特集
「場所」がつくられるまでには、沢山のクリエイター関わっています。意匠設計、構造設計、環境設計、空間デザイン、施工、土木……多くの要素が集まって、ひとつの場所が生まれます。本特集では、場所の「デザイン」をつくりだす人にフォーカス。場づくりにこめる想いがカタチとなっていく過程を探っていきます。
編集・執筆 / KOTARO YONEDA, AYUPY GOTO
守屋 真一
もりや しんいち
Architect
芝浦工業大学を卒業後、同大学院へ。在学中に空き家の再生など地域活性のプロジェクトを立ち上げる。その後、2016年から株式会社日本設計で主にプロポーザル等の分野に携わる。
子供の頃の何気ない記憶が、建築設計へ進むきっかけに
-初めに聞きたかったことですが、なぜ建築学科に進もうと思ったのでしょうか?
守屋さん:僕の小学校は1クラスしかない小さな学校だったのですが、実は総合学習の実験校で、その時に受けたプログラムは「バンブーハウス(※1)をつくって泊まろう」でした。このプロジェクトを1年かけて行い、僕はそのハウスの設計を担当しました。それが自分にとって初めての建築でした。
また、強く思い出に残っているのは実家を増築した時です。住みながらの増築だったので、組み上がっていくものの中に自分が住むという体験ができました。それが、自分にとってとても大きかったです。
この体験を活かせる学問は何か?と考えた上で、建築学科に進もうと思いました。チームでアイデアをまとめていき、そのアイデアを技術をもって具現化し、そして自分でその具現化した空間を体験する。このプロセスを経験できるのは建築学科で得られるスキルだったと、卒業してからも改めて再確認することができました。
※1建築用語解説・バンブーハウスとは?
竹でつくる簡易的な建築。インドネシアのバリ島でよく見られる伝統建築で、竹以外の素材を使用しないという特徴がある。
-子供時代から「建築」に触れていたのですね。建築設計という分野のなかで守屋さんの、強みと弱みをお聞かせください。
守屋さん:設計の中でも、「空間性」をつくるのがどちらかというと苦手です。入った瞬間に感動を与える、インパクトのある建物を考えることは残念ながら得意ではなかったんですよね。建築家のザハ・ハディド(※2)のように、ぐねぐねした建物を設計できるタイプではないです。
それよりは、どういったプログラム(※3)を組み合わせたら良い場づくりができるのか?考えることに興味があります。例えば、蔦屋書店が本屋とコーヒーを組み合わせたらうまくいったように、僕はプログラムを踏まえて設計するのが好きです。
※2建築用語解説・ザハ・ハディドって?
イラク・バグダード出身、イギリス在住の建築家。新国立競技場のコンペにて最優秀を受賞し、話題となった。
※3建築用語解説・プログラムって?
建築の用途のこと。商業施設を例にすると、ショップ、レストラン、カフェ、トイレ、受付、バックヤードなどの様々な用途が集まって1つの建築ができている。この用途の集まりをプログラムと言う。集まりの中でもカフェスペースを奥まったところにつくるのか、入口に近いところにオープンカフェのようにつくるのかという配置で、カフェでの体験は変わってくる。設計の腕の見せ所だ。
守屋さん:空間造形に挑戦はしましたが、僕は空間を言語化してしまうので向いてないと感じました。いい空間は言葉で説明するものではなく、感じるものだと思っていて、僕のデザインは言語化出来てしまう。キャリアとして組織設計を選んだのも、すごい空間よりもすごい場所を作りたかったから、ということが大きいです。
建築をどのように使うか、内容を重視した設計プロセス
-具体的な設計の進め方についてお聞きします。いつもどのようなプロセスで設計を練り上げていきますか?
守屋さん:この場所にこういうのがあったらいいなという風に、プログラムと合わせてアイデアを出します。あとは街を歩いていて特徴的だなと思ったものを抽出します。
僕は、“何をつくるのか”内容を重要視します。例えば、並木道×図書館のプログラムがあったらいいな……を組み合わせて、木一本一本にプログラムをつけてコンセプトを決めますね。
- 次に、制作途中についてお聞きしたいのですが、ズバリ設計で思い悩む時はどうやってアイデアを出しますか?
守屋さん:今つくっている、つくろうとしているその場所に行きますね。それか、街のなかを歩いたり、全然関係ない別の場所に足を運んだりすることもあります。基本アイデアが浮かぶのは、トイレやキッチン、お風呂のような水回りが多いですね。
-アイデアが出るのは、1人でリラックスしている時が多いのですね。
守屋さん:でも、建築設計じゃないアイデアは、誰かと話している時に浮かぶことが多いです。今、NPOで取り組んでいる、空き家をどんな風に使おうかという話などは、特にそうですね。
-先程は空間を言語化してしまうと話されていたのですが、よく使う言葉があれば教えてください。
守屋さん:プレゼンの時よく使うのは「動線」かな。あとは「ずらす」という、建築設計の操作を指す言葉も良く使います。一番シンプルですしね。平面図で「ずらす」と雁行(※4)、縦だとスキップフロア(※5)にもなるというわかりやすさもあります。
▲雁行配置とスキップフロアで設計された守屋さんの作品。抜け道などの動線も考えられている。
※4建築用語解説・雁行とは?
雁という鳥が空にギザギザに並んで飛ぶ様子を例え、主に平面で部屋を「ずらし」て設計する手法を言う。また表面積が広がるので、設計の際に採光や通風の面でメリットがある。京都の桂離宮などは有名な雁行配置の例。
※5建築用語解説・スキップフロアとは?
スキップフロアは床が半分の階ずつ「ずれる」ことによって、上下階に連続感を持たせながら部屋と部屋を計画する時に使われる手法。
大事なのはやりすぎないこと。
1〜2日間で作ったほうが
シンプル・ストレートで伝わりやすい。
-学生時代にかなりの受賞経験がありますが、コツなどがあるのでしょうか?コンペに勝つ秘訣を教えていただきたいです!
守屋さん:まちまちですけど、1つあるのは“やりすぎないこと”です。人って時間があると詰め込んじゃうじゃないですか。1〜2日間で作ったほうがシンプル・ストレートで伝わりやすい物が作れると感じました。あとは、審査員が想像する余地を残しておくことです。完璧を求めて全部やりすぎると、穴をみつけられて突っ込まれるので。やりすぎないほうが相手も一緒に考えてくれます。審査員に余白を与えると審査員が一緒に考えてくれて、
そんな考え方もあるのか!って驚かされることが多いです。
-興味深いお話ですね。建築の世界はコンペと強い関わりがありますが、常に意識しながら日々を過ごしているのでしょうか。
守屋さん:いいアイデアやいい言葉が浮かんだ時、メモして集めています。ちょっとしたネタ帳がありますね。普段、ノートを持ち歩いていないこともあるので、そんなときはiPhoneのメモアプリに記入することもあります。世の中にあったらより良いものを、日常のなかで思いつけると強いですね。
-アイデアはリサーチがあったうえではなく、どちらかというと直感的なものが強いのですね。
守屋さん:そうですね。ただ、そこが最近の僕の課題でもあると思っていて、人に説明するとき裏付けでリサーチすることもありますね。
-コンペの作品でもそうですが、手書きのパースが素敵ですね!得意とする表現方法とかってありますか?
守屋さん:俯瞰とか平面パースのように全体が見えるようにつくるのが得意です。こことここが、どのように繋がっているのかを表現するものが多いですね。設計手法でもそうなのですが、基本は「人をどう動かすか」に興味があります。
▲2焦点で描かれた平面のパース。人の活動も丁寧に表現されている。
-学生時代と社会人の実務の設計で、手法や思想は変わりましたか。
守屋さん:コストとデザインの関係は意識するようになりました。曲線を使うより直線でわかりやすく、かっこいい建築はどうやったらつくれるのかを工夫したり。在学時に先生から言われた「最小限の操作で最大限の効果を得られるように心掛けなさい」という言葉は、自分の中に強く残っています。
-より自分の目指していた合理的なデザインができているんですね。建築を見る視点は変わりましたか。
守屋さん:建築のなかでも細かいところを見るようになりました。階段を設計するのは難しいことに、実際に仕事するようになって気づいたんです。なので自分が綺麗だなと思った建築で、手すりとかの納まり具合とか注目するようになりました。
-最後に建築系の学生さんたちにメッセージをお願いします。
守屋さん:建築を学んだから、必ずしも建築に進まなくてもいいと思います。建築学生って様々な与条件を考慮して、自分の中でコンセプトを決めて、一つの解答を出します。その考えたことをプレゼンテーションするので、実はいろんなスキルを勉強しているんじゃないかと思っていて、その力があればどこへ行ってもやっていけるので、建築の道を選んでもいいし、建築に縛られずいろんなことに触れて、視野を広げるのも良いんじゃないかと思います。
-守屋さんが学内だけではなく、学外などで様々な経験をされていたからこそのメッセージだと思いました。貴重なお話しをありがとうございました。
ポートフォリオ百科|建築意匠設計士 守屋真一さん
プレゼンテーションを意識したまとめ方をぜひ参考に!
(2017.8.16)
著者
はたらくビビビット
ポートフォリオとデザインのリファレンスメディア