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「STARTUP DESIGN」第一弾は、子ども・親子向けの知育サービスの企画開発を行う、株式会社スマートエデュケーションのアートディレクター兼デザイナー齋藤さんのインタビューです!
※2015年の取材内容のため、現在のお仕事内容とは異なります。編集・執筆 / AYUPY GOTO
齋藤昌久(29歳)さいとう まさひさ
株式会社スマートエデュケーション アートディレクター兼デザイナー
子どもたちの思い出に残るために、最先端の遊びづくり
― スマートエデュケーションは設立してから現在で何年目の会社でしょうか。また、齋藤さんはどのくらい働かれていますか?
齋藤さん:今年で会社は設立4周年をむかえました。そして僕が正社員で働きだしてから約2年ほどが経ちました。ここに入社する前は、フリーランスで活動していたのですが、フリーランスの時からスマートエデュケーションの仕事には関わっていて、その期間も合わせると3年くらいお仕事をしています。
― スマートエデュケーションは、どういった事業を行っている会社なのでしょうか。
齋藤さん:スマートフォンやタブレットを活用して、幼児向けの知育サービスの企画や開発を行っている会社で、“親子が楽しくコミュニケーションをとる機会を提供すること”に趣をおいて活動しています。スマートエデュケーションが初めて開発した「おやこでリズムえほん」というアプリがあるのですが、2011年12月にApple iTunes Storeの総合ランキングで1位を獲得しました!今まで、子どもが一人で遊ぶような幼児向けのアプリは沢山あったのですが、“親子で一緒に遊ぶ”ことをテーマにしているアプリがなかったことから、「おやこでリズムえほん」をリリースした時は、ユーザーの方々から喜びの声を多くいただきました。アプリには、親が子どもを膝にのせて、一緒に楽器をタッチしながら遊ぶような設計が施されているんです。
また、最近はアプリだけでなく園児向けのITを活用した教育カリキュラム「KitS」の運営も行っていて、幼稚園や保育園にも足を運んでいますね。
― 子ども向けのサービス運営を幅広くされているのですね!齋藤さん自身は、どういったお仕事を担当されているのでしょうか。
齋藤さん:業務内容は幅広くて、アートディレクター業務とデザイナー業務を兼任しています。主にアプリのUIデザイン制作を行い、それ以外ですとWEBサイト制作、バナー広告制作、アプリのイメージ動画制作、チラシやフライヤーなど印刷物のデザイン制作も行っています。
― 本当に様々な制作業務を担当されているんですね!自社でアプリを開発されていると思いますが、アートディレクターやデザイナーの方は、アプリなどのコンテンツ企画に関わることはあるのでしょうか。
齋藤さん:立ち上げのタイミングからアートディレクターも関わります。一つのアプリを開発するときに、ディレクター、エンジニア、デザイナーが一人ずつコミットして、3〜4人のチームでつくります。僕は元々エンジニアの仕事もしていたので、携わるものによってプログラミングも担当することがありますね。
― 元々エンジニアだったのですね!デザイナー暦はどのくらいですか?
齋藤さん:新卒で入社した会社ではエンジニアとして働いていて、その後一度起業したのですが、その時からデザイナーとして働きはじめたので、デザイナー暦でいうと4年弱だと思います。
― デザイナーという肩書きで活動をはじめたのも最近なのですね!
齋藤さんが開発に関わったアプリ
幼い頃から好きだった絵本を仕事に。
起業、フリーランスと様々な働き方を経験してたどり着く
子どものためのプロダクト開発
― いつからモノづくりに興味を持ち始めたのでしょうか?
齋藤さん:幼い頃から絵本を読むことや、モノをつくることが大好きでした。実家で両親が子ども向けのワークショップをやっていたこともあり、影響されたのかもしれません。本格的にデザインに興味を持つようになったのは高校生になってからで、特に何かつくっていたわけではないのですが、デザイン作品やメディアアート作品を、雑誌やインターネットを通してよく見ていました。
ですが、当時はデザインより最先端テクノロジーの研究をして、何か出来るようになりたいという気持ちが強かったので、美術系の大学へは進まず、工学部の電気電子工学科へ進学しました。4年間工学部で学んだことで、自分は画像処理の研究が好きだということに気づいて、4年生になった頃には企業への就職ではなく、ドクターになることを目指したいと思い、東工大の大学院に進むことを決意しました。
― ドクターを目指されていた時期があったのですね!しかし、現在そのお仕事をしていないということは、大学院で何か変化があったのでしょうか。
齋藤さん:そうなんです。入学してみると、周りで研究者やドクターを目指している人たちのレベルの高さに驚いたんですよ。まわりの人の様子を見て、自分の考えは甘かったと思い知らされました。なのでドクターの道はあきらめて、新しい技術を作っている人達を支援する側に回り、もっと世の中でモノが作りやすい環境を築きたいと思い、研究者向けの技術を磨いている会社に就職することにしました。
― 就職の道に進まれたのですね!就職活動はいかがでしたか?
齋藤さん:方向性はいろいろと悩みました。大学や大学院で学んでいたのは、医療の画像処理技術だったのですが、元々はメディアアートやデザインにも興味があったので、仕事にしてみたいとは思ったのですが趣味でつくっている程度だったので、実務として働けるスキルはないと判断して諦めました。数社エントリーして、ハードウェアを開発する企業に内定をいただき、入社することにしました。
― 大学を卒業されてから、どのようなお仕事をされていたのでしょうか。
齋藤さん:新卒で入社した会社では、エンジニアとして働いていました。研究者の人が使う高解像度のデジタルカメラのようなものがあるのですが、その制御部分を開発していました。数式からプログラムをつくって、カメラの制御機能や、顕微鏡の画像処理の理論を考えたりしていました。
その仕事も楽しかったのですが、大きな会社だったことから任される仕事も部分的だったので、一から自分でつくることが経験したいと思うようになり、2年間働いたタイミングで退職し、大学院の友人たちと一緒に起業しました。
― 起業された会社はどういった事業を行っていたのでしょうか。
齋藤さん:WEBサービスの開発を行っていました。先ほどもお話しましたが、その時から僕はデザイナーという役割で仕事をはじめたんですよ。起業メンバーがプログラマーばかりだったので、だったら自分がデザインやるよと言って、プライベートで学んだスキルから、デザイナーとして働きはじめました。
― アプリやWEBサービスのデザイン制作のスキルは、どうやって身につけたのでしょうか?
齋藤さん:全て独学ですね!「こういうモノをつくりたいっ!」というイメージが浮かぶと、それをつくるためにはどういった技術が必要か、自分の欠けているスキルを調べていました。本を読んだり、ネットで調べたり、スキル的な部分だと日本だけでなく海外のサイトに詳しく載っていたので、よく見て勉強していました。あとは作品をたくさん見て、インプットすることを忘れないようにしていましたね。ただ見るだけじゃなくて、見ながらこの作品は何が良くて何が悪いかなど考える癖をつけていました。
― 独学でここまで身につけられるものなんですね!凄いです。起業してみていかがでしたか?
齋藤さん:クラウドソーシング、Facebookアプリ、WEBメディアなど様々なサービスを開発していたのですが、どれもマネタイズが上手くいかず、外の会社から制作案件を受注したりと、受託案件で会社を支えていました。その時の受託先のひとつにスマートエデュケーションもあったんです。様々な会社から仕事を受け続けていましたが、自分がやりたいこととの方向性が合わず、結局僕は2年ほどで立ち上げた会社から抜けることになりました。
― 抜けた後はどうされていたのですか?
齋藤さん:そこからはフリーランスのデザイナーとしてお仕事していました。その時も、起業時代からお世話になっていたスマートエデュケーションの仕事を受けていました。
― 元々お仕事を受けていたスマートエデュケーションに入ろうと思った理由は何ですか?
齋藤さん:僕が初めてスマートエデュケーションの仕事でつくったのが「おやこで スマほん」という絵本アプリ内のコンテンツだったのですが、知り合いの絵本作家さんに協力いただいて開発しまして、自分の好きな知識や繋がりを活かして働けることにやりがいを感じました。絵本も好きですし子ども向けのプロダクトも好きなので、自分のやりたいことが出来る気がしたんです。フリーランスでお仕事を受注し続け、働くことも出来ましたが、フリーランスだとサービスの一部の制作しかできなかったり、コンテンツの企画には関われなかったり、最初だけつくって後の改善には関われなかったりするので、ゼロから開発に関わって、子どもたちの為になるプロダクトをつくりたいと思うようになったんです。
齋藤さんが携わったアプリ『おやこであそぼう めちゃギントン』を詳しくご紹介
― 今回ご紹介いただけるのはどのようなアプリでしょうか!
齋藤さん:僕がいちから関わってアートディレクションしたアプリ「おやこであそぼう めちゃギントン」のデザインを紹介させていただきます。
こちらはフジテレビさんのバラエティ番組“めちゃイケ”の中で行われている「めちゃギントン」というコーナーと、スマートエデュケーションがタッグを組んで開発した新感覚脳トレアプリです。「め〜ちゃギントン〜♪」と独特のリズムに乗ってお題に答えるアプリになっていて、番組の全面協力により、番組に出ているめちゃギントンメンバーが総出演しています。日本語の豊かな擬音を学び、子どもの言語能力と自由な感性とを発達させる内容になっています。
― どのくらいの期間をかけて開発されたのでしょうか。
齋藤さん:半年くらいかけたと思います。他のアプリ制作と比べたら少し長いほうです。
― 制作するうえで意識していたことはありますか?
齋藤さん:アプリのターゲットは3〜12歳の子どもなので、アプリで使うボタンは間違えて押さないように大きく見やすい形にしました。また、子どもたちは押したときのアクションが大きいほど喜ぶ傾向があるので、音や動きの、押した時の気持ちよさは追求しましたね。また、全体の世界観は、めちゃギントンの番組でも使われているオープニングのアニメーションがあったので、全体的にそのテイストに統一しました。
POINT 01:主役を決めて、ホーム画面で目立つアイコンづくり
ホーム画面に並ぶアイコンを見たときに、一発でめちゃイケのアプリであることが分かるようにしたかったので、番組で目立っている岡村さんのキャラクターをイメージキャラクターとして使いました。また、パッと目に入る目立つアイコンにしたいと思い、真っ赤なアイコンに白枠をつけて、コントラストをつけることでさらに華やかさを演出しました。何十パターンも制作して、選ばれたのが今使われているアイコンです。
POINT 02:各キャラクターの特徴を活かした動き
キャラクターの動きにこだわりました。めちゃギントンのキャラクター自体は、番組内で使われているものがあったので提供いただいて、キャラクターにそれぞれのめちゃイケメンバーらしい動きを何パターンかつけて、可愛いと思ってもらえるような演出を行いました。
POINT 03:番組の世界観と印象を変えずに、デザインに落とし込む。
テレビ番組のめちゃギントンの元ネタであるTVアニメ「チャギントン」ではメインカラーとして赤が使われているので、番組の世界観を大事にして、アプリデザインでも赤をポイントとして使っています。番組に使われている赤はここまで鮮やかな赤ではないのですが、全く同じ暗い赤にすると視認性が悪くなってしまいますし、子供向けのアプリなので少しポップに、原色の多い配色にしようということになりました。また、番組で使われている装飾をアプリデザインにも落とし込んでいます。番組を見られる機会がある方は、ぜひ比べて見てほしいです。
最後にメッセージ
― スマートエデュケーションの仕事を通して嬉しかったことと、大変だったことを教えていただけませんか?
齋藤さん:嬉しかったことですと、大好きな絵本・童話作家のきむらゆういちさんとコラボで、スマホアプリを開発したことです。アプリ上で絵本が見れるようになっていまして、他のコンテンツと比べてもきむらゆういちさんと作ったコンテンツは今でもプレイ回数などが上位に上がってきています。子どもたちが何度もリピートして遊んでくれていたりと、ユーザーの良い反応が見れた時は嬉しかったですね。
また、大変だったことですと、初めてアートディレクション業務を担当した時は、世界観やキャラクターを設定するのに苦労しました。その時は自社サービスの開発だったのですが、何も無いゼロの状態から世界観を考えてつくり出すことに面白さを感じる一方で、その表現にどのような価値があるのか、子どもが本当に喜ぶのかなど沢山悩み、子ども向けサービス開発の難しさを学びました。
― スマートエデュケーションで働く魅力を教えてください。
齋藤さん:一番は子どもに関わる仕事ができることです。僕たちが子どもの頃に遊んだおもちゃを鮮明に覚えているように、今の子どもたちにスマートエデュケーションで開発したおもちゃを提供して、大きくなった時に「小さい頃あのおもちゃで遊んだよね」と言われるような、子どもの記憶や思い出に残るプロダクトをつくれる可能性があるのは幸せなことですね。
また、デザイナーやアートディレクターとして働く魅力ですと、幅広い仕事、新しい仕事にたくさんチャレンジできることです。つくってみたい!挑戦したい!という思いがあれば、任せてもらえる環境があります。僕も今担当している案件では、Unityをつかってプログラムすることや、動画の制作を任せてもらっています。デザインでない仕事も出来ますよ。
― どういった人を求めていますか?
齋藤さん:子どもの教育・環境に強い関心があり、幅広いデザイン業務を楽しみながら主体的に活動できる人を求めています。最初はバナー制作やデザイン素材の制作から入り、アプリのデザイン制作、アプリの企画提案などの経験も積んでもらって、最終的にはアートディレクターとして働けるようになっていただくのが理想です。
― 最後に学生に向けてメッセージをお願いします。
齋藤さん:学生生活の中で、興味をもったことがあれば突き詰めてもらいたいと思っています。学校の専攻や課題に縛られず、自分でつくりたいと思うものがあれば、自主的に制作してほしいですね。特に美術系の学校に通っている人は、制作していてわからないことがあれば、相談できる人がまわりに沢山いると思うので、恵まれた環境を使い倒してほしいです。スマートエデュケーションの採用は、アプリの開発経験者を強く求めているわけではないので、好きなことに対して追求して、腕を磨けている学生のほうが魅力的だと感じます。
― 学生のうちに好きなことに全力で打ち込む経験をしてほしいですね!齋藤さんお話ありがとうございました!
(2015.7.23)
著者
後藤あゆみ
はたらくビビビット編集長。 フリーランスで“『ツクル』を仕事にしたい未来の子供たちのために。”を、コンセプトとして活動。クリエイター支援、スタートアップ支援を行っています。おばあちゃんになるまでに美術館をつくるのが夢です 。
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