美大芸大生4年間のアイデアのきらめきに注目!2022年度卒業制作をピックアップ

2023年春、全国で卒業制作展が開催されました。はたらくビビビット編集部が訪れた会場から、特にユニークだと感じた作品をご紹介します!自身の興味関心を時間をかけて深堀り・研究してつくられる卒業制作は、見ごたえのある作品ばかりでした。本来であれば全国の全会場を巡りたかった……!
今年は見に行かれなかったという方も、ぜひこの記事から展示会場の雰囲気を感じ取っていただければと思います。
この春卒業の皆さん、ご卒業おめでとうございます!!

編集・執筆 / AYAKA SHIMOYAMA , YOSHIKO INOUE

●卒業制作ピックアップ!

今回編集部では[京都市立芸術大学・京都芸術大学・大阪芸術大学・京都精華大学・成安造形大学・金沢美術工芸大学・愛知県立芸術大学]の卒業制作展に訪れました。

▼クリックで作品にジャンプできます。

● ひと針ずつ刺繍で仕上げた世界に1つだけの新聞紙

かかった時間は200時間!
ひと針ひと針刺繍で仕上げた世界に1つだけの新聞紙

200時間新聞
大阪芸術大学 デザイン学科 グラフィックデザインコース 柴山帆乃香さん

普段短時間で読み捨てられる新聞を、200時間という膨大な時間をかけて刺繍で仕上げた作品





編集部コメント:遠くからだと一見ただの新聞紙。でも近づいてみると文字や写真、広告まで全て刺繍でつくられていることがわかります。たくさんの糸が絡み合う作品の裏面からは、精巧に作られた表面だけでは伝わらない“200時間”が存分に感じられますよね。毎日短時間で読み捨てられるものを、あえて膨大な時間をかけて作り上げる。それによって新聞に込められた「情報の重み」を実感できるのではないか、という作者の意図も非常にユニークな作品です。

● 3DCGでペーパークラフトを再現した完全オリジナルMV

まるでペーパークラフトが動いているよう…!
曲の世界観に引き込む立体感のあるミュージックビデオ

SEPIA NOTES
京都精華大学 デザイン学部 ビジュアルデザイン学科 デジタルクリエイションコース 熊谷芙美子さん

3DCGで紙の質感や重なりを表現した、切なくあたたかいオリジナルミュージックビデオ





編集部コメント:動画クリエイターとして活動する作者がずっと目指してきた、楽曲を依頼してのオリジナルMV制作。出来上がった映像からはCGだけどアナログ感のある、独自の世界観が感じられます。特に目を引くのは、紙ならではの質感と重なりの表現。まるでペーパークラフトのキャラクターに命が宿っているようです。約3分間、終始少し切なくてあたたかいストーリーに引き込まれます。

● 沓掛キャンパスの「壁」に刻まれた40年間を残す

壁は口ほどに物を言う?
沓掛40年、壁に向き合う執念の作品から芸大生の生き様が浮かび上がる

kabekami
京都市立芸術大学 デザイン科 環境デザイン専攻 安田結葵さん

「壁」は、その空間らしさが如実に表れるマテリアル




編集部コメント:クリエイターは足跡を残しますが、“残される側”は――?“残す側”が日本で最も集まる場所のひとつである芸術大学の壁に刻まれた数々の営み。さながら地層のように、営みに営みが重ねられてかたちづくられる独特の質感。沓掛40年、その重みを感じずにはいられません。

● 涙なしでは読めない認知症介護エッセイ漫画

記憶がなくなっていくおじいちゃんとの暮らしをポップに、切々と。
涙なしでは読めない認知症介護エッセイ

ころがる毎日
京都芸術大学 マンガ学科 ストーリーマンガコース 石塚千夏さん

「真面目でしっかり者のおじいちゃんがボケちゃった。」介護知識ゼロの家族4人で認知症の祖父を介護した6年間のエッセイマンガ。




編集部コメント:読んですぐに、誰かに感想を話したくなりました。高齢者の5人に1人が認知症といわれる現代、誰にとっても他人事ではないテーマ。病気だから仕方がないのに、粗相に怒ってしまったり。ふとした瞬間に記憶の回路が繋がって、自分を責める姿を見たり。そのどれもが、悲しいくらいに共感できる“あるある”です。近い将来向き合わなければいけないかもしれない、だからこそ後悔のないように。そんなメッセージを受け取った気がしました。漫画本編はこちらでいまも読むことができます!

● 身近な“モノ”を筆代わりにしてできた文字を集めた作品集

家の中にあるあんなものからこんなものまで。
筆以外で書いた文字ってどうなる?

筆あそび
成安造形大学 情報デザイン領域 グラフィックデザインコース 中野未萌さん

アスパラ、ブロッコリー、鳥の羽……身近なものを筆代わりにしてできた文字を集めた作品集




編集部コメント:いくつも並んだ「永」の文字。それぞれに個性がある理由は、"何を"筆代わりにしたのかが全て異なっているからでした。アイデアはもちろん、シンプルな展示方法までとことんユニークで、自分だったら何を使って書いてみたいかを自然と想像してしまいます。たとえアスパラガスで書いていたとしても、「とめ」「はね」「はらい」などの技法から作者の文字に対するこだわりが感じられますね。

● 日常の“やだなぁ”をポップに変える雑貨のデザイン

ニキビがフェイスシールに!?
どんなネガティブもポジティブグッズに変えてしまう“別解”の魔術師!

poca
京都芸術大学 キャラクターデザイン学科 岡田希海さん

ほんのちょっとしたミスや、やだなぁと思うことをおもしろくする雑貨アイデアシリーズ



編集部コメント:ちょっとした“やだなぁ”、分かります。気に入っていたのに汚れてしまった洋服や、なんでそんなところに現れた……と思うニキビをポップに活用するひらめきが光る秀作。編集部では、視点の切り替えによって日々を暮らしやすくできることがデザインの意義(の一部)と考えます。本作はまさに素晴らしい別解を提示してくれた作品といえるでしょう。

● ナマケモノが俊足に!?セリフなしのモノクロ短編アニメーション

固唾を呑んで応援したくなる試合シーンは必見!
短編アニメーション

Sloth Story
金沢美術工芸大学 デザイン科 視覚デザイン専攻 池田楓太さん

主人公のナマケモノは、片思い中のメスナマケモノが100m走の試合に惚れ惚れしているのを見て嫉妬。彼女を振り向かせるべくオリンピック100m走での優勝を決意し動物園を飛び出すが……。



編集部コメント:大きなスクリーンに投影され、会場で多くの人が足をとめていたアニメーション。ナマケモノが薬を飲んで人間に近づき、俊足になるシーンがかっこいいです!コマ割やアングルもたくさん研究されているように感じます。セリフなしのモノクロ映像で、外国人来場者の方も足を止めて見ていたのが印象的でした。惹き込まれ何度も見入ってしまいます。

● NFTアートで森林保全につなげるアートプロジェクト

野鳥デザインのトラベラーズノートが全国を飛び回る。
今話題の「NFTアート」で森林保全の新たなしくみづくり

森林保全×NFTアートプロジェクト「ハトハ」
成安造形大学 情報デザイン領域 情報デザインコース 相川佳奈さん

滋賀県のヒノキからできたトラベラーズノートをNFTアート化。森林保全を身近なものとして捉えるためのアートプロジェクト




編集部コメント:最近話題のNFTアート、だけど仕組みが難しい……そんな人でもきっと「NFTってこう活用できるのか!」と納得できる作品です。NFTの特徴である"取引履歴の確認""二次流通以降の収益の発生"という機能が、林業を営む事業者・ノートを購入した所有者双方の利益につながるところにプロジェクトの強い意義を感じました。トラベラーズノートのデザインも、全国を飛び回る野鳥のイラスト+木材のあたたかみを感じるものでとても魅力的です。こちらからWebサイトを見ることができます。

● 昔ながらの広告を現代風に再現した“出会い”の手法研究

銭湯でよく見る昔ながらの鏡広告がデジタル広告化?
現代風にして効果検証

出会うための手法の研究
金沢美術工芸大学 デザイン科 環境デザイン専攻 深田詩織さん

鏡広告をデジタルサイネージに、ベンチ広告をクッションに……昔ながらの広告手法を現代風に再構築し、その広告効果を街で検証





編集部コメント:手配書看板やベンチ広告など、大きなスケールがまず印象的な展示です。銭湯などで見かける昔ながらの鏡広告は「アパレル店試着鏡のデジタルサイネージ化」で再構築。お店のキャンペーン等ではなく周辺店舗の広告になっているのが、商店街の活性化にもつながりそうで、作者の方のあたたかな視点を感じました。メッセージを発信する媒体として形を変えながら、“広告”はこれからも私達消費者の生活に存在し続けるのでしょう。作品は作者のInstagramにも更新されています!

● 全国の石をニットで再構成したミクストメディア

大ボリュームの「石」の空間。
暮らしと自然の共生を感じるプロダクト

石の展開図
愛知県立芸術大学 デザイン・工芸科 デザイン専攻 伊藤なごみさん

全国27箇所で採集した石のテクスチャを抽出し、ニットで再構成して新たなプロダクトを展開するミクストメディア



編集部コメント:1つの教室全体を使った広い展示空間では、たくさんの「石」が展示されていました。まず圧倒されたのがそのボリュームです。たくさんの石や研究資料なども置いてあり、「石」に魅了され研究を続けた作者の熱量を感じました。中心の大きな石はニットのプロダクト。自然そのままの形状を3Dスキャンしたそうです。大きな石に腰掛け、もたれかかると、自然の音が聞こえてきそうですね。公式Instagramもぜひ見てみてください!

● レコードに「音」として記録された廃墟になる学舎の写真集

瞬間が奏でる歴史。
モノクロ写真が音となり、廃墟になる学舎を想うメディアアート

phonoculorum:沓掛
京都市立芸術大学 デザイン科 ビジュアル・デザイン専攻 井手龍二さん

移転により廃墟となる京都市立芸術大学沓掛キャンパスを記録した写真集。ただし、レコードに記録されており、再生することで写真を見ることができる。






編集部コメント:ヘッドフォンを装着すると流れる訥々(とつとつ)としたリズム。不揃いな音の粒が映し出すのは数年間を過ごした学び舎の姿です。場所を語り継いでいくためのメディアとして写像が結ぶ音を選んだことが、かえって大学への想いを増幅させているような気持ちになりました。展示としての仕上がりも非常に高度で、作者の込めた念を感じ取れる体験となっていました。

● 実家の工場の什器をインテリアとして再構築

実家の工場の什器で作るインテリア。
受け継ぐ記憶とノスタルジー

場所の記憶
京都市立芸術大学 デザイン科 環境デザイン専攻 恒川日和さん

思い出の場所にあったモノをインテリアとして再構築




編集部コメント:場所を場所たらしめるのは何か?おそらく、モノの役割が終わっても、身近なインテリアとして再構築することで、ノスタルジーと少しの切なさがトッピングされてうまく空間に調和しながら残り続けるのだろう、という事を考えながら。しかしながら、いやこのインテリアめちゃめちゃおしゃれだなぁという点に昇華しているのが素晴らしいなと感じるプロダクトです。

まだ見られる!オンライン卒展も

アイデアのユニークさや個性が感じられる皆さんの卒業制作はいかがでしたか。これから卒業制作を控えている下級生の方にとっては、制作のモチベーションになるのではないかと思います!
今回紹介させていただいた作品は全国の卒業制作のうちのほんの一部です。全国の卒業制作展をまわるのはなかなか難しいかもしれませんが、芸術祭やオープンキャンパスなど、学生作品が見られる機会は定期的に開催されています。ぜひ足を運んでみてください!
さらにオンラインで、卒業制作を春先まで公開している学校もあります。

2023年春先まで見られる卒制展示ピックアップ
▼大阪電気通信大学(〜3/31まで)
【オンライン】 2022年度 なわてん
▼東京造形大学・大学院(〜3/31まで)
【オンライン】 ZOKEI展
▼成安造形大学(4/3〜4/29まで)
SELECTION 卒業制作展 2023
▼文星芸術大学・大学院(〜5/21まで)
2022年度 文星芸術大学卒業・修了優秀作品展

本記事制作にあたり作者の方にコンタクトを取ったところ、私達のポートフォリオサービス「ViViViT」を使って作品管理をされている方も多くいらっしゃいました。制作時間確保のための就活効率化や、クリエイティブインスピレーションにも。学生生活にViViViTが存在していたことを嬉しく思います。ご紹介させていただいた皆さん、ありがとうございました!
ViViViTで作品をまとめる!

(2023.3.29)

著者

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下山絢香

株式会社ビビビットの社員です。大学時代に学んだサービスデザインやUXデザインの知識を活かし、地域や学校に関係なく、すべてのクリエイターが納得のできる居場所を見つけられる世界を目指してViViViTの広報活動に取り組んでいます。

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