クリエイターとして活躍したいと考えている方であれば、一度はフリーランスとして個人で活動することを考えたことがあるのではないでしょうか。今回インタビューした児玉さんは、高校を卒業と同時に上京して、フリーのイラストレーターとして15年働き、その後Crevoに就職してクリエイティブアドバイザーとして活躍しています。デザイン・イラスト専門の学校に通わず、どのようしてクリエイターとして働くスキルを身につけたのか、15年間フリーランスを続けて何故Crevoへの就職を選択したのか、児玉さんに詳しいお話を伺いました。編集・執筆 / AYUPY GOTO
児玉 千尋こだま ちひろ
CreativeAdvisor
1999年にイラストのコンペ「ザ・チョイス」⼊賞。以降、フリーのイラストレーターとして仕事を開始。
2001年に個展を、2002年にアートイベントを開催。
2010年ごろから、紙媒体の仕事から、アパレルのイラスト、グラフィック、テキスタイルデザインに移⾏。複数の国内ブランドで数々のデザインを⼿がける。
2015年、Crevoに⼊社。フリーランスでのイラスト、グラフィックデザインの技術を⽣かし、イラストレーター/グラフィックデザイナーとしてクリエイティブ制作に携わるほか、クリエイティブアドバイザーとしてクリエイターのフロントに⽴ち、案件全体のクリエイティブのコントロールやサポートも⾏うなど、クリエイターとしての新しい働き⽅を提案している。
世界中のクリエイターが得意を活かす
動画制作のプラットフォーム。
― Crevo株式会社は、どのようなお仕事をされている会社なのでしょうか。
児玉さん:⾼品質な動画を世界中のクリエイターをアサインして制作できる、動画制作のクラウドソーシングサービス「Crevo(クレボ)」を運営しています。「Crevo」には世界100カ国、2,500名以上のクリエイター(アニメーター・イラストレーター・ディレクターなど)が登録しており、社内スタッフが案件に合わせてクリエイターを選定し、進行管理しながら動画を制作しています。社内スタッフがサポートすることで、動画のクオリティが担保されています。通常、制作会社に動画制作を依頼すると、その企業に所属しているクリエイターが動画を制作するため、作⾵が限定されがちなのですが、Crevoなら世界中から好きなテイストのクリエイターを選んでいただくことができるんです!2014年3⽉にサービスを開始して、現在では制作依頼企業数が500社以上となっています。
― 児玉さんは「Crevo」でどのようなお仕事を担当されているのでしょうか。
児玉さん:「クリエイティブアドバイザー」として、「Crevo」で制作する動画のクリエイティブコントロールを行っています。「Crevo」の動画制作に携わるクリエイターは、世界中さまざまな場所に住んで制作しているので、全員で顔を合わせて打ち合わせをすることが出来ないんですよね。なので私が、クライアントの意図を吸い上げた上で、その意図をクリエイターの方々に伝えています。
一つ一つの動画制作に、いろんな方が携わっているんですよね。動画の企画やストーリーを考えて絵コンテを描くディレクター、グラフィックを制作するイラストレーター、イラストをアニメーションにおこすアニメーター、動画制作の全てのクオリティ管理をするクリエイティブアドバイザー。クリエイターさんそれぞれに得意な能力があるからこそ完成しているお仕事です。クリエイティブアドバイザーとして働いているスタッフは社内に5名ほどいて、大体1人20案件ほど持って仕事を回しています。
― クリエイターが2500人以上いたらお仕事を依頼するクリエイターの選定が大変そうですね。案件とクリエイターのマッチングは、どのように判断しているのでしょうか。
児玉さん:クライアントにヒアリングに伺った際に、イラストのテイストなども確認しているので、各案件に合いそうなイラストレーターをその場で何名かピックアップして提案しています。クライアントさんのイメージが固まっていれば、クリエイターさんの選定に困ることはありません。常に登録しているクリエイターの特徴を把握しているので、提案されるイメージにマッチするようなクリエイターは、意外とスムーズに決まります。また、少しでも多くのクリエイターさんと色んな表現の幅でお仕事をしたいので、アサインしたことないクリエイターさんを積極的に提案するこようにしています。
― どういった業界からの依頼が多いのでしょうか。
児玉さん:動画で説明しないと伝わりにくいような、サービス開発会社さんからの依頼が1番多いと思います。また、表現方法ですとアニメーションでの制作を依頼されることが多いですね。今までなかった新しいサービスの使い方やメリットは、アニメーションで噛み砕いて表現した方が伝わりやすく、ユーザーの理解度をより高めることができます。特にスタートアップ企業は、概略的で世の中に今までないようなサービスを作られることが多いので、文章だけで説明するのが難しく、そういった意味でもアニメーション動画は効果的です。
― 「Crevo」には世界中のクリエイターが登録していると伺いましたが、そのクリエイターの方々はどのようにして集めたのでしょうか。
児玉さん:私がまだいなかった頃のことなので聞いた話ではありますが、サービスが駆け出しだった頃は、インターネットで探して活用してこちらからフリーのクリエイターさんに声をかけていたそうです。
また、動画クラウドソーシングサービスを運営する前に「デザインクルー」というロゴやフライヤーなどのデザイン制作物をクリエイターに依頼できる、デザイン制作専門のクラウドソーシング事業を行っていたのですが、そのサービスに世界中のクリエイターさんが登録してくださっていたので、「Crevo」が立ち上がった時には「デザインクルー」のクリエイターさんたちが口コミで宣伝してくださって、「Crevo」の登録者数も増えました。
高校卒業と同時にフリーランスデビュー
コツコツと営業して、実績を積み重ねる日々。
― 学生時代はどのように過ごされていましたか。
児玉さん:私は福井県出身で、県内の美術系高校に通っていました。デッサンや油画などの基礎的な技術や知識は学生時代に身につけました。当時、応募したイラストレーターの登竜門的なコンペに入賞し、そこからイラストのお仕事をいただけるようになったんです。
それで少し私も調子にのってしまって(笑)卒業後は大学や専門学校には進学せず、フリーランスのイラストレーターとして東京に出ました。
― 高校を卒業してそのまま独立されたのですか!すごい行動力ですね……!
児玉さん:今思えば結構勇気がいる行動だと思いますが、当時は失敗することなど全く考えていなくて、怖いもの知らずだったようです(笑)。最初は、食べていけるほどイラストのお仕事がなかったので、歯医者でアルバイトしながら二足の草鞋で働いていました。歯医者には週3日くらいで出勤していましたね。稼ぎでいうとちょうど半々といったところでしょうか。イラストのお仕事が軌道にのったのは20代代後半の頃でした。他のイラストレーターさんと同じように絵を見てくれそうなデザイン事務所や出版社を探して、問い合わせて、自分のポートフォリオ持っていき営業していました。そういった努力をコツコツ積み重ねて、仕事につなげていました。
― 独立するために、学生時代に努力していたことはありますか。
児玉さん:学生時代にお仕事をいただいた関係で、ここに行けばお仕事を紹介してもらえるツテはつくっていました。独立後は、お仕事をくださるデザイン事務所にちょこちょこ出入りして、そこで営業の仕方やイラスト制作のノウハウを教えていただいていました。本当は学校に通って学ぶべきことを、実際の仕事の中で教えていただくことができ、本当に恵まれていたと思います。
私はちょっと無謀なところがあるので、イラストとグラフィックデザインの区別がついてないようなお客さんからの依頼も「はい」って受けるんですよ。そして受けた後に、同業の主人に「どうやって作るの?」って聞いて、仕事を引き受けてから無理やりスキルを身につけて作っていたんです(笑)。
― フリーランスを長く続けていたと伺っていますが、活動のなかで大きな変化や気づきはありましたか。
児玉さん:15年間フリーのイラストレーターとして活動していました。もちろん長くやっていれば辛いと思うこともありますが、就職しようと思うことは一度もありませんでした。たとえイラストレーター職で正社員になったとしても限定された幅の絵柄の仕事しかできないと考えていて、自分はいろんな仕事をしてみたかったので「会社員」に魅力を感じませんでした。
ずっと紙媒体のお仕事がメインだったのですが、フリーランス10年目頃にアルバイトをしていた歯医者さんの患者さんと仲良くなり、そのお客さんがとあるアパレルブランドの偉い方で、Tシャツデザインの仕事を依頼してくださったんです。それがきっかけになって、アパレルの仕事が多くなりました。私のイラストは汎用性が低く、依頼があればテイストを変えて制作するのですが、そもそものイラストのイメージから、違うテイストでの依頼はあまりありませんでした。アパレルの仕事はイラストというより、タイポグラフィとイラストを合わせたグラフィックデザインの領域での仕事で、自分の元々の絵柄があまり関係なかったので、色んな案件に挑戦させてもらえました。自分のデザインしたお洋服が、展示会でメインの商品になったり、雑誌でモデルさんに着てもらえたりなど、すごく良い経験ができました。
― フリーランスで活躍されていた児玉さんですが、どのようなきっかけがあってCrevoに出会ったのでしょうか。
児玉さん:イラストレーターの友達が、Crevoの社員にスカウトされたことがきっかけで、私を一緒に紹介してくださったんです。面白そうだと思って、最初は外部のディレクターとしてCrevoに登録しました。私、実はグラフィックデザインやイラスト制作以外にも、文章を書く仕事がしたいと思っていたんですよ。イラストでするべき表現、デザインでするべき表現がそれぞれあるように、文章にした方がより伝わる表現があると思っていて、イラストなどと合わせて文章でも表現がしたいと思っていました。ディレクターのお仕事ってナレーション、コピーなどを作成するので、今までディレクターはやったことがありませんでしたが、とにかく挑戦してみようと思いまして、始めてみたら思っていた以上に面白かったんです。
― 最初は外部のディレクターとして働かれていたのですね。そこから何故、入社することになったのでしょうか。
児玉さん:当時サービスの拡大に伴いCrevoのクリエイティブアドバイザーを募集していて、その時に私に声をかけてくださったんです。私もディレクターのお仕事にだいぶ慣れて楽しくなっている時期だったので、興味はありました。ただ、正社員として週5で働くのは抵抗がありましたし、フリーでいただいていた他のお仕事もあったので、最初はアルバイトとして数日出勤し、仕事量の調整をしていきました。
フリーランスから会社員になることに、正直葛藤はありましたよ。フリーランス時代のお客さんとの関係って、すごく大事じゃないですか。だからかなり悩んだのですが、新しいことにチャレンジしたい気持ちが強かったので、入社することにしたんです。
― クリエイティブ関係の企業は沢山あると思うのですが、その中でも何故Crevoが良いと思ったのでしょうか。
児玉さん:クリエイターを大切にする体制があることに惹かれました。クリエイターと社員の距離がすごく近いんですね。フリーランスの仕事をする中で、本当にいろんな会社さんとやりとりしてきたのですが、他の会社は“仕事を与えてあげてる感”があるところが多かったのですが、Crevoは登録してくださっているクリエイターさんたちと同じ目線で「お仕事依頼させてください」といった姿勢でお仕事しているので、素敵な会社だと思ったんです。私自身クリエイターなので、気持ちよく働けるようにそういった配慮には気をつけています。
まだこの世にない新しい職業が自分の天職かもしれないから
興味のアンテナを広げておく必要がある。
― 実際に会社員として働いてみていかがでしたか?
児玉さん:フリーランスとして働いていた時よりも、会社員のほうが忙しくなりそうだと思っていましたが、実際のところ全然変わらなかったですね。フリーランス時代は、繁忙期は4〜5ヶ月は休みもなく、徹夜が続いて体力的にも厳しかったですが、そういう状態を何年か続けてきたので、その環境と比べると生活バランスもとりやすくなりました。一人で仕事をしていると全部自分で対応しないといけないので、何があっても仕事を優先させていました。そんな環境から、頼れる仲間ができたというのが個人的に大きいです。今までは朝から晩までパソコンに向かい一人で作業していたのですが、今は仕事が溢れた時には周りに頼れたり、みんなでランチしながらお喋りしたり、新鮮で楽しいです。会社勤めをしたことがない人間にとっては、会社員生活ってすごくハードルが高かったのですが、実際はみんなで和気あいあいと意見交換しながら働けるので、とても楽しいです。
― Crevoで働く魅力を教えてください。
児玉さん:フリーランス時代は“自分の看板”でしか仕事が取れなかったのですが、Crevoに入ってからは“会社の看板”があるので、いろんな仕事に挑戦できるチャンスがあるんですよね。幅広く、得意な仕事もチャレンジしたい仕事も任せてもらえるので、クリエイターにとって成長できる環境が整った、魅力的な職場だと思います。
案件一つやるにしても、各部署の担当者がしっかり間に入ってサポートしてくれるので、クリエイターにとってすごく働きやすい環境だと思います。今はクリエイティブアドバイザーの仕事がメインではありますが、自分が担当することで良くなる案件であれば、私がイラストを描くこともありますし、自分では思いつかないようなアプローチで表現してくれるクリエイターさんをアサインし、良い結果に繋がっていくのもやりがいがあります。
― 児玉さんはもともと動画を作るようなお仕事はされていなかったと思いますが、動画制作に必要なスキルはどのように磨かれたのでしょうか。
児玉さん:映画・漫画・文章など、要素を分解しながら読む癖を昔からつけていました。たとえば映画を見ているときには、この構図でどんな情報・感情を伝えているのか、などを意識しながら見るくせがついていたので、今の仕事で絵コンテ書くときにすごく役立っていると思います。あと、最低限必要な知識は絵コンテの本などを読んで身につけましたね。
― 今後どのようなクリエイターを目指していますか。目標などがあれば教えてください。
児玉さん:私自身、絵コンテやイラストは描けても、アニメーションに動かすことができないんです。なので、アニメーションまで動かせる技術を身につけて、絵コンテからアニメーションまで全て通して動画制作が出来るようになりたいと思っています。楽しくないと上達できないので、まずは自分の好きなモチーフで練習しているところです。
また、相手の求めているものをしっかりキャッチして、アウトプットに繋げられるようなクリエイターに成長したいです。
― 最後に、学生に向けてメッセージをいただけますか。
児玉さん:「自分はこれが得意だから、これだけを毎にする。」とまっすぐ努力するのもいいですが、もしかすると天職はまだこの世にない、新しい職業かもしれません。どんどん古い職業が消えて、新しい職業が生まれているので、学生のうちから一つにしがみつく必要はないかなと思います。自分で広く「楽しそうアンテナ」を張っていると、きっと本当にやりたいことに流れ着くのではないかなと思いますよ。
また、学生の方で「Crevo」に興味を持ち、映像・イラスト・企画などに挑戦したいと思われた方は、ぜひ登録して、学生の間に実績を増やしていただけたらと思っています。
― 動画のお仕事といっても、様々な表現を得意とするクリエイターが活躍することのできる現場なのですね!児玉さんやCrevoの魅力を沢山知ることができました。素敵なお話ありがとうございました!
(2016.3.17)
著者
後藤あゆみ
はたらくビビビット編集長。 フリーランスで“『ツクル』を仕事にしたい未来の子供たちのために。”を、コンセプトとして活動。クリエイター支援、スタートアップ支援を行っています。おばあちゃんになるまでに美術館をつくるのが夢です 。
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