課題のグループ制作で一緒に制作した仲間、サークル活動で朝まで一緒に過ごした仲間、学外活動で一緒に仕事した仲間…学生時代のちょっとした活動から、気が合う仲間と“将来一緒に働きたい”と思ったことはありませんか?今回お話を伺った金沢さんは、大学時代に麻雀仲間となんとなく話した“いつか会社をつくりたい”という思いを、卒業から2年後に実現させた一人です。卒業後の選択は必ず就職というわけではないのかもしれません。 将来起業したいと思っている方、気の合う友人といつか仕事したいと思っている方に、是非読んでほしいインタビューです。編集・執筆 / AYUPY GOTO
金沢 康行かなざわ やすゆき
Director
大阪芸術大学芸術学部写真学科 卒業。
株式会社鬼 代表取締役。写真・映像撮影、およびディレクションを行っている。
撮りたいものを撮る環境づくりの為に
たわいもない会話から実現した、麻雀仲間との起業。
― “株式会社鬼”ってユニークな社名ですね!どのようなお仕事をしている会社ですか。
金沢さん:鬼は大学時代からの友人4名で立ち上げた会社です。ちょうど設立して1年が経ちました。設立当初は写真や映像を撮ることを軸に活動していましたが、仕事を受けていくうちに、撮りたいイメージが出てくるようになって、指示されたまま撮影するだけの仕事に面白みを感じなくなっていました。
僕は就職したことがないので、よくわかっていなかったのですが、世の中にはディレクターという撮影や演出などの企画やアイデアを決めて進行する仕事があることを知り、そこから“撮るものは自分で決めたい”“提案して撮りたい”と伝え続けていたら、仕事もディレクター業にシフトしていくことになりました。
社員にはCGが得意な人がいたり、映像が得意な人がいたり、写真撮影が得意な人がいたり、一人一人が個性を活かして仕事をしています。今後は“撮りたいものを撮れる環境”をつくっていきたいと考えています。
― 撮りたいものって何ですか?
金沢さん:アイドルですね。可愛い女の子をさらに魅力的に撮るのが楽しいです。僕の撮ったアイドルの写真が、メインビジュアルとして使われて販売されたことがあるのですが、店頭に並んでいるのを見た時は凄く嬉しかったです。あと、専属で写真や映像制作を担当している10歳以上も年下のアイドル達が、自分たちの作ったものを必死に売ろうとしている姿を見ると、ものづくりの根っこに還れるような気がして、達成感がありますね。
― アイドルのお仕事うらやましいですね(笑)他にはどのようなお仕事をされてきましたか?
金沢さん:写真のお仕事ですと、機械、アイドル、シヅル、ファッションなど幅広くやっています。少し前までカメラマンは、食べ物専門の人がいたり、競技専門の人がいたりと、ジャンルに分けられた専業制だったのですが、最近はそういった制限も少なくなってきたので、撮りたいと思ったものは何でも撮っています。
写真の仕事以外ですと、アーティストやアイドルのプロモーションビデオの企画・撮影・編集、特設サイトの企画制作、行政のお仕事も受けています。
鬼は、かっこ良くも可愛くも、クオリティを高く作れるのが強みです。
― なぜ起業することにしたのでしょうか。
金沢さん:先ほども簡単にお話しましたが、起業メンバーは大学の頃からの友人で、麻雀仲間でした。僕を含む3人が写真学科で、もう一人は映像学科に在籍していて、暇があればよく集まって麻雀していましたね。
卒業後は、僕以外は就職して大阪でフリーランスのカメラマンとして働いていました。
ですが卒業から2年経った頃に、東京で働く友人たちが仕事を辞めたいと言い出したので『じゃあ4人で会社作ろうか』という話を持ちかけたんです。学生時代から麻雀をやりながら学生特有の社会をナメた感じで“将来一緒に起業しよう”という話をしたことがあったので、急に思いついたというわけではありませんでした。
ですが面白かったのは、一人ずつ会って『一緒に起業しよう』という相談をしてみたのですが、最初全員に『俺は迷惑かけるからお前らが勝手にやれ』と言われて、その状況が僕からしたら凄く面白く感じて、じゃあどうせなら皆で迷惑かけ合いながら会社やろう!という話を全員にして、勢いで起業することになりました。
― 勢いで!(笑)起業資金は準備されていたのでしょうか?
金沢さん:いえ、それが全くお金を貯めていなくて(笑)全財産の10万円を握りしめて全員バイクで東京まで出てきました。そこから事務所兼自宅を探しました。
僕は東京で生活した経験がなかったので、東京のどの辺りに住むべきか、どこから仕事をもらえるのか情報が全くなくて、最初は苦労しました。東京に住みだしたのが2014年4月頃、最初は法人登記するお金もなかったので仕事探しから始まりました。
― 東京にきたばかりの頃は、仕事はどのように集めていたのでしょうか?
金沢さん:初月の家賃は払えなくて親に借りていました。また、大阪にいたときにお世話になっていた会社さんから仕事をもらっていて「お金ないんだろ?」と気遣いいただいて、早めに振り込んでもらったりと、知人に助けてもらっていました。最初は写真の切り抜き作業の仕事をしたり、仕事は選ばずに何でも受けて、文字通り生きることに必死でした。そういった仕事を続けていきつつ、アテに出来る人を探すことの繰り返しでした。というか、今もその真っ最中です。
嫌々参加したプロジェクトで見つけた、自分だけのポジション。
― 大学生の頃はどのように過ごされていたのですか?
金沢さん:大学の課題は進級課題しかしていないような不真面目な学生でした。2年生まで麻雀ばかりやって過ごしていたのですが、3年生になった時に初めて学外の活動で、京都の大学生と一緒にイベント運営を行いました。その時は義理や恩の関係で、嫌々で参加したのですが、母校で出会えなかったタイプの優秀な同期が沢山いて、京都の学生の意識の高さと活発さには驚きました。
意識の高い人だらけの環境に、最初は嫌気がさしていましたが、回りを見渡すと写真専門で動ける人がいないことに気づいて、自分は基本的な写真撮影のノウハウはあるし、機材も使えるので、重宝されるのではないかと思って、自分のできることに一生懸命取り組みました。すると結果を出せたおかげか、イベント後も一緒に活動するような関係になりました。活動も京都と大阪で離れていたことで、長い時間一緒に過ごしすぎることもなく、遊びと活動の時間を丁度良いペースで切り分けて過ごすことができるようになりました。
― 3年生から生活が変わったようですが、京都で出会った仲間との活動はどういったものですか?
金沢さん:チームで、グラフィック・映像・写真などそれぞれの得意を活かしてプロダクトを作っていたので、企業から仕事の依頼がくるようになりました。専門学校の特設サイトを作ったり、ファッションショーのグラフィックを作ったり、いろんな経験をつめましたね。
― 学生時代からお仕事受けられていたのですね!
金沢さん:ですが、あまりにも学校の課題をやっていなかったので教授に呼び出されてしまい、正直に今やっている活動の説明をして、作品を見せたら「お前やるやんけ」と見直されて(笑)
そこから教授とも一緒に仕事をするようになりました。出版や商業施設の広告撮りなど、ワンランク上の仕事が経験できて面白かったです。
リスクを背負う覚悟を持ち、やりたいことを摑み取る
― 起業してみていかがでしたか?
金沢さん:僕は就職したことがないので、自分たちの働き方がディレクターとして正しいのか判断できないところが不安ではあります。ですが、自分たちのやり方で各案件に合った、良いと思うモノを提案出来ることは楽しいです。何年も企画の仕事を経験している人に負けないよう努力しています。
― 社長としてのお仕事はいかがですか?
金沢さん:基本みんな同じように働いていますが、経理管理は僕が責任を持って担当しています。ですが、単価が高く、数の少ない仕事の受け方をしているため、請求書の整理など、事務作業にそこまで沢山時間を使うことはなく、大変だとは思いません。
それよりも、今後皆が挑戦したいような仕事を受けれる環境や体制をつくれるか、クライアントから仕事をもらえる関係をつくれるか、社員みんなが生活できる環境がつくれるかどうかが課題だと思っています。
― 起業の魅力はどういったことがありますか?
金沢さん:ITサービスの起業と違って、こういう業態だと映像や写真を撮影するための機械を揃えるのに何百万もかかります。そのリスクを背負う覚悟はいると思います。ただ、うちの場合、元々みんなギャンブラーなので借金も、貧乏になることも恐れていませんでした。プロのクリエイティブの質に追いつくための資材を背負い、借金を背負い、リスクを背負う分、生きる為の責任や必死さが自然とつきます。まさに今、ギャンブルの途中だと思うと楽しいんですよ。起業でしっかりお金がつくれることを証明していきたいと思います。
― 将来の目標はありますか?
金沢さん:会社での目標は、今担当しているアイドルが武道館に立てるまで応援したい、何かコンテストで賞をとれるようになりたいです。
また、会社の目標で言えば、秘密兵器として使われるチームになりたいです。一発良いプロダクトをアウトプットしたい時に、いろんなクライアントに社名を出されるようになりたいです。
― 最後に学生にメッセージをお願いします。
金沢さん:私が学生の時に、学外の活動で企業の仕事を受けていたからこそ伝えたいことがあります。今では企業からの仕事を、学生が受けることは珍しくなくなってきていると思いますが、優秀な学生を都合良く使う大人が世の中にはいるので、それだけはしっかり自分で見極めて判断してください。
私が18歳だった時に、大人に誘われて海岸でマッサージのバイトをしていたことがありました。ですが、最終日にお店にアレな感じの人が現れてお金を全部もっていかれたため、働いたバイト代がもらえず終わったことがありました。ですが後日、銭湯に行った際に誘ってくれた大人とアレな感じの人が仲良く銭湯に入っていく姿を発見し、騙されていたことに気づきました。
その時から私は簡単に学生に声をかける大人を信じていません。チャンスだ!とか、きっかけが!なんて気安く言ってきますが、それはいい人だから誘ってくれているんじゃなくて“自己責任のギャンブルだ”ということを、頭に置いておいたほうがいいです。世の中にいる大人が、みんなそういう人というわけではありませんが、そういう人もいるということも頭に入れて、頑張って活動してほしいです。
また、就活がうまくいかなかったくらいで死なないでください。就活のルールにとらわれすぎず、やりたいことに挑戦すれば良いと思います。就職する人は自分のやりたかったことを忘れずに働いてほしいです。
将来起業したいと思う人がいれば、固く考えすぎず、今すぐすれば良いと思います。お金は最初かかるけど、仲間とリボ払いできるカード、自己破産の知識さえあれば心配いりません。やりたいことに挑戦できる環境を掴みとってください。
(2015.6.6)
著者
後藤あゆみ
はたらくビビビット編集長。 フリーランスで“『ツクル』を仕事にしたい未来の子供たちのために。”を、コンセプトとして活動。クリエイター支援、スタートアップ支援を行っています。おばあちゃんになるまでに美術館をつくるのが夢です 。
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