美大生の就職先はデザイン事務所や、映像会社、ゲーム会社など、ものづくりのお仕事ばかりではありません。最近よく耳にする“ソーシャルデザイン”という言葉があります。ソーシャルデザインは、人の持つ“創造力”で、地域・日本・世界が抱える複雑な課題の解決に挑む取り組みのことを言います。今回お話を聞く箭野さんは、美大を卒業して、社会問題の解決に取り組むソーシャルデザインカンパニーでお仕事をしています。社会問題と向き合う活動とは、一体どのようなお仕事なのでしょうか。将来の夢や就きたい会社が決まらない、進路に迷いのある学生は必見です。編集・執筆 / AYUPY GOTO
箭野美里やの みさと
Director & Press
京都精華大学 デザイン学部 デジタルクリエイションコース卒業。
2012年、THE SOCIAL DESIGN COMPANY スマスタに入社。広報兼、ディレクター。
社会問題をクリエイティブに解決する、ソーシャルデザインカンパニーの仕事
― THE SOCIAL DESIGN COMPANY スマスタは、何を行っている会社なのでしょうか。
箭野さん:スマスタは、様々な社会問題の解決に取り組むソーシャルデザインカンパニーです。世の中に“ふつうのしあわせをつくる”ことをテーマに、企業デザイン、公共デザイン、教育デザインの3本柱で事業を展開しています。
例えば教育デザインですと、宮城県石巻市の高校生と一緒にカフェづくりを行う『高校生がつくる いしのまきカフェ「」(かぎかっこ)』というプロジェクトがあったりします。これは、カフェを立ち上げる課程で出てくるコンセプトづくりや空間づくり、商品開発などといった多様な仕事を通して、高校生にリアルな社会体験をしてもらうというものです。高校生対象のキャリア教育の事業となっています。
公共デザインですと、行政とともに若年無業者に向けた就職プログラムを設計し、そこでの実践を踏まえて『ハローライフ』という就労就業支援施設を立ち上げています。職業安定所の民間版です。
企業デザインでは、企業の抱える問題に取り組むブランディングを行ったりしています。どれも、社会問題の解決に向けたプロジェクトになっています。
― 幅広く活動されているのですね!箭野さんはスマスタではどういったお仕事を担当されているのでしょうか。
箭野さん:私のお仕事はプロジェクトディレクターと広報がメインです。スマスタには様々なチームがありまして、日本茶カフェの運営を通して、企業ではなく個人のお客様に商品の提供を行う飲食事業部や、先ほどご紹介した施設「ハローライフ」の運営を行うハローライフチーム、そして私の所属しているクリエイティブチームがあります。
私は、クリエイティブチームでディレクターとして、様々なプロジェクトに携わっています。プロジェクト全体の進行管理を行うことはもちろん、このプロジェクトを成功させるにはどんなメンバーと組むべきかを考え、その人にアタックをします。アタックののち結成されたプロジェクトチームとともに、プロジェクトを推進するのがディレクターの役割です。また広報としての仕事は、プロジェクトリリース時にプレスリリースの作成と配信を行います。報道局からの取材依頼に対応し、取材された記事の情報に誤りがないか確認を行います。
プロジェクトを正しく発信するためにとても重要な仕事です。
― 今までで担当したプロジェクトなど、具体的な内容を教えてください
箭野さん:2013 年5 月に独自開設した就労就業支援施設「ハローライフ」の立ち上げに携わりました。この「ハローライフ」の立ち上げの起源となった若者就労支援事業「レイブル応援プロジェクト大阪一丸」は、わたしがスマスタにインターン生としてお世話になっていた頃に始動したプロジェクトで、入社後も継続して展開しており、主に広報担当を務めました。
また最近ですと企業ブランディングの依頼も増えていて、入社3年目で初めて企業のブランディングを任せてもらいました。その組織で働く社員全員を集めて2 日間にわたる会議を行い、どうやったら組織が良くなるかを話し合い、そこで抽出された意見をまとめて、経営理念やスローガンを開発しました。ロゴマーク、webサイト、パンフレットなどのツールも制作し、トータルブランディングを行います。難しい点も多いですが、やりがいのある仕事です。
― 素晴らしい取り組みですね。ディレクターと広報のお仕事を兼任するのは大変ではないですか?
箭野さん:スマスタでは普通のことです(笑)他のスタッフもひとつの役割に留まらず、自分の出来ることを探して、手が空けば「この仕事もらってもいいですか?」と自ら聞いて仕事を進めるスタイルです。わたしが入社した頃は、とにかく先輩の仕事の仕方を見ながら勉強しました。
夢も挑戦したいこともなかった自分が見つけた
“楽しくて平日が待ちきれない仕事”
― 箭野さんは学生時代どのように過ごされていたのですか?
箭野さん:大学1 年生の時は、とにかく何でも興味がありました。同じコースの先輩の影響もあり、2 年生になった時には、映像団体を先輩たちと立ち上げて、PV、CM、映画の制作に没頭していました。カメラをまわせるとか、編集ができるとか、特に何かできるわけではありませんでしたが、制作進行や美術を任せていただくことが多かったと思います。とにかく尊敬している先輩についていこうと必死で頑張っていました。
大学生活で1番頑張ったと思える活動は、3 年生から4 年生になる春休みの間につくった映画制作です。毎日外出して睡眠時間もあまりとらずに撮影して、俳優やエキストラの入時間や撮影場所の確保、撮影スケジュールの管理等を任されていました。雨が降って撮影ができなかった日は、詰まった撮影スケジュールを調整して、その絵が撮れるようにしました。ミスが出た時は先輩に叱られて、一人で泣く日もありました。お風呂に入る時間がとれないくらいボロボロになって働いていたので、その時は本当に辛かったことを覚えています。今思うとなんであんなに頑張れていたのかわかりません(笑)ですが、映画制作のおかげで精神的に強くなり、成長できたと思います。すごくミーハーなので、華やかな仕事や有名なディレクターさんに憧れていましたが、華やかに見えている仕事の裏には、すごく大変で泥臭い下積みが必要なのだと、身をもって実感しました。
その映像団体の活動が学生生活の大部分をしめていて、大学の講義は出ていましたが、全力でがんばれたものはあまりなかったと思います。
あとはケーキ屋さんでバイトしていましたね、そこで稼いだお金も映画の制作費でほとんど消えてしまいました(笑)
― 映像をつくられていたのですね、現在のお仕事から振り返ると少し意外です。就職活動はどうされていたのですか。
箭野さん:将来やりたいことが見つかっていなかった自分は、就職活動で苦しみました。大学入学当初は、4 年間美大に通ったらそれなりにスキルもついて、デザイン会社に就職して徹夜しながら働いたりするのだろうと、なんとなく将来を描いていました。
今思うとすごく甘い考えでした。大学生活で一番時間を費やしてきた映像制作も、就職するには厳しい現実があり、映像業界に進もうとは思いませんでした。4 年生の春には、クラスメイトで内定をもらう人がでてきて「大学卒業したらどうしよう…」と考え、次第に焦るようになりました。でも、絶対に「どこかに所属して働きたい」と思っていました。まわりの友人は、将来の夢が決まっている人ばかりで、それが明確でない私は苦しんでいました。夢の見つけ方を探そうと、ひたすら友人たちに「どうやったら夢が見つかるの?」と聞いて回っている時期もありました(笑)
― そうだったのですね。そういった状況で、どうやってスマスタに出会ったのでしょうか?
箭野さん:結局「将来の夢」という答えは見つからなかったので、一度将来の夢を探すのをやめてみました。するとなんだか気持ちが軽くなっていきました。将来の夢から仕事を考えるのをやめたわたしは、自分が働くために求める条件を絞りこむことで就職先を見つけることにしました。
その時のわたしの会社選定条件は、“魅力的な人がいる環境”でした。
そんなルールを持ち、教授と就職について面談したときにとある求人サイトを教えてもらい、教授と一緒に紹介されている求人を見ました。私は大学生のとき、働くことに苦痛なイメージを持っていたのですが、紹介されている仕事はすごく楽しそうに見えたのです。そのサイトに掲載されていた記事の一つにスマスタがありました。記事の中には「仕事がたのしくて平日が待ちきれない」という言葉があって、そんなことが本当にあるのか!?と疑ったのですが、とりあえずインターン募集に応募してみて“働く”というものが何か探ってみようと思ったのですよね。それがスマスタとの出会いでした。
募集締め切りが、記事を見た日の三日後だったので、急いでエントリーシートを準備したことを覚えています。
― そこで採用されることになったのですね!
箭野さん:下書きも何もせず勢いで書いて送ったら、電話がきて「面接来れますか?」という連絡でした。そこで面接を受けて、いろんなお話をさせていただきました。提出したエントリーシートについて「こういうのを待っていた!」と言われましたね(笑)
今までなかったタイプで面白そうだと思っていただけたみたいです。そして無事採用いただき、半年ほどインターンすることになりました。
― スマスタさんの業務内容には興味を持たれていたのでしょうか。
箭野さん:箭野さん:正直、「仕事がたのしくて平日が待ちきれない」という記事の言葉ひとつで動いてしまいました(笑)今考えると恐ろしいですね。
― インターン入社のときは、就職の話まではなかったのでしょうか。
箭野さん:もちろん就職を見越してのインターンでしたが、半年働いた後に、代表に「うちで働かないか」というお話をしていただき「入りたいです」とお返事しました。就職先が決まったのは大学4 年生の1月でした。
3年間で積み重ねた成長と信頼。
力をつけて一人でも多くの人に「ふつうのしあわせ」を。
― 実際入社してみて、イメージしているようなお仕事だったのでしょうか。
箭野さん:入社してみて思った以上に地味な仕事が多いとは思いました(笑)基本、先輩の仕事を見様見真似して、サポート業務をやっていました。仕事のできる先輩の背中を見てはうらやましく思っていました。
しかし入社して1年経つころに「スマスタに今どれだけのプロジェクトがあると思う?いつまでたってもお手伝い気分でいたらあかん!」と、先輩に言われてハッとしました。サポートばかりやっていた私は、一つひとつのプロジェクトがどうやって動いているか全然理解できてなくて…今振り返ると責任を持って動けてなかったのですよね。自分でプロジェクトが持てるように勝ち取ってみろと言われて、悔しかったです。
そこから猛烈に頑張りました。経験のないweb サイトのディレクションに挑戦してみたり、外部の打ち合わせに積極的に参加したり。今ではプロジェクトのリーダーとして任せてもらえる仕事も増えてきています。
― 実際今のお仕事で、学生時代の活動が活きていることはあるのでしょうか。
箭野さん:それが、意外と学生時代の経験が活きています。ディレクターの仕事は方向性を作っていくだけでなく、調整が仕事の大部分をしめると思っています。一緒にプロジェクトを作り上げる仲間が、それぞれの力を全力で発揮するにはどうしたらいいのかと考えたり、プロジェクトを成功させるために必要な要素を洗い出して、それを揃えて形にする。
この仕事は、学生時代に経験した映画づくりにすごく似ていました。web サイトに使う写真1枚準備するとなれば誰に撮ってもらうか考え、「ロケハンしに行かなきゃ」と場所を探し、雨の場合を考えて別のスケジュールも立て直す。学生の時に身についたスキルが今の仕事でも自然と活かされています。
― 気持ちの良い仕事、良い働き方をするために意識していることはありますか?
箭野さん:信頼を勝ち取る努力をすることです。スマスタも今は社員がどんどん増えていますが、一緒に仕事をする仲間の信頼をどれだけ得られるかで、良い仕事ができるかが変わってくると思っています。例えば、代表が打ち合わせに行く時に、誰を連れて行くかとなったら、私を選んでもらえるような位置になりたいと思っています。スマスタの目指している方向を1 番感じとることができる場所が、代表の隣だと思っています。それを常に感じていたいと思っています。
なので、そういった信頼を得るために、打ち合わせひとつ参加するために必要な物は自ら準備して揃えます。打ち合わせ中の会話は議事録に残し、それをプロジェクト推進に活かします。
― 入社して1番記憶に残っているお仕事を教えてください。
箭野さん:入社した時は何も出来なくて任せてもらえる仕事も少なかったのですが、今では行政との大事な会議や企業との打ち合わせに代表と2 人で出席させてもらえるようになっています。そういった熱がぶつかり合う場に参加することで、勉強にもなりますし、自分の3年間での環境の変化をすごく感じることができます。
― スマスタの魅力を教えてください!
箭野さん:スマスタは最先端すぎる仕事だと思っています。他の人たちが見て見ぬふりをするような社会問題をすくい上げて、解決のためにプロジェクトを立ち上げて挑戦しています。すごくやりがいのある仕事だと思います。決して派手な仕事ではないですが、何十年先もなくてはならない仕事だと思っています。人の人生を変え、社会を変えることができる魅力的な仕事だと思っています。
― 今後挑戦してみたいことや、目標などはありますか?
箭野さん:具体的な取り組みは決まっていませんが、自分自身が学生時代に挑戦したいことや夢が見つからず、就職活動に苦労した経験があったので、その経験は活かしたいです。学生たちが希望が持てる就職活動の仕組みづくりをしていきたいと思っています。
― 最後に学生にメッセージお願いします。
箭野さん:しんどいと感じること、本気でやりきったと思えることを、学生のうちに経験したほうがいいと思います。全力で取り組んだのに結果が伴わなかったとか、心が折れた経験だとか、そういった上手くいかなかった経験があったほうが、自分の力がどこまであるのか知ることができます。全力でやったからこそ見える成果が必ずあると思います。また、全力で取り組んだことがもし成功すれば、それももちろん将来の大きな自信になると思います。
沢山チャレンジしてみてください。
そして出来るだけインターンシップに参加して、いろんな“働く”を経験して、自分にあった仕事を見つけてください。今はいろんな求人サービスがあるので、いろんな記事を読みあさるだけでも勉強になります。ちなみに最後に宣伝ですが、ハローライフでも魅力的な求人記事を扱っています。背景に人の人生が見える企業さんばかりです。
何かしら気になる仕事がみつかるはずですので、ぜひ沢山冒険してみてください。
(2015.5.31)
著者
後藤あゆみ
はたらくビビビット編集長。 フリーランスで“『ツクル』を仕事にしたい未来の子供たちのために。”を、コンセプトとして活動。クリエイター支援、スタートアップ支援を行っています。おばあちゃんになるまでに美術館をつくるのが夢です 。
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