《2019年版》先輩に聞く。卒業制作の「制作費」っていくらかかりましたか?


毎年1〜3月は美大の卒業制作・修了展シーズンです。先輩たちのクオリティの高い制作物を見て「自分もこういう作品が作りたい」とワクワクしつつ、同時に「費用はいくらかかったのだろう」「テーマはいつ頃決めるべきなんだろう」という不安な気持ちが生まれるのではないでしょうか。そこで今回は、2019年3月に卒業予定の先輩方5人に制作費と制作スケジュールについて質問してみました!

編集・執筆 /AYUMI TSUDA , YOSHIKO INOUE

●卒業制作って何?

卒業制作とは美術やデザイン、服飾などを学ぶ大学や専門学校での最終制作課題のことです。学生にとって学びの集大成となり、時間をかけて一つの作品を制作します。大学院においては修了制作となります。
制作は就職活動も並行して進めていくので、精神的にも肉体的にも追い込まれながらやり遂げる4年生も少なくないようです。
時間をかける分お金もかかりそうですが、卒業制作にかかった費用は一体どのくらいなのでしょうか?そして、就職活動で忙しい中、どのようなスケジュールで制作したのでしょうか?
卒業制作作品のテーマと合わせて尋ねてみました!

先輩に聞く!「卒制・制作費」インタビュー

Q1 作品タイトル
Q2 どのようなテーマ・コンセプトの作品ですか?
Q3 制作費は全体でいくらかかりましたか?内訳も教えてください。
Q4 制作するにあたって何が一番大変でしたか?
Q5 制作スケジュールを教えてください。
Q6 これから卒業制作をする後輩へひとこと、アドバイスをお願いします。

多摩美術大学 絵画学科油画専攻 齊藤梨奈さん

作品形態・・・レリーフ(半立体)

Q1 作品タイトル
birth

Q2 どのようなテーマ・コンセプトの作品ですか?
人間が服を着ることで感じる「自分の身体の範囲」と、服の役割をテーマに制作しました。




Q3 制作費は全体でいくらかかりましたか?内訳も教えてください。
スタイロフォーム(発砲スチロール)代……約1万5000円
布代……約1万円
絵の具代……約4000円
釘やピン、針金、PPシート、パネルなど……約7000円

総額……約3万6000円


Q4 制作するにあたって何が一番大変でしたか?
作品サイズが2m×3mと大きかったので、素材(スタイロ)を買って運ぶのが大変でした。


Q5 制作スケジュールを教えてください。
テーマ決定……3年生の7月頃
作品エスキース完成……4年生の5月頃
制作期間……4年生の9月〜1月


Q6 これから卒業制作をする後輩へひとこと、アドバイスをお願いします。
ファイン系の学生は9月ごろから始める人が多いと思いますが、なるべく早くから作り出した方が良いです!私は早めに見積もっていたのですが、結果的に完成がギリギリになってしまいました。

筑波大学 芸術専門学群構成専攻ビジュアルデザイン領域
やまださん

作品形態・・・雑誌・WEBサイト

Q1 作品タイトル
yomo

Q2 どのようなテーマ・コンセプトの作品ですか?
自身のふるさとをテーマにした作品です。3冊の雑誌と、WEBマガジンとしても楽しめるサイトを制作しました。



Q3 制作費は全体でいくらかかりましたか?内訳も教えてください。
冊子印刷費……約1万円
パネル制作費……約1万円
什器……約1万円
取材費(交通費等)……約2万円
WEB制作関連費……約5000円
雑費……約3000円 


総額……約6万3000円


Q4 制作するにあたって何が一番大変でしたか?
作業は自宅でひとりで行うことがほとんどで、スケジュール管理やモチベーションの維持に苦しみました。大学のアトリエや研究室など、友人と相談し合ったり進捗を確認したりできる環境で制作していれば良かったと思います。


Q5 制作スケジュールを教えてください。
テーマ決定……3年生の10月頃
取材期間……3年生の11月〜12月、4年生の10月〜12月
制作期間……4年生の10月〜1月
3年生の冬にプレ卒制として制作し、4年生で追加取材・再編集をして仕上げました。


Q6 これから卒業制作をする後輩へひとこと、アドバイスをお願いします。
長期間にわたる制作で、余裕を持ってスケジュールを立てても、どうしても後半に詰まって焦ることになりがちです。とにかく、早め早めに進めることの重要さを痛感しました。体力的にも精神的にも大変なことが多いので、根詰めすぎないよう、栄養をしっかりとって挑んでください。

武蔵野美術大学 デザイン情報学科 上原めぐみさん

作品形態・・・インタラクション

Q1 作品タイトル
コトブレラ

Q2 どのようなテーマ・コンセプトの作品ですか?
コトブレラは、言葉を「雨」に置き換え、言葉を受け取る行為を傘を用いて表現したインタラクション作品です。インターネットの普及によって、発信する相手の感情や受け取る相手の表情が分かりづらくなった現代において、私は対話における言葉の在り方を再認識すべく、言葉のかたちを異なる表現で作品にしました。
マイクの前で放った言葉を自動音声認識を使用することで、リアルタイムで雨として降らせ、傘の中という一人の空間の中で自分の放った言葉を受け止めることができます。
この作品は、言葉を可視化させ、自分の言葉と向き合うことを目的としています。



Q3 制作費は全体でいくらかかりましたか?内訳も教えてください。
プロジェクター……約15万円
床の制作……約3万円
コード類……約3万円
遮光……約2万円
マイクや什器……約3万円
その他……約5万円以上

総額……約30万円以上


Q4 制作するにあたって何が一番大変でしたか?
空間デザインです。システムは早い段階から出来上がっていたのですが、限られた設営時間の中で、広い空間を作り上げるのに苦労しました。
入口から鑑賞者の方が入ってきてから、どのようにコンセプトを理解して正しく鑑賞してもらえるかという、UXを踏まえた上での空間づくりを心がけました。また、床を貼り替えたり、傘やプロジェクターを吊るすために天井を作ったりしたので、その辺も大変でした。


Q5 制作スケジュールを教えてください。
テーマ決定……4年生の4月頃
作品の概要決定……4年生の10月頃決定
制作期間……4年生の8月〜1月
実験期間……4年生の11月〜12月


Q6 これから卒業制作をする後輩へひとこと、アドバイスをお願いします。
私は大まかなテーマ決定から最終的な作品概要を確定するのにけっこう時間がかかってしまいました。学生生活最後の作品というプレッシャーで、納得いくものが全然決まらなかったからです。
結局最後に出たアイデアを採用しましたが、今思い返すと最初のアイデアも最高だったなと少し後悔することもあったので、もし迷ったら1番最初に作りたい!と思ったものを作ってしまうのも良いと思います。
長い制作期間になるので、作品を作りたいという想いや作品への愛はクオリティに繋がっていくと思います。ぜひ1番愛してあげられるものを作ってください。

上原さんのInstagram: @curemeggy

多摩美術大学 情報デザイン学科 ヒラタさん

作品形態・・・グラフィックデザイン

Q1 作品タイトル
HUG TICKET

Q2 どのようなテーマ・コンセプトの作品ですか?
親孝行したくても金銭面の理由や仕事の多忙さから親孝行ができない学生、社会人が小さな親孝行をきっかけに家族とコミュニケーションをとれるように願いを込めて制作しました。様々な年代の人が使えるように、身近な親孝行から大きな親孝行まで100種類のチケットを制作しました。



Q3 制作費は全体でいくらかかりましたか?内訳も教えてください。
紙代……約3000円
印刷費……約300円
試作費……約1万円

総額……約1万3300円


Q4 制作するにあたって何が一番大変でしたか?
アイディアを固めるまでがとても大変でした。そのために試作をいくつも作りました。


Q5 制作スケジュールを教えてください。
アイディア出し……4年生の5月
前期審査会……4年生の6月
コンセプトの練り直し、リサーチ、試作期間……4年生の7月〜8月
制作期間……4年生の10月〜11月 

Q6 これから卒業制作をする後輩へひとこと、アドバイスをお願いします。
私はアイディアが固まった時期がかなり遅かったので、3年生の3月からもっと卒制を意識していればよかったと後悔しています。卒制展の運営委員に入っている人は特に早めに始めた方が良いです。また、就職活動との両立を心配している人も多いと思います。「この日には卒制!」「この日は就活!」とスケジュールをしっかりと立ててください!

京都造形芸術大学 キャラクターデザイン学科グラフフィックデザイン専攻 清水 陽さん

作品形態・・・グラフィックデザイン,ブランディング

Q1 作品タイトル
洒落紋100

Q2 どのようなテーマ・コンセプトの作品ですか?
語呂合わせや洒落をモチーフに考えられている古来の縁起の考え方を、現代のさまざまな物にあてはめ新しい縁起物をマークで100種表現しました。古くから武将が己の鼓舞・アピールのために用いていた家紋の考え方をもとに、身近な物から望みを掲げられるグッズを制作しました。




Q3 制作費は全体でいくらかかりましたか?内訳も教えてください。
展示スペース用木材……約5万円
グッズ制作材料……約3万円 
グッズ外注……約3万円 
印刷費……約2万円 
 

総額……約13万円


Q4 制作するにあたって何が一番大変でしたか?
洒落を用いた新しい縁起物がコンセプトだったため、新しく考える案や文様が自分だけが面白いものではなく客観的にみて面白く、かつ楽しめるデザインになっているかを考えることに苦労しました。毎週ゼミメンバーにチェックしてもらい少しずつ修正していきました。


Q5 制作スケジュールを教えてください。
テーマ決定時期……4年生の6月頃
リサーチ……テーマ決めと並行して6月まで 
デザイン制作期間……4年生の6月~11月 
グッズ制作期間……4年生の10月~12月

Q6 これから卒業制作をする後輩へひとこと、アドバイスをお願いします。
私も最初は不安なことや集中力が続かないこともありましたが、毎日継続して進めていくと、どんどん楽しくなりのめり込んで作品を突き詰めることができました。
一歩一歩着実に進めていくことで、良い作品になると思います。


●最後に

今回のアンケートで、卒業制作にかかるお金は約1万円〜30万円と、自分の取り組みたいテーマや作りたい物によって大きく変化することがわかりました。
特にインタラクションの作品には一つ一つの機材にかかる費用の値段が高く、他の作品と比べて桁違いのお金がかかっていました。また、什器など展示空間づくりのための費用が作品の制作費以上に必要になることもあるようです。就職活動もあり忙しくなるとは思いますが、作品と展示どちらも納得のいくものが作れるよう、事前にお金を準備しておきたいところです。
作品のテーマは4年生の4月〜6月に決定したという方が多く、早い人だと3年生のうちに決まるようです。アンケートに答えてくださったほとんどの方は「スケジュール管理は重要」「早めに行動するべき」と言っています。それだけ、卒業制作は思うように進みづらいものなのでしょう。スケジュールに余裕があると、何か制作で失敗した際もやり直しができる時間をつくることができ、クオリティの高い作品を作ることができます
ぜひ先輩方の声を自分の制作に活かしてみてください!


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(2019.3.25)

著者

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津田愛悠美

武蔵野美術大学 デザイン情報学科所属。イラストやグラフィック、アクセサリーを中心に制作しています。音楽と映画とお笑いが好きです。

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