美大などでも専攻することができる「版画」についてですが、みなさんはどのくらいの知識をお持ちですか?小学生の頃など、気づかないうちに版画に触れている方が多いと思います。実はその版画にはたくさんの種類があり、たくさんの作品が存在します。今回の記事では、聞いたことはあるけど詳しく知らない方が多い「版画」について詳しくご紹介します。
編集・執筆 /yamaguchi, AYUPY GOTO
●重ねる絵画、版画って何?
版画の基本用語
- 凸版(とっぱん)
- 凹版(おうはん)
- 平版(へいはん)
- 孔版(こうはん)
インクを乗せたい箇所の輪郭を彫り、出っ張りを作る技法(木版画)
彫ったり削ったりして、インクを詰める溝を作る技法(木版画、銅版画)
特殊な画材を使い、平らな所に描画しインクを乗せる技法(リトグラフ)
孔(あな)を開けた箇所にインクを通過させ、紙に乗せる技法(シルクスクリーン)
絵画と言えば紙やキャンバスに直接「描く」と言うことが基本ですが、版画では「重ねる」作業が中心となってきます。
版画の技法によって適した素材が異なるのですが、基本的には木版画は木、銅版画や銅版を使い、その表面を削ったり彫ったりすることで描画していったものが版画作成の基礎である「版」になります。「版」を何枚も「重ねる」ことで、出てくる形や色の調子をうまく利用して表現していくのが版画の醍醐味ともいえるでしょう。
そしてもう1つ、版画の最大の特徴は同じ作品を大量に生産できることです。「版」の形状や保存状態に気をつかい、さらに刷る環境さえ整えておけば、半永久的に同じ作品を生み出すことができます。つまり、基本的に一点物になってしまう美術作品と比べ、制作者が作品の数を通して商業的な価値もコントロールできてしまうのです。
●たくさんの技法がある
木版画
主に木の板を使用して、版を作っていきます。凸版の部分に水彩絵具を乗せ、バレン等を使い手刷りで刷るというのが基本です。浮世絵などもこの木版画技法が使われているものが多いです。水彩絵の具を使用する場合は、水分調節で色の濃さを変えることができます。
Poème No.9 海 恩地孝四郎 1952年 <引用http://www.art-it.asia/top>
銅版画
ニードルなどで銅版に傷をつけていき、凹版部分に油性インクを詰め、プレス機を使い刷っていきます。主にお札などのプリントに、この銅版画技法が利用されており、ボールペンで描いたような表現が特徴的です。
ドードー Edouard Poppig 1841年 <引用http://www2u.biglobe.ne.jp/KA-ZU/index.html>
リトグラフ
アルミ板に油性物質を含んだ画材で描画して、版を制作していきます。主に水と油の反発による版画表現なので、制作途中は版に触れることはできず、一番大変な版種ですが細かい表現や多彩な色を表現をしたい時に優れています。
Divan Japonais ロートレック 1892年 <引用https://blogs.yahoo.co.jp/p_dog1192>
シルクスクリーン
アンディーウォーホルやリキテンシュタインなど、ポップアートでよく知られるシルクスクリーンは、シルク(絹)の穴に、表現したいようにインクを通過させるステンシルのような技法です。Tシャツやトートバッグプリントにもよく用いられるので、みなさんにとっても一番身近な表現技法だと思います。
マリリンモンロー Andy Warhol 1967年 <引用http://blog.unde.jp>
●版画を観に行こう!
都内では珍しい、版画の企画展はもちろんのこと、版画に関係した作品が常設展示されています。予約すれば使える貸し工房もあり、版画好きにはたまらないスポットです!
町田市立国際版画美術館
<引用 |
http://hanga-museum.jp >
〒194-0013東京都町田市原町田4-28-1
●日本が生んだ伝統芸術!浮世絵版画
富嶽三十六景 葛飾北斎 1833年 <引用https://www.adachi-hanga.com/ukiyo-e/>
歴史を知ろう
日本の版画作品の代表として一番有名な浮世絵をご紹介していきたいと思います。本来肉筆1点物だった浮世絵は、絵を売る対象が貴族から一般庶民に移り変わり、たくさんの枚数が必要になったため、制作媒体が版画になったようです。浮世絵の日本らしく瑞々しい色彩表現は、木版画ならではですね。
分業制?浮世絵版画ができるまで
浮世絵の作者と聞くと誰が思い浮かびますか?歌川広重や葛飾北斎はよく聞きますよね。しかし、作者と言っても彼らが浮世絵の全てを作っているわけではないのです。
図のように浮世絵版画では分業制スタイルが基本だったのです。
まずプロデューサーとなる版元が、どのような作品を作るのか考案します。次に、版元は図案制作に取り掛かる絵師(葛飾北斎や歌川広重はここに当たる)に、画面のどの位置にどのくらいの人物を配置するのか?舞台背景はどのようにするのか?等、細かく指示していきます。それに引き続き彫り師、刷り師にも、細かい彫りのニュアンス、刷るグラデーションを施すのか、ベタにするのか指示して、一枚の浮世絵版画が作られていくのです。
絵師、彫り師、刷り師は版元の注文をいかにイメージ通りに仕上げるかが、職人としての使命です。職人一人一人の力が合わさり完成する版画作品は、どれも本当に素晴らしいものとなっております。
大衆文化として発展していった浮世絵は、短時間でたくさんの枚数を世間に発表していかなければならなかったからこそ必然的に定着していった制度なのでしょうね。
●浮世絵を観に行こう!
太田記念美術館
<引用 |
http://www.ukiyoe-ota-muse.jp >
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前1-10-10
すみだ北斎美術館
<引用 |
http://hokusai-museum.jp >
〒130-0014 東京都墨田区亀沢2丁目7番2号
●おわりに
日常ではなかなか体験することができない版画ですが、浮世絵を筆頭に日本の歴史や文化と密接な関わり合いのある素敵な芸術作品です。記事でご紹介した美術館では、毎回素敵な作品の展示が行われているので、機会があれば観に行ってみるのはいかがでしょうか。
(2017.5.15)
著者
多摩美のファインです。音楽聴くことが趣味です!
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