最近、IT業界では【UXライター】という職業が注目を浴びています。Apple、Google、YouTobe……など、名だたる大企業がこの職業を積極採用しています。ライターと聞くと“記事を書く仕事”のイメージが強いですが、【UXライター】は内容が少し異なります。従来から知られているUXデザイナーとはどう違うのか?そして【UXライター】は一体どんなお仕事なのかを具体的にご紹介します。編集・執筆 / OSARAGI, AYUPY GOTO
イラスト / Miyagi Takumi
目次
- 1.UXライターって何?
- 2.UXデザイナーとの違い
- 3.UXライティングとは
- 4.UXライターになるには
- 5.最後に
1.UXライターって何?
【UXライター】とはコピーライティング*1でユーザー体験を作る職業です。
*1……人間心理を深く理解して、言葉でユーザーの行動を変えること。
例えば、あなたがメールアドレスのアカウントにサインインをしようとしている場面を想像してみてください。
左のポップアップだと何が原因でサインインができなかったのか、非常にわかりづらいです。しかし、UXライターの手にかかれば、一瞬で「サインインできなかった原因は、パスワードの間違い」ということがわかります。それだけでなく、「やり直す」などの項目を付け加えることで瞬時にユーザーに行動を起こさせます。
専門用語ばかりだとユーザーは理解できず、やがてそのサービスを使うことをやめてしまいます。このほかにもAI(人工知能)を利用した音声サービスの言葉の返しなども業務の一部です。つまり、言葉を使ってユーザー体験を向上させるのが【UXライター】のお仕事です。
最近、アプリや家電などのインターフェースは画像でコントロールするものGUI*2に加え、音声でコントロールするものVUI*3が急増しています。例えばApple Inc.の「Siri」やGoogle inc.の「Google Home」などが例に挙げられます。その影響もあって【UXライター】の認知度が加速したと言えるのではないでしょうか。
*2……(GUI= Graphical User Interface)コンピュータの画面に「アイコン」とよばれる絵文字を使ったり、画面をスクロールするために「ボタン」をかたどった部品の絵を使ったりして、パソコン・スマートフォンなどの端末を直感的に、しかも簡単に操作できるようにしたもの。
*3……(VUI= Voice User Interface)ユーザーが声でコンピューターや端末をコントロールできるようにするのが、音声ユーザーインターフェース
【そもそもUXって何?】
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2.UXデザイナーとの違い
UXデザイナー……調査・分析→デザイン制作
UXライター……調査・分析→シナリオ作成
簡単に言うと、UXは「ユーザーの体験的価値」という意味です。それを形に落とし込むのがUXデザインであるとすると【UXライター】は言葉を用いて体験的価値を生み出す、コピーライティングをしています。これを「UXライティング」と呼びます。UXデザイナーは調査・分析を行い、アプリやWebサイトのワイヤーフレーム・プロトタイプを考えていきますが、それと同じくらい「言葉」は重要です。なぜなら、「言葉」は人にとって最も大切なインターフェースの一つであるからです。
例えば、もし、あなたがロボットに「おはよう」と呼びかけたのに「さようなら」と言われたらどう思いますか。話が通じなくてイライラしてしまうのではないでしょうか。人懐っこくて可愛いロボットだとしても、やがてそのロボットは使われずに押入れにしまわれてしまうでしょう。
言葉選びがきちんとできていないサービスは、いくらデザインを良くしても人は使ってくれません。ですから、【UXライター】はユーザーの思い通りにコミュニケーションが進むような言葉選びをしながら、コピーライティングをしているのです。
3.UXライティングとは
では、次に【UXライター】は具体的にどんなお仕事をしているのか見てみましょう。
1.分析・調査
まず、UXチーム(プロジェクトマネージャー、エンジニアなどを含めた)でユーザーテスト、調査・分析を行います。どこが原因でユーザーが使いづらいのか、どうすればもっと良くなるのかを洗い出します。【UXライター】はそのサービスの中で使われている「言葉」もチェックし、ユーザー体験の妨げがなかったかどうかを探します。
2.シナリオ作成
分析・調査で洗い出された問題を解決する言葉を考えます。ただコピーライティングをするのではなく、UXのリサーチに基づいたライティングを行ないます。
3.他部署とのコミュニケーション
これはUXに関連するすべての職業に言えることですが、UXライティングをするにあたってチーム間の協力は必要不可欠です。なぜなら、デザインだけが先行したり、「言葉」だけが一人歩きしたりすると、与えるユーザー体験がバラバラになってしまい、効果的に作用しなくなってしまうからです。
【UXライター】はUXデザイナーと同様に、サービスの根幹に関わる、責任のある仕事を担っているので、時には部署を超えてプロジェクトを推進する力を発揮しなければなりません。
2.UXライターになるには
【UXライター】になるためにはUXデザインの知識と魅力あるコピーを生み出す執筆能力の2つが必要です。どのように身につけられるのか見てみましょう。
ユーザー体験を重視したデザイン知識を得る
まずは、基本の基である「UX」についての知識がないとUXライティングもできません。UXに関連した書籍はたくさん出ているので読んでみると役に立でしょう。学生の方はデザイン系の学科に在籍していたら、UXについて勉強する機会があるかもしれません。実習のほうが身につきやすいと思いますので、積極的に講義に参加しましょう。
おすすめの本
オライリージャパン
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シチュエーションに合ったコピーを考える能力をつける
皆さんも経験されたことがあると思いますが、長い文章は読む気になれないですよね?ですから、できるだけ短く、簡潔に、的確にユーザーに言葉を届けなければなりません。本を読むだけでなく、映画を見たり、旅行に行ったり、色々なことに目を向けたりすれば実際に体感して言葉を覚えることができます。
また、手帳を持ち歩き、思いついた言葉をメモする習慣をつけておくとだんだんと語彙力も増え、UXと結びつけた言葉を考えられるようになります。
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実際のサービス(アプリ、Webサイト)のコピーライティングを観察する
やはり、いいお手本となるのは実際にリリースされているサービスです。デザインと言葉がどのように関係しているのかを使いながら確認できます。タダで学べる良い教材です。実際に【UXライター】を採用している企業のサービスを使ってみると勉強になるはずですので、ぜひ観察してみてください。
UXライティングの効果がわかりやすいサービス
・「Slack」チームコミュニケーションツール。
オフラインの時に文字を打ち込むと、このように表示されます。
“う〜ん。君のコンピュータはおそらくオフラインだから、メッセージの送信は今はできないよ。”
日本語で訳するとこのようになります。話し言葉でエラーを表示してくれるので、かなりわかりやすいです。それでいて親しみやすさがあります。
UXライターはこんな人におすすめ!
・気配りができ、誰とでも打ち解けることができる人
・常に新しい技術が好きで、アンテナを張れる人
・柔軟性とひらめき力がある人
・言葉の力で人の心を動かしたい人
大きく4つに分けるとこのようなスキルがある人が向いています。先ほど、UXライティング業務の中で触れたように、【UXライター】は「協調性」が求められます。それでいて、最近はGUIに次いでVUIが現れ、時代とともに業務が変化している職業でもあるので、最新のトレンドを押さえておく必要もあります。固定観念にとらわれずにどんどん新しいものを吸収できる人にオススメしたい職業です。
4.最後に
まとめると、【UXライター】とは、コピーライティングでユーザー体験を作る職業のことです。
Apple、Google、YouTobe……などのIT企業はこの【UXライター】の募集をかけています。数年前まではUX分析・調査をする際は「言葉」まで十分に気を配れていなかったようですが、昔から広告代理店で「コピーライター」という職業があったように、「言葉」はユーザーとサービスにとって大切なインターフェースの一部です。
また、本文からわかるように、「言葉」と「デザイン」は密接に関係しているので、どちらかだけを勉強すれば良いと言う話ではありません。【UXライター】はデザイン知識はもちろん、インターフェースにふさわしい「言葉」選びをする必要があります。
そして、(VUI= Voice User Interface)が普及してきた今、【UXライター】は欠かせない職業です。【UXライター】は今後ますます業務幅が広がり、活躍が期待される職業です。就職活動の際、選択肢の1つとして検討してみてはいかがでしょうか。
(2018.3.6)
著者
はたらくビビビット
ポートフォリオとデザインのリファレンスメディア