地方で働く - creative company - |山形県 コロン 萩原尚季代表インタビュー

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特集

特集『地方で働く- creative company -』では、地方のクリエイティブを先導するデザイナーや、伝統工芸を活かして新規事業を展開しているディレクターなど、全国各地のクリエイティブ企業で活躍する方々をインタビューしていきます。記念すべき第1弾は、山形県で活躍されているデザイン事務所“株式会社コロン”の萩原代表にお話を伺いました。地方ならではのユニークなお仕事や働き方とは何か、その土地ならではの魅力を覗いてみましょう。編集・執筆 / AYUPY GOTO

萩原 尚季はぎわら たかき

Art Director

株式会社コロン代表取締役。
1976年茨城県生まれ。2000年東北芸術工科大学を卒業。同大学の大学院に進学し、スウェーデンへの留学経験から2001年デザイン事務所「コロン」を立ち上げる。2010年4月〜2013年3月まで「山形まなび館・MONO SCHOOL」を運営し、2012年度「グッドデザイン・ベスト100」を受賞した。

夢のようなことも山形なら実現できる。
理想のカンパニー“コロンパーク”の絵に込めた想い。

― コロンさんの普段のお仕事内容を教えていただけますか。

萩原さん:株式会社コロンは、グラフィックデザインを軸にしたデザイン事務所です。会社やブランドのロゴマークのデザイン、WEBサイト、パッケージデザイン、広報物としてフライヤーやDMなどを制作しています。今年(2015年)でコロンを設立してから15周年を迎えます。

― コロンさんはエディトリアル、WEB、パッケージなど…デザインの中でも何か専門に特化してお仕事を受けているのでしょうか。

萩原さん:基本的にはグラフィックデザインを専門にしています。ただ、デザインで問題解決することができるお仕事であれば引き受けています。何か一つに特化してるだけでは、地方でのデザイン業は難しいと感じています。デザインという仕事自体、必要性があまり高くないので、いろいろな案件に対してデザインの必要性を提案していくことが大切だと思います。

― なぜ山形県で働こうと思われたのですか?

萩原さん:デザインを学んだ大学が、山形県だったことが大きいです。山形というデザインの需要が少ない地方都市で、デザインを生業として成立させることができたら、それこそどこでも働けるような気がしたんです。

一番最初の仕事が「コロンパーク」という夢のような目標を「絵」として描くことでした。その絵には自分たちの理想の働く場所が描かれています。美術書籍やデザイン書籍、古本を取り扱う本屋さん、カフェレストラン、デザインショップ、自分たちが働くオフィス…など、自分が働くことが楽しくなるような場所を築くこと。そんな夢のようなことも、山形だったら実現できる可能性があると思えたからです。

萩原さんが携わったお仕事たち

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萩原さんがデザインを担当|王将果樹園

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萩原さんがデザインを担当|日本東北山形便り
「山形エクセレントデザイン2013/エクセレントデザイン賞」受賞

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萩原さんがデザインを担当|山形風呂敷
「山形エクセレントデザイン2013/エクセレントデザイン奨励賞」受賞

“学内で起業する”スウェーデン留学で体感した独特な文化。

― なぜ、現在のお仕事に至ったのでしょうか。学生時代のお話を聞かせていただけますか?

萩原さん:当時できたばかりだった山形県の東北芸術工科大学に通っていました。その学生時代に、教育の価値観と現在の仕事につながるきっかけを与えてくれたのが、スウェーデンでの海外留学です。スウェーデンの美術大学には、デザイナーが育つ環境として、「トランジット」という部屋があります。トランジットは、大学を卒業後に起業し、生業をつくることを支援するシステムで、税理士や弁護士からサポートを受けられます。後輩たちは、卒業した先輩たちが、同じ大学にいながら仕事をしている様子を見ることができます。そして学内で起業した人たちが、実際に事務所を構えて卒業していきます。そうやって卒業していった起業家たちは、10数年後、今度は教える側として大学に戻ってきて、後任を育てていくようになっているんです。

― 卒業後に学内で起業できる環境があるんですね、面白い美大ですね。

萩原さん:その環境は、自分が日本で見てきたものとは全く違うものでした。日本では起業したいと考えた場合、大学を卒業してまず企業に就職して、一通り経験を経てから起業する方が多いと思うのですが、スウェーデンの場合は、在学中に実際の仕事が課題としてトライできる教育環境がありました。授業では、制作からクライアントにプレゼンテーションするまで一貫して行います。そして採択されたデザイン提案には、報酬までしっかりと支払われるんです。そんな教育環境で、先輩たちが大きな仕事に携わっている姿を見て、後輩たちも育っていく、そういったスウェーデンのデザイン教育に刺激を受けたんです。そんな海外留学の経験から、自分も帰国したら同じようなことがしたいと考えるようになり、卒業後クラスメイトと起業することにしたんです。

― スウェーデンでの経験が起業する思いにつながったのですね。デザイン事務所を立ち上げたのは、やはりデザインが好きだったからですか?

萩原さん:ネガティブな言い方をすると、あまり才能を持っていなかったからです(笑)。決して頭が良いわけでもなく、唯一自分がやっていて楽しいと思えることが絵を描くことでした。美大や留学で学んだことが、生業になったら良いと思ったからです。

― 起業してみていかがでしたか。

萩原さん:最初は全然仕事になりませんでした。領収書や請求書の作成方法も知らず、仕事の仕方すら理解できていない状態で始めたため、失敗だらけでした。「絵が好き」というだけで仕事になるかといえば、当然ならなかったです。グラフィックデザインの仕事は、自分が感覚的に良いと思うものをつくればいいと思っていたのですが、そもそもそんなデザインは、あまり必要とされていなかったんです。その結果、なかなか仕事を集められず苦労しました。

― お仕事はどのように集めたのでしょうか。

萩原さん:地方ではデザインの仕事は少なく、仕事を成立させていくのは大変です。デザインにお金を投資することが少なく、お客さんから「印刷屋さんは、デザインは無料でやってくれるよ…」なんて言われこともあります。僕らはデザインを生業としている会社なので、デザイン費と印刷費を別に請求することが理解されなかったりと大変でした。

そんな状況で、最初にお仕事をいただけたのは美容室です。自分がいつもカットしてもらうお店にお客さんとして足を運び、美容師さんとの会話の中で、「デザインの仕事をしている」と話したら関心持ってくれて、制作依頼をいただくようになりました。ただ、最初は実績も全然無い状態だったので、実績をつくらせてもらうためにも、物々交換のような感じで、美容室の仕事したらスタッフ全員カットを無料でしてもらっていました。そんな感じで仕事をいただけるようになり、仕事を見てくれた人達が、また声をかけてくれて少しずつ仕事がまわるようになりました。

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伝統工芸に携わることで築いた、地方の魅力を発信する場所とコミュニティ
そして緩やかな関係づくり。

― 15年間会社を続けているとのことですが、会社に大きな変化などはありましたか。

萩原さん:大きく変わったのは「山形まなび館」の運営に関わったことです。山形まなび館は、老朽化のため旧校舎になった小学校の再活用事業でした。当時はイベント企画の数が増えて、自分も会社もデザインに手をかける時間がだいぶ減りました。

― 小学校の再活用ですか、地方ならではのお仕事ですね。そのお仕事はどのようなきっかけで受けることになったのでしょうか。

萩原さん:きっかけは、山形県の伝統工芸・山形鋳物の鉄瓶を作る職人から「鉄瓶のデザイン」の依頼を受けたことでした。昔はお湯を沸かす道具として鉄瓶が当たり前に使われていたのですが、現代では電気ポットなどが使われるようになり、鉄瓶の利用者がかなり減ってしまっているんです。そんな状況もあって「現代生活に合う鉄瓶のデザイン」の相談をいただいたんですが、鉄瓶の色や形を変えるだけでは、鉄瓶が再び売れるようにはならないだろうなと思いました。そんな時に出会ったのが、ナガオカケンメイさんでした。ナガオカさんは、全国各地の売り場を通して、その土地ならではの伝統工芸からロングライフデザインの商品を伝える活動をしています。ナガオカさんのお話を伺ったことで「新たな物を作ることだけではなく、魅力を伝えていく場所をつくり解決していく方法があるんだ」と考えるようになりました。山形でも鉄瓶の魅力をきちんと伝える売り場がなかったので、場所づくり行う必要があると考えたました。折良く出会ったのが、街中のにある小学校の旧校舎でした。ちょうど、ものづくりを支援する場所として再活用していくと知ったんです。運営者は、公募で決めるというこだったので、自分たちもエントリーしました。自分たちの企画が採択されて、3年間の運営を任せていただけることになりました。

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株式会社コロンが2013年3月まで運営していた『山形まなび館』

― 公募の中で選ばれたのですね!すごいですね。再活用した小学校ではどのような取り組みを行ったのでしょうか。

萩原さん:毎月様々な展覧会や、ものづくりのワークショップを行ったり、山形を中心とした伝統工芸品をショップスペースをつくり、2013年3月まで運営していました。

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コミュニティアパートメント『COLON CORPO(コロンコーポ)』

― 現在運営されているこちらのスペース「COLON CORPO(コロンコーポ)」はどういった場所でしょうか。

萩原さん:COLON CORPOは、エコ×集合住宅×コミュニティが合わさった、次世代型コミュニティアパートメントなんです。建物全体は、賃貸ルーム、ゲストルーム、オーナー住居で構成されています。

この建物の特徴としては、エコハウスという機能を導入していて、高気密、高断熱の集合住宅になっています。壁の厚さが通常の建物の2倍くらいあり、断熱材が詰まっています。この構造によって、夏は涼しく冬は暖かい環境が、省エネルギーで保つことができます。機能を言葉だけで伝えるのは難しいので、実際に泊まることができる部屋として、一室をゲストルームにしました。体感するのが一番わかりやすいですから。入居している人は、エコハウスの機能を一番実感してると思うので、将来自分の家を建てる時に、エコハウスの構造を取り入れてくれたら良いなと思っています。そうすれば、原発を再稼動しなくとも十分に生活できる世界がつくられるのではないかと考えています。そうした考えも人に伝えていかないと自己満足で終わってしまうので、イベントを開いたりしながら、ゆるやかに人と人がつながるコミュニティを目指して、これから未来の暮らし方について考えていきたいと思います。

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COLON CORPO|オーナー住居スペース

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COLON CORPO|コミュニティスペース

― ゲストルームは、どうすれば宿泊できるのでしょうか。

萩原さん:ちょっと変わっている仕組みなのですが、自分たちが会いたいと思った人をゲストルームへ招待しています。COLON CORPOという建物を知ってもらい、人とのつながりは緩やかにつくっていきたいと思っているので。ただ本当に体験してみたいと思ったら、その時は声かけてもらえればと思っています。こうした方法でも10年、20年と続けたら、泊まった人もいつか1,000人となって、その1,000人の人達がCOLON CORPOのことを伝えていってくれたら、日本の集合住宅の価値観も変わるんじゃないかと思います。

15年かけて辿りついたコロンパーク。
山形県の魅力を伝え、新たな価値づくりへ。

― 15年働く中でいろんな経験をされたかと思いますが、嬉しかったこと、大変だったことを教えてください。

萩原さん:会社を立ち上げた時に思い描いていた目標「コロンパーク」は、会社設立から15年間紆余曲折しながらCOLON CORPOを立ち上げたことによって、「ほぼ」実現できたと思っています。「ほぼ」ということで、まだ僕の中ではまだ完成系ではないのですが、目標をこうして実現できたことはすごく嬉しいことです。

大変だったことは「山形まなび館」の仕事です。3年間の契約で運営を任せていただきましたが、活動を継続していくことが出来なかったことです。もう少し挑戦してみたいことはありましたが、反省点を活かして今後より良い場所として「ほぼ」の状態のCOLON CORPOをコツコツと築いていきます。

― 今のお仕事の魅力を教えてください。

萩原さん:自分の考えてたデザインが見える形になって、人に伝わったり、使ってもらい喜んでくださる方がいることです。

地方は何もないとよく言われたりするのですが、僕はそうは思いません。各地にいろんな価値があると思っています。ただ当たり前になっていて魅力を伝えることができてないことが問題だと感じています。山形県で働く魅力としては、そういう魅力について余所者の自分が、客観的に気づけるところです。

例えば、ここ天童市にある「天童木工」という日本を代表するような家具メーカーさんがあります。COLON CORPOにも天童木工の家具を使用しているのですが、このほとんどの家具が廃棄される寸前だった物なんです。自分から見るとすごく魅力的で、もう二度と手に入らない絶版になってる家具ばかりなのですが、地元の人たちは意外と捨てちゃうんです。地元の人たちからすると見慣れてしまって「ずっと使ってきて古くなって飽きた。」と言われることもあります。しかし二度と取り戻せない、作れないものもいっぱいあるので、改めて魅力を伝えていけたらと思うんです。そういうことをCOLON CORPOを通じて伝えていけたらと思っています。

― 今後も山形県で仕事されると思いますか?

萩原さん:はい、そうだと思います。ですが、山形で仕組みがつくれたら、海外にもいってみたいです!

― 今後何をつくっていきたいか、目標があれば教えていただきたいです。

萩原さん:不規則な生活で、ご飯も自分で調理せずに食べ、掃除や身の回りの整理もできず…。こんなふうにきちんと生活きていないデザイナーが、人の生活を豊かなものを形にすることなんてできないんじゃないかと思うんです。自分自身がそうなので。今は自分の生活も豊かになるように努力をしながら、デザイナーがきちんと生活しながら働けるようにしていきたいと思っています。

― 最後に学生へ向けて、メッセージをお願いします。

萩原さん:できれば学生のうちに、いっぱい失敗してください。課題がうまくいかない、良い絵が描けないという経験も、学生のうちであれば良い経験です。失敗で別に命を落とすこともないですし、学校での低い評価も社会に出たら関係ないので、むしろ失敗した経験をちゃんと活かして「どうやったら上手くいくのか」ということを考え続けることが大切です。失敗を恐れずに思いっきり挑戦してみてください。失敗してもその経験を活かして、また作ろうと思える気持ちが大切だと思います。

― 萩原さん、お仕事の魅力や山形県の魅力をお話くださりありがとうございました。

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株式会社コロン コーポレートサイト

(2015.9.8)

著者

後藤あゆみ

はたらくビビビット編集長。 フリーランスで“『ツクル』を仕事にしたい未来の子供たちのために。”を、コンセプトとして活動。クリエイター支援、スタートアップ支援を行っています。おばあちゃんになるまでに美術館をつくるのが夢です 。

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