携帯やパソコンを持つ、多くの人が利用しているインターネットサービス。Twitter、Facebook、Instagram、mixi、pixiv…みなさんが利用しているサービスも様々かと思います。幼い頃は、自ら考えや思いを発信するのが苦手だった人も、お気に入りのSNSやサービスと出会ってから、インターネットを使って何かを発信することが好きになった人はいるのではないでしょうか。今回お話を伺った久次さんも、自分の作品をインターネット上で発信するのが怖いと思っていた一人でした。そんな久次さんが、どうしてインターネットサービスの仕事をするようになったのか。インターネットサービスに興味のある人は必見です。編集・執筆 / AYUPY GOTO
久次真穂ひさつぐ まほ
Designer
京都精華大学 デザイン学部 デジタルクリエイションコース卒業。
株式会社はてな デザイナー。アプリやWEBサービスのデザインを行う。
Miiverseの開発で、世界中のユーザーを笑顔にする
― 久次さんの働いている“株式会社はてな”は、何を行っている会社なのでしょうか。
久次さん:ソーシャルブックマークサービス『はてなブックマーク』、ブログサービス『はてなブログ』、クラウドパフォーマンス管理サービス『Mackerel』、Q&Aサービス『人力検索はてな』などを企画、開発、運営しています。
― 久次さんは、どのようなお仕事を担当しているのですか?
久次さん:わたしはデザイナーとして働いています。現在はMiiverse という、任天堂さんと共同で開発しているサービスのデザインを担当しています。はてなのデザイナーは、一人が一つのサービスを担当する体制で開発に専念しています。
― 任天堂さんと一緒にサービスの開発も行うのですね!Miiverseとはどのようなサービスですか?
久次さん:Miiverseは、任天堂のテレビゲーム機「Wii U™」や「ニンテンドー3DS™」、パソコン、スマートデバイスで提供されているネットワークサービスです。Mii(自分でつくれる似顔絵キャラクター)を通じて世界中の人たちと繋がり、ゲームの中で体験したことを世界中の人たちと共有して楽しむことができます。
― 自分の分身キャラクターを作って、そのキャラクターを使って世界中のWii Uユーザーとコミュニケーションがとれるのですね。例えばどのような楽しみ方があるのですか。
久次さん:実際の遊び方ですが、Wii Uソフトのそれぞれ専用の「コミュニティ」が存在し、コミュニティ内ではユーザー達がメッセージを投稿したり、プレイ中のゲームのスクリーンショットを投稿したり、タッチスクリーンを利用して手書きのイラストを投稿し、ゲームだけではなく、ユーザー同士のコミュニケーションを楽しむこともできます。
Miiverseはゲームプレイ中でも、ゲームをしていない時でも「HOMEボタン メニュー」から開くことができ、思い立ったときにいつでも情報を共有することができます。
― すごいですね!Miiverseを使うと、ファン同士でゲームに関する情報交換が出来るのですね。こちらのデザインを担当されているとのことですが、サービスのデザイン自体は完成しているように見えますが、普段はどういった部分を作られているのでしょうか。
久次さん:私がMiiverseのデザインを担当するようになったのが、2014年2月からで、それまでは別のデザイナーが制作していました。今は、機能改善や、機能追加のデザインを行っています。任天堂の担当者の方とその都度ミーティングをして、どういった機能を追加するか話し合って作ります。
また、初めてMiiverseを使う人が困らないように、細かなチュートリアルの改善も行っています。
― はてなのデザイナーはデザインを作るだけでなく、仕組みから一緒に考えるのですね。入社したばかりのデザイナーは、どのような仕事を任されていますか。
久次さん:私が社員として入社したばかりの頃は、新サービスの開発メンバーとして、デザインチーフの下にアシスタントとしてついて働いていました。
そして、デザイナーとして一人でも考えて作れるようになった段階で、新たなサービス「はてなスペース」のデザイナーを任せていただき、サービス全体のデザインを担当するようになりました。そこからまた異動して、今担当しているMiiverseのデザインを担当することになりました。
消極的だった自分がインターネットサービスと出会ったことで、発信することが好きになった
― 大学時代は、京都精華大学「デジタルクリエイションコース(通称:デジクリ)」に在学していたのですね、変わった名前のコースですが、何故このコースを選んだのでしょうか。
久次さん:元々は絵を描くことが好きだったので、洋画コースかグラフィックコースに行こうと思っていたのですが、受験で3つまでコースを選択して受けることができたので、3つ目にデジクリを選んで受けていたんです。そうしたら、洋画は落ちてデジクリに受かってしまい、数日後に洋画コースが繰り上げ合格になったと連絡が入ったのですが、何をするかよくわからないデジクリがなぜかその時魅力的に感じて、そのままデジクリに入学することになりました。
― 大学入学当時は、将来やりたいことなど決まっていたのですか?
久次さん:入学当初はやりたいことは特に決まっていなかったのですが、デジクリの授業でインターネットに触れることが増えて、発信することの面白さを知り、インターネットの関わりのある仕事に就きたいと考えるようになりました。
大学2年生の時に「クイズに答えて大学に入ろう!」というプレゼンAO入試をつくる課題があり、そこで高校生向けのAO入試のムービーを作ったのですが、このプロジェクトで私は制作進行(ディレクター)を担当しました。ディレクターを担当してみて、チームをまとめたり、制作スケジュールを立てて進行したりする業務が好きだということに気づいて、将来はディレクターの仕事ができたらいいな…と考えるようになりました。
少し前まで発信することが怖い!と思ってしまう性格だったのですが、デジクリに入学してから、授業で作ったものは必ずネット上でSNSなどを使用して発信するフローになっていたり、ブログを書く授業もあったことで、発信することに対する感覚が変わって、発信したものに対して、ネット上でリアルな感想や意見をもらえることが、楽しいと思うようになりました。
― クイズに答えて大学に入学できちゃうAO入試…ユニークですね(笑)学生の頃に仕事や働き方を意識しはじめたのは、いつ頃でしょうか。
久次さん:就職活動のタイミングですね。大学3年生の12月から就職活動もはじめて、ディレクター職の仕事を探していました。インターネットの仕事は楽しそうと思っていましたが、当時は業界を絞っていなくて、最初は就活の雰囲気を掴むためにいろんな業界を覗いてみようと、電子書籍の企業や塾の企業など、企業説明会に沢山参加していました。エントリーもいくつかしてみたことで、面接に進むこともありました。
ですが、面接がすごく苦手で一次面接で落とされることがほとんどでした。面接の壁がなかなか越えられず、就活は苦戦しました。
― はてなさんにはどのタイミングで出会ったのですか?
久次さん:大学4年生の夏、就職活動に苦戦している私に大学の教授が声をかけてくださって、はてながデザイナーのインターンを募集しているという話を聞いて、ポートフォリオと履歴書を準備して応募しました。そこで、インターン合格という連絡が入って、就活に苦戦していたこともあったので採用のお知らせは嬉しかったです。当時は選考が書類選考だけだったので、苦手な面接がないおかげで通過したと思っています(笑)
そこからデザイナーのインターンとして2週間働くことになりました。今までディレクターとして働きたいと思っていたので、大学では企画の授業ばかり受けていて、まともにデザイン制作をしたことがなく、PhotoshopやIllustratorは使えましたがデザイナーとして働く実力は全くありませんでした。ですので、デザイナーインターンに参加はできたものの、最初は何もできなくて、同じインターンに入っていた人が、デザインもコーディングもできる人だったので、自分の実力の足りなさを痛感して、辛くて落ち込んで帰る日もありました。
― はてなのデザイナーインターンは、デザインだけではなくコーディングもできないといけないのですか?
久次さん:スキルを持っていないといけないというよりは、入ってから学んで仕事に生かしていくという感じです。今思うと、インターンでは「これから学んでいきたい!」という気持ちと向上心が評価されたのかなと思います。そのおかげで、 私は今は両方できるようになったのですが、インターン当時はデザインもコーディングもできなかったです。デザイン業務だと役にたてないことが多かったのですが、ちょうどその時イラストを描く仕事もあって、イラストは好きでずっと描いていたので、デザイナーインターンの期間が終わった後に、アルバイトとしてイラストの仕事を任せてもらっていました。
― イラストのお仕事もあるのですね。アルバイトはいつまで続けていたのですか?
久次さん:結局、卒業まで任せてもらっていました。その間で就活をしたり、卒業制作をしたりしていましたが、結局最後まで就職先が決まらなくて、卒業したらどうしようという感じになっていました。
― 卒業後はどうされていたのですか?
久次さん:卒業して、4月以降もはてなでアルバイトをしていました。アルバイトはイラストの仕事がメインで、休みの日はデザインの勉強をしたり、はてなのエンジニアの方々とサービス開発をしたりしていました。勉強は完全に独学で、自分で本を買ったりインターネットで調べたりして、時々エンジニアの方に相談しながら開発していましたね。
インターン、アルバイトと、はてなの仕事を経験し、イラストの仕事が中心ではあったものの、インターネットのサービスをつくるのがやっぱり楽しいな…と思うようになって、それから正式にはてなのデザイナー面接を受けて、社会人1年目の8月から入社しました。
― 元々ディレクターとして働きたいと言われていたかと思いますが、デザイナーとして働くことに抵抗はなかったのでしょうか。
久次さん:はてなは新卒のディレクター採用をやっていなくて、でも、社内にデザイナーからディレクターになった方もいたので、そういったキャリアアップがあることを知り、いつかディレクターになりたいとは思っています。ですが今は、デザイナーとして一人前になってから、ディレクターになりたいという気持ちが強いです。
サービスは改善し続けることで、ユーザーを幸せにすることができる
― はてなさんを最終的に選んだ理由はなんだったのでしょうか。
久次さん:インターネットのサービス会社に入りたいとは思っていましたが、はてなが魅力的なのは自社サービスを主に開発しているところです。クライアントワークのように企業のためにつくるわけではなく、ユーザーのことを1番に考えて、一人一人に直接届けるものをつくるというのが魅力的だと感じました。
私の担当しているMiiverseは、任天堂さんと一緒に開発していて、ユーザーの楽しんでもらえる機能を一緒に考えながら作っていて、目指すところが同じなのでとても楽しく働けます。
― 入社して一番記憶に残っている仕事はなんでしょうか?
久次さん:具体的にどの仕事が記憶に残っているというよりも、ユーザーさんからいただくフィードバックで印象に残っているものが多いです。いま担当しているMiiverseでも、ユーザーである小学生くらいのユーザーさんから追加した機能について「ありがとうございます!」とメッセージをもらったときは、すごく嬉しかったです。
また、何度か新サービスの開発に関わっていたことがあったのですが、あるサービスでは、サービスのユーザーがなかなか増えなかったので、サービスの方向性をブラッシュアップして、市場のニーズと一致するプロダクトにしようと、エンジニアの人と一緒に改善方法を考えたり、プロトタイプをつくりながら進めました。結果的にサービスはクローズすることになってしまったものもあるのですが、新規サービスを任せていただけることも多くないので、良い経験になりました。
― はてなさんは若い方も新規サービスに挑戦できる環境があるのですね!
久次さん:希望すれば必ず挑戦するチャンスはもらえると思います。年に二回、サービス開発を担当するメンバーで合宿を行っていまして、チームを組んで3日間でサービスをつくるような企画も行っています。
また、社内の事業プランコンテストもありまして、自分で考えた企画書を経営陣に提出して、内容が良ければ実際に新規事業として立ち上げることができます。実際にコンテストで通過して、立ち上がったサービスもあります。
― 誰にでも平等にチャンスがあるのは良いですね!はてなさんのサービスは、どのサービスもデザインが統一されているように見えるのですが、デザインルールなどが細かく決まっているのでしょうか?
久次さん:デザインチーフがいて、基本各サービスの担当デザイナーが手を動かすのですが、どのサービスをデザインするときも必ずチーフが確認しています。
また、はてなのデザイナーは“シニアデザイナー”と“デザイナー”に分かれていて、デザイナーはシニアデザイナーにキャリアアップするために指導して、力をのばすようにしています。
― 今はてなさんの魅力を教えてください。
久次さん:社員になって気づいたのですが、経営者と社員の距離がすごく近くて、社員が会社に対する意見を伝えやすい環境があります。インターネット上に、はてな社員の社内管理グループがあり、思ったことを書ける日記機能がついていて、社員みんなが読めるようになっています。経営者もディレクターも、合間にその日記を読んで社員や部下とのコミュニケーションがとれるようになっています。
― 今後どういうことに挑戦したいですか。
久次さん:新規サービスへの挑戦も憧れていますが、サービスを成功させるのは出したあとの改善や対策が重要なので、今はすでに存在するサービスをもっと改善して、利用してくださっているユーザーさんにもっと喜んでもらえるように育てていきたいです。
あと、デザイナーとして仕事を今以上任せてもらえるように成長したいです。
― 最後に学生にメッセージお願いします。
久次さん:自分が好きだと感じたものは、どんどん挑戦して実力を伸ばしてほしいです。就活で 追い込まれると、仕事につければなんでもいいと思ってしまい、結局自分が何ができるのかわからなくなって、不安になって自分を見失いがちです。新卒入社は、自分が初めて手に職をつける貴重な機会なので、自分がやりたいことを大事にして頑張ってもらいたいと思っています。
また、インターンなどに積極的に参加して、実際の業務を経験していくなかで、自分の得意な仕事や、苦手な仕事を早めに見つけることができれば、就活もうまくいくと思います。
(2015.6.10)
著者
後藤あゆみ
はたらくビビビット編集長。 フリーランスで“『ツクル』を仕事にしたい未来の子供たちのために。”を、コンセプトとして活動。クリエイター支援、スタートアップ支援を行っています。おばあちゃんになるまでに美術館をつくるのが夢です 。
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