自分の作品を展示するという機会は、クリエイティブな活動をしていると何度か直面する機会ではないでしょうか。展示は自身の作品を人に発表できる貴重な場ですから、作品の良さを最大限伝えたいですよね。
しかし、そのときに重要になってくるのが空間の使い方です。展示方法の違いによって作品の見え方が大きく左右します。そこで今回は、作品を展示する際の空間作りについて考えていきたいと思います。
編集・執筆 /YAMADA, AYUPY GOTO
●そもそも展示空間ってなに?
作品を展示する、ということは人に見てもらうことが大前提。作品のクオリティが大切なのはもちろんですが、展示で重要な点がもうひとつあります。それは展示空間の使い方です。
作品を置く、吊るす、貼る……様々な見せ方があると思いますが、作品に合った方法を使うことで作品の良さをダイレクトに、更には120%にして伝えてくれることもあります。極端な話、作品がイマイチでも展示空間が素晴らしいと、良い作品に見えてくることもあるのです。作品を殺すも生かすも展示空間次第。
身近で分かり易いのはショーウィンドウのディスプレイです。商品のイメージを伝えつつ、ブランドとしての印象を強く残すことに成功しているのではないかと思います。
空間まるごと自分のものにする
例えば、作品がグラフィックポスターだったとき。床や机に置く、壁に貼る、ワイヤーで宙に吊るす、など様々な方法があるかと思いますが、これらのうちどれを選んでも展示としては成り立ちます。
作品の作風と床や壁の色、オプションとしての装飾など、全てをひっくるめて展示空間は存在します。
オーソドックスな選択であれば、壁に貼ったり吊るしたりすることが多いかと思いますが、ここから更に額縁に入れるか、その額縁はシンプルかゴージャスなものか、ワイヤーに色がついたものにするか……など選択肢は無限大です。
●考えられた空間、見応えのある展示
では、作品の良さを最大限に生かすような、気持ちのよい空間とは一体どのようなものなのでしょうか。いくつかピックアップしてみたいと思います。
●Western Gallery Masters of Design exhibition
http://www.volumesf.com/index.php/work/project/masters_of_design_exhibition
グラフィカルな紙面作品が一枚綴りになり、ダイナミックな展示方法ですね。
その周辺には、壁に貼ったり、机上に置いたりと色々なパターンで配置されたグラフィック作品の配置の数々。リズムがあり、心地よく楽しい空間になっています。
●scenography for a photography exhibition
http://www.designboom.com/readers/snapshot-memento-scenography-for-a-photography-exhibition/
斜めになった壁に配置された作品の数々。この壁の造形は、立っている人も車いすの人も、どんな目線からでも同じように見えるよう角度が工夫されています。ライティングが美しいです。
●"Susana Solano Trazos Colgados" exhibition design at the Museo Casa de la Moneda, Madrid 2013
http://www.domusweb.it/en/architecture/2013/06/17/cadaval_sola_-moralesexhibitiondesign.html
シンプルですが、狭いトンネルのような空間に作品が配置されています。現実と切り離されたような空間の中で、作品に集中出来そうです。
●Architecture in Uniform Exhibition
http://work.ac/architecture-in-uniform/
円形の部屋や斜め壁の部屋など個性の強い造形ですが、無駄な装飾がないため、作品の魅力を保ったまますっきりと美しい展示です。作品が壁に面していたり、浮いていたりと遊びがありつつも緊張感があり、洗練された空間です。
●Metahaven / Nomadic Chess : Geography
http://exhibitiondesignclub.tumblr.com/post/124254814433/metahaven-nomadic-chess-geography-by-studio
テキスタイルのようなグラフィック作品が、シンプルな枠に括り付けられ、床一面に広がっています。
枠に括られた空間の空きに対比して、床一面のグラフィカルな作品が独特な空間を演出しています。
●21_21 DESIGN SIGHT 企画展 「単位展 ― あれくらい それくらい どれくらい?」
http://torafu.com/works/21_21-design-sight-企画展「単位展」
白を基調とした会場にシンプルな什器、壁そのものに表記された文字が美しい、洗練された空間。作品のメッセージがダイレクトに伝わってきます。
様々なアプローチによって、空間としての面白さや作品の存在感が伝わってきたのではないでしょうか。
●作品に合った展示方法
では、ここからは実際に展示をするとき、どのような方法があるのか基本的な展示方法について考えていきたいと思います。
展示会場
まず、展示会場です。これは選択出来る場合と出来ない場合があるかと思います。
学校の行事や、決まった展示会に出展する場合は、予め会場が決まっている場合が多いので、細かい設定や100%希望通りの会場のセッティングは難しいのではないかと感じます。
一方、個人で画廊やギャラリーを借りて行う場合は、自分好みの全体空間を選択できるので、展示全体のイメージを創り上げることが可能です。コンセプトや表現したい世界観、作品に見合ったイメージを持っておくと、全体を作りやすいのではないかと思います。
床に置く
作品をそのまま床へ置くシンプルなもの。彫刻や立体作品などはもちろん、洋服や紙面の作品もハマれば格好の良い展示空間になるかと思います。
ただし、床が汚かったり、会場の雰囲気的にそぐわない場合もあるので、現場で確認が必須ですね。
壁に貼る
平面作品のオーソドックスな展示方法。しかし、その壁を使った展示方法も沢山あります。
直接貼ったり、少し浮かしたり、額縁をつけたり。少し変えるだけで印象は大きく変わりますが作品と壁の色や質感との相性も考える必要があります。
吊るす
天井や壁からテグスやワイヤーを使って作品を吊るすタイプ。一見浮いているように見え、周りの空間が綺麗に見えることが最大の利点です。
奥行き感を出し易く、前後に重ねるとレイヤーの効果を使うことも出来ます。
什器を作る
作品を置く台を作品や空間に合わせて作ることで、より一層展示としての説得力を増します。
素材は木材や段ボール、アクリルなど。形やサイズも自由に決めれるので理想の展示形態に近づきます。
文字情報の扱い方
作品のコンセプトやキャプションを掲載する際に使用する文字情報。これらの扱いによっても印象が大きく変わります。
・パネルに印刷をする
紙に印刷したものをパネルに貼ったもの。リーズナブルにある程度のクオリティまで持って来れます。
・アクリル板、木板に直接印刷する
コストはかかりますが、見栄えはグッと上がります。小サイズにカットしたものはもちろん、机となる面に直接印刷するのも◎
・カッティングシート
機械でカットされた文字シールを壁や机などに直接貼ることで、面に直接文字情報を記載することができます。
すっきりと洗練された仕上がりに近づきます。
他にも表現方法はたくさんありますので、ここから派生して、様々な表現で自分の目指す空間が作れると理想的ですね。しかし、展示に力を入れすぎて作品が空間に飲まれてしまうことだけは無いように、気を付けたいところです。空間は作品の一部ですが、あくまで作品があってこその空間なので、双方のバランスを取りながら設計していくことが大切です。
ご紹介した方法は基本的なものであり、ここから更に形や色、全体のコンセプトが派生することによってオリジナリティ溢れる展示空間が出来上がるのではないかと思います。もちろん、会場や予算の都合で思う様な展示に出来ない場合もあるかと思いますが、出来ることの中で最大限の工夫すれば、理想の空間を作ることは出来るのではないでしょうか。
●さいごに
同じ作品でも、展示の空間が違うだけで見え方に大きな差が出るということをしっかり抑えておくと、作品を作り終えることがゴールではないことがわかりますね。空間設計までが作品制作です。作品のコンセプトと、展示の雰囲気が合致していれば、伝えたかったことがより伝わりやすくなり、こだわればこだわる程、展示全体の説得力やクオリティが増してきます。美しい空間での展示は、見る人も作者も気持ちの良い時間を過ごすことが出来るのではないでしょうか。作品を生かすも殺すも空間次第。是非、展示をする際には空間に気を配ってみて下さい。
(2017.2.23)
著者
はたらくビビビット
ポートフォリオとデザインのリファレンスメディア