皆さんは【 コモディティ化 】という言葉を知っていますか?この言葉は主にマーケティングの世界で使われている用語です。しかし、近年ではブランドづくりに関わるデザイナーにとっても重要なキーワードとなっています。今回はコモディティ化が招いてしまう事態やどのようにデザインに関係してくるのかについてご紹介します。編集・執筆 / OSARAGI, AYUPY GOTO
イラスト / Miyagi Takumi
目次
- 1.コモディティ化とは?
- 2.コモディティ化が起こる理由
- 3.コモディティ化から経験経済へ
- 4.最後に
1.コモディティ化とは?
【 コモディティ化 (英:commodity)】とは、市場に流通している商品がメーカー全体の個性を失い、消費者にとってはどこのメーカーの品を購入しても大差のない状態のことです。つまり、他の商品と同質化し、競争相手との差別化ができなくなってしまった状態を意味します。
コモディティ化をすると、果てしない低価格競争の泥沼から抜け出せなくなります。
この状況にぴったりな例は「牛丼」チェーン店3社の低価格競争です。この競争は皆さんも記憶に新しいではないでしょうか。1社が低価格競争に乗り出したことで、品質やターゲットなどの違いがさほどなかった残り2社は価格で差をつけるしか差別化を測れなくなってしまったのです。その結果、価格を下げると言っても限界があり、従業員の労働環境が悪化してしまいました。このように、コモディティ化は自らの首を絞める経営にも繋がってしまいます。
2.コモディティ化が起こる理由
では、なぜ「個性」が失われていってしまうのでしょうか。その原因は大きく3つ考えられます。
①平均値志向
▶︎平均値を狙い、その商品の弱みを改善しようとしてしまう
一見良いことだと錯覚してしまいますが、弱みを消すことで一層「平均値」に近づき、その商品の独自性がなくなってしまいます。平均値を目指せば、多くのターゲットから好感を持たれますが、その分個性が薄くなります。ですから、逆に「強み」に磨きをかけることで差別化を測れるようになるのです。
②市場主義
▶︎市場の「ニーズ」に合わせ、結果的にそのメーカーの特徴、エッジを消してしまう
先ほどの平均値志向に似た部分があります。市場調査を重視すればするほど、様々な声に振り回され、結果的にメーカーの特徴をかき消してしまうことになります。そのため、もともとあったコンセプトを軸に、程よく市場の声を聞くことが重要です。
③過度の技術志向
▶︎商品が過剰機能、オーバースペック(過剰品質)で消費者が使いこなせない
日本では特にこの傾向が見られ、消費者の期待する「使用感」を大幅に超えた機能で溢れています。そのため、電化製品の場合、どんなに便利な機能が複数ついていたとしても使いこなせず、商品の違いを見つけることができません。そうして安売り競争へと陥ってしまうのです。
それでは、こうならないためには何をすべきなのでしょうか。そこで活躍するのが“ デザインの力 ”です。
3.コモディティ化から経験経済へ
こうしたコモディティ化から脱却すべく、メーカーが目をつけたのは“ 人々の経験 ”でした。
“ 商品は顧客が経験を得るための単なるモノにしか過ぎない ”
引用:SCOTT BEDBURY 2002 『なぜみんなスターバックスに行きたがるのか?』(講談社)
現在、モノの品質や機能性が成熟し、「商品経済」から「経験経済」へとシフトしています。あくまで商品には価値はなく、その商品によって人々に経験・感動の提供をすることに価値があると認識し始めました。消費者の経験を設計する、すなわちデザインをすることで付加価値をつけるのです。
その事例をいくつかご紹介します。
・株式会社SUBARU
「あなたとクルマの物語」がテーマ
『株式会社SUBARU(スバル)』は、日本の自動車メーカーです。SUBARUは「あなたとクルマの物語」をテーマに、「Your story with」というCMを作成しています。車に乗る経験はその人の人生の一部であると考え、「おとうと篇」「助手席篇」などそれぞれの人生を切り取ったショートドラマを描きました。ドラマの中で、商品であるクルマがどのように出てくるのか注目して見てみましょう。
・株式会社良品計画
「感じ良いくらし」の実現
『株式会社良品計画(りょうひんけいかく)』は、日本の無印良品(むじるしりょうひん)を展開する専門小売業者です。「感じ良いくらし」の実現のため、物作りをしています。生活の基本となる本当に必要なモノを、本当に必要なかたちでつくることを主軸としているのでメーカーの特徴が、ぶれることはありません。
最近ではモノとしての商品だけでなく、生活に深く関わる「食」の分野にも力を入れ、「Café&Meal MUJI」という飲食店もできました。このことからモノに注力するのではなく、「人々の経験」に価値を見出していることが見て取れます。
・ベン&ジェリーズ・ホームメイド・ホールディングス
楽しくなければやる意味がない!
『ベン&ジェリーズ・ホームメイド・ホールディングス(Ben & Jerry's Homemade Holdings)』は、アメリカ合衆国のベン&ジェリーズ(Ben & Jerry's)というアイスクリームで有名なメーカーです。ベン&ジェリーズでは「楽しい」を一番に考え、アイスクリームを食べる人も、それを作る人もみんなが楽しくなるような取り組みをしています。
2015年に、伝説的レゲエミュージシャンであるBob Marley(ボブ・マーリー)とコラボレーションした限定アイスクリームフレーバーがありました。その売り上げの一部は、彼の「1Love Foundation」に寄付され、ジャマイカの若者支援に生かされました。このように、アイスクリームをただ売るだけではなく、「買うことで誰かを応援する」ことに繋がるのです。
ベン&ジェリーズのHPを見てみると、メーカーが大事にしている価値観や関心など、まるで「一人の人」のようなはっきりした主張を感じ取ることができます。ただアイスクリームを売っているわけではなく、社会問題や環境問題などをメッセージと一緒にして売ることで、ファンを獲得しているのではないでしょうか。
4.最後に
コモディティ化すると価格を下げることでしか他の商品と差別化を図ることができなくなります。しかし、コモディティ化を防ぐことに一躍買うことができるのが「デザイナー」です。私たちは“ どうしたら人々が喜ぶのだろうか ”と試行錯誤をして、経験や感動をカタチにして与えることができます。ただ安く、品質がほど良く、機能が優れているだけではいい商品とは言えません。どれだけ消費者の人生経験を豊かにできるかに着目し、ものづくりをすることができたなら、人を引き付けることができる商品へと変わるのではないでしょうか。
2021/02/19 動画引用部分を更新
(2017.10.31)
著者
はたらくビビビット
ポートフォリオとデザインのリファレンスメディア