なぜ今、若者のなかでレトロブームが起こっているのか?「懐かしさ」は人生を豊かにするエッセンス

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最近、10〜20代の間で「レトロブーム」が巻き起こっています。FUJIFILMの使い捨てカメラ「写ルンです」を皮切りに、古いものが爆発的に注目を集めています。なぜ、昭和〜平成初期を知らない若者がそれらのものを「懐かしい」と思い、愛着を持つのでしょうか。今回は現代に古いものが求められる理由と、それをデジタルなものに取り込み、話題を集めているコンテンツやサービスについてご紹介します。
編集・執筆 /OSARAGI, AYUPY GOTO

はじめに

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レトロ(英:Retro)とは、retrospective(回顧)の略語です。懐古的である・古いものを好む……等の意味を指します。明確な年代を指すことはなく、「感覚」を指すことが多いようです。レトロと混同されがちなアンティークやヴィンテージは、異なる意味なので気を付けましょう。

アンティーク(仏:antique)…「骨董品」「古美術品」100年以上前のもの
ヴィンテージ(英: vintage)…ファッションに用いられる語。100年には満たない昔のもの、その時代に似せて加工されたもの。


今回、日本で流行している「レトロ」とは主に昭和〜平成初期のことを指します。

なぜレトロブームが起こっているの?

昭和〜平成初期を知らない若者はなぜこんなにもレトロに惹かれてしまうのでしょうか。それは現代の環境がそうさせているのかもしれません。


筆者(mayu osaragi)が生まれたのは、1995年の株式会社マイクロソフトによるWindows95が発売された年です。この時には既にインターネットが世の中に普及し始めていました。そして、筆者が小学生になる頃には学校でもパソコンの授業が取り入れられ、誰もが子供の頃からインターネットを利用したことがある「デジタルネイティブ*1」の世代です。


*1……生まれたとき、または物心がつく頃にはインターネットやパソコンなどが普及していた環境で育った世代。

音楽はインターネットでダウンロード、またはストリーミングで聞き、友達と連絡を取る際はLINE等のメッセージアプリやSNSが主流です。遠くに離れている人の状況も、即座に手元のスマートフォンで分かります。しかし、そんな「便利さ」が当たり前となった私たちにとってあえて手間をかけることは逆に魅力的なことにうつっています。と言うのも、今のデジタル機器はちょっとやそっとでは壊れませんし、思い通りに操作ができます。ですが、それは裏を返せば「味気ない」とも言えます。そんなに苦労もなくできてしまうことがあまりにも多いので、今の若者は何かが物足りないと感じているのです。

贅沢な悩みとも言えますが、若い世代は現代にはない「不完全さ」に惹かれていることがわかります。
では、実際に流行しているレトロなものとは、どんなものがあるのでしょうか?

人気沸騰!レトロな場所・モノ

銭湯

(引用:http://www.1010.or.jp)

みなさんが思い浮かべる銭湯は、江戸時代の頃にあの形になったと言われています。内風呂を設ける家庭が増え、その姿を消しつつある銭湯ですが、最近は復活の兆しが見えてきました。なんと若者が銭湯に行くことが増えているそうです。その理由は2つ考えられます。

地域の拠り所

今の時代は直接的な人との関わりが減少し、インターネット上の間接的なつながりが勢いを増しています。しかし、そんなかでも「人と直接関わりを持ちたい」と思っている若者が増えてきており、銭湯で会話を楽しんでいる人たちがいます。

銭湯は古くから地域のコミュニティの場として活躍してきました。昔は家にお風呂がない家庭が多かった為、ご近所さんと銭湯でバッタリあって会話を楽しむことも今よりずっと多かったのです。

銭湯に行くと意外と年配の方から喋りかけてくれることが多いのでこれを機にコミュニケーションをとってみるのも面白いかもしれません!銭湯をテーマとしたイベントも増えているので、一度足を運んでみてはいかがでしょうか。
下記は銭湯を絡めた、京都で行われているアート&カルチャーイベントです。

京都銭湯芸術の祭り Momotaro 二〇一七


http://www.kyotosentoartfes.com/2017/

Get湯!


https://www.getyuuuu.com/

壁面アート

(引用:http://www.1010.or.jp)


(引用:http://www.1010.or.jp")


銭湯でよくみる富士山の絵がありますが、他にもバリエーションが豊かに存在します。銭湯のペンキ絵を描く絵師さんが存在し、その方々によって描かれる絵が全て異なります。ノーマルな富士山の背景から、船、鯉、ゴジラなどのユニークなものまで、様々な絵を銭湯で楽しむことができます。どこか懐かしいタッチで描かれた壁を見ながらお風呂に入れるのは、至福のひと時です。数々の銭湯を巡って行くと、その違いを楽しむことができますね。


【銭湯について詳しく知りたい方はこちら】
東京銭湯ホームページ

純喫茶

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▲埼玉県浦和市にある純喫茶「恵比寿屋喫茶店」

純喫茶とは酒類を扱わない、純粋な喫茶店のことです。1980年代にピークを迎え、当時の学生は足繁く通っていました。最近は安くて速くて美味しいとされるファーストフード店などに押され、お店の数は減少傾向にあります。しかし、昭和の雰囲気が残る純喫茶の方が「落ち着くし、何時間でも居たい」と思っている方がまた徐々に増えてきました。一体何が魅力的なのでしょうか?

素朴で自然な美味しさ

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▲昔懐かしいメニューの食品サンプルが並んでいます

純喫茶の楽しみと言えば、コーヒーとその軽食です。マスター手作りのサンドイッチやパンケーキ、パフェなど、お店によって看板メニューが異なります。もちろん、サイフォンで入れる本格派のコーヒーなど、喫茶店のメニューには魅力がたくさん詰まっています。お値段はファミレスよりお高いですが、満足することは間違い無いでしょう。

落ち着くシックな空間

純喫茶は普通のファミレスに比べ、やや暗く、深く座れるソファなどが置いてあることが多いです。その為、何時間でも居たいと思えるような落ち着く空間が広がっています。年季が入った内装も逆に安心感を与えてくれます。

年配の方と会話を楽しむ

純喫茶の客層はちょっと高めです。その為、普段話さないような世代の方とお話を楽しむことができます。カウンターがあるようなお店ですと、お隣に座ったお客さんと話に花が咲くことも……⁉︎ 落ち着ける空間もあり、お客さんと長話できるところが、心惹かれるポイントと言えます。

カセットテープ

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音楽を聞くテープで有名なのがカセットテープ、すなわちコンパクトカセットというものです。日本では1980年代がカセットテープの全盛期とされています。2000年代に入り、カセットテープを見る機会もだんだんと減っていきましたが、今、カセットテープで音楽を聞いたことがなかった若者のなかで、大ブームとなっています。最近ではカセットテープ専門店もオープンするなど、音楽業界が白熱しています。

温かみがある音質

ハイレゾ音源など、どんどんクリアで臨場感のある音に進化をしている音楽ですが、カセットテープはデジタルよりも温かみを感じることができる音質が人気の一つです。録音する際に入ってしまうノイズが逆に普段音を聴いている時のリアリティに近いと、評判になっています。

また、音楽を聴くときの面倒くささも魅力の一つです。カセットテープはCDのように曲の頭に飛ぶことができないので自分で早送りをしないといけません。その手間も音楽に向き合うことができるメリットにうつっているのかもしれません。

コンパクトで四角いジャケット

(引用:https://www.shigoto-ryokou.com/article/detail/223)


カセットテープのジャケットは、CDよりもかなり小ぶりです。アートワークが小さいのでミニチュアのような可愛さがあります。若者にとってはCDやダウンロードする音楽が主流であったので、このような見た目が新鮮にうつるのでしょう。

ミュージシャンがカセットテープで新譜をリリース

ここ数年、海外のミュージシャンがカセットテープで新譜を発売することが多くなり、日本でも一部でカセットテープが注目を浴びています。アイドルグループのでんぱ組.incやユニコーン、松田聖子などが、カセットテープで新譜をリリースしています。そういった著名なミュージシャンがカセットテープを持ち出すことで、今までリアルタイムでカセットテープを使っていなかった世代にも認知され、カセットテープの良さが伝わっていきました。この動きはしばらくは続いていきそうですね。

レトロゲーム

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▲ファミリーコンピュータと北斗の拳のカセット
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▲スーパーファミコンのカセットたち

レトロゲームとはゲーム黎明期の頃のゲームを指すことが多いです。株式会社任天堂が発売したファミリーコンピュータやスーパーファミコンなどが挙げられます。

ドット絵

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▲北斗の拳のプレイ画面

今のゲームのように滑らかでリアリティのあるものではありませんでした。ドットだけでゲーム内の背景やキャラクターの「らしさ」を表現しています。あらゆるものを記号化し、ぎゅっと小さなアイコンにデフォルメされているのでドッド絵の世界は奥深いのです。要素が少ないドッド絵から、想像を膨らませることもでき、ワクワクさせてくれます。

8bit音楽

8bit音楽とは、初代ゲーム機のピコピコした音源のことです。今でこそゲームはリアリティーのある音楽が流れますが、昔は限られた音の階調の中で音楽を作っていました。出せる音質も限られているからこそ、そのゲームの「らしさ」を出すためにどうすればいいのかという試行錯誤がされているのです。単純で電子的な音は「可愛さ」や「懐かしさ」を感じさせてくれます。

セーブができない

昔のゲームはストーリーが進んだり、次のステージに行ったりしてもセーブができないことが多いです。ですから、一気にクリアをしないとエンディングを見ることができないこともしばしば。クリアするのはハードルがたかく、かなり根気がいるのです。最近のゲームは途中でセーブして、また日を改めてプレイすることもでき、比較的簡単にゲームをすることができます。しかし、一筋縄ではいかないゲームだからこそ「やりがい」が生まれ、「何としてもクリアしてやる!」と思わせてくれます。

レトロはデジタルにも取り込まれている

さて、ここまで今流行りのレトロな場所やモノを見ていただきました。このように、レトロな場所やモノは再び注目を浴び、生活の中に浸透し始めています。

そんなレトロの魅力をデジタルな世界に活かしている事例があります。
ユニークなものを3点ご紹介します。

VHSビデオ風に撮れるアプリ「Camcorder」

(撮影:MayuOsaragi)

Camcorderは、最近美大生の間で流行っているVHS風に動画を撮ることができるスマートフォンアプリです。80年代や90年代のホームビデオ風動画を簡単に撮影することができます。VHSとは1975年に日本ビクター(現JVCケンウッド)が開発した家庭用のビデオ規格のことです。

ざざっと画像が乱れたり、日付が記録されたり、画質があまり良くないところが「温もり」を感じさせます。

当時のビデオカメラは記録用テープが必要であったり、重さが1キロ以上あるなど重いものが多かったですが、スマートフォンであれば手軽に撮ることができる点がとても便利です。

最近は「instagram」が流行るなど、画像に一手間を加えることで写真に付加価値を付け、特別な画像を作成しています。このことから技術が発展した今では、ただ画質が良く、綺麗な写りだけでは人々を満足させるには不十分だと言えます。

アナログとデジタルのいいとこ取りが実現しているアプリです。

Camcorderをダウンロードする

時間が経つにつれて劣化して行くWEBサイト

henna web

(引用:http://web-media.blue-puddle.com/degradation/)

WEBサイトはディスプレイに問題がない限りは、どの媒体から見てもそのままの姿で半永久的にインターネットに留まります。よってWEBサイトは劣化することはありません。数年前に作られたWEBを久しぶりに見て「色あせた?」とはならないのです。

しかし、このWEBサイト(メディア)は、アクセス数と時間に応じ、劣化していく仕様になっています。また、アクセスが増えると文字がかすれ、時間が経つと黄ばんでいきます。新鮮なうちに読まないと内容を見ることが困難になるというおもしろサイトです。

アナログ的な要素をあえてデジタルの世界に持ち込むことで、デジタルではなし得ない「不完全さ・儚さ」を演出することができます。

例えば、カレーは一日寝かせると美味しいですよね。そのぶん味が熟成し、より美味しくなるのです。そしてやがて放っておくと腐ります。食べ物には賞味期限があるので食べることができる期間が限られています。そんな風に、時代を重ね、どんどん劣化して行くものは不思議と大切にしたいと思えるのです。

変なWEBメディア 「みんながアクセスすると劣化する記事」

コンテンツが消える「Snapchat」

snapchat

「Snapchat」はSnap Inc.によって開発された、新感覚SNSです。画像を加工をしたり、連絡を取り合ったりできる機能があります。その中でも最大の特徴が、投稿した内容が「消える」ところです。投稿されたコンテンツは24時間で消失します。記録として利用するものではなく、あくまでもその時を楽しむアプリです。

見た目の意味でのレトロ要素はないですが、「消えていく」というレトロの要素を取り入れた結果、ヒットを生んでいます。半永久的に残るものよりも「その時を大切にしたい」と若者は思っているのかもしれませんね。

Snapchatのホームページ

最後に

デジタルネイティブと呼ばれる今の若者たちがレトロを好むのは「不完全さ・儚さ」を欲しているからだと推測します。

そもそも人間は不完全なものです。一人でできることには限りがあり、とてもか弱い存在です。今の若者はそんな自分たち人間とモノを重ねて見ているのかもしれません。ロボットのように淡々と物事をこなしていければ、確実ですが何もドラマが起こりません。失敗や一手間があるからこそ、思い出深いものになります。つまり、デジタルネイティブにとって「懐かしさ」は暮らしを豊かにするエッセンスなのです。

また、「桜が散るのが美しい」という心を持つ日本人だからこそ、アナログなものが流行しやすいと思います。そんな粋な心をいつまでも持ち、アナログとデジタルを融合して、うまくアートやデザインに取り込んでいきたいですね。

(2017.6.20)

著者

大佛茉由

武蔵野美術大学造形学部デザイン情報学科所属。インタラクションデザインを勉強中です。お笑い芸人のコントをYouTobeで見ることにはまっています。

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