bosyu生みの親、Basecamp坪田朋さんが語る。デザインも経営も鍵になるのは「自分ごと化」

bosyu」「IRIAM」など、多くの人に使われるプロダクトを次々と生み出している、株式会社Basecampの坪田朋さん。2019年7月には、ご自身の会社Basecampをギルド化し、多くの有名フリーランサーのジョインを発表されたことで話題になりました。
また、坪田さんは株式会社ビビビットが運営事務局を務める内閣府主催「経営デザインシート」リデザインコンペティション(2019年9月まで募集中)にも審査員として参加されています。

デザイナーであり経営者でもある坪田さん。デザインと経営の関係や、サービス開発で意識していることなどを、ご自身の実績とともにお話いただきました。サービスデザインや坪田さんのお仕事に興味のある方はぜひご覧ください!
編集・執筆 / SAKURA SHINDO , YOSHIKO INOUE

坪田 朋 つぼた とも

株式会社Basecamp 代表取締役 / dely株式会社 CXO

livedoor、DeNAなどで多くの新規事業立ち上げやUIUXデザイン領域を専門とするデザイン組織の立ち上げを手掛ける。現在は、デザイン インキュベーション スタジオ「Basecamp」を立ち上げてスタートアップの事業創出を支援。2019年7月からBasecampをdely子会社化、同時にdely株式会社のCXOに就任。
Twitternote株式会社Basecampdely株式会社

◎相談レベルからリリースまで。
デザイナーが関われば、スピード感のある開発ができる

ーー まずは学生時代からのご経歴を教えてください。

坪田さん:実は僕、バイクのプロレーサーになりたかったので、高校卒業後は自動車関係の専門学校へ行きながらレーサーを目指していました。でもプロレーサーにはなれず、仕方なくデザイナーとして拾ってもらったんです(笑)。

ーー レーサーを目指していたところから、なぜデザイナーの道へ進むことになったのですか?

坪田さん:学校で3D CAD を学びながら、デザイン会社のアルバイトでDTPやグラフィックを覚えました。当時ネットは怪しいモノと言われる中、ネット系サービスが徐々に流行り始めていることで可能性を感じていたんです。
今となってはネット対戦は当たり前ですが、当時インターネット雀荘「東風荘」を初めて使って見知らぬ人と麻雀のネット対戦したときは、世界が開けたような感覚を味わいました。
あと僕が働き始めた20年ほど前は、今と比べてインターネット業界は人気がなかったので、競争率も低くて。この仕事なら自分でもできるなという思いもあり(笑)。まずはアルバイトから、「インターネットのモノづくり」に関わり始めました。

ーー アルバイトではどのようなことをされていたんでしょうか。

坪田さん:小さなデザイン事務所で、まずはキャバクラのWebサイトに載せる写真のレタッチをしていました。インターネットの技術って、何故かアダルト業界から先行し始めるんですよね(笑)。
まあそれはおいといて、地道な下積みから始めましたということです(笑)。



ーー キャバクラサイトのレタッチ……!そこから実績を積み重ね、ご自身で立ち上げられたBasecamp社ではどのようなことをされていますか。

坪田さん:主に新規事業の立ち上げやリニューアル、ブランドに関する相談をいただくことが多いですね。
実現したいビジョンがある状態でお話をいただいて、それを実現するための組織の構築と、事業の立ち上げからサービスのリリースまでを一気に解決できることがBasecampの強みです。

ーー 相談を受けてから、サービスを開発してリリースするまではどのような流れで進めていますか?

坪田さん:まずはしっかりとリサーチをして、ユーザーインタビューや競合調査で情報を集めます。情報が揃ったら、コアメンバーの方々と1日かけてワークショップをおこないます。そこで「こういうサービスをつくりたいんだ」という構想を話してもらって、その場でホワイトボードにワイヤーフレームを描いていく。
そこではコンセプトとなるいちばん重要な部分だけを詰めて、その後1週間くらいかけてデザインのプロトタイプとコンセプトデザインを作成し、それを叩きにしてまた擦り合わせていきます。
コンセプトデザインが握れたら、具体的にどんなサービスにするかの要件定義に入って、先方とこちらのメンバーでつくっていくという流れですね。

    【坪田さんのサービス開発の流れ】

    ①リサーチ、ユーザーインタビュー
    ②ワークショップ(ワイヤーフレーム作成) 
    ③プロトタイプ、コンセプト作成
    ④すり合わせ 
    ⑤要件定義
    ⑥制作
    ⑦コンセプトテスト
    ⑧リリース
    ⑨チームビルド(必要に応じて)

普通、制作会社に持ち込まれる案件は企画書や機能の要件定義がされていて、つくるモノが決まっている始まり方が多いですよね。Basecampの案件は、社長のビジョンを一日かけて言語化してチームで理解していき、その次にコアバリューのUIデザインパターンを出すのがポイントですね。

例えば、「IRIAM(イリアム)」というバーチャルライブ配信アプリのときは、まず社長の塚本さんから「VTuberのライブ配信サービスをつくりたい」と言われたんですよ。
思い描くビジョンを聞きながら、最も重要なユーザー体験の言語化と実現するためのチーム構成をホワイトボードに落として話していく。まずは何を実現したいのかを教えてもらい、細かいところをこちらで考えていく感じですね。



◎サービスの核が決まったら、まずはリリース!
リリースしてから改善するつくり方

ーー IRIAM含め、サービスをつくるときに意識していることは何でしょうか。

坪田さん最も重要なコアバリューを決めたら、まずはそれを自分たちで体感できるプロトタイプをつくる。それがイケると感じられたら、最小機能でリリースしてみることですね。一般的なライブサービスは、メッセージ機能やSNS的なフォロー・フォロワー機能などがありますよね。
でも、IRIAMは「低遅延、高解像度のライブコミュニケーション」をコアバリューとしたので、先ずはそこに絞ってリリースしました。

ーー 「シンプルな状態でまずはリリース」という形をとるのはなぜでしょうか?

坪田さん:VTuberのライブ配信サービスが、当時まだ世の中に前例がない状態だったからです。その場合、何が刺さるのか不確実性が高いので、サービス体験を少しでも早くユーザーに評価してもらうことが重要なんですよ。
コアバリューに機能を絞ったミニマム版をリリースして、その評価次第で今後の方向性を決めていくんです。コアな体験で評価できるギリギリのボリュームにする見極めは、経験が必要なところですね。
社内の意思決定材料を集めて資料をつくっている暇があれば、使ってもらうユーザーが実機で評価できるプロトタイプをとにかく早くつくること。

ーー 完成した状態でリリースするのではなく、さまざまな意見を取り入れながら取捨選択し、足したり引いたりしていくつくり方なんですね。

坪田さん:そうですね。機能の取捨選択の話でいうと、「bosyu」という求人募集のサービスをつくったときの話が特徴的です。
bosyuは、“Twitter上で求人募集して応募者をリスト化する”ことに価値があったので、その後のやりとりはTwitterのDMでおこなう仕組みなんですね。
サービスにメッセージ機能をいれないことで、リリースも早くなる。その判断はスピードとコンセプトに関わってくる話なので、実際にサービスをつくる際は、機能を企画して入れる入れないの判断をしながらデザインします。

ーー 「早く世の中に出す」ことは、なぜポイントになるのでしょうか?

坪田さん:いまの時代ってサービスや価値観が多様化していて、入念に調査しても何が刺さるのかがわからなくなってきているんですよ。僕は「ジャブを打ってピント合わせに行く」という言葉を使いますが、少しでも早くサービスを世に出して、コアバリューが刺さるか見極めて、刺さらなければピボットする流れに変わってきていると思います。

◎「自分ごと化」がポイント。経営デザインシートのリデザイン

ーー それでは、今回審査員を務められる「経営デザインシート」リデザインコンペティションについて伺っていきます。まず、このシートはご覧になりましたか?

坪田さん:見ました……(笑)。これはよく企業が経営会議向けに俯瞰で説明しやすいように使う、会社の設計を可視化するシートですよね。やりたいことはわかります。
ただこれは、経営者や経営企画、それに付帯する部門など予備知識がある人向けになってしまっているなという印象ですね。これを経営に関わる人が埋めたとして、他の人は読む気にならない。理解する気にならなそうです。

そもそもこのようなフレームワークって、書き込んだ結果よりも、書き込むために議論するプロセスに価値があるんですよ。議事録だって、それを書いた人が会議の内容をいちばん把握していますよね。あとから読む人とは、圧倒的に知識の差があります。
だからこういったツールをつくる際には、うまく第三者にも伝わるように応用の効くフレームをつくらないといけないんですよね。



ーー 会社を経営する立場として、「経営デザインシート」の必要性や価値はどういったところにあると思われますか?

坪田さん:多くの経営者が苦労しているのは、経営者の理念や思考が末端まで伝わっていないということなんですね。レイヤー構造が増えていくことによって、どんどん広まりにくくなって情報格差が生まれていく。そうすると現場の人たちは「社長が何を考えているかわからない……」「会社の方針がわからない……」と不満を抱えてしまうんです。これは経営者のほぼ全員が苦労していることなんです。
これを解決できるのであれば、とても価値のあるシートになると思います。

ーー 今回はこのシートを学生にリデザインしてもらうコンペティションなのですが……。

坪田さん:これ、学生がやるのはかなり難しいですよね(笑)。経営観点がないと、絶対的にアウトプットができない。

それが前提になってしまいますが、アドバイスするとしたら「自分ごと化する」ことですね。そのためにできることは例えば、以下が挙げられます。

【経営デザインシートを自分ごと化するには】
◯アルバイト先の店長に経営視点での課題を聞いてみる
◯身近な社長にインタビューしてみる
◯自分でモノを売ってみる
◯家族をモデルにしてみる

このようにして課題を見つけて、「その課題を経営デザインシートで解決するなら、どんなデザインであるべきか」を考えてみることができるかなと思います。僕だったら学生時代はカラオケ店でアルバイトをしていたので、その店をモデルケースにして考えていきますね。
課題を解決するために、経営デザインシートに何をどう落とし込むかを考えます。
そういう身近なモノでイメージすると、浮かび上がってくると思います。



ーー いずれにしても、自ら「経営者視点を持つ」ことが重要なんですね。

坪田さん:そうですね。デザイナーが普段思考するモノづくりのロジックと、経営のロジックって全然違うんですよ。それを理解しないと、今回のコンペは難しいと思いますね。
逆にその両方をうまく使いこなせると、将来的にも良いデザイナーになれると思います。

ーー そうは言っても、どうしても経営やビジネスに興味を持てない学生もいると思います。お仕事でも、興味のある分野の案件ばかりではないと思いますが、いかがでしょうか。

坪田さん:仕事となると、もともとは興味を持っていない案件を受けることもあります。でも、興味のあるなしよりも、ユーザーになりきれるか、憑依できるかがプロダクトデザインにおいては大切かなと思いますね。

最近ではレシピ動画を配信する「クラシル」を運営するdelyと関わるにあたって、自炊を始めて料理教室に通い出しました。また、育児サービスに携わっていたときは、保育園で3日間働きました。ダイソンのドライヤーをつくったエンジニアたちは、プロジェクトチーム全員で1ヶ月間美容室のアシスタントをしたという話もありますよね。
どんな案件でも頭をフラットにして、リサーチとアウトプットをしていき、ユーザーに刺さるかどうか判断していく。そして、就業体験をするのはマックスのやり方ですが、ユーザーと同じような体験を自分も行い、ターゲットの体験を理解しようとしています

あと、もともとそんなに興味がない分野の方が客観的に考えやすいので、うまくいきやすいということもあります。自分が好きすぎると、盲目化して判断が狂う部分もあるので。

◎デザイナーがつくりたいモノをつくるために、経営を学ぼう

ーー 今回のコンペに限らず、これからのデザイナーは「経営視点を持つ」ことが重要だと言われています。デザイナーが経営やビジネスを考えることにはどのような意義があると思いますか。

坪田さん:学生に向けてシンプルに言うと、自分のつくりたいモノを自由につくるには、偉くなるか、資本をつくるしか方法がないと思います。逆に言えば、自分がつくりたいモノをつくれないモノづくりは、誰かがつくりたいモノを実現しているだけなんですよ。
だから経営に関わるべきというよりは、実現したい世の中があるなら決める立場になりましょう、と思います。

それがなぜかというと、日本の企業組織についての難しい話になってきてしまうのですが。単純にいまの日本の状況では、上位レイヤーに入っていかないと、自分がやりたいと思うようなモノづくりは実現しにくいんですよね。



ーー そんなデザイナーになるために、学生には何が必要ですか?

坪田さん:コンペのポイントと一緒で、「経営を自分ごと化する」ことですね。いちばん手っ取り早いのはモノを売ることで、いまはデザイナーこそそれがやりやすい環境ですよね。モノを売れるサービスはたくさんありますから。

僕自身、他のデザイナーさんとちがうところは、「bosyu」というサービスを自分でつくって事業譲渡した経験があることだと思っているんです。その際にオーナーシップをもってビジネスの交渉をしたことで、経営者の方々と対等に話せる知識やコミュニケーション能力が身につきました

お金の感覚を身に着けることも、経営視点をもつために必要なポイントです。予算や原価、利益の感覚もそうですし、稼いだ利益をどう使うかも重要ですね。

ーー 経営視点をもったデザイナーになるために、今回のコンペはどのような意味があると思いますか。

坪田さん経営者のインサイト(視点や気づき)を知るにはすごく良い機会だと思います。最終的なアウトプットをどうするかはともかく、経営者の思考を知る努力をすることは、とても価値がありますね。
もちろんやるからには、アウトプットも真剣に取り組むのは絶対です。中途半端にせず、考え抜いた提案をぜひ見せていただきたいですね。

ーー 坪田さん、ありがとうございました!

つくりたいモノをつくるために、デザイナーも経営を学ぶことが必要。地道な努力で現在の地位を築いてきた坪田さんだからこその、説得力ある意見ですよね。
「経営デザインシート」リデザインコンペティションに参加して、経営視点を持ったデザイナーになる一歩目を踏み出してみませんか?


▼コンペの詳細はこちら!
「経営デザインシート」リデザインコンペティション

(2019.7.25)
Sakura Shindo

著者紹介

シンドウサクラSakura Shindo

ビビビット社で、企業向けWebメディア「ビジネス部デザイン課」の編集長をしています!趣味はうさぎとコーヒー。うさぎの抜け毛を保存しています。 Twitter
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