「学費が高い」というイメージがある美術大学ですが、国公立大学なら、一般の学部と変わらない学費で美術やデザインを学ぶことができます。実は全国各地にある、国公立の美術系学部。国公立で美術を学ぶメリットとともに、各大学の特色を、学生へのアンケートを交えてご紹介します。
編集・執筆 / Ayako Yamada, AYUPY GOTO
イラスト / Miyagi Takumi
目次
- 1. 学費で美大進学を諦めない!実はたくさんある全国の国公立美術系学部
- 2. 国公立大学で美術を学ぶメリット
- 3. 各大学の特色を在学生に聞いてみた
- 4. 最後に
1. 学費で美大進学を諦めない!
実はたくさんある全国の国公立美術系学部
「大学で美術やデザインを学びたい!」と思っても、美大は学費が高くて……と、美術大学への進学を迷っている人は少なくないのではないでしょうか。実際、知名度の高い東京5美大・関西4美大*の学費は、専門の施設や設備に費用がかかることもあり、年間約130万円〜約170万円(入学金を除く)と私立の一般学部よりも高い金額となっています。そこで、進路の選択肢として目を向けていただきたいのが、国公立の美術系学部です。国公立の美術系学部は、年間の学費が約60万円(入学金を除く)と、私立の美術大学のおよそ半分〜3分の1の学費で通うことができます。
関西4美大:大阪芸術大学、京都精華大学、京都造形芸術大学、成安造形大学
また、国公立の美術系学部は日本各地にあり、それぞれの地域の特性を生かした教育が行われています。全国の美術・デザイン系学部のある主な国公立大学は以下のとおりです。ここに記載している大学以外にも、東京学芸大学のような教育学部で美術を学べる大学もあるので、ぜひチェックしてみてください。
- 【 全国の美術・デザイン系学部のある主な国公立大学 】
● 北海道・東北
(公)札幌市立大学 デザイン学部、(公)秋田公立美術大学 美術学部
● 関東
(国)筑波大学 芸術専門学群、(国)東京藝術大学 美術学部、(国)千葉大学 工学部、(公)首都大学東京 システムデザイン学部
● 北陸
(公)長岡造形大学 造形学部、(国)富山大学 芸術文化学部、(公)金沢美術工芸大学 美術工芸学部
● 東海
(公)静岡文化芸術大学 デザイン学部、(公)愛知県立芸術大学 美術学部、(公)名古屋市立大学 芸術工学部
● 関西
(公)京都市立芸術大学 美術学部
● 中国
(公)岡山県立大学 デザイン学部、(公)広島市立大学 芸術学部、(公)尾道市立大学 芸術文化学部
● 九州・沖縄
(国)九州大学 芸術工学部、(公)佐賀大学 芸術地域デザイン学部、(公)大分県立芸術短期大学 美術科、(公)沖縄県立芸術大学 美術工芸学部
2. 国公立大学で美術を学ぶメリット
私立大学より学費が安いということ以外にも、国公立大学で美術を学ぶメリットはたくさんあります。今回はその一部をご紹介します。
● 学生が少人数で、学生と教員との距離が近い。
大学によって違いはあるものの、国公立大学は私立大学に比べて学生が少人数であるため、学生と教員との距離が近いことが特徴です。制作の指導や、就職活動のサポートなど、学生一人ひとりを見てもらいやすい環境であるといえます。学生同士のつながりも強く、学科や専攻を超えての交流も活発なようです。
● 芸術系以外の学部がある大学もあり、他分野との交流がある。
東京藝術大学や愛知県立芸術大学には音楽学部があり、総合大学である筑波大学や富山大学、九州大学には、文系・理系・医学系など、さらに多様な分野の学生が集まっています。サークルなどでの交流だけでなく、分野をまたいだプロジェクトが行われていたり、ほかの学部の講義を受けることができたりと、美術系以外の分野からも幅広い学びを得ることができます。
● 多くの大学が地方にあり、地域色の強い授業や活動が行われている。
先ほど紹介した全国地図を見てわかるように、日本各地に点在している国公立の美術系学部。その地域の特産物をテーマにした授業や、地域住民と関わるプロジェクトなど、地域の特性を生かした活動が盛んに行われています。地域発信のデザインや産業が注目を集めてる現在、地方だからこそ学べることが多くあります。
ぜひ資料を取り寄せたり、オープンキャンパスに参加したりして、それぞれの大学の特徴や魅力を掘り下げてみてください。
3. 各大学の特色を在学生に聞いてみた
ここからは、実際に国公立大学で美術を学ぶ学生に聞いた、それぞれの大学のアピールポイントや、学生生活の様子をご紹介します。今回アンケートに回答していただいたのは、こちら4つの国公立美術系大学の学生のみなさんです。
筑波大学 芸術専門学群 [茨城県 / 国立]
加藤空 さん
筑波大学 美術専攻 日本画コース 4年
① 大学の特色・アピールポイントを教えてください。
様々な専門分野の講義が受けられることもあり、自分の視野を広げなが自身の制作に取り組むことができます。授業では、基礎をしっかり固めてから自由制作に取り組みます。専攻の半数以上は日本画を大学に入ってから学び始めるので、互いに刺激し合えます。
② 学生の雰囲気や学生生活の様子を教えてください。
大学周辺に住んでいる友人が多く、一緒に出来ることがたくさんあります。晩ごはんを作ったり、DVDを観たり、美術について語り合ったり。学生は皆思い思いに生きているような気がします。作品、興味の幅、服装など、自分を表現することの壁は低いと思います。
③ 面白いと感じた授業の名前と、その内容を教えてください。
日本文学に興味があり、日本文学講読7という授業を履修していました。かな文字の文献から現代語訳をして文化的な背景を学びました。一人ひとりに違う作品が割り当てられます。作品の内容も興味深く、暗号解読のようで(笑)楽しかったです。
④ あなたの大学へ進学を考えている高校生へひとことアドバイスをお願いします。
実技と学問、両方の見識が深められるのが筑波大学の芸術専門学群です!アカデミックな技法を学び、制作に昇華できます。周りに振り回されず、自分のやりたいことを探しに来てください!
長岡造形大学 [新潟県 / 公立]
A.S. さん
長岡造形大学 視覚デザイン学科 4年
① 大学の特色・アピールポイントを教えてください。
私が専攻する視覚デザイン学科は人によって進路が全く違います。個人的にはAdobeCCなどのデザインツール一式が学生の内は支給されることと、大学内のスタジオやカメラ機器、その他制作に必要な機材等が無償で使えるのがとても良いと感じます。
② 学生の雰囲気や学生生活の様子を教えてください。
国公立ということもあって色んな地域から人が集まっており、やる気のある学生が多く感じます。夏は長岡花火、冬は雪灯りなど、季節ごとにイベントが多いのも面白いポイントです。
③ 面白いと感じた授業の名前と、その内容を教えてください。
CM演習。半年かけてACの学生広告賞に応募する作品を作る授業で、作品が入賞すればそのまま実績として自身の今後に役立つのがとても良かったです。
④ あなたの大学へ進学を考えている高校生へひとことアドバイスをお願いします。
美術系・デザイン系の分野はどこの大学へ行ったかよりも大学で何をしたかがとても大切です。自分が本当にやりたいことを見つけて取り組めば、将来に大きく繋がります。
金沢美術工芸大学 [石川県 / 公立]
古山千穂 さん
金沢美術工芸大学 環境デザイン専攻 4年
① 大学の特色・アピールポイントを教えてください。
金沢という、歴史があって、アートに力を入れているまちで学ぶことができるという点を活かして、いろいろな課題やプロジェクトがあります。自分から前向きな気持ちで取り組むことができる環境が揃っています。また、学生の人数が少ないので教授陣が学生一人ひとりを見やすいというのもこの学校の大きな特徴です。課題や就職活動の際も、学生それぞれが教授に気軽に相談できますし、そのような雰囲気ができています。
② 学生の雰囲気や学生生活の様子を教えてください。
専攻の1学年の人数はおよそ20人。人数が少ないので、横と縦の繋がりがとても強いです。先輩が卒業後も、進路のことなどを相談したり、会ってご飯を食べたり。卒業されてからの方がたくさんお話しした先輩もいます(笑)。友達はみんな個性的ですが、4年間の中でだんだん家族みたいになってきます。
③ 面白いと感じた授業の名前と、その内容を教えてください。
金美名物のアジ課題はよく覚えています。デザイン科全員で、アイデアをとにかくたくさん出していくのですが、体力勝負な課題なのかと思いきや、デザインしていく中で大切なことが見えてきます。上手く言えないけれど、この課題はずっと続いていて、やってみると意味がわかるというか……。この課題が終わった後、別の課題をこなしていく中で、アジ課題でやっていたことの意味がわかってきました。この時期は毎年金沢からアジが消えます。
④ あなたの大学へ進学を考えている高校生へひとことアドバイスをお願いします。
あまり良いアドバイスはできませんが、なによりも「デザインが好き」「絵を書くことが好き」という美術に対する好きな気持ちが大切だと思います!個性的な先輩と教授が待っています、受験頑張ってください!
愛知県立芸術大学 [愛知県 / 公立]
野木健矢 さん
愛知県立芸術大学 デザイン専攻 2年
① 大学の特色・アピールポイントを教えてください。
自然豊かな環境と、自由な空間です。多くの課題などで縛られることなく、自主制作の時間をたくさん確保できます。そうすることで一人ひとりの可能性と個性を伸ばしてくれる場所です。
② 学生の雰囲気や学生生活の様子を教えてください。
全員が夢や目標を持って、意見の交換を出来る素晴らしい学校だと思っています。毎日、学校に行くだけで新しい発見があってみんな仲が良くとても楽しいです。
③ 面白いと感じた授業の名前と、その内容を教えてください。
デザイン工芸論。愛知県立芸術大学の教授が毎週入れ替わりながら、デザイン論を語ってくれます。熱いデザインや美術に対する想いを肌で感じ取れました。
④ あなたの大学へ進学を考えている高校生へひとことアドバイスをお願いします。
芸術大学の受験は普通高校だとあまり理解してもらえないかもしれません。僕もそうでした。しかし、その中でも自分に自信を持って、迷わずに突き進んでください。その日々は合否関係なく自分の財産になるはずです。
4. 最後に
私立大学以外にも、日本各地に国公立の美術を学べる大学があり、それぞれの魅力があることがわかりました。国公立大学の場合、一般の学部と変わらない学費で、美術を学ぶことができます。入試方法もさまざまで、実技試験だけでなく学科や論文を重視している大学もあります。学費や実技試験の難しさで美術系大学の進学を諦めるのではなく、ぜひ国公立の美術大学という選択肢を視野に入れ、自分に合う大学を探してみてください。
(2018.11.7)
著者
はたらくビビビット
ポートフォリオとデザインのリファレンスメディア