2019年も、もう2月に入りました。雪が降りそうなくらい寒いこの時期は、毎年「卒業制作展」が各大学で行われていますね。展示をする人も見る人も大忙しだと思いますが、展示を案内する「DM」もたくさん配布されています。美大生にとって、展示を知らせるDMは身近な存在。普段から気に入ったデザインのものを集めている人も多いのではないでしょうか?
今回は、毎年開催されている「五美術大学展」(以下、五美大展)のDMと、武蔵野美術大学・多摩美術大学・東京造形大学・東京藝術大学の4つの大学のDMをご紹介していきます。比べて見ることで、ご自身の展示会のDMをつくる際も参考になる部分が見つかるのではないかと思います!
編集・執筆 /RINA SAITO, YOSHIKO INOUE
目次
●DMとは?
●話題のDM、五美大展
●美大・芸大の近年のDMを見てみよう
●最後に
● DMとは?
そもそも、DMとは何でしょうか?
DMとは、Direct Mail(ダイレクトメール)の略語で、個人宛に直接送られる広告の印刷物、電子メールのことです。宅配ピザのチラシや、水道屋さんの広告が載ったマグネットが部屋のポストに入っていることはありませんか?それらもDMということになります。
主に美術の分野では、展示会やイベントなどが行われる際に、広報の目的で制作されます。基本的には、展示会の情報(場所や時間など)、メインビジュアル、メッセージなどが載っており、展示会の案内状の役割を果たしています。
展示者が見に来てほしい相手に直接渡す・送る場合もありますが、ギャラリーや学校、お店にテイクフリーでそのまま置かれることも多いです。展示する身としては、1人でも多くの人に自身の展示に来てほしいもの。店頭に置いてあるDMをたまたま手にした人が来場者になるかもしれないので、展示の内容が伝わり、かつ「行ってみたい」と思ってもらえるデザインにすることはとても重要です。
写真を使うのかイラストにするのか、どれくらい情報を記載するかなど、工夫できるポイントもいっぱいです。
● 話題のDM、五美大展
<筆者私物をスキャンしたもの >
SNS上で話題になった、今年(平成30年度)、第42回の五美大展のDM。目にした方も多いのではないでしょうか。皆さんはどう感じましたか?
制作者は、多摩美術大学のグラフィックデザイン学科の教授である服部一成(はっとり・かずなり)さんです。取材に対し、多摩美の広報担当は、「服部一成教授はデザイナーとして、既成の概念にとらわれないグラフィックの表現を続けてきました。若い美術家たちの展覧会である五美大展に対しても同様です」とのコメントを発表しています。
参考 https://www.j-cast.com/2019/01/21348489.html?p=all
この記事の筆者である私・齊藤は、多摩美 油画専攻の4年生。五美大展にも作品を出展する予定です。
正直このDMを見た時は、フォントと図との違和感、ちぐはぐさにびっくり……という感想を抱きました。しかし、批判されているほど酷い仕上がりだとは感じず、アーティストの平山昌尚(ひらやま・まさなお)さんなどの作品を思い出すデザインだと感じました。
しかし、五つの美大が集まる展示。無難で安定感のあるデザインの方が良いのではないか?と思ったのも、また事実です。
友人たちは、
・うーん、わからない
・好き、そんなに批判するほどではないのでは?
・話題になったから、それはもうDMとして成り立っていると思う
・近年のものよりもいい、むしろラッキーだ
・自分は好きだが、美術に興味がない人に渡すのは抵抗がある
などと、反応はさまざま。美大生の中でも賛否両論の議論が起こっていました。
賛否はあれど、多くの人に五美大展の存在が知れ渡ったのは良いことです。展示される予定の作品はクオリティの高いものばかりなので、興味が湧いた人は、ぜひ国立新美術館で作品達を見ていただきたいです!
ちなみに、過去3年間のDMは以下のようなデザインでした。
▼平成29年度(2018年開催)
<引用 | http://www.musabi.ac.jp/student_life/event/degree_show/y2017/ >
▼平成28年度(2017年開催)
<引用 | http://www.musabi.ac.jp/student_life/event/degree_show/y2016/ >
▼平成27年度(2016年開催)
<引用 | http://www.musabi.ac.jp/student_life/event/degree_show/y2015/ >
確かに、今年のデザインは、過去のものと比べるとすごく斬新ですね。拒否反応が出ることも想定したうえで、うまく利用し制作したのかもしれません。
●美大・芸大の近年のDMを見てみよう
卒業制作を展示しているのは五美大展だけではありません。毎年大学ごとに学校の敷地内で卒業制作の展示が行われ、DMも制作されています。学内展のDMは、公募で学生から案を募集している大学もあります。4年間その大学で学んだ学生が制作するDMを比較すると、”その大学らしさ”が見えてくるかもしれません。ここでは、大学ごとに今年のDM、過去3年分のDMをご紹介します。一気に振り返ってみましょう!
武蔵野美術大学
今年のDM
▼平成30年度(2019年開催)
<引用 | http://www.musabi.ac.jp/student_life/event/degree_show/ >過去3年のDM
▼平成29年度(2018年開催)
<引用 | http://www.musabi.ac.jp/student_life/event/degree_show/y2017/ >
▼平成28年度(2017年開催)
<引用 | http://www.musabi.ac.jp/student_life/event/degree_show/y2016/ >
▼平成27年度(2016年開催)
<引用 | http://www.musabi.ac.jp/student_life/event/degree_show/y2015/ >
多摩美術大学
今年のDM
▼平成30年度(2019年開催)
<筆者私物をスキャンしたもの >過去のDM
▼平成28年度(2017年開催)
<引用 | http://www2.tamabi.ac.jp/cgi-bin/tx/news/?paged=6 >
▼平成27年度(2016年開催)
<引用 | http://www2.tamabi.ac.jp/cgi-bin/alt/xevent/wp-content/uploads/2016/02/20160203143326_001.jpg >
東京造形大学
今年のDM
▼平成30年度(2019年開催)
<引用 | https://www.zokei.ac.jp/campuslife/zokeiten/ >過去3年のDM
▼平成29年度(2018年開催)
<引用 | https://www.zokei.ac.jp/campuslife/zokeiten/ >
▼平成28年度(2017年開催)
<引用 | https://www.zokei.ac.jp/campuslife/zokeiten/ >
▼平成27年度(2016年開催)
<引用 | https://www.zokei.ac.jp/campuslife/zokeiten/ >
東京藝術大学
今年のDM
▼平成30年度(2019年開催)
<筆者私物 >過去3年のDM
▼平成29年度(2018年開催)
<引用 | https://www.geidai.ac.jp/information/student_activity/graduation_work/h29 >
▼平成28年度(2017年開催)
<引用 | https://www.geidai.ac.jp/information/student_activity/graduation_work/h28 >
▼平成27年度(2016年開催)
<引用 | https://www.geidai.ac.jp/information/student_activity/graduation_work/h27 >
こうして見ると、卒業制作展のDMデザインは縦型のものが主流な印象を受けます。多くの人が情報収集に使うスマートフォンで見ることを考えても、縦型の画像だと大きく表示できますね。
また、DMデザインがそのままパンフレットやマップ、学内のサインに使われることもあります。展示を見に行った際は、自分がデザインをするならどういったものにするのか、どういったデザインが魅力的か……というところに注目してみるのも楽しいと思います。
●最後に
それぞれの大学のDMを一気に見てみると、学校ごとの傾向もなんとなく感じられました。特に武蔵野美術大学のDMは、近年のものは”タイポグラフィの手法を用いて色はほぼモノクロ”という特徴が分かりやすいです。
東京造形大学は近年、イラストレーションを入れているデザインが多い印象です。丸の図像が目立つことと、一つ大きなモチーフを描いている部分も共通しています。反対に、多摩美術大学、東京芸術大学は年によってさまざまで、傾向はあまりないように見えますが、意図的にバラバラなデザインを選んでいる、ということもあるのかもしれません。
卒業制作展のDMを見比べるだけでも、学校ごとにデザインの毛色が違うというのがわかりましたね。これからDMをデザインしようと思っている人の参考になれば嬉しいです。
(2019.2.15)
著者
はたらくビビビット
ポートフォリオとデザインのリファレンスメディア