卒業間近になっても将来自分が何をしたいのか定まらない!やりたいことが見つからない…そのような悩みを持たれている方もいるのではないでしょうか。今回お話を伺った田中さんは、やりたいことが決まってない状態で就職活動を続けていましたが、面接で自信を持って将来の話をすることができず、就職先を決めるのに苦戦した一人でした。そんな田中さんが、どのようにして今の職場にたどり着き、デザイナーとして働くようになったのか、これまでの活動のお話と、今後の働き方ついてインタビューさせていただきました。編集・執筆 / AYUPY GOTO
田中 真依たなか まい
Designer
1987年函館生まれ。
公立はこだて未来大学システム情報科学部卒業。
2010年クリプトン・フューチャー・メディア入社。以後、当社サービスやイベントのwebサイト制作、DTPやイベントの展示まで、映像以外なら一通り制作を経験している気がする。
休日はドールの衣装や豆本の制作、スマホアプリ用のスタンプなどをひっそりと作っている。
北海道発信でも、世界中から愛されるコンテンツはつくれる。
― クリプトン・フューチャー・メディア(以下:クリプトン)さんは、どのような事業を行っている会社でしょうか。
田中さん:クリプトンは北海道札幌市にある会社です。会社のスローガンは「音で発想するチーム」で、DTM(デスク・トップ・ミュージック)ソフトウェアや携帯コンテンツ、サウンド配信サービスなど、音を発想源としたサービスや技術を開発して提供しています。そして、バーチャル・シンガーとして有名な『初音ミク』を生んだ会社でもあります。最近ではクリエイターの集うカフェを運営するなど、クリエイター支援も行っています。
― あの『初音ミク』はクリプトンさんから生まれたのですね!
田中さん:そうです。『初音ミク』はもともとPC用の「ソフトウェア」なんですが、歌詞とメロディーを入力すれば、誰でも歌を歌わせることができるんです。大勢のクリエイターさんが『初音ミク』でつくった音楽や、パッケージのイラストを使った動画を、動画投稿サイトに投稿してくださったことがきっかけで、「キャラクター」としても注目されるようになりました。『初音ミク』は、ソフトウェアの開発からコンセプトやデザインなどの企画まで社内で行っているんですよ。
― 音に関する様々なお仕事を展開されているのですね!田中さんはデザイナーとして働かれていると伺いましたが、どのようなお仕事を担当されているのでしょうか?
田中さん:CGMチームという、『初音ミク』のキャラクターライセンスやグッズ監修、イベントの企画・運営などを担当している部署があるのですが、その部署から依頼を受けてデザイン制作を行っています。私は主にWEBコンテンツまわりの制作を担当していまして、そこからプラスアルファで、名刺、チラシ、イベントで使う壁やレイアウトのデザインに携わっています。目の前にある仕事は何でも引き受けてつくっていますね。
今、デザインチーム自体は5人体制なのですが、一人一人がマルチに仕事へ対応できる技術や知識を持っています。WEBサイト制作しかしたことがなかった私も、今では当たり前のように印刷物やグッズのデザインまで行っています。
― クリプトンさんのお仕事でよく拝見する『初音ミク』のイラストですが、いろんなテイストのものがありますよね。イラストの制作も社内で行っているのでしょうか?
田中さん:イベントや、プロダクト制作の際に使用されている『初音ミク』のイラストは、案件ごとに外部のクリエイターさんに依頼して描いていただいています。常にイラストが主役なので、デザイナー側はトリミングやレイアウトなどでイラストの良さが引き立つようにいつも頑張っています。
― 世界中のいろんな都市で開催されている『初音ミク』のイベントは、すべてクリプトンさんが携わっているのですか?
田中さん:ユーザーさん主催の自主イベントを除けば、基本的に『初音ミク』関係のイベントは、弊社が携わっています。イベント開催のタイミングに合わせて自社レーベルからCDをリリースする場合があるんですが、そのデザインなども社内で手掛けています。
定まらない将来の夢、苦戦し遠回りしたからこそ気づけた
ものづくりが本当に好きだという気持ち
― どのような学生生活をおくられていたのでしょうか。
田中さん:私は昔からゲームが大好きだったこともあって、将来はゲームプログラマーか、システムエンジニアになりたいと思っていました。そこで、プログラミングの技術や知識が学べる北海道の公立はこだて未来大学のシステム情報学部情報アーキテクチャー学科に入学しました。入学当初の必修講義で、プログラム言語、c言語を使って簡単なプログラムを組むという課題があり、そこで基本的なプログラムのスキルを身につけました。すごく課題の多い学科だったので、毎日課題漬けで大学に寝泊まりしたり、夜な夜なチームでディスカッションしたりしていましたね。おもちゃの楽しさの本質を考えるという課題があった時は「このジェンガの楽しさって一体なんだろう!?』と、夜通しチームメンバーとジェンガをしながらアイデアを出し合いました。今思えば、課題や授業内容など特殊な大学だったと思います。
― 入学してすぐ専門的な講義を受けるのですね!ゲームプログラマーの技術は実際身に付いたのでしょうか?
田中さん:そこに関してですが、勉強を続けていく中で「あれ、これ私の得意な分野じゃないかもしれない」と思いはじめました。WEBサービスやアプリの開発を続けていくうちに、UIを制作したり、つくったプロダクトのコンセプトを伝えたり、プレゼンをしている時のほうがワクワクしている自分がいて、周りの先生たちにも「プレゼン力やUI制作を極めたほうが良い」とアドバイスをいただくようになったんです。そこから私は、UI/UXや心理学を軸に勉強を行い、開発するプロダクトのコンセプトやニーズを組み立てることに集中していました。
― 就職活動はどのように行いましたか?
田中さん:将来就きたい職業や働きたい会社は何か、ピンとこないまま大学3〜4年生を過ごしていました。就職活動しなきゃいけないという気持ちはあったので、大企業のセミナーや企業説明会に足を運ぶようにはしていましたが、そこから一歩進んでここに入りたい!と思える企業には、なかなか出会えずにいました。デザイナー職だったり総合職だったり、数社エントリーしてみたのですが、面接まで進んでも面接官が私の意欲の無さを察していたのか、最終的には不採用のメールをいただくことばかりで、だらだらと就職活動を行っていました。
― クリプトンさんに出会ったのはどういうきっかけだったんですか?
田中さん:結局私は大学を卒業するまで無職で、北海道で就職できる会社をインターネットで検索しながら探していました。そこで偶然見つけたのがクリプトンで、WEBサイトには大学でも流行っていた『初音ミク』が大きく載っていたんですよね。それ以外の音のお仕事も知っているものばかりで、よくよく調べてみると本社が札幌にあることを知って、直感で「私にはここしかない!」と思い、勢いでデザイナー職にエントリーしたんです。
私は、デザインをすごく極めてきたわけでもなかったので、何ができるか自分でもわからないままだったのですが、クリプトンを受けるためにポートフォリオを制作して、面接に挑みました。ポートフォリオ制作で自分が過去につくったものをまとめていたら、モノづくりの楽しさを思い出し、入社するならIT関係のデザインができる会社が良い!という思いが一層強まってきて、面接でも自分のモノづくりに対する思いをしっかり伝えることができました。そして、無事内定をいただけたんですよね。
― 最終的にクリプトンさんを就職先として選ばれた理由を教えてください。
田中さん:自分が普段目にしている『初音ミク』が、この会社でつくられているっていうだけで誇りに思えます。また、いろんなクリエイターたちがつくった作品を、見たり聞いたりできる環境をつくり、世界に発信していることがすごいと思いました。北海道でここまで幅広く展開できる会社があるのかと、ここで働けると決まった時は嬉しかったです。
― 実際入社して働いてみて、イメージしていたようなお仕事だったでしょうか。
田中さん:良い意味で、イメージしていた仕事とは全然違っていました。5年前の自分に今こんな仕事しているんだよって言っても、信じてもらえないくらいすごい仕事を任せてもらっていると思います。
入社したばかりの頃は、まだWEBサイトもつくれない私だったのですが、CGM型コンテンツ投稿サイト“piapro(ピアプロ)”のスマートフォンサイトをつくってほしいと言われました。当時は、アンドロイドが発売され始めたばかりのタイミングで、スマートフォンのUIデザインのノウハウなど、世の中に多く出ていない状態だったため、周りの人に聞いてもわからないし、ネットで調べても出てこないし、かなり困惑しましたね(笑)。最初からキツイな〜と思いながらも、本を片手に一生懸命つくったことを覚えています。
ユーザーと一緒に、愛されるサービスを育て続ける。
― 今まで経験されたお仕事で、嬉しかったことや大変だったことを教えていただけますか?
田中さん:嬉しいことも悔しいことも沢山あります。嬉しかったことですと、冨田勲氏が手掛けたイーハトーヴ交響曲のお仕事が強く思い出に残っています。イーハトーヴ交響曲は宮沢賢治氏を題材にしたオーケストラで、『初音ミク』がソリストとして出演しています。ステージに映し出す映像システム、音楽に合わせた『初音ミク』の衣装など、ステージに必要な演出を社内ですべて準備することになり、膨大な制作物だったので大変ではありましたが、普段やらない洋服のデザインに携われました。本番では目の前でオーケストラの生演奏を聴くことができ、自分がデザインした衣装で『初音ミク』がステージで動いているのを見るとすごく嬉しくて、感動してしまいました。3年前にアメリカのテキサス州オースティンで開催された『SXSW(サウスバイサウスウエスト)2013』というイベントにブース出展し参加しました。音楽祭と映画祭とインタラクティブフェスティバルを組みあわせた大規模なイベントで、ブースのデザインやノベルティ制作、チラシのデザインなどすべて任されて、すごいボリュームだったのですが、現地に行って海外の人たちのリアルな反応を見たり聞いたりできたので良い経験でした。挑戦できて良かったと思います。
大変だったことですと、piapro(ピアプロ)のサイトをリニューアルした時ですね。リニューアルを私が担当したのですが、私の勉強不足や調査不足もあって、一度使いにくいデザインに変えてしまったんですよね。するとTwitter上に「変わりすぎて使いにくい」「前のほうが良い」というようなユーザーさんの意見が書かれていて、すごく反省しました。その経験もあって、ユーザーの声や意見を吸い上げてからモノをつくらないといけないな、と気づけたんです。いろんな意見をいただき、反映され、今の形に至ります。大変でもありますが、TwitterなどのSNSが存在することでユーザーの率直な声が聞けるのですごく嬉しいですね。批判された時はショックでしたが(笑)改善した機能を褒めてもらえると嬉しいものです。
― 確かに大変な経験ではありますが、ユーザーの声を生かしてサービスも成長できるから良いですね。
田中さん:すごくリアルな声が聞けていいんですよね。サービス担当者が、検索をかけて感想を見て回っていることがあるかもしれないので、つぶやく時は理由とかも入れてくれるとありがたいです(笑)
― 現職のお仕事の魅力はなんでしょうか。
田中さん:WEBサイトやサービス開発をする時に、私たちデザイナーも企画から関わることができます。ミーティングを重ねて方向性を決めて、ラフに起こして、そこから形にするためのコーディングまで行い、立ち上げから公開に至るところまで責任持って携われる会社って、なかなか多くないと思うのですごく良い経験が出来る環境だと思います。
― 最後に学生へ向けて、メッセージをお願いします。
田中さん:私は学生の時は、将来進みたい道が定まらず悩んでばかりでした。時には立ち止まって考えることも大切ですが、考えすぎる前にたくさん動いてほしいです。いろんなところに遊びに行って、作品を見たり、人と話したり、いろんなアルバイトを経験して、いろんな業界を見ることで気づけることってたくさんあると思うんですよね。社会人になっちゃうと他の業界を覗きにいくことが簡単にできないので、今のうちに沢山経験しておくことが大事だと思います。また、そういった経験は何かをつくる時にも役立ちます。クライアントワークなど、いろんな人の目線で考えることが必要な時には、経験が多い人のほうがアイデアの引き出しが多くて活躍の幅が広がると思います。
あと、私は英語を勉強しておけばよかったと切実に思います。デザインの仕事をする中で、インターネットを使って作り方や情報を調べることが多々ありますが、デザインに関するノウハウが書かれた質の高い記事、とくに最新情報は、英語で書かれているものが多く、何となくでも読み取れると糧になります。私の英語力は、学生の時のままのレベルですが、海外出張などでどうしても英語を喋らないといけないシーンがあります。海外のイベントにブース出展する時に、海外の企業の人たちに向けてプレゼンをしないといけないので、必要な内容の分だけ英語を頭に叩き込んで頑張って喋っていました。海外にも熱量のある面白い方が多いので、英語ができたらもっと面白いことが掴めたのかもと悔しくなります。出張を重ねるうちに勉強しないと!という気持ちが強まって、今では少しずつ勉強しています。少しでも時間に余裕のある方、海外の仕事に興味のある方は積極的に英語を学んで欲しいと思います。
クリプトン・フューチャー・メディア株式会社コーポレートサイト
(2015.8.17)
著者
後藤あゆみ
はたらくビビビット編集長。 フリーランスで“『ツクル』を仕事にしたい未来の子供たちのために。”を、コンセプトとして活動。クリエイター支援、スタートアップ支援を行っています。おばあちゃんになるまでに美術館をつくるのが夢です 。
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