都会のクリスマスや夏祭り、街を歩いていると光輝くインスタレーション作品(場所や空間全体を作品として体験させる芸術)に出会ったことはないでしょうか?自分の動きに反応して映像が変化したり、音に会わせて光や物が動いたり、どのようにしてこのような作品作られているのか不思議に思ったことはないでしょうか。今回お話を伺う高阪さんは、施設で展示するインスタレーション作品の開発や、アプリの開発を行っている女性のデザインエンジニアです。インスタレーションやアプリの開発のお仕事に興味のある方は必見です。編集・執筆 / AYUPY GOTO
高阪 沙織こうさか さおり
DesignEngineer
京都精華大学 デザイン学部 デジタルクリエイションコース卒業
株式会社STARRYWORKS デザインエンジニア。インスタレーションとアプリ開発を行う。
入社1年目から、開発の80%を任せてもらえる環境
― “STARRYWORKS(スターリーワークス)”は、何を行っている会社なのでしょうか。
高阪さん:インタラクティブコンテンツや、グラフィック、映像、音楽などの幅広いジャンルのクリエイティブ企画・制作を行っている会社です。
― 高阪さんは、どのようなお仕事を担当しているのですか?
高阪さん:わたしはデザインエンジニアという肩書きで、アプリやインスタレーションを開発しています。
― “デザインエンジニア”という肩書きは多く聞かないと思いますが、どういう人のことを指すのでしょうか?
高阪さん:デザインとエンジニアを分けず、両方を一人で行っている人のことをいいます。ですが私の場合はプログラミングがメインで、インスタレーションやアプリなど、体験者がどんな動きをしたら楽しいか、どうなったら楽しいか、というようなインタラクティブなデザインをするので、肩書きに「デザイン」が入っています。一般的に連想されるビジュアル的な「デザイン」とは少し違います。
― なるほど、入社して現在2年目とのことですが、入社した1年間はどのようなお仕事をしていましたか?
高阪さん:入社1年目は、クライアントワーク・自社のアプリ開発を主にやっていました。そしてインスタレーションのお仕事だと、商業施設のショウウィンドウをインタラクティブにする取り組みをしていました。
― 具体的にどのようなお仕事がありますか?
高阪さん:例えば、Yahoo!JAPAN インターネットクリエイティブアワード2012でグランプリを受賞した「いろぴこ」というアプリの開発に関わっています。いろぴこは、画面をタッチすると音声と文字で色の名前を教えてくれる教育アプリです。元々メインで担当していた開発者さんから引き継いで、今は私が任せてもらい、機能をグレードアップさせています。
また、「PLAYFUL BOOKS」というインタラクティブな絵本の開発も担当しました。iPhoneを専用の絵本にセットすることで、ページに合わせたBGMや効果音、照明などの演出もある次世代の絵本になっています。上司にロジックを決めてもらい、サポートしてもらいながら、実装90%はわたしが担当しました。
― 自社で何かを開発する時は、高阪さんは企画から関わっているのですか?
高阪さん:アイデア出しのブレストはよく行っていて、わたしも参加します。PLAYFUL BOOKSを制作した時は「インタラクティブな絵本をつくりたい」というアイデアから、技術的な部分を検討するタイミングで、私もコミットしました。
自ら作り始めたインスタレーション
アウトプットすることで自信がついて前に進めた
― いつからアプリやインスタレーション開発に興味を持つようになったのですか?
高阪さん:大学1年生のときに Flash を学ぶ授業があり、インタラクティブな作品をつくる機会があったのですが、そこでインスタレーションと呼ばれる表現があることを知って、人の動きに同期して作品が動いたり変化したり、作品と人がコミュニケーションをとっているような仕組みに私はとても感動しました。 それから、大学2年生の夏に行った教授との面談で、インスタレーションがすごく好きだという話をしたら「実際自分でも作ってみたら?」と、夏休みの課題を出されて、それがきっかけで、初めてインスタレーション作品を一人で制作し、すごく褒めていただきました。
実際に作品を作ってみたことで勢いがついて、インスタレーションを作ることがより身近に感じて、インスタレーション制作の仕事をしたいと強く思うようになりました。そこから、教授にインスタレーションが作れる会社はないか相談しましたね。
― インスタレーションコンテンツを仕事にするのは、珍しいイメージがありますが、実際のところはどうなのでしょうか?
高阪さん:今だと商業施設やイベントで、プロジェクションマッピングをはじめとした、インスタレーションを依頼する機会が増えてきているので、インスタレーション開発を仕事にしている会社も増えているのですが、当時はそこまで数がなかったので、教授に相談したときも「インスタレーションの仕事ができる会社は全然ないよ」と言われて、絶望したことを今でも覚えています。 なのでそれを聞いた時は、インスタレーションを仕事にする事は諦めて、webにもインタラクティブな要素もあるので良いかと、web業界を目指し始めました。
― そうなのですね。その状況で高阪さんは、どのようにスターリーワークスさんに出会ったのですか?
高阪さん:毎年開催されている「dotFes」という、WEB業界のクリエイティブパフォーマンスイベントがあるのですが、私が2年生の時、母校の京都精華大学でdotFesが開催されて、そこで私はボランティアスタッフとして参加していました。 イベントでは、トークディスカッションや、インスタレーション作品の展示があり、そのとき展示されていた作品の一つがとても好きで、その気持ちをどうしても伝えたくなったというか、作った方と話してみたくて、教授に紹介してもらいました。
そのときに話したのがスターリーワークスの代表でした。
― イベントでの出会いだったのですね。そこから働く事になったのでしょうか。
高阪さん:3年生になったときに、スターリーワークスの代表にバイトしないかと、声をかけてもらいました。最初の1ヶ月はインターンをして、それからアルバイトとして働きました。 アルバイトではありましたが、大好きなインスタレーションの開発や、アプリ開発に関われてすごく楽しかったです。そして、4年生の春に「就職どうするの?」と聞かれて、こんなに好きな仕事が出来る場所はないだろうと思った私は「入りたいです!!!」と伝えました。そこから面接や課題を経て、無事内定をいただく事ができました。
― とてもスムーズですね!他の会社などは考えていなかったのでしょうか。
高阪さん:会社の環境も良く、好きな分野のことを任せてもらえていたので他社と悩む理由がなかったです。 なので、就職活動のためのリクルートスーツも買わないままですし、ポートフォリオもちゃんと作っていないです。笑
3年生の時は、一応別の会社も調べてみたりしていましたが、バイトと大学の授業がたのしくて、結局そのまま流れに身を任せていました。
― 早くから好きな物を見つけた高阪さんですが、プログラミングなどのエンジニアスキルはどのように身につけたのですか?
高阪さん:それもFlashが楽しいと思った1年生の時からです。入学したときは特にやりたいこともなくふわふわしていたのですが、課題で新しく作品を制作する度に勉強して実践したら、どんどん楽しくなりました。
― アプリやゲームを作る課題があったのですね!具体的にどのような課題でしょうか。
高阪さん:大学3年生の時に、ゲームアプリを作る課題がありました。チームで制作するのですが、チーム内にエンジニアが自分一人しかいなくて、自分が頑張らないと絶対にアプリが完成しないという状況だったので、必死で勉強して開発しました。大変ではありましたが、アプリが完成したときに携帯のホーム画面に、自分の作ったアプリがあるのを見たときは凄く感動し、辛かったことも忘れるくらい嬉しかったです。現在その時開発したアプリは、新しい OS に対応できていないため起動できなくなっているのですが、すごく大事な思い出なので消さずにホーム画面に置いています。
― いつからエンジニアになりたいと思っていましたか?
高阪さん:高校生の時に簡単なものですがサイトを作る授業があり、コードをかくことが楽しいと感じました。
大学生になって Flash からですが少しずつプログラミングに触れ、 すこしずつ勉強していくうちに自然と出来るようになりました。
― 学生時代に作ったもので、1番思い入れのある作品はありますか?
高阪さん:4年生の12月、スターリーワークスのお仕事でクリスマスのインスタレーション制作に関わっていました。場所は大阪のグランフロントという商業施設で、作品は“船上のスノーマンオーケストラ”という名前です。
センサーがとりつけられた大きな楽器を演奏すると、スクリーンのなかで スノーマンが一緒に演奏してくれたり、建物に取り付けられた LED が 同期して光ったりします。このお仕事はスターリーワークスのバイト期間に、初めて1から関わって作った仕事だったので思い入れが強かったです。
あと、そのインスタレーションで、小さな子供たちが笑いながら遊んでいる姿を見て、すごくしあわせな気持ちになりました。
テクノロジー×リアルで、子供の喜ぶ世界をつくり続けたい
― 実際、大学卒業後に新卒入社してみていかがでしたか?
高阪さん:学生の時にバイトで、ほぼ週3で出勤していたのですが、週5になるとコミットする時間も多くなって全然重みが違うと感じました。 週3ですと、頼まれる仕事も軽くて短時間で終えることのできる内容が多かったのですが、週5出勤になってからは、がっつりとプロジェクトを任せられるようになり、今まで以上責任が大きくなりました。 週5座りっぱなし働くことが思ったよりもしんどくて体を動かしたくなってしまうので、オフィスの前の公園でたまに散歩しています。
― スターリーワークスさんの魅力を教えてください!
高阪さん:制作会社の中でもデザイン力が高い会社だと思っています。デザインのクオリティや、インタラクティブなコンテンツが評価され、数々のアワードで賞をいただいています。 また、社内環境はとってもフレンドリーで、年齢も若くて近いため、話があって過ごしやすいのも魅力です。フレンドリーすぎて、1番若い私が失礼なことを言ってないか心配になるくらいです。笑
― 高阪さんの元気な姿を見ていると、とても良い環境なのだろうと思ってしまいますね(笑)入社時と、現在で変化はありましたか?
高阪さん:最初は上司に頼ることが多かったのですが、最近は教えてもらうことも少しずつ減ってきて、一旦自分で作ってから「見てもらっていいですか?」と聞く事ができるようになってきました。 自分でも、少しずつですが成長しているなと感じています。
― 今後挑戦してみたいことや、目標などはありますか?
高阪さん:今後もインスタレーションの仕事で子供たちに喜んでもらえるものを沢山作っていきたいと思っています。そして、作ったものが1カ所の展示で終わるのではなく、全国を循環して、今以上沢山の子供たちに遊んでもらえたら幸せです。インスタレーションはインスタレーションでも、アート作品よりのものではなく、エンターテイメントをつくっていきたいです。
― エンジニアを目指す学生が、学生時代に経験したほういいことがあれば教えて下さい。
高阪さん:英語が出来ないと本当に困るので、学生のうちに出来るようになったほうがいいと思います。何かわからないことが出来た時に、インターネットでプログラミングのことを検索して調べると、説明が載っている記事は出てくるのですが、海外の方が書いたものが多く、英語で書かれている記事が読めないと、とても苦労します。
― 最後に学生にメッセージお願いします。
高阪さん:私がそうだったのですが、先生や先輩方と仲が良く、先輩方と一緒に作品をつくったりしていました。 何をするにも、近くでアドバイスをくれる人の存在は、すごく大きかったです。 なので身近で尊敬でき、信頼できる人に出会えそうな大学や、サークル、コミュニティなど、より良い環境を探してみてください。そして好きなものに出会うために、見つかるまでは沢山のことにチャレンジしてください。見つかった時がきたら、本命一本に絞って極めると、きっと早く道が開けると思います。
あと、女性エンジニアは珍しいので、自分の仕事の紹介などをすると驚かれることが多いです。プログラミングのことを教えてくれる塾やイベントなど、今は増えているので、そういった企画に参加したり、本を読んでみたりして、積み重ねていくと、技術がついてきます。もっと女性エンジニアが増えてくれたら嬉しいな、と思っています。
(2015.6.1)
著者
後藤あゆみ
はたらくビビビット編集長。 フリーランスで“『ツクル』を仕事にしたい未来の子供たちのために。”を、コンセプトとして活動。クリエイター支援、スタートアップ支援を行っています。おばあちゃんになるまでに美術館をつくるのが夢です 。
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