特集
住まい探しの「LIFULL HOME'S」でお馴染みの株式会社LIFULL。いま、LIFULLのブランディングに注目が集まっていることをご存知でしょうか?世界最大のブランディングファームであるインターブランド社主催の「Japan Branding Awards 2021」において、最高賞である「Best of the Best」を受賞するなど、日本で最もブランディングが評価されている会社のひとつです。
本記事では、そんなLIFULLのデザイナーの方々に、「ブランドデザイン」の考え方や制作に活かせる視点を伝授いただきます。ブランドデザインは、デザインの力を大いに発揮して企業の経営戦略や事業拡大に貢献する、これからのデザイナーに求められる重要なトピックスです。
LIFULLさんの事例から、ブランドデザインのプロの考え方や視点を学び、自身の制作に取り入れましょう!
編集・執筆 / KIMURA , YOSHIKO INOUE
撮影・デザイン(トップ画像) / YUKIKO OCHIAI , MIYU YAMADA
こんな人に読んでほしい
- ブランドデザインが好き、興味がある
- ブランディングとはなにか知りたい
- 自身の制作にプロのエッセンスを取り入れたい
- 「LIFULLデザイン」について知りたい
お話を伺ったのは……
株式会社LIFULL
LIFULLは「あらゆるLIFEを、FULLに。」をコーポレートメッセージに掲げ、個人が抱える課題から、その先にある世の中の課題まで、安心と喜びをさまたげる社会課題を、事業を通して解決していくことを目指すソーシャルエンタープライズです。
現在はグループとして世界63ヶ国でサービスを提供しており、主要サービスである不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME'S」をはじめ、空き家の再生を軸とした「LIFULL 地方創生」、シニアの暮らしに寄り添う「LIFULL 介護」など、この世界の一人ひとりの暮らし・人生が安心と喜びで満たされる社会の実現を目指し、さまざまな領域に事業拡大しています。
2021年にはブランディングデザインの国内アワード「Japan Branding Awards 2021」を受賞しています。
▼関連リンク
・コーポレートサイト https://lifull.com/
・不動産・住宅情報総合サイト「LIFULL HOME'S」
・デザインポートフォリオサイト「LIFULL DESIGN」
・LIFULLが描く未来と解決に取り組む社会課題「LIFULL アジェンダ」
・LIFULLクリエイティブチームのnote「LIFULL CREATIVE」
三宅 太門みやけ・たかひろ|シニアアートディレクター
IAMAS卒。2018年LIFULLに中途入社。クリエイティブ本部デザイン部ブランドデザインユニット長。LIFULLのブランドデザインの基盤となるブランドデザインガイドラインやLIFULL Font Familyの開発から自社サイトや新規事業領域のサービスのアートディレクションなど、一貫したブランド体験の構築を目指したデザインを担当しています。
上垣 陽和うえがき・ひより|デザイナー
京都芸術大学(旧京都造形芸術大学)情報デザイン学科卒。2019年LIFULLに新卒入社。クリエイティブ本部デザイン部サービスデザインユニットサービスデザイン2グループに所属。不動産・住宅情報サイトLIFULL HOME'Sの売買領域や不動産会社に向けた業務支援サービスの開発など、ユーザー・クライアントに寄り添って、より良い住み替え体験を実現するためのUIUXデザインを担当しています。
岡野 颯おかの・そう|デザイナー
京都工芸繊維大学大学院デザイン学専攻卒。2020年LIFULLに新卒入社。クリエイティブ本部デザイン部コミュニケーションデザインユニットに所属。SNS施策・広告・ノベルティグッズ・自社メディアサイト「LIFULL STORIES」など、LIFULLと生活者の接点になる媒体のクリエイティブを中心に担当しています。
目次
◎ブランディングとは?ブランドイメージの戦略的な設計
POINT
・ブランディングとは……顧客が連想するブランドイメージを戦略的に設計するもの
・事業会社でブランディングを行う魅力は、ブランドを継続的に育てられること
ーシニアアートディレクターの三宅さんにお話を伺います。LIFULLさんの考える「ブランドデザイン」とはどのようなものですか。
三宅さん:LIFULLでは、暮らしや人生にまつわるさまざまな事業を展開していますが、サービスやテクノロジーの同質化が進み、類似事業が多く登場しています。企業成長のためには「生活者から選ばれる価値」を設計し、差別化を生み出すことが不可欠です。そこで重要なのが、ブランディングです。
弊社でいうと、「LIFULL」というブランドを戦略的に設計していく活動です。
ブランディングというと、広告やコミュニケーションといったプロモーションを想起しがちですが、事業戦略と一体となって考える戦略的アプローチだと考えています。
三宅さん:LIFULLのクリエイティブ本部では、一貫した企業姿勢を発信し、ブランドを構築するというミッションを担っています。デザイナーの他にも、社会課題の発見・事業創出サポートを行うチーム、マスターブランド戦略の立案とそれに紐づくコミュニケーションの設計を担うチーム、クリエイティブ戦略の進捗度を管理・推進するチームなどが、クリエイティブ本部に所属しており、本部全体でブランド構築に取り組んでいます。
ーブランディングというと外部の専門パートナーが手掛ける場合もあると思いますが、クリエイティブ本部で一気通貫できるのは事業会社*ならではですね。
*事業会社……自社サービスを展開する企業のことをここでは指しています
三宅さん:そうですね。クライアントワークで顧客のブランディングに関わるデザイナーの場合、例えばロゴマークの開発やプロモーションなど、一時的な関わりになりがちだと思います。事業会社で行うブランディングの面白みは、取り組みを数値で計測し、ゴールに向かって試行錯誤できることではないでしょうか。顧客がLIFULLのサービスと接点を持つさまざまな場面において、一貫したブランドらしさを構築できるというのも魅力ですね。
◎コーポレートフォントの継続的な改良とブランディングの効果測定
POINT
・LIFULL Fontは社員の利用状況に合わせて進化を続けている
・ブランディングの効果は数値で測れる
ーLIFULLさんの“らしさ”を構築している一つの要素に、オリジナルのコーポレートフォント「LIFULL Font」がありますよね。
三宅さん:2017年に「株式会社LIFULL」へ社名変更した際、LIFULLをマスターブランドとして、LIFULLから提供されるさまざまなサービスによって、あらゆる人のLIFE(生き方・暮らし・人生・生活)を、安心と喜びで満たしていくという目的を定めました。そして、LIFULLブランドを社内外に浸透させていくための戦略を立てました。その施策の1つが、LIFULLのオリジナルフォントの開発でした。
社名変更当時はロゴ制作のために開発された1ウェイトのみでしたが、利用範囲やシーンを加味して6ウェイトまで増やして全社に共有しました。それを各サービスや社内資料など、いろんな場所で活用してもらえるように改善を続けています。
ーフォント制作後、社内浸透に向けたアクションが起こせるのもやはり事業会社だからこそでしょうか。具体的にはどのようなことをされていますか?
三宅さん:フォントの利用状況を全社向けアンケートで把握したり、フォントの理解を促進するためのポータルサイトを制作したりしています。アンケートでは、実際の利用シーンや現時点で抱えている課題を尋ね、良いところは伸ばし、課題は解決策を考えます。
その解決策の1つとして生まれたのが、「LIFULL Font Mono」という数字のみ等幅に設計されたフォントです。アンケートの回答で、「LIFULL Fontを利用して表形式で数字を並べるドキュメントを制作する際に、桁が揃って見えないため使えない」というコメントがあり、チームで回答者にヒアリングを行い、詳しく利用状況や課題を把握しました。少しでも多くの環境で利用できるよう、数字を等幅に揃え、かつ数字同士の違いがはっきりとわかるように造形も変更したフォントを開発し、さまざまなシーンで利用いただいています。
ポータルサイトでは、フォントの使用ルールや特徴、設計思想など、一人ひとりがフォントを理解を深め、利用する一歩を踏み出せるページとしてアップデートを続けています。
ーデザイナーが作って終わりではなく、利用状況や課題を吸い上げて改良を重ねているのですね。
「デザインがブランディングに対してどのような効果があるのか」はどのように測るのでしょうか?
三宅さん:デザインのみでブランディングにどのような効果があるのかを測ることは難しいですが、デザインなくしてブランドは築けないと思っています。デザイン経営宣言のレポートでは、デザインの投資効果について言及されていますね。(参照:「デザイン経営」宣言5ページ)
LIFULLでは、ブランド構築に関する活動に対しての投資額(予算)が年間で決められており、その投資に対して認知や業績にどのような影響があるかをシミュレーションし、目標数値を設定しています。数値に関しては、アンケート調査などのマーケティング手法を用いて調査しています。
経過は良い点・課題点の原因の仮説を立てて、クリエイティブ本部のメンバーに共有され、各組織の施策や次の戦略や戦術に活かされています。
ーどれくらいブランドが知られているか、マーケティング手法を使えば数値化して測ることができるのですね!
◎「LIFULLデザイン」の実例と若手デザイナーの活躍
POINT
ブランディング活動が社内浸透していると……
・複数サービスが展開されていても、企業として伝えたいメッセージがぶれない
・建設的な議論ができ、意思決定がスムーズ
ー現場のデザイナーの方々には、ブランディング活動はどのように浸透しているのでしょうか。若手デザイナーのお二人にもお話を伺ってまいります!上垣さん、岡野さんよろしくお願いします。
上垣さん:よろしくお願いします!
私はLIFULL HOME'Sの売買領域のサイトをメインに、現在はLIFULL HOME'Sのクライアントに向けた業務支援サービスのUI・UXデザインに携わっています。
学生時代は紙モノのデザイン、映像編集などさまざまなメディアでの表現を学んでいました。
リサーチしてアイデアの種を見つけ、コンセプトを作ってと、いつも「他者に何をどう伝えるか」を意識しながらデザインしていました。入社後はクリエイティブ本部内の部署を横断して業務を行い、2年目からLIFULL HOME'Sのデザインを担当しています。
岡野さん:僕はLIFULLやLIFULL HOME'Sと生活者の間にある接点をデザインする仕事をしています。わかりやすくいうと主な担当はプロモーション領域ですね。ノベルティやSNS施策、自社メディア、広告など、幅広い媒体のクリエイティブに従事しています。
学生時代はインテリアデザインや建築を専攻していましたが、産学連携のプロジェクト活動に積極的に取り組んでいて、その過
程でグラフィックやWeb関係に興味を持ち、LIFULLへ入社するに至りました。
ーお二人が携わってきた業務のなかで、LIFULLのブランディングの価値観が現れているなと感じた経験はありますか。
上垣さん:はい。LIFULL HOME'Sのハザードマップのプロジェクトで、ヒートマップのバリアフリー対応をしたときのことです。このプロジェクトに取り組んだ背景は、近年増加している集中豪雨等の水害状況を背景に、2020年8月、水害ハザードマップにおける物件の所在地の説明義務化が施行されたことです。
説明義務自体は不動産会社に向けたものでしたが、ポータルサイトで物件を探す段階からリスクを知ることで、私たちが目指す「ユーザー一人ひとりにとって安心して住み替えができる」体験を提供できました。
私が担当したのは、2021年6月に新規機能として追加された『洪水・土砂災害・地震ハザードマップ』におけるヒートマップのバリアフリー対応です。災害リスクを色分けしたマップ機能のユーザーテスト(新機能やプロダクトを想定通りに操作してもらえるか、社内外で試すこと)を行った際、一番災害リスクの高いエリアを「リスクがないエリア」と認識した方がいらっしゃったんです。話を聞くと赤が正しく見えていなかったことがわかり、一般色覚の人もそうでない人も正しくリスク判断ができるように対応することになりました。
▼ハザードマップ機能についてはこちらのnoteでも詳しいお話が!
ー想定外の追加業務だったかと思いますが、その意思決定はスムーズに行われたのでしょうか。
上垣さん:実際に利用するユーザーのうち、色覚に対する配慮が必要な人が多いわけではありませんし、リリース納期は変えられなかったため、この対応を行うべきか提案するハードルは高かったです。最終的にはプロジェクトメンバー全員が納得して「LIFULL HOME'Sとして一人でも多くの人が安心して住み替えができるように対応すべき」という結論に至ったのですが、LIFULLが目指す提供価値の共通認識がチーム内にあったからこその判断ではないかと思っています。
ーブランドの価値観が社内で浸透していると、建設的な議論が行えるのですね。岡野さんはいかがでしょうか。
岡野さん:僕からは2021年にLIFULLからD.LEAGUEリーグ(プロダンスリーグ)へ参戦したLIFULLのダンスチーム「LIFULL ALT-RHYTHM(ライフル アルトリズム)」についてお話しします。
LIFULL ALT-RHYTHMは、ダンスという“人種や年齢、性別、身体的特徴や言語も関係なく、あらゆる人が参加できるアートスポーツ”を通して、世界で最も多様性を認め、社会課題解決に向き合うという企業姿勢を表現しています。そのために披露するダンスのテーマ設定から、衣装、楽曲、関連するデザインまで一貫したコミュニケーションを、ダンサーたちとともにチーム一丸となって作り上げています。
岡野さん:正しくロゴや配色などを扱うビジュアルの一貫性はもちろんのこと、どんなに小さなデザインでも“LIFULLらしくないデザイン”をしないようにしてます。例えば誰かが傷ついたり嫌な気持ちになるようなビジュアルは作らない、情報を隠したり誤解を与えないなど……。誰が見ても前向きになるような、まっすぐでやさしく、誠実なデザインを心がけています。意図しなくとも、多角的な視点を持っていないと誰かが傷つくデザインになってしまうことはあり得るんですよね。先輩や同僚たちと意見交換しながらその視点を鍛えています。
◎「らしさ」の言語化
「LIFULLデザイン」の3原則と学生の制作に活かせる視点
ー常に複数サービスを展開しながらも、企業のメッセージや世界観に一貫性のあるLIFULLさん。「LIFULLらしいデザイン」を実現するためのルールはありますか。
三宅さん:最近「LIFULLらしいデザイン」の3原則を策定し、デザイナー間の共通言語として持つようにしました。「まっすぐシンプルなデザイン」「優しく誠実なデザイン」「前向きな変化を生むデザイン」。各プロジェクト、施策の企画段階から最終的なアウトプットまで、デザイナーはこの原則に沿って検討・検証し、クオリティを上げています。
以前も「これはLIFULLらしくないよね」 「LIFULL HOME'Sだったらこう判断するよね」という共通認識はデザイナーに限らず事業運営側も持っていたのですが、3原則として改めて言語化したのは最近でした。こういった共通認識がデザインプロセスのさまざまな場面で判断基準となり、より「らしい」価値を作るための建設的な環境につながっていると思います。
ーありがとうございます!今日お話いただいた「ブランディング」について、デザインを学ぶ学生が日頃の制作で活かすとしたら、どんなアドバイスがあるでしょうか。
三宅さん:学生さんが自身の制作に活用できるところで、3つの視点を挙げてみます。
【ブランディングを考えるときに持っておきたい視点】
①ブランドの存在意義を明確にすること
②「らしさ」を作り言語化する
③一貫性のある体験を作る
①ブランドの存在意義を明確にする[差別化]
このブランド自体がなぜ存在しているか、目的やゴールはなにかを明確にしましょう。
②「らしさ」を言語化する[独自性]
なぜ存在しているのかが明確になったら、同時にそのブランド“らしさ”を考え、短い言葉で言語化してみてください。
「らしさ」を探るコツ
●まずは抽象度の高い言葉でもOK それを軸にマッピング
「かっこいい」「やさしい」「冷たい」「温かい」……シンプルな言葉を軸に「作ろうとしているものはどちら寄りか」マッピング。「温かくない」など、否定形のニュアンスの方が正しい場合もあるかもしれません!
●頭の中でも、紙に書いてでも、グループワークでも
「らしさ」を探る作業にはいろんな方法があります。いきなり言語化が難しい場合は、画像を集めてイメージボードのようなところから始めるのも良いでしょう。
③一貫性のある体験を作る[造形]
②で共通言語が明確になると、デザインのコンセプトや方向性が定まりやすいと思います。その内容をもとにコンテンツやサービスの理想的な体験を設計してみてください。
三宅さん:学生の環境だと「自分が何を作りたいか」を大切にする部分があると思います。良いものを作るためにはその意思も非常に重要ですが、一方で、その制作物自体がなぜ存在するか、誰に対してどう思ってほしいかを言語化し、それをどのような接点・体験で構築できるかを考えていくと、皆さん「らしさ」のある表現、ひいてはブランドデザインの実践に繋がっていくのではないでしょうか。
ーデザイナーの皆さん、ありがとうございました!
ーLIFULLさんは複数のサービス(ブランド)をさまざまな目的で展開されながらも、根底のメッセージや全体的なイメージに一貫性を感じます。マーケティングや広報などデザイン領域以外のプロフェッショナルと共に、全社でブランディングをされているのですね。
伝授いただいた視点を自主制作に活かし、一段上のアウトプットを目指しましょう!
LIFULLさんの新卒採用情報
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(2022.11.4)
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