働きたい未来を創るのは子ども自身。杉並区の住宅街に在る、子どものためのデザイン教室とは| MAY. MuroSatoshi

クリエイターの未来を創る人02_muro

近年、仕事の選択肢を広げるために子どものうちからデザインやプログラミングの技術を身につけようと教育する機関が増えてきています。今回お話を伺った室さんも、“子どものためのデザイン教室”を運営しているひとり。ですが、室さんが運営している“子どものためのデザインの教室”は、同じ“デザイン”でも、グラフィックやウェブなどの制作技術を教えるデザイン塾ではなく、子どもの思考力や発想力を磨くことに力を入れている塾なんです。学ぶ内容は一体どのように違うのか、未来の子ども環境を築く室さんの活動に密着しました。編集・執筆 /AYUPY GOTO

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室 諭志

MAY-デザインの教室- 代表

京都造形芸術大学 空間演出デザイン学科卒業後、地元兵庫県の公立中学校にて美術科の常勤講師として勤務ののち、上京。
NPO法人MYstyle@にて地域コーディネーターとして在籍。
2015年に独立し、フリーランスデザイナーとして活動を開始。
2016年、子どものためのデザインスクール「MAY-デザインの教室-」を立ち上げ。福祉/教育/デザインをテーマに活動中。
http://maybe-s.jp

クリエイターにならなくてもいい。
子どもが持つ創造力と、多様な可能性を育てたい。

― 室さんが運営している「MAY-デザインの教室-」について教えてください。

室さん:「MAY-デザインの教室-」子どものためのデザイン塾です。杉並区の阿佐ヶ谷駅から10分ほど歩いたところにある住宅街に、小さな教室をつくりました。そこで幼稚園年中から中学生までの幅広い世代の子どもたちにデザインを体験してもらっています。
“デザイン”と聞くと、グラフィックやプロダクト、ウェブデザインなど、専門的な分野や職種をイメージされる方が多いと思いますが、僕はそういった専門的なデザイン技術を教えることはありません。 普段から子どもたちの身の周りにある物を使い、違った視点から物事を見るようなきっかけを与える授業を行っているんです。子どものうちに多様なものの見方に触れることで、当たり前だと思っていた物事について改めて考えたり、ものを見る「見方」そのものについて考えることが、子どもの成長過程に置ける学びの本質的な価値があると思っています。
教室では、「わたし」「あなた」「かんかく」「いろ」「かたち」……といった12のキーワードをもとにして、子どもの発達段階に合わせて様々な内容の授業を行っています。「MAY-デザインの教室-」は、ささいな日常の気づきからアイデアを導き出し、創造や実践を行う学びの場となっています。

― 具体的にどういった内容の授業を受けることができるのでしょうか。

室さん:例えば、身近にある土を使って、匂いや触感を楽しんでもらいながら「クレヨン」を作る授業を行ったり、筆を使わずに調理道具を使って料理の絵を描くような授業を行いました。
どちらも、その成果物よりはプロセスに重点を置いているのも、教室の特徴かもしれません。
クレヨンづくりなら、出来上がるクレヨンよりも、いろいろな土ごとの手触りの違いや、加熱することで、香り立つ、強烈な土の匂いを感じてもらうこと自体に意味があると考えています。知ったようになっていることを、実際の体験を通して丁寧に感じていくことが、考える上での道筋を一本でも多く増やすことに繋がるのだと思います。大人になるにつれて、アイデアを出したり企画したりする機会も増えていくと思うのですが、そういった瞬間に活きる根っこの部分の思考力を身につけて欲しいと思います。それは、必ずしも「クリエイター」と呼ばれる職種だけでなく、幅広い職業に共通して、これからより求められるものだと思います。

 

― だから制作スキルを身につけるような授業は行っていないのですね。

室さん:そうです。アイデアを育てるような授業がメインなので、絵を描くことが苦手な子や、クリエイティブに興味がない子にもぜひ参加してもらいたいと思っています。
技術的なことや、手先の器用さも、もちろん大切ではありますが、創造力を子どものうちに身につけることができれば、子どもたちが将来どんな仕事に就いても力を発揮することが出来ると思います。

MAY-デザインの教室-の施設風景

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室さんが自身の手で作った建物の内装
  
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授業に関連する本や、制作物のサンプルなどが棚に展示・収納されている。
 
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白い外観は住宅街の中でも目を引く存在感。ガラス張りの壁からは教室の様子が伺える

 

― 何故このような“子どものためのデザイン教室”を作ろうと思ったのでしょうか。

室さん:中学校の美術教師として働いていた期間があったのですが、その時の経験が今の活力となっています。小学校・中学校の美術の授業は、完成した作品のクオリティの高さが評価の中で占めるウェイトがまだまだ大きいように思います。もちろん、その作品にたどりつくまでの思考プロセスも、評価されないことはないのですが、現実的にものとして見える成果以外の部分での評価はなかなか難しいです。子どもの頃に身につけた思考のプロセスほど、将来に役に立つものはないと思っているのですが、公的な教育機関の中で、そこにスポットを当てた授業プログラムを展開していくことは難しかったです。「今回は個人の作品はありません!」なんてなるとそれこそ成績の付けようがないわけで……。もちろん、プロセスと成果物の問題は、上手く調整して実践している先生もおられますし、自分が特にプロセスに重きを置きたいという気持ちが強かったのもありますが。なので、実際に自分で場所をつくって、自分でプログラムをつくって教えてしまおうかな、と。

― 現在運営している「MAY-デザインの教室-」ですが、何故このように場所(教室)を作って運営しようと思ったのでしょうか。

室さん:独立して仕事を始める時に自分の中で決めていたことがあったのですが、それは「負の遺産を抱えること」でした。 最近だとコワーキングスペースで働く人や、それこそノマドワーカーのような、場所を持たない働き方が増えていますし、リスクも少ないので最初は周りにも勧められていましたが、継続してひとつのことに集中して取り組むにあたって、ある程度自分を逃げられない状態に追い込もうと思い、家賃のある物件を借りて運営しようと思ったんです。あと、僕は人見知りなので、いろんなイベントスペースに顔を出して人脈を広げたりするのが苦手なんです。なので、自分の場所を作って自分の活動を好んでくれる人を招くようにしたほうが性に合ってると思ったんですよ。 

― 商店街や住宅街に教室を作ったのは、子どもが集まりそうな環境があったからでしょうか。

室さん:もともと、教室のある阿佐ヶ谷には地縁もなかったのですが、活気のある商店街の雰囲気が気に入ったことと、この物件の1階がガラス張りだったことが決め手でした。まわりに住んでる人たちが教室の前を通ったときに、子どもたちの学んでいる様子が覗けてコミュニケーションが広がったら素敵だと思ったんですよね。散歩している人が「ここで何をしているんですか?」と尋ねてくれることもあって、地域の輪が自然と広がっていく様子が面白いです。

会社の利益を上げるデザインよりも
社会をつなぐデザインがつくりたかった。

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― 今、独立して子どもの教育環境を築いている室さんですが、学生時代はどのようなことを学んでいたのでしょうか。

室さん:京都造形芸術大学(以下、京造)の空間演出デザイン学科 空間デザインコースに通っていました。高校生の時から美大に進学したいとは思っていたのですがコースは特に決めていませんでした。当時の自分は将来何がしたいのか決まっていなかったので、あまり専門性が高くない自由な空間デザインコースを選択したんです。 1〜3年生の頃は授業で空間デザインの基礎を学び、授業外では現代アートのプロジェクトに携わっていました。3年生まではなんとなく自分の好きな作品を作っていたのですが、ちょうどその頃に東北地方太平洋沖地震がおきて、社会におけるデザインの価値と向き合うようになったんです。そこから、自分のやるべきことや世の中に求められているデザインが見えてきた気がして、デザインと社会のかかわりや、いわゆるソーシャルデザインと呼ばれる分野に興味を持ち始めました。

― 震災をきっかけに考え方が変わったのですね。就職活動はどのように行ったのですか?

室さん:そうはいっても、ソーシャル一辺倒みたいな、当時の状況に懐疑的な気持ちもあったので、いわゆる普通の企業で、興味のある業界のものを何社か受けました。アパレル系、広告代理店、制作会社などエントリーしてみたのですが、なかなか思うような結果は得られませんでしたね。そんなときに、大学受験の頃に通っていた画塾の先生が中学校の美術教員の仕事を紹介してくださって、教員免許をとっていたこともあり物は試しだと思って、兵庫県の中学校の常勤講師として卒業後働くことになったんです。

大学4年生時の卒業制作作品

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「都市と公共性」をテーマに、軒先の鉢植えなど、私的な空間から公共空間にはみ出しているものから着想を得て、公共物に寄生するような、屋外設置型のDIY家具を街中に設置するプロジェクトを行った。

― 前職は中学校の美術教師だったのですね!どのようなお仕事をされていたのでしょうか。

室さん:美術の常勤講師といっても、美術の授業を教えるだけが仕事ではありません。担任のクラスも持っていたため、生活指導や家庭訪問や学校行事の運営なども行っていました。美術以外の指導が自分に出来るのか最初は不安でしたが、始めてみたら子どもに何かを教えることは凄くたのしかったですね!美術の授業のプログラム決めも、基本自分に任せていただいてたのでやりがいもありました。美術の授業では、デッサンのような基礎的な課題もやりましたが、空想上の生き物を考えて、版画をつくって、生態を発表するような授業も行いました。
普段美術が苦手な子からも、訳のわからない生き物のアイディアが出たりして教えていても面白かったですね。その時の作品写真は今でも大切に保存しています。

― そこで美術を子どもに教える経験を積まれたのですね。ではなぜ、1年ほどで退職されたのでしょうか。

室さん:続けようと思えば継続できた仕事ではあったのですが、自分の性にはあっていないと思ってしまったんですよね。僕自身、中学生の頃規則を守ることに違和感を感じていた人間だったので、生徒に対して生活指導や学外の生活面での指導などに違和感を感じてしまって。学校独特の風紀やルールの考え方には、複雑な気持ちがありました。あとは進路指導。最近では多様な働き方、生き方が世の中に増え、将来選択の幅もそれだけの広がっていますよね。進路指導では漠然としたサラリーマン的な職業像しか説明されず、働き方や生き方の多様性について触れられないのは、僕にとっては歯がゆかったんです。子どもに教えること自体はすごく楽しかったんですけど、一つの公的な組織の中で足並みをそろえて進めていくことは、自分にはちょっと難しいかな……と。

― 確かに自身の判断だけで行動するのは難しそうですよね。辞めた後はどうされたのでしょうか。

室さん:辞めた後に何をするかは全く決めていなくて、ただ、子どもに教えることを仕事にしたいとは思っていました。仕事を辞めたことをきっかけに、ゼロからスタートして新しい人間関係も築いていきたいと思い、あえてツテのない東京に行ってみようと思ったんです。いきなりフリーランスというのも、仕事をもらう繋がりがないので難しいと思い、都内の飲食設計業を行なっている会社でインターンとして働いてみることから始めました。
そこでの仕事は華やかさもありましたし、プロジェクトごとに動く資金も大きいのでやりがいはあったのですが、やはり商業的なデザインよりも社会性のあるデザインを仕事にしたい気持ちが強かったですね。
そんなことを考えていた時期にふと見ていたメディアで、とある小さなNPOの求人が目に入ったんです。その企業の事業内容が、企業の創業サポートをするような仕事になっていて、将来自分が起業するときに勉強になりそうだと思って、少し興味があったので応募してみたんです。飲食設計会社を辞めて一週間後ぐらいにそのNPOの面接にいって、将来子ども向けの教育事業をしたいという話をしたら「いいよ、うちで働きなよ」と代表がいってくれたので、理解のある環境に感謝してそのNPOで働くことにしました。

― そのNPOでは具体的にどのような仕事をしたのでしょうか。

室さん:デザインとは少し縁遠い仕事です。どちらかというと泥臭い仕事が多いです。一方で、今まで自分が学んできた仕事とは全く違う内容に面白みも感じました。新規創業を志す方に向けた講座を行ったり、パソコンを使うのが苦手な地域の事業者向けに操作方法やウェブサイトの作り方を教えたりしていましたね。
地域に根ざしながら、仕事をする人、つくる人と共にそれこそ二人三脚で進んでいくような感じです。

― NPOでの仕事は充実していたのですね!では、どのタイミングで「MAY-デザインの教室-」を立ち上げようと思ったのでしょうか。

室さん:新規創業者向けのセミナーに主催側として参加していたのですが、NPOの代表に「一緒に参加して事業計画を書いてみて」といわれて、事業計画書を書いたりしているうちに、自分の中でもやりたいことの輪郭が見え始めて、そのまま流れと勢いで立ち上げることになったんです。(笑) もともとこんなに早く独立するつもりはなかったのですが、そこから東京都の補助金や、融資の案内を職場の方々にご紹介していただいて、代表に背中を押されてここまできました。

「働くことは楽しいこと」
創造力を向上させることで、将来の仕事がもっと楽しみになる。

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― 子どものためのデザインの教室を始めてみて、参加している子どもや保護者の反応はいかがでしたか。

室さん:僕は中学生にしか教えた経験がなかったので、小学生以下の子どもが、どのレベルの課題まで出来るのか、最初は判断が難しかったです。年齢が低いほど、子どもによって出来ること出来ないことの差も大きいので、今も回を重ねながら微調整しています。
あとは大人の方々に理解してもらうのも一つハードルがあります。僕の運営しているデザインの教室は、最終的な成果物が必ずしも目に見えて美しかったりかっこよかったりするわけではなく、時には成果が目に見えない時もあります。
保護者の方に、考え、作る過程にウェイトを置いているという教室の趣旨を保護者の方々に理解してもらう必要があります。 正直な話、絵画教室や造形教室のほうが需要はあると思います。子どもが完成した絵画や造形物は、それだけでも十分魅力的ですから。もちろん、それはそれでクオリティを引き出す手腕が必要なので大変だとは思いますが。

― 今後このデザインの教室をどのように展開していきたいですか。何か目標があれば教えてください。

室さん:もっと多くの方にデザインや美術と教育について考えてもらえる場をつくっていきたいです。あと、デザインや美術への関心があまりない人にこそ、教室にきて学んでほしいと思っています。塾という形式以外でも、幅広い方にデザインと絡めた学びの場を提供できることが理想です。
くり返しになりますが、この塾で学んだ子どもたちにデザイナーやクリエイターとして将来働いてほしいわけではありません。授業の中で子どもが持ってる創造力を最大限に向上させいたいです。その力を持って社会で活躍する大人に成長してもらえたら嬉しいですね。
「働くこと」って大変なイメージを持っている人がまだまだ多いと思いますが、自分に出来ることを増やして働けば社会を変えられるかもしれないと思うと楽しいです。子どもに「早く大人になって働きたい」と言ってもらえるような、環境や社会をつくる土壌の一端を担えるような場をつくることが一つ目標です。

室さんが運営する「MAY-デザインの教室-」のように、子どもに思考プロセスを身につけさせる、創造力を磨くデザイン教室を経験させるのも新しい成長が見えて面白いかもしれません。「MAY-デザインの教室-」で学んだ子どもたちが大人になった時に、新しい発想でより良い社会を築いてくれる未来が待ち遠しいです。「MAY-デザインの教室-」の最新情報を入手したい方は、是非公式サイトFacebookページにアクセスしてみてください。
室さん、素敵なお話ありがとうございました!

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Ayupy Goto

著者紹介

後藤あゆみAyupy Goto

はたらくビビビット編集長。 フリーランスで“『ツクル』を仕事にしたい未来の子供たちのために。”を、コンセプトとして活動。クリエイター支援、スタートアップ支援を行っています。おばあちゃんになるまでに美術館をつくるのが夢です 。
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