ポップアップアート。それは紙を素材としながら、一定の動作を加えることで動きのある立体的な表現ができる華やかなアート作品です。ページを開くと立体的に飛び出すしかけが施された絵本を、一度は見たことがあるのではないでしょうか。そんなポップアップアートですが、近年段々と仕組みが巧妙複雑になってきており、見る人をワッと言わせるような、ダイナミックな動きや演出が行われるようになってきました。
そこで今回はポップアップアートの魅力的な世界について、ご紹介できればと思います。
編集・執筆 /YAMADA, AYUPY GOTO
●ポップアップって?
ポップ-アップ 【pop up】 ー ポンと飛び出ること。
この言葉は場面によって様々な意味合いを持ちますが、今回扱うポップアップは、紙上でのことで、直訳に近い“飛び出す”という意味です。折り畳んだ紙を開くとポンと飛び出すしかけが施されていたり、ふわっと浮いたようにみえたり。
現代ではこのように見た目を鑑賞として楽しむものになっていますが、本来は違った使われ方をしていました。
ポップアップアートの発祥
発祥は14世紀フランス。ポップアップは当時、天文学や解剖学など、学問の為に使用されていたギミックでした。
それまで平面に描き起こしたもので研究していたことが、ポップアップをつかって紙の上でも起き上がらせたり地から浮かせたりすることで空間や奥行きを把握しやすくなったのです。その後、子どもたちへの教科書などにも使われ、学びのためのギミックとして発展していったといいます。
絵本も元を辿れば学びのための書物。それがだんだんと娯楽用途へと変化してきたので、ポップアップも同じような道筋を辿ったのかもしれません。通常、平面でみるものが三次元的要素を携え、かつそれが美麗なものであったなら、鑑賞目的に変わっていくのも頷けます。
●すごい!最近のポップアップブック
やはりポップアップアートといえば、絵本市場で多く使われているのではないでしょうか。
近年、ポップアップアーティストはすばらしい作品を世に送り続けてくれています。どれもこれもページをめくる度、感動する作品ばかり。
そこでいくつかオススメのポップアップブックをご紹介したいと思います。
オズの魔法使い
世界観が大切に守られながらも、色鮮やかなダイナミックな仕掛けに一気に引き込まれます。開いて閉じてを繰り返したくなるような、ワクワクが沢山詰まった一冊。
星の王子様
大掛かりな仕掛けはないものの、あちらこちらに丁寧に施された繊細な仕掛けたち。
物語の進行を邪魔する事無く、ほどよいバランスで世界観を一層掻立ててくれます。
白が基調のおしゃれな一冊。
Harry Potter
映画 ハリー・ポッターがポップアップブックになりました。魔法の世界が巧みに表現されています。
映画のワンシーンを立体的に切り取ったような感覚。美しく壮大な世界が広がります。
Arctic Christmas
かわいい絵に癒される、優しいポップアップブック……と思いきや、しかけはとてもダイナミック。
シンプルなようにみえて、とても考えられた構造になっています。
かわいい動物たちと北極の世界がピッタリなギミックで、より迫力を感じる一冊。
Midnight Creatures
この作品は“影”を利用して、作品そのものの美しさに加え、光と影のアートも楽しむことができます。
本そのものはフラットでシンプルなデザインですが、影も加えて見ると華やかかつ、ミステリアスな美しい空間を演出してくれる、計算された一冊です。
●仕掛けの仕組み バリエーション
圧巻のポップアップブックの数々でした。では、こういったポップアップは一体どのようなしくみでできているのでしょうか……。表面上では分かりきらないことが多いですよね。そこで、ポップアップアートの“仕掛けの仕組み”をいくつかご紹介したいと思います。
基本は簡単!気軽にチャレンジできる
すごく複雑な仕掛けが施されていそうなポップアップ。しかし、よく見るとシンプルな仕組みであることも多いです。
まずは基本のカタチを見てみましょう。
★設置面は折り目を挟む
ポップアップは、折り目のある部分に作ることが出来ます。紙が折られ、対になる面ができることによって、折り目を挟んで接着した面が起き上がるための動力を作り出します。なので、折り目を挟まない場所に設置しても、なんの仕掛けにもなりません。
(折り目と離れた場所にポップアップしたい場合は、その為の仕掛けがあります。)
これを踏まえた上で考えてみましょう。
①開くと起き上がるタイプ
スタンダードな仕組み。接着面の角度によって、起き上がりの角度も大きく変わってきます。
http://www.brwnpaperbag.com/bozka-rydlewska-pop-ups/
こちらの作品にはこの起き上がる仕組みが使われています。
簡単な仕掛けでも、美しいイラストと配置センスで、とても豪華に見えますね。
②開くと浮いてみえるタイプ
横から見ると地面と平行に立ち上がる仕組み。正面から見ると浮いたように見えます。
http://www.angelandboho.com/pop-up-libertyslondon-taxi-card-5105-p.asp
こちらは、二つ目の例と同じ技法で作られたもの。上記の例は切り起こした上に装飾を張ったものでしたが、これは地の紙をそのまま使用。切り起こして立体にしています。簡単な仕組みですが、繊細なカットと上品なイラストで素敵なカードに。光の入り込みも美しい一品。
③動くタイプ
開け閉めすることで仕組みが動きます。使い方によってはとても派手な仕掛けに。これは一例ですが、他にも沢山動く仕掛けがあります。
先程紹介させて頂いた、星の王子さまの中でも、この仕掛けが登場しています。
応用編 理解すればどんどん表現の幅が広がる!
上記のものに、応用としてプラスの要素を加えることで、もっと表情豊かなしかけをつくることが出来ます。
★面と垂直に交わっていれば、閉じることができる……?
というのも、基本の時点で気づいた方もいるかと思いますが、閉じる面、折り目に対して、最低二点の接点がなくてはいけません。
しかし、その起き上がり面に垂直であれば、さらに面を追加することができます。図で考えてみましょう。
こちらは立ち上がるタイプの面が多いもの。ものすごく複雑そうに見えますが、ひとつひとつの仕組みを追ってみると、基盤はオーソドックスな仕組みになっています。
●ポップアップカードを作ってみよう!
では、簡単な仕掛けをご紹介したので、ここでひとつ作ってみたいと思います。
元となる素材
今回用意したのはこのパーツ。複雑なポップアップではないので、少なめです。組み立て
①でご紹介した、スタンダードなタイプ。山折です。これを一番後ろになるところ、前になるところとして2層作ります。
このとき、カードを閉じた際に中身がはみ出ていないか注意しながら接着します。
そして、その2層の間にキュピピットのパーツを持ってきました。
このとき、自立させるのではなく、つなぎパーツ(②でご紹介した浮くタイプ)を使い、後ろと連結させました。
一番前も不安定だったので、つなぎパーツを使用。完成!
開く閉じるの動作がすんなりできるようであれば、完成!
飛び出せ!キュピピットカード!
●さいごに
知れば知る程奥が深いポップアップアートの世界。これら殆どが紙で構成されているということをつい忘れてしまうような繊細でダイナミックな作品の数々。紙の上で起こるアナログの芸術は、デジタル化が進んだ現代でも色褪せることなく輝き続けています。
素敵なポップアップアートはまだまだ沢山存在していますので、興味が湧いた方は是非簡単なものから作ってみてはいかがでしょうか。そして一度、実物を手に取ってみることをオススメします。素敵な感動が訪れますように!
(2017.2.17)
著者
はたらくビビビット
ポートフォリオとデザインのリファレンスメディア