PRのスペシャリストでありクリエイティブディレクターでもある、The Breakthrough Company GO 三浦崇宏さん。クラウドファンディングサービス「CAMPFIRE」のプロモーションや漫画「キングダム」のキャンペーンなど、三浦さんが手がけたお仕事事例には、皆さんが話題にしたことのあるものが多数あると思います。
注目のキャンペーンを世に生み出し続ける三浦さんは、ご自身の信条を「表現を作るのではなく、現象を創るのが仕事」とされています。お話を伺うと、“かっこいいビジュアル制作”に終始しない一歩先のクリエイティブ表現について考えることができました。
後半では、審査員として参加されている内閣府主催・ビビビット運営の「経営デザインシート」リ・デザインコンペティション(2019年9月まで募集中)についてのお話も。思わず頷きたくなる現行デザインへのダメ出しから、ご自身だったらどう取り組むかまで教えてもらいました!編集・執筆 / YOSHIKO INOUE
三浦 崇宏みうら たかひろ
The Breakthrough Company GO代表取締役 PR/Creative Director
2007年に博報堂へ入社。2011年にはTBWA\HAKUHODOへ出向し、両社でマーケティング、PR、クリエイティブ部門を歴任。2017年に独立し、「The Breakthrough Company GO」を設立。従来の広告会社の領域を越えて、新しいビジネスをつくる事業クリエイティブを専門領域とする。『表現を作るのではなく、現象を創るのが仕事』が信条。カンヌライオンズ(国際広告祭)、日本PR大賞、ADfest、フジサンケイグループ広告大賞、グッドデザイン賞など国内外で受賞歴多数。
The Breakthrough Company GO / Twitter
◎社会変化を起こすクリエイティブこそ価値がある。
表現を作るのではなく、現象を創るのが仕事
博報堂でマーケティングやクリエイティブセクションを経て、ご自身で会社を設立され、数々のヒットプロモーションを手がけていらっしゃる三浦さん。
ご自身の信条を「表現を作るのではなく、現象を創るのが仕事」とされていますが、これはどういったことなのでしょうか。
広告のことを「作品」と言うクリエイターもいるけど、広告は作品ではなく、常に「誰かから受けた仕事」なんですね。なので、その過程で納品されるビジュアル表現は手段でしかなく、その先に何らかの価値を生み出したり、何らかの社会変化を起こしたりすることが広告、つまりプロモーションの核だと思います。
もちろん、かっこいいビジュアルづくりに目がいくことが間違ってるというわけではないですよ。社会を変化させたり人の意識や行動を変えたり……現象を起こすには、高いクオリティの表現が必要不可欠。高いクオリティの表現は大前提で、その先何ができるかを考える必要があるんです。
三浦さんの“現象づくり”
(1)「夢を叶えるため一歩踏み出そう」と多くの人が思った社会変化▼「〇〇を理由に夢を諦めてはいけない。」というキャッチコピーは、SNSを中心に大きな話題に。
ゴール:
「“CAMPFIRE”というサービスを使ってみよう」「今は手元にお金がなくても、夢を叶えるために踏み出そう」と思える人が増える社会をつくること
コメント:
この駅ばり広告のデザインはすごくシンプルです。もっとデザイン性を高くすることはいくらでもできるけど、少しでも手を加えるとユーザーが書き込みにくくなるんですよね。
現象を創るには高いクオリティの表現ありきと言いましたが、「あえてダサめに」「シンプルに」という調整は、めちゃめちゃかっこいいものを作れる人じゃないと出来ない。レベル10の人は6も4も作れるけど、レベル4の人は10も7もつくれないんです。
三浦さんの“現象づくり”
(2)漫画「キングダム」は経営やビジネスにいかせる!と多くの人が感じた社会変化
ゴール:
「キングダムは単なる“面白い戦国モノ”を超え、ビジネスの参考になる漫画だ」という雰囲気を社会につくること
コメント:
実際に、キャンペーン後に「キングダム」をテーマにしたビジネスカンファレンスが行われたことがありました。クオリティの高いビジュアル表現を経て、こういった社会変化を起こすことが僕のアウトプットなんです。
そういった考え方は、クリエイターのキャリアを始めたときからお持ちだったのでしょうか?
なので、クリエイティブ制作でもそのマインドありきで取り組んでいます。だから僕の肩書きは「PR/クリエイティブディレクター」なんです。
アートだったらまた別ですが、世の中が動かない・変わらないクリエイティブはほとんど価値がないと思います。世の中とまではいかなくても、目の前の人がハッピーに感じるとか……そんなクリエイティブを作りたいですよね。
▼GO社の会議室のテーブルは円型。依頼する側もされる側も、ワンチームでミッションを成し遂げようという意味合いから、上座ができないように設計されたそう。
◎社会変化が起こるクリエイティブを。
現象が創られる条件とは
(1)人々の潜在的な欲望を先読みすること
変化のきっかけになるようなクリエイティブを考えるには、多くの人が潜在的に求めているものを見つける必要があります。それを見つけるのってすごく難しくて。人って、言葉になっている欲望より、言葉になっていない欲望の方が強いんです。
フォードという車を作ったヘンリー・フォードも、マーケティング調査が全てじゃないよねっていう話の例えとして「もしも顧客に何が欲しいか聞いたら、彼らはもっと速い馬が欲しいと答えるだろう。そして私は車を作った」というような言葉を残しています。
要は、消費者が想像もつかないもの、だけど心のどこかで欲しがっているものは確実にあって、それを見つけられるかが重要だと思います。
(2)その欲望にフィットした表現であること
例えば前に出たキングダムのキャンペーンだったら、仕事を頑張ってるビジネスマン達にフィットしたデザインになっているかとか、そんなところです。
(3)多くの人が参加したくなる祭りになっていること
キングダムをビジネス書にします!って言ったらみんなが「いいねいいね、俺もそう思ってたよ!」って賛同してくれたり、「夢を諦めてはいけない」っていうコピーを出したら「僕は貧困を理由にしてたけど」「私は大学受験の失敗を理由にしてたけど」って自分に当てはめて考えたり。なるべく多くの人が参加したくなる仕組みであることも大事だと思います。
人々が潜在的に欲しいと思っていることを先読みするのはすごく難しそうですが、普段から心がけていることはありますか。
普段からの心がけとか、インプットの方法とかを意識しすぎると、生活者としての感覚がちょっと遠ざかるでしょう。「自分は街で暮らす一人の人間だ」という視点を見失わずに、普通に生きてて不便だったことや面白かったことを頭の片隅にでも置いておくと良いと思います。
となると、生きてる間中、常に心がけていることになるのかも知れないですけど。
周囲の出来事に関心があればあるほど、自分の欲望がいろんな方向に向いていきますよね。自分の欲望が向いているものでないと、良いものはつくれないと思います。
◎経営デザインシートリ・デザインコンペティション
何かが変わるもの、それだけを作って欲しい。
色使いがダメ、フォントがダメ、文字サイズがダメ、レイアウトがダメ、言葉選びがダメ、ちゃんとPRされていないのがダメ。
地球上の誰も幸せにしてない。
経営もデザインもしたことない人が作った感じがすごい分かるね。
経営デザインシートの存在そのものについてはどう思っていますか?
新しいものが生まれにくくなっている中で、その企業が何のためにあるのか厳密に定義するのって数字じゃなくて言葉なんですよね。
例えば社長に「世の中に使えない人がいない電化製品を作ろう」って言われたら、儲かるかはわからないけど、どういうものを作れば良いかは明確になるじゃん。どんな人でも使える電化製品。
言葉の目標があることで、経営の速度や方向性って変わるんですよ。そういう企業固有のメッセージや存在意義を明らかにするのって言葉やデザインだから、そういう手段で明示しようというのは完全にアグリー。
だからこそちゃんと見ようと思ってこの仕事を受けてみたけど、現行がこのデザインだから……。デザインって本質的には整理・最適化することなのに、現在のシートは実際にどう使われるかが想像されてなさすぎる。
学生だったら、いま自分が属しているチームを改善するためにどうすれば良いかを考えるシートとして考えると良いと思います。何かを変えられるものでないと作った意味がないので。このシートによって私の部活を変えられます、お父さんの会社を変えられます……とか。何かが変わるもの、それだけを作って欲しい。
そして、自分より優秀な奴と組む(笑)。すごいなって思う奴と仕事した方が伸びるからね。
*1……「Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Action(改善)→…」の頭文字をとった言葉。
これを繰り返すことで、プロジェクトを進行・改善しやすくなる。
最後に、これから取り組もうとする学生へメッセージをお願いします!
▼後ろに展示されているのは、渡辺志桜里さんのインスタレーション作品。社内にはたくさんのアート作品がありました!
「経営デザインシート」リ・デザインコンペティションでは、2019年9月17日までシートのリ・デザイン案を募集しています。
お話に出たようにチーム制作のデータ提出も可能ですので、違うスキルを持った仲間と一緒にチャレンジするのもおすすめです。難しいテーマではありますが、「自分ごと」に置き換えると考えやすくなりますね。皆さんのご応募、お待ちしております!
▼コンペの詳細はこちら!
「経営デザインシート」リ・デザインコンペティション
(2019.7.23)
はたらくビビビット
ポートフォリオとデザインのリファレンスメディア