STARTUP DESIGN vol.02|コイニー株式会社 プロダクトストラテジスト 久下 玄さん

コイニー

特集

「STARTUP DESIGN」第ニ弾は、いつでも、どこでも、誰でも使える新しい決済プラットフォーム”Coiney“を開発する「コイニー株式会社」で、として働く久下 玄さんのインタビューです。編集・執筆 / AYUPY GOTO

久下 玄くげ はじめ

コイニー株式会社 プロダクトストラテジスト
東京造形大学卒業

誰でも“かんたん”に使えるプロダクト開発で
世の中をもっとハッピーにする

― コイニーさんはどのような事業をおこなっている会社なのでしょうか。

久下さん:カードリーダーを挿すだけでスマートフォン決済が可能になる”Coiney”というプロダクトを開発しています。”Coiney”は、いつでも、どこでも、誰でも使える新しい決済プラットフォームで、手持ちのスマートフォンやタブレットのイヤフォンジャックに、専用のカードリーダーを挿してアプリケーションを起動するだけで、その端末をカード決済端末として使用できるサービスになっています。お客さんは決済の際スマートフォンの画面にサインをするだけで支払いを完了させることが出来ます。

また、これまで現金支払いしかできなかった屋台や大型イベントなども、”Coiney”を使うことで簡単にカード決済が出来るようになりました。

コイニーは、ハードウェアやソフトウェアを全て社内で開発していまして、今後も様々なプロダクトを生み出す予定です。世の中にある、便利だけど難しくてめんどくさいものを“簡単”にすることで、誰もが心地よく暮らせる社会をつくることをミッションにしています。

― 確かにこの端末があれば何処でも簡単に決済が出来て便利ですね!久下さんはいつからコイニーで働かれているのでしょうか?

久下さん:コイニーを立ち上げた時から関わっていました。最初は僕を含めた3名しかいませんでした。周りに協力してくれる人はいたのですが、人数が少ないこともあり一人一人がいろんな仕事を担当しないといけない状態でした。僕は元々プロダクトデザインの仕事を行っている人間なのですが、自分がやらないとアプリが完成しない状態だったので、最初期はプログラミングも行っていました。また、営業にも行っていましたね。幅広い仕事をするため“デザイナー”といった肩書きを避け、現在に至ります。

― 現在は“プロダクトストラテジスト”という肩書きですか、めずらしいですよね。

久下さん:僕は全ての商品のラインナップに携わっており、当時はデザイナーとエンジニアと、マーケティングの仕事を全部ひっくるめて行っていたため、こういった肩書きがつけられていました。

― 本当に幅広くお仕事を担当されているのですね。

久下さん:そうですね、今は主にデザイナーとエンジニアの統括をしています。

久下さんが携わったプロダクト

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久下さんがデザイン制作・開発を担当|Coiney Reader (Ver2_2015)
Photo by Michinori Aoki

Coineyのサービスの核となる専用カードリーダー。アイコニックな丸い形状やカードの読み取り口にブランドカラーを配色するなどして、サービスの顔となるようデザインした。読み取りの際の感触や力のかかり方など、構造的な安定性を重視したデザイン。親しみやすさを体現した丸くてふっくらしたフォルムがお会計の体験を魅力的に感じさせる。ソフトウェアもハードウェアも親しみを感じさせるように、デザイントーン&マナーをコントロールしている。
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久下さんが設計を担当|Coiney Office (2014)
Photo by Kozo Takayama

ミートアップイベント等にも使える大きなエントランス。奥のカウンターはDJブースを兼ねる。
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久下さんが設計を担当|Coiney Office (2014)
Photo by Kozo Takayama

様々な役割のメンバーが対話を活発にしながら働けるよう、ワンフロアで設計された執務スペース。ガラスでホワイトボードを作ることで、空間を広く感じさせたまま、各所にコミュニケーションポイントを設けている。

“学生”であることに甘えない
プロ意識の高さが、仕事と内定に繋がった。

― いつからモノづくりに興味を持ち始めたのでしょうか?

久下さん:幼い頃からつくることが1番得意でした。なのでつくることを仕事にしたいとは思っていたのですが、物づくりの仕事で誰かの力になれることはなんだろうと悩んだ時に親戚のおじさんに相談したら、プロダクトデザイナーという仕事を教えてくれたんです。そこから、デザイナーの仕事について調べるようになって、中学生の頃には、美大に入学してデザインを学びたいと考えるようになりました。

― 将来やりたいことを見つけるのが早いですね。

久下さん:そうですね。ですが、実は高校を卒業した後、2年間くらいフラフラしていたんですよね(笑)。

― え、そうなんですね!受験のため浪人していたわけではなくですか?

久下さん:特に勉強のためとかではなくて、大学は行こうと思えばいつでもいけると思っていました。なので、ひたすらDJやバンド活動をやって過ごしたり、バイクを改造したりして遊んでいました。そういった生活を1年間ほど続けて、遊びに飽きた頃にそろそろ大学行こうかと思い準備を始めたんです。そこから高校生にまじって美術の予備校に1年間ほど通いました。

― そこから美大に入学したんですね。

久下さん:東京造形大学に進学して、工業デザインを学んでいました。入学した当初から、早く独立して自分でいろんな仕事をやりたいという思いがあったので、まずは卒業するために必要な単位を早めにとってしまおうと思ったんです。最短で単位をとりきる方法を探って、可能なかぎり講義をつめて受講して、卒業のために必要な単位は1〜2年生でとりきりましたね。

必須単位の獲得を達成した2〜3年生の時に、時間もできたので自分で仕事をつくろうと思い、雑居ビルに入っている会社を片っ端からアタックして「会社案内のパンフレットやWEBサイトを安くつくりますよ」って、営業してまわったんですよ。

― 仕事をつくるために自ら営業活動してまわったんですね!すごい行動力ですね。

久下さん:正直たくさん仕事がきていました(笑)当時WEBサイトがつくれる人も多くなかったですし、需要があったみたいで。最初は一人で活動していたのですが、そのうち自分ひとりではつくりきれないほど仕事をもらうようになったので、友達にも仕事を渡すようになりました。どうせバイトするならチェーンの飲食店で仕事するよりも、つくることでお金を稼ぐ経験を積めたほうが良いと思っていました。

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― 個人でバリバリ働かれていた久下さんですが、就職活動はどうされていたのでしょうか?

久下さん:個人の仕事も順調でしたがグラフィックデザインの制作業務が中心で、元々工業デザインの仕事がしたいと思っていたので、一度専門の企業に就職したいと思い、募集が始まったタイミングで就職活動は行いました。希望していた家電メーカー業界を数社受けて、内定をいただいた1社に就職することにしたんです。

― メーカー業界を詳しく知らないのですが、就職活動はどのように行ったのですか?

久下さん:工業デザイナーの就職活動って少し他の職種とは違って、そもそもオープンで募集している企業がすごく少ないんです。3年生の初旬や中旬など早い時期に美術大学限定で募集が始まったりして、そのタイミングでしかエントリーできませんでした。
エントリーする場合、ポートフォリオや、事前課題を提出しないといけないのですが、その事前課題の内容は、例えば“次世代の映像デバイスをデザインしてください”というものだったりして、それなりにハードルが高いんです。その書類選考で通過した人だけ研修合宿に招待され、そこでまた試験や面接を行い、内定が不合格かが決まるといった感じでした。

― 特殊な就職活動ですね。早い段階から計画して就職活動に挑まないと内定を逃しそうですね。久下さんはどういった点が評価されていたのかわかりますか?

久下さん:“学生”だということに甘えないことです。何をつくるにしても客観視して、可能なかぎりクオリティを上げることが重要です。世の中出ている広告などのデザイン物は、別に学生でも鍛えればつくれるんですよ。ただ、どれだけプロ意識をもって制作出来るかが重要だと思います。パッと見たときに、明らかに手を抜いてるものって見たらわかりますよね。企業側も雇う人を探しているわけなので、それなりにクオリティがあるものを作れないと、採用されないですよね。

― 学生時代からプロ意識を持って活動されていたんですね。

久下さん:ポートフォリオをつくる時、作品の説明を入れるために文字を使うと思いますが、文字組みが雑だったり、フォントのサイズがバラバラだったりする人が結構いるんです。そういった読みやすさとか見やすさを意識して作れない人を採用したいとは思わないですよね。普段、本や雑誌を見るうちから、見やすい文字組みや配置などは意識して見ていたほうがいいと思います。

― 意識を変えるだけで、大きな変化がありそうですね。そこから卒業して、工業デザイナーとして働かれていかがでしたか?

久下さん:すごく働きやすくて良い環境でしたよ。自分の興味の持ったことや好きなことを、何でもやらせてもらえる会社でした。

ですが、ちょうど家電メーカーで仕事していた頃にリーマンショックがおこり、家電メーカーの売上がガクッと落ちた時期があったんです。そこで会社の業績も悪化して、新しい事業立てないとこのままじゃマズいという時期があり、その様子を見て自分も何か出来たらと思い「こういう製品あったらどうですかね?」と、社内の先輩にいろんなプランを提案して回ったんです。ですが、全然提案した内容を受け入れてもらえず、動いてもらえなくて、悔しい気持ちでいっぱいでした。ですが、僕もプランは出せても、ハードウェアになって動くところまで開発してみせることが当時は出来なかったので、説得力がなかったんですよね、そこから自分でもハードウェアを作れるようになろうと、小さいところからプログラムの勉強を始めたんです。そうしたらいろんな知識や技術がついて、実際自分でつくって動くものを提案することが出来たり、アドバイスすることが出来るようになり、電気量販店から直接相談されることも増えて、クライアントや社内の人が、僕を認めてくれるようになったんです。最初は会社に貢献したいという思いから始めたことでしたが、個人で働ける実力がついたので、独立することにしました。

― 独立…というと、コイニーに入る前は起業されていたのでしょうか?

久下さん:コイニーで働きながら、もうひとつ会社を持っているんですよね(笑)退職してから、起業して3〜4年経ったころにコイニーを立ち上げるメンバーに出会って、コイニーでも働くことになったんです。最初はサポートとして関わるつもりだったのですが、気づいたら沢山仕事をするようになっちゃって。僕が代表を勤める会社にも社員はいますし、コイニー創業当時は社員にコイニーの仕事を手伝ってもらったり、自分の会社からコイニーに転職してもらったパターンもありますね(笑)

― そのような働き方が出来るのですね!久下さんの熱量と実行力には驚かされます。

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久下さんが携わったプロダクト『Coiney』を詳しくご紹介

久下さん:先ほどからもお話していますが、デザイン制作やハードウェア開発など、僕がいちからつくり上げたのが、この『Coiney』です。

― 何故このCoineyの開発に興味を持ったのですか?

久下さん:コイニーの代表が、開発する大変さや開発にかかる費用をあまり理解していないのにも関わらず「30万台つくりたい」と言っていて、その状況が面白いと思っちゃったんですよね。絵があればつくれると思っていたようなのですが、そんなことはなくて(笑)あと、なんでも一からプロダクト開発に関われるのは楽しいじゃないですか、その状況や一緒に立ち上げる仲間が面白そうだと思いから参加することにしました。

― どうしてこのようなサービスを作ろうと思われたのでしょうか。

久下さん:今までクレジットカード決済をお店や企業が導入するのは、設備投資や手続きが複雑だったりしてすごく大変だったんですよ。カードブランドさんの加盟店にならないといけなかったりと、ハードルが高かったんです。そういった状況を変えたいという話が出て、Coineyのようなサービスを開発することになりました。サービスの利用料金などを圧倒的に安くし、使いやすくすることで、今まで利用できなかった人たちにも使ってもらえる環境をつくりました。さらに改善を繰り返し、少しでも日本のビジネス環境を豊かにできたらと思っています。

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POINT 01:ハードウェアそのものがアイコニック

Photo by Michinori Aoki

久下さん:新しいサービスなので印象に残る形にしないと、会社もサービスも覚えてもらえないのでアイコニックなハードウェアデザインを強く意識しました。丸い形状は、工業製品の構造設計としては実装のスペース効率や欠点がいくつかあるのですが、それでも人の目に触れたときの心地良さや、記憶に残りやすい形状を優先しました。

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POINT 02:メディアに出た時の写真写り

Photo by Michinori Aoki

久下さん:アプリケーションとハードウェアの両方にいえることなのですが、プロダクトの写真写りはかなり意識しました。サービスを立ち上げたばかりの時に特に大事なのが、メディアに出た時のわかりやすさや、印象的なモチーフになっていることだと思います。また、真っ白なハードウェアは写真で撮影すると白く飛びやすいのですが、どんな方向から撮っても、必ず両線にロゴやラインの陰影が出るようにスタイリングをコントロールしたりと、工夫しています。実は工業デザインはテクニカルな手法が多く、皆さんが普段触ってるものにもいろんな意図があるんです。

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POINT 03:可能なかぎり試作をつくる

久下さん:そもそも丸い形状にしようと決まる前に、たくさんの様々な形状のデザイン試作品をつくっています。3Dプリンタやペーパーを利用して、色やサイズ感、デザイン等、アイデアは全て一度カタチにして、並べて比べています。平面にイメージを描くだけではわかりにくく、実際にカタチにしないと提示も評価もできないと思っています。

最後にメッセージ

― コイニーの仕事を通して嬉しかったことや、大変だったことを教えていただけませんか?

久下さん:嬉しかったことや楽しかったことですと、世の中で見たことのないプロダクトを目標として挑戦できる環境があるのは楽しいです。あと、ベンチャー企業ってどこも慢性的に手が足りないので、手が空いてる人から順に「これ出来そうだったらやってよ」と、いろんな方向から仕事が飛んでくるので、そういったいろんな仕事を任されるのが好きな人は楽しいと思います。

また、大変だったことですと、Coineyのサービスを始めた時に、金融業界で働いた経験のない3人が金融事業やりますと言っていたので「何を考えているんだ」と、いろんな会社さんに怒られたことがありました。今ではその企業さんも仲良くしていただいているのですが、信用を得ることは大変なことなんだと強く感じましたね。

― どういった人と一緒に働きたいと思いますか?

久下さん:必要だと気づいたものを、指示待ちせずに自らつくっていける人と一緒に働きたいですね。クリエイティブなものって、人から言われてつくるものじゃないと思っています。一から自分で考えて物事を動かすっていうのはすごく大変ですし、めんどくさいことなので、それをわかって動けない人も多いと思うんですけど。それでもつくってくれる人がいいですね。

― 最後に学生に向けてメッセージをお願いします。

久下さん:自分の求めている場所や仕事にたどりつくために1番必要なのは結局“気合い”ですよね。気合いのある人がクリエイターとして長く生き残ると思います。今ではインターネット上でも、技術を学べるツールが充実しているので、やる気のある人はそういったツールを活用してぐいぐい成長していきますよね。それが出来る人と出来ない人の差って圧倒的にあると思っています。例えば、WEBサービスのデザインしたいんです!と言っているのに簡単なコードすら書けない人がいます。その時点で、やる気があるかないか一発でわかりますよね。気合いを入れて学ぶ姿勢を持つということが、1番重要なのではないでしょうか。

― やりたいことがあるなら全力で学び、プロダクトをつくりだすまでの経験を積んで欲しいですね。久下さんお話ありがとうございました。

コイニー株式会社

(2015.8.4)

著者

後藤あゆみ

はたらくビビビット編集長。 フリーランスで“『ツクル』を仕事にしたい未来の子供たちのために。”を、コンセプトとして活動。クリエイター支援、スタートアップ支援を行っています。おばあちゃんになるまでに美術館をつくるのが夢です 。

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