「デザイナーになるには美大やデザインの専門学校で勉強していないとダメなのでは?」--- デザインに興味はあってもそのように思っている方が、多いのではないでしょうか。デザイナーという職業は、デザインについて理解し、技術を
身につければ、誰にでもなるチャンスのある職業です。今回は「非美大生」からUIデザイナーになった貴島衛さんに、就職活動や転職活動についてインタビューしてみました。
編集・執筆 / Vivivit Murouchi
貴島 衛きじま まもる
株式会社FOLIO デジタルプロダクトデザイナー
1994年生まれ、台湾と日本のハーフ。新卒で入社した大手IT企業を経て、現在は株式会社FOLIOでオンライン証券のUIデザインに従事。その他にもスタートアップやカンファレンスのデザイン支援など、様々な活動をしているマルチなデザイナー。
ポートフォリオサイト:http://sadakoa.org/
◎美大卒じゃなくてもデザイナーになれる!実績を作った総合大生
貴島衛さんは社会人3年目の若手デザイナーです。新卒で大手IT企業のデザイナーとしてキャリアをスタート、2年目にはITベンチャーに転職した経歴を持ちます。彼のTwitterアカウントでは最新のデザイン方法や自分が考えていることを積極的に発信し、インフルエンシャルな一面もあります。
そんな貴島さん、実は美大ではなく総合大学を卒業しており、美術やデザインの専門的な授業は受けたことがないそうです。デザイナーの新卒採用ではほとんどが美大生な中で、彼はどのようにしてデザイナーになれたのでしょうか?そして、どのようにキャリアを重ねているのでしょうか?
ーー まず、貴島さんの今までと、現在のお仕事について簡単に教えてください!
UIデザイナーの貴島衛です。大学は四年制の総合大学に通っていました。もともとはシステムエンジニアを目指していたのですが、独学でデザインの勉強をしているうちにすっかりハマり……。デザイナーとして仕事がしたいと思い、デザイナー職にしぼって就活を行いました。2016年に大手IT企業へ新卒入社し、1年間従事した後株式会社FOLIOに転職し、今は「デジタルプロダクトデザイナー」という肩書きでWebサービスのデザインや実装を担当しています。
ーー 大学入学時はデザイナー志望じゃなかったのですね。どんなきっかけでデザインを始めたのでしょうか?
大学時代、仲の良い友人がグラフィックやWebデザインの制作をしていて、楽しそうだから自分もやってみようと思ったのがきっかけです。その時点ではシステムエンジニアになるための勉強をしていたので、エンジニアにもとっつきやすいWebデザインから始めました。当時は架空のカフェや好きなバンドのサイトを自由に作って楽しんでいました。
ーー そこからどのようにデザイナーになろうと決心したのでしょうか?
デザイナーを志望した理由は2つあります。まずひとつは単純に物を作ることが好きだったこと。昔から絵を描いたり作品を発表したりすることに楽しさを感じていました。「お金を稼ぐためだけに仕事をする」より「楽しく仕事をしたい」という思いがあり、必然的にデザイナーが将来の選択肢のひとつになりました。
そしてもうひとつの理由は、”デザインは課題解決ができるもの”と気づいたことです。大学生の頃、インターン先で消費者を意識したサービスを企画したり、そのプロダクトに対してのフィードバックをもらったりして、デザインは「課題解決」の側面があることに気付かされました。それまでは「デザイン=ビジュアルを作り上げること」だと思っていたのですが、デザインは「課題解決、問題定義」のためにあるのだと実感したんです。自分もデザインを通じて様々な社会の課題を解決したい!と思いデザイナーという仕事を志望するようになりました。
◎美大へ行かなかった人のデザイン勉強法
ーー 貴島さんは教育機関でデザインについて勉強していたわけではないんですよね。一体どうやって身につけたのでしょうか?
僕の場合は、本とインターンが勉強のベースになっていました。
まず、基礎的なことを知るために古本屋でデザイン関連の書籍を20冊くらいまとめて買いました。その中でも本当に役に立ったのは数冊でしたが……。2013年当時は、UIに関する専門書はほとんどなかったですね。
中でも一番役に立ったのは「ノンデザイナーズ・デザインブック」と「GUIデザインガイドブック」です。
「ノンデザイナーズ・デザインブック」は、まさに自分が「ノンデザイナー」だったので、デザインの概念や基礎を知るためにとても勉強になりました。これからデザインを始める人にオススメです。
「GUIデザインガイドブック」は、初版が1995年でもう20年以上前の本です。残念ながら廃盤になっていますが、パソコンのソフトを作る際のインターフェイスの基礎が書いてあるので今でも読み返すことが多いですね。アイディアに煮詰まったときなど、この本を開いて初心に返ります。こういった本を読んでは作る、という繰り返しをしてWebページを制作をすることに慣れていきました。
その時から「作ったものは発表してなんぼ」だと思っていたので、新しく知ったことを実装するために自分のポートフォリオサイトは2ヶ月に一回くらいリニューアルしていましたね。出来上がって公開すると達成感があるので、それが作ったり学んだりするモチベーションにつながっていました。
ーー 基礎の考え方は本で勉強して、あとはインターンに行っていたと。
学生であるベネフィットを活かして、いろんな企業のインターンに参加していました。学生の頃に「ViViViT(ビビビット)」を使って、いろんな企業のインターン情報を見たり、応募したりしていました。メッセージ機能で企業の人とも気軽に話せるきっかけを作れたのもありがたかったです。当時「ViViViT」を通じて話した企業の方で、今でもつながっている方が結構いるんです。
ーー そんな風に「ViViViT」を活用していただけていたとは、光栄です!参加したインターンではどんな学びがありましたか?
ずっと一人で制作していた自分にとっては、企業の方にフィードバックをもらえるという「他人からの意見」が初めてで、すごく学びがありました。自分で気づけていないことがこんなにあるのかと。大学三年生の頃はとにかくインターンに行きまくっていました。長期のインターンは実務に関わることがほとんどだったので、会社やサービスに対して当事者意識を持って働けることも良かったです。
また、そこで出会った同世代のインターン生たちにもすごく影響を受けました。その時から寝ても覚めてもデザインのことだけ考えていたので、同じ大学の人とは話が合わず……。美大の方や同じ業種を志望している方とデザインの話ができることが、とても嬉しかった思い出があります。そういう人と話すと、「美大行きたかったな〜!」と思うこともありました。
ーー 「美大行きたい!」という思いはあったんですね。
そうですね、美大で勉強してみたかったことはたくさんあります。デザインの勉強というよりは、特にデッサンを専門的に勉強してみたかったですね。デッサンのような観察のトレーニングは、特徴を捉えてわかりやすくアウトプットすることや、機能実装においてのブレイクダウンに役立ちそうだなぁと。なので、いつかはちゃんとデッサン教室に通いたいと考えています。
ーー 逆に、一般的な大学に行っていたからこその強みだと感じる部分はありますか?
大学では経済系の授業でマーケティングについても学んでいたので、それはデザインや仕事に活かせていますね。ユーザーシナリオの作成、アンケートやゲリラインタビューなどのリサーチ、結果を見て改善していくというマーケティングのフローをデザインにも自然に組み込むことができました。特にサービスのUIデザインは、ビジネス的な要素も求められるので、こういった考え方をすぐに実務に取り入れられたのは自分の強みなのかな、と最近では思っています。
◎大手企業からの採用!決め手になったのは「研修がないから」だったけど……!
ーー 就職活動を経て、貴島さんは新卒採用で大手IT企業へ入社されたのですね。たくさん企業を見てきた上でどうしてその会社に決めたのでしょうか?
いろいろな会社でインターンをして、気に入ってくれた会社からいくつか内定をいただきました。内定をもらったあともすぐには決めず、アルバイトをさせてもらいながら、社風や働き方など面接だけじゃわからない部分を見て、しっかり考えました。
新卒で入社した企業を選んだ理由のひとつは、当時はまだ「デザインはこれから」という雰囲気だったからです。同じくらいの規模のIT企業に比べるとデザイナーが少なく、僕の代は新卒デザイナーが4人しかいなかったんですよ。人が少ないと自然と裁量が増えるので、やりたいことが多い自分にとっては学ぶこともたくさんあると思いました。採用された4人のうちの1人になれたことで「この会社に自分が本当に必要とされている」と感じる部分もありましたね。
また、もうひとつの理由は研修がないと聞いていたこと。すぐに実務に取り組みたかったので、当時の自分にとっては重要な要素でした。ただ、ちょうど僕の入社した年から新人研修が始まってしまったのですが……(笑)。
ーー 思わぬところですれ違いが発生したのですね……!
あ、でも結果的には研修で学んだこともたくさんあったので、受けられてとても良かったです!
◎今就活生だったら「デザインプロセスをもっと見せる」
ーー ここまでご自身の新卒での就活に関してお話しいただきましたが、もし今新卒で就活をするとしたら、就活の仕方はまた違っていると思いますか?
そうですね、全然違ったと思います。目が肥えている採用担当者やデザイナーにとっては普通のポートフォリオを作ってプレゼンするだけじゃもう響かないと思うんですよ。それは僕も実際働いてみて思うことです。
今ポートフォリオを作るなら、気になるWebサイトやサービスを模写したものをレポートにまとめたような習作も入れます。僕自身今でも取り組んでいることなのですが、発見が多いんですよ。模写をするときは、意識して隅から隅までそのサービスを観察することになります。それによって得た気づきなどをレポート化してまとめておくと、とても良い勉強になりますし、最新のトレンドや使いやすいデザインを踏襲する姿勢は企業の人にも一目置かれると思います。自分が採用する立場なら、そういう人を採用したいです。
ーー 確かにUIは新しい技術や表現が増えているので、最先端を取り入れる姿勢は企業にとって魅力的に映りそうです。
あとは、行きたい会社が開発しているサービスや商品の改善点をプレゼンするとか。「御社は素晴らしいサービスを作っていると思うんですが、僕だったらここをこうして改善します!」っていう改善資料を作って、それを企業に送ります。改善後の作品だけじゃなくて、何がどう良くできるかのプロセスもまとめます。一緒に働く上で、そのデザイナーがどういう考えを持って作っているのかは見ておきたいと思うので、それも含めてのプレゼンです。
ーー なるほど、ただ単純に「出来上がった作品を掲載する」だけではなく、どうやってそのデザインに行き着いたかの過程をプレゼンすることは、特に長く一緒に働くであろう人材を見極めるためにはとても重要な要素になりそうです。
◎入社一年で大決心!転職ツールは「SNS」
ーー 貴島さんは今は株式会社FOLIOに所属されていますが、いつごろ転職したのですか?
就職して、ちょうど一年くらいで転職に踏み切りました。
ーー 一年!一般的な観点でいうと早めですが、なぜ転職に至ったのでしょうか?
入社してから一年間、メディアやゲーム、新規事業の立ち上げ、自社採用ページの制作など、たくさんのことを経験させてもらいました。ただ、やはり大きい組織にいると自分で意思決定できることが少なかったり、担当が決まっていて柔軟に色々なプロジェクトに携われなかったりするところにモヤモヤを感じ始めて……。「石の上にも三年」とは言いますが、3年後になりたい自分に近づけているかを想像したときに、違うと思って転職を決意しました。自分はもう少し小さい会社に入っていた方が成長できるタイプなのでは、と思ったんですよね。
ーー 実際デザイナーとして働いてみて、少人数の会社でスピード感のある働き方をするほうが自分にマッチしていると判断されたのですね。やめると決めてからの転職活動はどのように行ったのでしょうか。
SNSを活用しました。業界内に知り合いが多かったのでSNSで「今の仕事をやめる」という報告をしたら、ありがたいことに「うちに来ない?」という声が様々な方向からかかってきたんです。学生時代から自分の作品や考えを発信し続け、積極的にいろんな人とコンタクトを取っていたことが吉と出ました。おかげで求人サービスやエージェントは特に使わず転職できました。
ーー SNSを活用した就活……!かなりイマドキな感じがします。エンジニア界隈でも盛り上がっていますが、デザイナーでもビッグウェーブになりそうですね。
最近では企業デザイナーも個人名で情報発信していることが多いので、直接コミュニケーションが取れるSNSを使った就活は、今後新卒、中途に限らず活発化すると思います。SNSに慣れるとメールだとリアルタイム感に欠けて、気軽なコミュニケーションを取りづらく感じますね。SNSで普段から「こういうの考えてみた!」というアイディアを発信しておけば、自分の素性もわかりやすくなると思うのでオススメです。
▲最近はインスタグラムにも作品をまとめているそう。統一感がありとても見やすい!
◎「転職してよかった!」と言えるのは一緒に働く人のおかげ
ーー 今働いている会社の方からも声がかかり、選考に進んだのでしょうか。
CDOが声をかけてくれたことがご縁に繋がりました。「事業を作りたい!」と考えていた自分にとって、当時10〜20名くらいのスタートアップだったFOLIOの規模感は丁度良く感じましたね。デザイン以外も意見できることも魅力的でした。僕が転職した2016年ごろはまだフィンテック(金融におけるテクノロジーやITサービス)のサービスが少なかったのですが、その分野にも興味がありました。そして何より、一番の魅力は会社で働いている人たちでしたね。一緒にひとつのものを作ることになるので、「誰と働くか」というのは会社に勤めるにあたってとても大切なことだと思います。
ーー 転職することに関して、不安はありませんでしたか?
僕自身はそんなに気にしてなかったんですが、親に伝えたときにすごく心配されたので、その時初めて「本当に大丈夫なのかな……。」と思いました。まぁ、それも一週間くらいだったんですけど(笑)。 金銭面ではなく、「ちゃんとチームとして働けるのか」「本当に自分がやりたいことができるのか」ということに不安を感じました。
でも、結局は自己責任なので「思ってた仕事と違う」と感じたらそのときはそのときで考えよう、と思っていました。今は「転職してよかった!」と胸を張って言えます!仕事自体にも興味を持って取り組めていますし、会社の人たちが大好きなので!
◎会社に属さないで仕事をする時代が到来する
ーー 「ViViViT」のユーザーの方でも、貴島さんのように1〜2年で転職を決め、流動的に動く若いデザイナーが多いように感じています。これからの時代、デザイナーの働き方はどうなると思いますか?
「ひとつの会社で働き続ける」というのはここ数年でどんどん現実的じゃなくなっている気がします。仕事をするのに会社に属す必要がない時代になっていますよね。僕も会社と会社を巡って、いろいろな仕事をしてみたいと考えています。企業間でも発注受注の関係ではなく、パートナーとして一緒にものづくりできる付き合い方が理想です。
ーー そういった働き方に向けて、何かしていることはありますか?
副業はよくしています。所属しているFOLIOでも競合にあたる業種を除いて、副業は認められていますので。面白そうなスタートアップには積極的に協力していますよ。雇われている身ではあるので、「本業に還元できるかどうか」を考えた上で参加を決め、週末に副業の作業をしている感じですね。
ーー よく働きますね!辛くないですか?
僕は働くことが大好きだし、デザインも大好きなので、休みがあってもなにかを作っていることが多いです。たまに外に出ても、家で作っていたほうが楽しいと感じてしまったり……。逆に今やりたいと思えることを思いっきりやらないとネガティブになってしまいそうなので、今は何より思いっきり作るようにしています!
ーー デザインが仕事になっても自分が楽しんで制作をできる環境を整えていること、素敵です!貴島さん、ありがとうございました!
◎「今できること」と「これからやりたいこと」を軸に仕事をする
「非美大生」であることも活かし、デザイナーとして着実にステップアップしている貴島さん。「今できること」と「将来どうなりたいか」を考えているからこそ、自分を信じて進路を決められているのだと感じました。ずっと同じ会社で働くことが合っている人もいれば、フットワーク軽くいろんな場所で経験を積んでスキルアップするデザイナーもいます。やり方は人それぞれ。自分に合った方法で「なりたい自分」へ向かうことを、ビビビットでもオススメします!
◎転職に迷ったら……
「やっぱりデザイナーになりたい!」
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(2018.7.20)
著者
ビビビットむろうち
株式会社ビビビットにて就職+転職アドバイザー/マーケターをやっています。デザインと呼ばれるものは幅広くカバーしています!好きなものはインターネット。 Twitterの中の人→ https://twitter.com/vivivit_chuto
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