暑い日が続いていますが、みなさんはどのようにお過ごしですか?
クーラーや扇風機で身体的に涼むのもいいですが、たまには精神的に、心の芯からゾッとする体験でヒンヤリした気分に浸ってみませんか。実は筆者はものすごく怖がりなのですが、怪談話やホラーゲームは大好きです。「怖ーい!」と叫び震えながらも、読んだり見たりするのがやめられません。そしてそれは絵画にもあてはまります。そんなわけで今回は、見たらきっとゾクゾクする、とびっきりの日本の幽霊画や世界の怖い絵をご紹介していきたいと思います! 絵画鑑賞をしながら身体を芯から涼しくして、暑い夏を乗り切りましょう!(※苦手な方はご注意ください!)
編集・執筆 / NISHIDA, AYUPY GOTO
○なぜか惹かれてしまう、怖い絵の魅力
幽霊画や残酷な絵、グロテスクな絵は世界に非常に沢山存在しています。絵画の役割とは美的な価値を創造すること。だとすれば、芸術家が美しいものを追究する中で、怖い絵たちはどうして存在し続けているのでしょうか。
それは人が、恐ろしいものや残酷なものの中にも「美しさ」を感じているからではないでしょうか。
恐ろしいものの持つはりつめたような緊張感の中で、あるいは残酷な熱量を立ち昇らせているような作者の怨念のこもった作品を前にして、私たちは震えながら、畏れながら、そこに確かな「美」を感じているのだと思います。だからこそ惹かれてやめられないのでしょう。
ゾクゾクと背筋を震わせながら、身の毛もよだつ怖い絵たちと対峙する体験は、この上ない快感も伴っています。さあ、心の準備は出来ましたか? 早速筆者がご案内する絵画世界の肝試しに参りましょう!
▼ ここまで読んでみて、幽霊画や怖い絵はやっぱりちょっと苦手かも! という方は是非こちらの記事をご覧になってみてくださいね。涼み方にも色々あります!
【暑い夏もスマホがあれば乗り越えられる?ユニークなスマホアプリ5選】
それでも平気だ! なんでも来い! というタフな方は是非記事の続きに進んでください。脳味噌からヒンヤリできること間違いなしです!
目次
1.日本の幽霊画(江戸時代から現代の幽霊画まで)
2.世界の怖い絵(悪夢的な世界・3回見たら死ぬと言われる絵)
3.怖い絵を見ることができる場所(東京・京都で寺巡り)
1.日本の幽霊画(江戸時代から現代の幽霊画まで)
幽霊画って?
幽霊とは、死者が成仏しないで、この世に姿を現したもの……
幽霊画(ゆうれいが)とは、江戸時代から明治時代にかけて描かれた日本画や浮世絵の様式のひとつです。文字通り死者の魂、幽霊を描いた絵を指します。一つのジャンルをなすほどに多く描かれました。
黒く長い髪を垂らし、白い着物を着て足元がすーっと消えている……そんな女性の幽霊のイメージを定着させたのは、江戸時代の絵師、円山応挙が描いた幽霊画だそうです。(※諸説あります)
死んだ人間がこの世に現れる幽霊の概念は、イギリスなど西洋世界でも見られます(幽霊屋敷と呼ばれる場所が多かったり、王侯貴族の霊が出るというロンドン塔などのスポットが有名ですね!)が、幽霊を絵に描く、いわゆる幽霊画がひとつのジャンルといえるまでに展開を見せたのは、日本美術に特有な現象だそうです。
ですから幽霊画を見る際には、画家たちが作品に込めた怨念と日本特有の文化を是非堪能してみてください!
こちらの幽霊画、ご覧になったことがある方が多いのではないでしょうか。江戸後期の画家・円山応挙が描いたとされる幽霊画の型は、腰から下がうっすらと消えているのが特徴的です。この姿が、いま一般的に「日本の幽霊」と言ったときに想像されるものの姿になっていったのでしょうね。
退廃的で妖艶な美人画で知られる江戸後期の浮世絵師・渓斎英泉(けいさいえいせん)によるこちらの作品は、嫉妬深くて夫に殺され、後妻たちを次々と5人も殺した幽霊だそうです。口から滴る血がなんだか艶めかしいですね。手に持った血の滴る生首もうっすらと微笑んでいるようで、恐ろしいなかにも品を感じます。筆者も大好きな作品のひとつです。
河鍋暁斎は、幕末・明治前期の日本画家で、狩野派の画風に浮世絵風を加え、筆墨の活気に富んだ作風を形成し、戯画や風刺画を得意としました。そんな暁斎の幽霊画であるこちらは、珍しく男性の幽霊が登場しています。
幽霊画といえば白い着物で黒髪の女の幽霊……というのが定番のイメージですが、男性が霊となって髪の長い生首をくわえてさまよっています。このような姿になるまでに、どんなドラマがあったのか想像するのも楽しいですね。
こちらは、静岡県出身の日本画家・松井冬子さんの作品です。松井冬子さんの作品は、恐怖と美をあわせ持った凄惨な世界観で知られています。この幽霊画は一見すると白い着物と長い黒髪の女性というスタンダードな幽霊画のようにも見えますが、衣の隙間から伸びる複数のチューブや腕に巻かれたタグなどから、「現代の入院患者が霊になった姿なのかな……」と想像でき、新しさや現代らしさを感じます。
FUYUKO MATSUI
2.世界の怖い絵(悪夢的な世界・3回見たら死ぬと言われる絵)
さて、今度は「幽霊画」ではありませんが世界の「怖い絵」をご紹介していきたいと思います。
みなさんはネット上の怪談などはお好きですか? ネット上での都市伝説のようなものの中に「3回見たら死ぬ」と言われる絵や画像があります。その中でも有名なのがズジスワフ・ベクシンスキーの作品です。
ズジスワフ・ベクシンスキー
ポーランドの画家。退廃的で「終焉の画家」と呼ばれるほどだが、主に死、絶望、破損、廃退、廃墟、終焉などをモチーフに扱い、不気味さや残酷さと同時に荘厳な美しさを感じさせる画風が特徴。独特の世界観から多くの支持を得た画家である。……彼の作品には総てタイトルがついておらず、作品の理論付けや詮索を非常に嫌った。(ウィキペディアより引用)
このような作風が人によってはとても恐ろしく感じられて、そのうち「3回見たら死ぬ絵」という風に噂されるようになりました。確かに初めて見た時は衝撃を受けましたが、見れば見るほど、怖さや不気味さの中にもそれを超越した魅力なようなものを感じてしまいます。
血の涙を流しながら、こちらをじっと見つめる顔……この絵も「3回見たら死ぬ絵」としてよく紹介されていました。死ぬほど恐ろしいと感じるかは人によると思いますが、確かにドキッとする作品です。しかし、筆者も何回も見ていますが、画像を見たからといってすぐに死んだりは(おそらく)しませんので、素晴らしい絵画を是非何度でもじっくりと鑑賞して堪能してみてくださいね!
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さて、「怖い」にも様々な種類がありますが、先にご紹介したベクシンスキーの絵が悪夢のような得体のしれない怖さだったなら、これからご紹介するのはもっと直接的で生々しい、グロテスクな「怖い」絵です。(※苦手な方はご注意ください)
こちらは、フランドルの画家でバロック絵画の巨匠であるルーベンスの作品です。
ギリシア神話に登場する、「蛇の頭髪を持ち、見る者を石にしてしまう」と恐れられていたメデューサの頭部が、英雄ペルセウスによって切り落とされたところが描かれています。切り落とされた首から流れる血や、カッと見開かれたメデューサの眼が生々しいですね。
こちらは、スペインの宮廷画家で、肖像画・風俗画・宗教が画や幻想的などの絵を描いたゴヤの作品です。サトゥルヌスとはローマ神話に登場する農耕神のことで、英語でのサターンです。
「サトゥルヌスは自分の子に殺されるという予言に恐れを抱き、5人の子を次々に呑み込んでいった」という伝承がモチーフになっていますが、絵の中では、伝承のような丸呑みでなく、狂気に取り憑かれて自分の子を頭からかじり食い殺すという凶行に及ぶサトゥルヌスの様子がリアリティを持って描かれています。
3.怖い絵を見ることができる場所(東京・京都で寺巡り)
画像や画集で怖い絵を眺めるのも良いですが、やはり実際に見てみると、よりその迫力を感じることができます。
【全生庵】
【全生庵】
国内でも有数の幽霊画コレクションが所蔵されています。全生庵は、怪談で名をはせた明治の噺家・三遊亭圓朝の菩提寺であり、所蔵の幽霊画は圓朝ゆかりのコレクションが伝わったものだそうです。全生庵では、毎年、八月の一ヶ月間は幽霊画全幅を公開しているそうですので、この機会に訪ねてみてはいかがでしょうか。
住所:〒110-0001 東京都台東区谷中5丁目4−7
サイト:http://www.theway.jp/zen/
【曼殊院】
【曼殊院】
京都にある曼殊院、なんでもここにある幽霊の掛け軸は撮影すると不幸が降りかかり、結局撮影した人がネガごと寺院に渡しにくるのだとか。
実際に見たければ足を運ぶしかなさそうですね。画像が無いとなんだかとっても気になってきます。いつか見に行ってみたいです!
▲このような注意書きがあるのだとか。
【曼殊院】
拝観時間: 9:00~17:00(受付は~16:30)
拝観料 :一般600円 高校500円 中小学生 400円
所在地 :〒606-8134 京都市左京区一乗寺竹ノ内町42
サイト:http://www.manshuinmonzeki.jp/index.html
おわりに
さて、今回は夏にぴったりな日本の幽霊画・世界の怖い絵をいくつかご紹介してきました。無事に見終えることは出来ましたか? 背後は大丈夫ですか?
怖い絵は意外と沢山あります。そして、怖いはずなのにとても綺麗だったり、艶やかだったり、沢山の表情を持っています。
ご紹介したのは怖い絵の中でもほんの一部に過ぎません。是非この夏は、ゾクゾクできる一枚を探してみてはいかがでしょう。あなたにとって一番の怖い絵に出会えたら、きっと真夏でも布団をかぶってガタガタ震えていたくなるくらい、涼むことができますね! 暑い夏、たまにはそんな視点で絵画を鑑賞してみるのも刺激的で楽しいのではないでしょうか。
(2017.8.11)
著者
はたらくビビビット
ポートフォリオとデザインのリファレンスメディア