ポートフォリオはクリエイティブ職に就くにあたって、かなりの確立で必要になってくるアイテムです。ポートフォリオは、エントリーシートと履歴書にならぶ、またはそれ以上の役割を担っています。ではそんなポートフォリオ、初めてつくる時はどのように手をつければ良いのか。今回はポートフォリオ制作の基本についてご紹介します。
編集・執筆 /YAMADA, AYUPY GOTO
●ポートフォリオの役割って?相手につたえるべきこと
そもそも、ポートフォリオの役割とは何なのでしょうか。
簡単に言えば、【人に自分の実力と作風を伝えるためのツール】です。しかし、ここで忘れてはいけないのは自己満の作品集で終わらせてはいけないということ。
デザインがかっこ良ければ良い!と思うかもしれませんが、それだけだと“相手が作品を見る”ということを最優先にできていない構成になってしまう可能性が高いのです。
伝えるべきことはなにか
各企業の採用担当の方々も、1つのポートフォリオを見るのに長い時間をかけることはありません。短い時間のポートフォリオチェックで、どれだけ印象に残れるか、スッと頭に入ってくる構成になっているか、分かりやすい内容か……いくつかのポイントのバランスが上手くとれているポートフォリオをつくることが、重要です。先程の“相手が作品を見る”ことを意識できていない構成は、こういった要素のどれかが欠落していたり、ひとつがあまりにも特出していたりという場合が考えられます。もちろん作品自体のクオリティが重要ではありますが、その作品を良く見せるのも悪く見せるのも、ポートフォリオの演出次第なのです。とても良い作品なのにポートフォリオが分かりづらく相手の心に響かなかったら、それほど勿体ないことはないですよね。
相手に自分を知ってもらう、見てもらっているということを念頭に置いて、制作を進めましょう。
●最低限入れるべき要素
では、分かりやすいポートフォリオとは具体的にどのようなものなのでしょうか。
いくつか要素を挙げてみます。
自分なりのルールをつくる
ポートフォリオを作るにあたって、構成に大まかなルールをつくると、まとまりやすいです。
1つの作品に使用するページ数、作品に対する説明項目をテンプレート化、作品の種類をカテゴリー別に分けるなど、初めに大体の構成と作品の配置を決めておきましょう。
★ルールにあてはまらない!そんな作品があるときは
大まかにテンプレやページ編成が決まっている中でも、そのルールから外れてしまう作品が出てきてしまうこともあります。
(ex:作品写真は見開き2ページの決まりだけど作品写真が少なすぎて1ページになってしまう、など)その場合は臨機応変に!当てはまらなくても、基本的な部分が同じであれば、統一感は保てます。むしろ少し違ったリズムになって退屈感がなくなるかもしれません。あまりガチガチに決めすぎないことも大切です。
フォントの数は最低限に
ポートフォリオ内で使用するフォントについては、最初にルールを決めた方がまとまりが出ると思います。色んな種類のフォントを使うとごちゃごちゃ見えてしまうので、この場合も上記と同じようにタイトルはこれ、説明はこれ…と、使うフォントにルールを決め、その中で使い分けていきましょう。2種類あれば充分です。
ページの中での優先順位
文字の優先順位
タイトル、見出し、説明……色々な文字要素が必要になってくるかと思いますが、この中にも優先順位を付けて文字の太さや大きさを変えていきましょう。これらの構成は、一貫して設定すると統一性が出ます。
作品の優先順位
沢山の作品をまとめることになりますが、今まで作ってきた作品を全て掲載するのではなく、作品を取捨選択し、一冊の中で一定のクオリティを保ちましょう。さらにその中から特に見てほしいもの、自信のあるものに関してはページ数を多く取ったり、先頭に持ってきたりと、順番にも工夫があると◯。実際に出版されている雑誌でも毎月特集があり、その特集は他の企画よりも大きく紹介されていますよね。それと同じことで、作品の紹介の仕方にも濃度があるとより良いです。
★視点の誘導
ポートフォリオをパッと開いたときに、一番最初に目に入る項目、次に入る項目、その次に……、といったように、読者が初めてみた紙面でも分かり易く視線を移動できるような構成になっていることが大切です。漫画で例えると分かり易いのですが、漫画はページを開いて右上から左、また右下へ、ジグザグに読んでいくルールがあります。さらに筆者の方はそのルールに乗っ取って、視線を簡単に誘導することができるよう工夫を凝らしながら描いているので、読者は無意識にも視線を誘導されているのです。このお陰でストレスフリーにさくさくと読み進めることができます。そういった効果をポートフォリオの中でも意識するとグッとわかりやすくなります。
作品情報をしっかり記載する
当たり前のことではありますが、それぞれの作品についての説明、制作形式、制作年月をしっかり記載しましょう。どういった意図で作品を作ったのか、制作に至るまでのアイデアなども記載するとより良いでしょう。
・コンセプト
∟(+作品背景、作るに至るまでのアイデアがあればそれも)
・制作日時
・作品形態、素材
・制作ツール
・授業内課題、自主制作、業務委託、等
・グループワークか個人作業か
★プラスα!一連の流れを載せるのも効果的!
ラフスケッチやイメージボード、試作品から本品、その後の改良点や評価など。
でもどうしてもそういった初期の記録が残っていなかったり、作品によっては事細かな背景設定がなかったりする場合もあるかと思います。
その場合は無理して出すのではなく、(もちろん思いだして作り直すこともアリですが)あるものでうまくまとめましょう。上記に挙げたものがしっかり書かれていれば問題ないかと思います。
●いろいろな表現方法
では次に、上記の最低限要素を抑えた上で、オリジナリティを追加したものについて考えてみます。自分らしいオリジナリティあるポートフォリオを作るには?自分の世界観をより理解してもらうために、他の人との差別化を計るために、というところにこだわりたい方は多くいるのではないでしょうか。ということで、装丁というよりは中身の構成を重視で、何か工夫できることについて挙げていこうかと思います。
ポートフォリオ自体も作品に。テーマ、コンセプトを決める
自分の作品に寄り添ったもの、自分の好きな世界観、好きな色……なんでもいいと思います。ポートフォリオ自体にテーマを持つ事で、一冊の統一感とオリジナリティを演出しやすいです。(項目アイコンを作る、ちょっとした装飾をする等)
しかし、あくまで作品がメインなので装飾や配色が作品の邪魔をしないよう注意が必要です。
★例えば……
・全体的に白っぽい作品を作っていることが多い→テーマカラーは白のポートフォリオにしよう!
・ひとつひとつの作品を物語と考えて、絵本仕立てにしよう!
・宇宙が好き→作品を宇宙に漂う星に見立てて構成しよう!
など。
もちろん、テーマやコンセプトがなくても成立するのですが、何か合った方が進めやすいかつ、オリジナリティが出るのではないかと思います。世界観がしっかりしていると、装丁も考えやすくなるのではないでしょうか。
サイズ、縦横の使い方を考える
サイズの指定をされる場合もありますが、殆どの場合、自由に作ることが出来ます。
ポートフォリオのサイズの違いで受け取るイメージは大きく変わってきます。
大体の場合、A4またはA3が基本的ですが、たまに変形サイズのものも。しっかりとした狙いがある場合の変形サイズは効果的ですが、なんとなく、で扱うのは避けた方が良いです。データの作成にも一手間かかってしまうので、特に狙いがない場合は無難にA4またはA3などで作成しましょう。
A4の利点はポートフォリオを送付する場合に、履歴書やエントリーシート等と同サイズで送れること、そして受け取り側も負担がかからないところです。ただサイズが小さいので、写真を大きくみせたい場合には不向き。
その点、A3は作品写真を大きくみせることができます。こちらは送付時よりポートフォリオ面接の際に適しています。面積が大きいので見せながらのプレゼンテーションする際、伝わりやすいです。
では縦横の使い方はどう違ってくるのでしょうか。
特にどちらが良い悪いというのは無いのですが、これに関しては個人の好みと作品傾向によって異なります。
横で使用する方が横向きの写真を大きくどーんと見せることができます。また見開きを見たとき全体が目に飛び込んでくるインパクトは横向きの方が強いです。気になる方はいろいろなパターンを試してみて下さい。
ルールから少し外れる
ルールを持って制作することをおすすめしましたが、あくまで土台や基本をしっかり決めるということであり、遊びの要素が多少入っても◯。
★遊びの要素とは?
具体的にいくつか例を挙げてみましょう。
①見開きページを入れる
大きく見せたい作品やプロセスを流してみせたい場合などに効果的です。
②作品実物をいれる
冊子形状の作品やポスターやポストカード、名刺など。
可能な範囲のみですが、写真だけでなく作品の実物を入れることでより説得力が増します。
③変形カット
紙の角を丸くしたり、大きめの紙を使ってインデックス風にしたり。
変形した紙を入れてもリズムがでます。
④違う紙を使う
全体に使ってる紙とは違う紙、トレーシングペーパーや和紙などを一部に使うことで遊びがでます。
しかし、無意味に使っても意味がなくごちゃっとしてしまうので必ず意味のある使い方をしましょう。
ex:立体で実物作品を入れることは出来ませんが、作品と同じ紙で印刷した展開図をそのまま挟み込む など。
これらは適度に使いましょう。あちこちに違った表現を沢山入れるとまとまりがなくなってしまいます。
●より良いポートフォリオにするために
押さえるべき大事なポイント
・写真はきれいに!
作品写真はポートフォリオの命です。
制作をする前に、きちんと撮影をしておきましょう。
これも大事な構成要素のひとつです。どんなに元の作品が素敵でも、いまいちな写真では伝わるものも伝わりません。自身で撮影するのが苦手なら写真の得意な友人、知人に頼んだりと、自分の中で出来る最良の写真を掲載しましょう。
・ブラッシュアップしていくことが大切
ほんの少しずつでもいいので、とにかく一度作ったらブラッシュアップすることを意識してみてください。一度で良いものが出来てしまう場合ももちろんありますが、紙ポートフォリオの場合は実際に原寸サイズで出力して確認してみるのが一番わかりやすいです。気になる部分があったらすぐに修正していきましょう。
・人に見せてリアクションを伺う、意見をもらう
一人でずっと作っていると、客観的にみることが出来なくなってきます。そんなときは人にみせてみるという手もあります。もちろん、見せるのが嫌なタイプの方もいるかと思うのでお好みですが、沢山の人に見せれば見せる程、いろんな意見、違った角度からの指摘が貰えるので、行き詰まってしまった時はオススメです。
※壊れやすいものはアウト!
一番嫌われるのが、脆いポートフォリオ。扱いづらい上に気を張りながら読み進めなくてはいけないので、読む人とって大きなストレスを与えてしまいます。折角綺麗に製本をしていても、開いた途端にバラバラと外れてしまうと何の意味もありません。むしろマイナスです。なので丈夫なものを目指しましょう。
●さいごに
いかがでしたでしょうか。ポートフォリオの完成形は人それぞれです。しかし、抑えるべきポイントは共通しています。作品の何をどうみせたいのか。そして、見ている人のことを考えた作り方になっているのか。そこが出来ていてプラス、あなたの個性が形態やアイコンとなって表現されていれば、とてもクオリティの高いポートフォリオといえるでしょう。
はじめは難しいかと思いますが、回数を重ねるうちに掴めてくるものは必ずあると思います。これから初めて作る方も既に作っている方も、今回書かせて頂いた基礎的な部分を踏まえ、自分が満足できるものが出来るまで何度もブラッシュアップして頂ければと思います。
皆さんの個性が詰まった、素敵な一冊ができることを願っています!
紙ポートフォリオの前に。
ViViViTのポートフォリオ機能で作品を整理する
(2016.8.23)
著者
はたらくビビビット
ポートフォリオとデザインのリファレンスメディア