今回ご紹介するのは、2021年春からゲーム業界で働く八子さんの就活ポートフォリオです。学生時代、主に制作していたのはタイポグラフィやグラフィック。内定先の企業説明会でお話を聞く中で、「わかりやすさと面白さの両立を目指すゲームUIは、わかりやすさと綺麗さの両立を目指すタイポグラフィと考え方が似ている」と感じ、志望のきっかけになったそうです。
とことん突き詰める制作の姿勢が最大限伝わってくるポートフォリオは、どのようなアピールで使用したのでしょうか。さっそく尋ねてみましょう!
編集・執筆 / YOSHIKO INOUE
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八子 智輝 さん
デザイナー 8koweb.com
PICK UP!ポートフォリオのこだわり
人間の五感すべてを使った伝達手段ーデザインへの思い
八子さん:デザインは人間の五感すべてを使った伝達手段だと自分は考えています。多様なジャンルにボーダーラインを引かず、そこに通底する軸であったりコンセプトであったりを見失わずに制作を行ってきました。
このポートフォリオでは、そういった「五感を使った感覚や喜び、ワクワクを共有できるようなデザイナーになりたい」ということを伝えたいと考えました。
気持ちの良い余白、リズムを感じるレイアウト
八子さん:すべてのページに余白を多く取り、紙面の構成が単一にならないようリズム感を意識して構成していきました。また説明的になりすぎないように心がけながらも、しっかり作品のことが伝わるようにイラストやラフスケッチなども多く取り入れました。
手触りまでブランディング!紙にこだわった表紙
八子さん:表紙は比較的シンプルな文字の配置にしたため、とにかく紙にこだわりました。試行錯誤した結果、とても発色の良い「キャリアスマター」という紙を選びました。ザラッとしていて、最初に目で見たときと触った後では違う感覚を抱く紙です。ポートフォリオのブランディングを触感まで考えていることが伝わるようにしました。
▼CHECK!オンライン面接時の実物ポートフォリオの活用は?
編集部:紙や質感にこだわったポートフォリオを制作された八子さんですが、就活ではオンライン面接が多かったそうです。面接での活用方法も伺いました。
八子さん:実は就職先の企業には、製本したポートフォリオを見ていただく機会が一度もありませんでした。ただそこを逆手に取り、
データでのポートフォリオを見せた後、製本したものをパラパラとめくって「こんなことを考えながら制作していました〜」とプレゼン</pしました。
またPDFのデータだけでなく、Webサイトを制作していたためそのサイトを画面共有して作品を紹介するなども行いました。とにかく「人に見せて喜ばれるものを作ろう」と思ってポートフォリオを制作していたので、企業の方へのプレゼンでもそれが伝わると良いなと思いながら話しました。
八子さんのポートフォリオをフルページで見る!
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ポートフォリオ一問一答
●このポートフォリオを提出した業界
ゲーム業界、出版/印刷業界
●コンセプト
「五感を使った感覚や喜び、ワクワクを共有できるデザイナーになりたい」という思いを伝える
●ポートフォリオの構成
- 表紙
- 自己紹介
- 目次
- グラフィック作品
(書籍/展示/ロゴデザインなど) - プロダクト作品(3DCGなど)
- 他ジャンル作品
(イラスト,インスタレーションなど)
●制作時期
大学3年生の7月頃〜4年生の2月頃
●制作プロセス
- 作品をピックアップ
- InDesignでデータ制作
- 自宅プリンターで印刷
- キンコーズにて製本
●制作に使用したソフト
Illustrator、InDesign、Photoshop
●印刷 / 製本方法
自宅のレーザープリンターで印刷 / くるみ製本
●サイズ / ページ数
225×297mm / 200ページ
●制作にかかった費用
5〜6万円程
●制作中にもらったアドバイス
八子さん:制作した作品の点数が多かったので、「作品集のようにサラッと流されてしまうことがあるのではないか」とアドバイスをいただきました。そこでグラフィックとしてアイキャッチとなるような画像を作品の切り替わりごとに入れました。
●制作するうえで参考にしたもの
- Josef Müller-Brockmann『グリッドシステム グラフィックデザインのために』
- Emil Ruder『Ruder typography Ruder philosophy』『Typographie』
- 祖父江慎+コズフィッシュ
- 葛西薫『KASAI Kaoru 1968』
- TOKYO TDC VOL31
- Helmut Schmid『タイポグラフィ トゥデイ』
- Konstantin Grcic 『KGID』
- Takeo Paper Show『SUBTLE』
- Less and More: The Design Ethos of Dieter Rams
- Neue Grafik
- 星野源『YELLOW MAGAZINE』
●ViViViTページと紙ポートフォリオの使い分け
八子さん:ViViViTのページでは「企業の方の目に入ること」が第一に重要だと感じていたため、どのような制作を行っている人間なのか、ひと目で分かる構成にしていました。一方、紙のポートフォリオはそれ自体がひとつの作品といえるようなものを目指しました。また私の作品はどのジャンルでもグラフィックに重点を置いていたため、どちらも作品のビジュアルを最大限を活かせる構成にしていました。
●これからポートフォリオを制作する人へのアドバイス
八子さん:私がポートフォリオを制作する上で一番はじめに考えたことは、今までの自分はどういう作品を制作してきて、これからどういう制作をしていきたいのか、ということでした。
そこで私のポートフォリオはあえて今まで制作してきた作品をほぼ全て載せ、多くの情報を整理し、綺麗に構成することに興味と情熱を持っていると伝えようとしました。
八子さん:上記に記したことは決して万人の参考になるものではなく、あくまで一例でしかありませんが、自分の興味関心のあることを貫き通してポートフォリオを制作することは、作っていて自分自身が楽しくなるはずなのでぜひ参考にしていただければと思います。
ポートフォリオの制作は自分自身と向き合い直さなければならないため、精神的にも肉体的にも追い込まれることが多いと思われます。制作しているだけで偉いと思いながら自分自身でモチベーションを上げていけるようにしていけたらと思います!皆様のご活躍をお祈りするとともに、陰ながら応援しております……!
はたらくビビビット編集部より
タイポグラフィやグラフィックの作品が並び、一見するとゲーム業界デザイナーとは判断しづらいポートフォリオ。しかし「デザインは人間の五感すべてを使った伝達手段」という思いやご本人の「ゲームUIとタイポグラフィは似ている。どちらも“本当に必要なものは何かを突き詰めるためにミクロとマクロの視点を交互に繰り返す姿勢”がある」という気づきを知ると、作品でどのようにプレゼンしたのか聞いてみたくなります。フィードバックでは「コンセプトからしっかり練って制作していることがよく分かる」「仕事が丁寧で、制作のまとめ方にもその意識が感じられる」などのコメントをいただいたそうです!
就活を行うなかで新しい業界を知り、面白さや興味を感じることは大いにあるでしょう。しかしながら、職種の実務に直結する作品群が少ないポートフォリオで内定されるのは珍しいケースです。作品そのもの・まとめ方・プレゼンなどのすべてのクオリティの高さがなければ評価されづらいと考えても良いと思います。また選考までの期間や、企業が就活時点で実務関連のスキルをどれくらい求めるかなどによっても変わってくるでしょう。
目前の制作や興味に、夢中になるくらい没頭してきた八子さん。自身の制作の軸はその積み重ねで見えてきて、それが就活のメッセージにもつながるんだなと実感しました。
八子さん、ありがとうございました!
八子さんも活用した!ViViViTでポートフォリオをつくってみる
(2021.5.11)
はたらくビビビット
ポートフォリオとデザインのリファレンスメディア