナー上谷真之さんに、デザインチームのマネジメントについてお話を伺いました。編集・執筆 / AYUPY GOTO

上谷 真之うえたに まさゆき

株式会社nanapi CCO/デザイナー

世の中に“できること”を増やし、
「人の成長を諦めない」社会をつくる。

― 株式会社nanapiさんは、どのような事業をおこなっている会社なのでしょうか。

上谷さん:nanapiは「できることをふやす」という経営理念のもと、インターネットサービス事業を展開している会社です。世の中のありとあらゆるジャンルの「やり方」を集めて、状況に応じた最適な方法を見つけられるプラットフォームづくりに挑戦しています。世界中の人々が“できること”を最大限に増やすことを目標にしています。

― 例えばどのようなサービスを運営されているのでしょうか?

上谷さん:事業の軸となっているのは、1番最初に立ち上げた国内最大級のハウツープラットフォーム『nanapi』です。生活に役立つノウハウを投稿・共有できるハウツーサイトで、月間利用者数は約1900万人、月間ページビュー数は5000万PV、Facebookページの「いいね!」は9万5千人を超えていたりと、人気を集めているサービスです。

また、僕自身が制作に携わったものですと「アンサー」という即レスアプリがあります。Twitterのような感覚でつぶやいた自由な発言、内緒の話、愚痴、相談などに対して、5分以内にユーザーたちから反応や回答が返ってくるコミュニティサービスになっています。

― 即レス!便利ですね。急ぎでわからないことがあれば、アンサーでつぶやいたら答えが見つかるかもしれないですね。

― 上谷さん自身はnanapiさんで、どのようなお仕事を担当しているのでしょうか?

上谷さん:入社当初はアンサーのAndroid版の開発を担当していました。開発業務を行なう中で、さまざまな課題が見えてきました。例えば、サービス開発プロセスに関する手法や思想が暗黙化しており、プロダクト品質とフローの再現性が担保されていなかったりしました。また、エンジニアは社内外でのイベントや勉強会、メディアなどでそれぞれのナレッジや思想を発信するなど、強いカルチャーが根付いていたのですが、僕が入社した当時はデザイナーの人数が少なかったこともあり、エンジニアと同じように社内外に向けて発信するなどのカルチャーがまだ弱く、少し全体のバランスが悪いと感じていました。そういった経緯もあり、サービス開発プロセスの改善と、強いデザインカルチャーを形成するという意識が、入社間もないタイミングで芽生えていました。

現在では、実際に手を動かしてデザイン制作をすることもありますが、主にデザインチームのマネジメントを担当しています。デザインの重要性や考え方を社内外で発信することなど、組織のデザインカルチャー形成に向けてさまざまな取組をおこなっています。

― 社風づくりやマネジメントを担当されているのですね。nanapiさんにデザイナーは何人いらっしゃるのでしょうか。

上谷さん:僕が入社したタイミングですとデザイナーは3名いたのですが、現在では僕を含めて8名になりました。当時の人数だとマネジメントや、仕組みづくりをするにはまだ早い規模でしたが、ここ1年でスピーディーに規模が拡大したこともあり、結果的には早めに行動できてよかったと思っています。1年かけて積み上げてきたものが、少しづつ成果を出しています。

― 社風づくりに関して、具体的にどういったアクションをされているのでしょうか。

上谷さん:例えばですが、サービス開発プロセスについてまとめた資料を外部に公開することで、社内外に向けて「nanapiはサービス開発やデザインについてこう考えている」ということを積極的に発信したりしました。そういったことの積み重ねで、業界に対して「nanapiはデザインに力を入れている会社だ」というブランドイメージが形成され、徐々に採用にもつながるようになっていきました。

あと、nanapiはメンバーひとりひとりがイベントに登壇したり、勉強会を企画したり、インタビューを受けたりと、表に出てアウトプットする機会が多いんです。人前で自身の思考をオープンにすることで、自信がついたり、モチベーションが上がったり、同じ職種のライバルや仲間を見つけたり、プラスになることが多いと思っているので、メンバーにはどんどん表に出るようにと伝えています。

― 確かにnanapiの方は社長をはじめとした社員の皆さん一人一人が、前に出てお話されているイメージがありますね。

上谷さんが携わったプロダクト

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上谷さんがデザインを担当|あなたの“今”にみんなが即レス「アンサー

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上谷さんがデザインを担当|ネガティブをポジティブに変えるアプリ『emosi

働くことから離れてできた5年のブランク、
圧倒的な勉強量と仕事量で同世代を超える。

― いつからモノづくりに興味を持ち始めたのでしょうか?

上谷さん:幼少期から漫画やゲームが大好きで、漫画のキャラクターを描きながら「目を書くのが難しいんだよね〜」とか言っている子供でした。何かををつくる仕事がしたかったことから、高校を卒業した後は、インテリアデザイン専門の学校に入学しました。

― インテリアデザインを学ばれていたのですね!では一度、インテリアなど扱った企業に就職されたのでしょうか。

上谷さん:それが、入学したばかりの頃は真面目に勉強に取り組んでいたのですが、続けるうちになんか地味な仕事だなって思ってしまって(笑)当時音楽が好きでバンドをやっていたんですが、徐々にバンド活動に費やす時間が増えていって、卒業後はインテリア業界の道には進まず、フリーターになって、アルバイトしながら4〜5年間はバンド活動に熱中していました。

― バンド活動していたのですね。今の上谷さんを見ると意外です。では、デザインスキルはどういったタイミングで身につけられたのでしょうか。

上谷さん:もともとIllustratorやPhotoshopはずっと使っていたので、その流れで当時のバンドのフライヤーやTシャツ、WEBサイトなどをつくっていました。そういった取り組みがきっかけでこの業界に進むことになりました。

― 5年間フリーターを続けて、どのようにしてデザイナーになったのでしょうか。5年ブランクがあると就職も難しいイメージがあるのですが……。

上谷さん:確かにそうですね。フリーター時代は本当にダメ人間のロールモデルみたいな奴で、人生の底辺でしたね(笑)このままだとヤバイと思って、5年経ってはじめて就職しようと思いました。当時たいした仕事のスキルもなかったので、こんな自分でも働ける仕事ってなんだろうと考えた時に、Webデザインの仕事がまず頭に浮かびました。一般的な業界は学歴や経歴で評価されることが多いと思いますが、それに比べてWeb業界は実力や、アウトプットのレベルでシンプルに評価されると知っていたので、勝負できる可能性が高いと思ったんです。ちょうど、Web系の求人が多かった時代だったので、応募した中の1社から内定をいただくことができました。

― そこではじめて就職されたのですね!一体どのような会社で働かれたのでしょうか。

上谷さん:SEOを売りにしている制作会社に入社しました。そこではビジュアルデザインと、コーディングの仕事を任されました。その会社は、社員のほとんどが営業職で、誰かにデザインを教えてもらえるような環境はほぼありませんでした。今になって思えば、誰にも頼れない環境があったからこそ、自分で頑張らなきゃと焦れたのでよかったと思っています。業務では使う機会はなかったのですが、ちょうどその頃Flashを使った表現が全盛の時代だったので、今勉強しておけばキャリア的に有利だと思って、毎日始発で会社に行ったりしながら、ActionScriptの勉強をしていました。そのように前向きに仕事や勉強はしていたのですが、実務での業務範囲が狭く、キャリアビジョンが持ちづらかったことから、結局その会社は3年間ほど働いて転職することとなりました。

― そうだったのですね、一度就職できたことで転職活動はうまくいったのでしょうか。

上谷さん:それが結構苦労したんです。3年間は働いていたのですが、実績がそこまでなくスタートが遅かったこともあり、働きたい会社は履歴書で落とされたりと、なかなか内定がもらえませんでした。そんな中、なんとか内定いただき転職することになった会社は、広告系の制作会社でした。

デザイナーとして入社したのですが、前職時代に勉強していたFlashの技術が使える案件が多くあり、そういった仕事も含めて幅広く任されるようになりました。

― デザイナーなのにFlashの技術も使えるというのは当たり前なことなのでしょうか。

上谷さん:いえ、まだ少なかったと思います。Flashの技術を使うFlash Developerと呼ばれる職種はありましたが、当時の会社にはいなかったため僕一人が担当して全てつくっていました。完全にキャパオーバーだったのですが、その時代は本当にひたすら働いていて、家に帰らず土日も働いていることが普通の状態でした(笑)

― ハードなデザイナー生活も送られていたのですね。様々な会社でデザイナー経験をされてきたと思いますが、nanapiさんに出会ったきっかけを教えていただけますか?

上谷さん:そのあとも何社か転職したのですが、起点となったのは前職のスタートアップでの経験です。入社当時は社長とエンジニアと僕の3名しかいない、nanapiよりも小さな規模のスタートアップだったのですが、その会社は教育系のSNSアプリを開発していて、デザイン関わる幅広い範囲のお仕事を任せていただきました。サービスを成長させることと、それに伴う成功体験が出来たので、その会社で働いた経験は自分の中でも相当大きかったと思っています。

そのような環境で転職しようと思ったきっかけは、スタートアップなので当然ではあるのですが、ひとつのプロダクトにしかコミットできないという点です。良くも悪くもターゲットが、そのワンプロダクトを使うユーザーだけなんです。そこに少し物足りなさを感じていて、組織の仕組みやカルチャーを作りながら、成果に対する再現性を高めていくことへの気持ちが、日に日に強くなり、とりあえず話だけ聞きに行ってみようと転職活動を始めるようになりました。その中で出会った会社の一つがnanapiでした。

― nanapiさんに入社しようと決めたきっかけは何だったのでしょうか。

上谷さん:何社か話を聞きに行ったのですが、デザインの話をして共感値が1番高かったのがnanapiでした。デザインが大事だと言っている経営者は多いのですが、「具体的には何が大事なの?」という深い話ができる人は少ないと思っています。ですが、nanapiの代表古川はデザインについて深いところまで考え、理解していくれていたため、フラットに議論ができたんです。そんなことがあって、ここでならやりたいことが出来そうだと思い入社を決めました。

― そこから、上谷さんがデザインのカルチャーづくりや、開発の仕組みづくりを行うようになったのですね。

上谷さんが考える“人材マネジメント”とは

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― そもそも何故、デザインチームのマネジメントがやりたいと思ったのでしょうか。

上谷さん:ひとえにマネジメントと言っても組織や業務、人材など、いろんな対象があると思います。そのなかでも、僕は採用や育成など人材マネジメントが得意領域だと思っています。nanapiのデザイナーには全員成長してもらうという大前提のもと、とくに育成にはかなり力を入れています。僕自身の信念として「人の成長を諦めない」というものを掲げているので、その信念に基づいて日々マネジメントを行っています。

― 具体的にnanapiさんのデザインチームでは、どのような取り組みが行われているのでしょうか。

POINT 01:世の中の状況に合わせたスキームづくり

上谷さん:個人の目標は、組織や事業など会社に合わせて設定せず、社会に基準を置いて設定してください、その成長の結果会社にフィードバックがあればOKですと言っています。要するに、組織にとってただ便利なだけのデザイナーになってもしょうがないということです。会社の状況を把握してそれに合わせることも仕事としては大事なことですが、常に外を見ることを忘れないでほしいんです。

また、その延長線上として『個人ビジョンは何ですか』という話をしています。経験が浅いうちはどうしても目の前のことにだけに目が行く傾向があるので「今の業務でこういう課題があるから、そのためにこのスキルを身につけないと」……みたいなこと言うんですけど、そんな目の前の問題だけを見ないで、視野を広く持って、ビジョンがないなら探していこうと伝えています。目標を高く持ち、そこにフォーカスすることで、トレンドや各論的な方法論にとらわれず、成長にレバレッジが効くようになると考えています。

POINT 02:間接的に出会わせる、マクロマネジメント

上谷さん:それぞれが自身の意志で成長しようとするモチベーションを持ってもらうために“間接的に出会うこと”を大事にしています。先ほども少しお話しましたが直接的なやり方などは教えず、自ら考える起点を持ってもらえるような接し方を意識しています。『マイクロマネジメント』と『マクロマネジメント』という言葉があるのですが、手順の微細について事細かく指示を出す『マイクロマネジメント』に対して、僕の行っているのは全体の方針を示し、組織全体のパフォーマンスを考えながら中長期観点で間接的に関与する『マクロマネジメント』です。マイクロマネジメントは短期的な成果や成長は見込めるですが、マネジメントコストも肥大化してしまうためレバレッジが効きづらく、成果にも限界があるんです。その点、マクロマネジメントは一定のコストはかかるものの、それぞれが自ら考えて動く力が身につくので、ハード面の成長に加え主体性が育ち、結果的にマネジメントコストをおさえることができるのです。

POINT 03:1on1

上谷さん:nanapiでは『1on1』という取り組みを積極的に行っています。デザインチームは僕が、エンジニアチームはCTOの和田が、社内全員を代表の古川が、メンバーひとりひとりと対面で話し、業務やキャリアについて内省と学習をしてもらう場を定期的に設けています。ただ、僕自身は道を整備するくらいの気持ちでやっていて、あとは本人がいかに気付きを重ねることができるかが重要なので、本質的な成長にたどり着くまでは僕は諦めずに道を作り続けたいと考えています。

最後にメッセージ

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― 卒業してすぐ、スタートアップで働くことを学生クリエイターにすすめたいですか?

上谷さん:全力でおすすめしたいです。たとえ多少給料が少なくても、一般的な企業で働くのとでは成長効率が劇的に変わってくるので、自己投資と思って働いてみて損はないと思います。とにかく何でも自分でやらないといけないので、例えばトイレットペーパーを買いに行って、サービス設計をして、窓拭いて、コーディングして……このような環境で仕事を続けていると、自然と高いオーナーシップと視座が身についていきます。そういった環境が既に用意されているのがスタートアップなので、会社と一緒に自分も成長したいという方は絶対に入った方がいいと思います。

― どういった人と一緒に働きたいと思いますか。

上谷さん:僕が言うのも変ですがデザインの力を過信しすぎず、自分の今持っている個性を捨ててでも、よりよい価値を生み出したいと思える覚悟と俯瞰的な視点がある人は、後々すごく成長すると思いますし、一緒に働きたいと強く思います。

― nanapiさんでデザイナーとして働く魅力を教えていただけますか。

上谷さん:デザイナーとして成長できる環境や機会が多くあると会社だと思っています。デザインの領域を越えてサービス開発の様々な工程に幅広く関わることが出来ますし、成長意欲の高い優秀なメンバーも多く、大きな裁量を持って成長することができる恵まれた環境です。

― 最後に学生に向けてメッセージをお願いします。

上谷さん:成長という軸のお話になりますが、自分と向き合い続けることを忘れないでほしいと思います。うまくいかない時にまず環境や人のせいにしてしまったり、自分以外の何かに意味や理由を求めだすと、そこで成長が止まってしまいます。自分と素直に向き合う姿勢を忘れず、デザインの力で世に大きな影響を与えていって欲しいと思います。

― 上谷さんお話ありがとうございました。

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株式会社nanapi

(2015.9.18)

著者

後藤あゆみ

はたらくビビビット編集長。 フリーランスで“『ツクル』を仕事にしたい未来の子供たちのために。”を、コンセプトとして活動。クリエイター支援、スタートアップ支援を行っています。おばあちゃんになるまでに美術館をつくるのが夢です 。

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