デザインを学び、総合職ではたらく#2|面白法人カヤック 村上真実子さん

特集 総合職ではたらく2-村上さん

特集

近年、デザインや美術専門の学校を卒業して、総合職で働くことを選択する学生が増えてきているそうです。「せっかく物づくりの技術や知識をつけたのにもったいない」…と思う方がいるかもしれません。ですが、学生時代に身につけた物作りのスキルは決して無駄にはなりません。その経験を活かすことで、総合職でも活躍できるチャンスがあるそうです。そこで今回の特集「デザインを学び、総合職ではたらく」第二弾では、美術大学のデザイン学部を卒業して面白法人カヤックの人事部で働いている、村上真実子さんにお話を伺いました。編集・執筆 / YOSHIKO INOUE, AYUPY GOTO

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村上 真実子むらかみ まみこ

面白法人カヤック 人事部
京都精華大学のデザイン学部デジタルクリエイションコース卒業

― 村上さんが働いている“株式会社カヤック”は、どのような事業を行っている会社なのでしょうか。

村上さん:別名“面白法人カヤック”と呼ばれていて、Webサイト、アプリといったさまざまなデジタルコンテンツを制作している会社です。「面白法人」という言葉には「面白い人より面白がる人であれ」という思いが込められていて、クライアント・ユーザー・カヤックの3者をハッピーにすることを目標に、面白いコンテンツをつくることにこだわっています。現在は主に、企業さんからお仕事をいただいてWeb広告、キャンペーンサイトなどの制作を行うクライアントワーク事業、スマートフォンゲームユーザー向けのチャットアプリ「Lobi」などの制作・運営をしているコミュニティ事業、ソーシャルゲームの開発・配信をしているソーシャルゲーム事業の3本柱となっています。

― “面白いこと”にこだわっているユニークな会社なのですね、村上さん自身はどのような仕事を行っているのでしょうか。

村上さん:私は現在人事部で、採用や社内行事の仕事を担当しています。カヤックでは組織戦略を重視しているので、採用には力を入れて取り組んでいます。2009年度からは毎年、『面白採用キャンペーン』というオリジナルの採用方法を実施しています。取り組みの中のひとつである『1社だけの合同説明会』は広い会場を借りて、200人近くいるカヤック社員が職能や個性に特化したブースを出展し、学生や社会人の方に向けて仕事・働き方についてのお話をするという内容のものでした。出展ブースは入社1年目の社員が語る「新卒ブース」から、アイドルオタクがアイドルについて語る「アイドルブース」までさまざまです。ちなみに特徴的なブースとして、「最終面接ブース」では3代表と面接ができて、その場で内定が出るといった試みも実施しました。こういったどなたでも楽しめるユニークな採用施策を企画・運営するのもカヤックにおける人事の仕事のひとつです。学生さんにカヤックのことを届け、興味を持ってもらい、そこから入社につながるように日々奮闘しています。

自分で考えたものは最後まで携わりたい…という思いから
選択したのはディレクター職。

― 学生時代はどのように過ごしていましたか。

村上さん:京都精華大学のデザイン学部デジタルクリエイションコースに所属していました。入学当時はプランニングという言葉自体知らず、大学や専門のコースを決める時は、オープンキャンパスで話した先生が魅力的だと感じたことから選択しました。入学後はまずデザイン基礎を学び、学年が上がると好きな専門授業を選択できるようになったので、私は映像や広告・Web制作などの、ビジネスに近い授業を専攻しました。プランナーを目指すような子達と一緒に、刺股モチーフのキャラクターを作ってWebサイト・Tシャツ・手描きアニメーションに展開したり、プロモーションビデオなどの映像作品を制作したりしていました。もともとグループで何か行う時にアイデアを出したり、中心になって進行することは好きだったこともあり、グループ制作の時はいつもディレクターやプランナーを担当していましたね。

― 就職活動はどのように行ったのでしょうか。

村上さん:就職活動が始まり、まずは自分が就きたい仕事のジャンルを絞ろうと思ったのですが、やりたいことが沢山あってなかなか決められませんでした。そこで映像作家や舞台の美術・テレビ業界などジャンルを問わず調べていたら、私はどんな仕事に就いても「自分で考えたものは最後まで携わりたい」という欲がすごく強いことに気づいたんです。社会ではそういう仕事のことを「ディレクター」と呼んでいると知って、そこからディレクターの仕事ができる会社を探し始めたんです。当時Web業界ではTwitterやFacebookが流行りはじめたりと、新しい技術やサービスが続々と出てきたタイミングだったので、たくさんの可能性を秘めていることに魅力を感じて、Web業界を志望することにしました。

― 村上さんが就職活動を行う際は、どのような考えをもって行動していましたか。

村上さん:説明会や面接は会社を知る大切な時間なので、きちんと何かを得て帰りたいという目的意識を強く持っていました。スーツを着て、髪の毛をセットして、決まったセリフで好印象を残す…といった、本やセミナーで言われているようなことももちろん大切ですが、それが全てではないだろうと思ったんです。きちんとその会社を知ろう、選ぼうという気持ちで活動していました。

― なるほど。カヤックさんのことは、どのように知ったのでしょうか。

村上さん:大学で行われたWebの授業です。先生がカヤックの制作したWebサイトをいくつか紹介してくれたのですが、そのお仕事が全部が印象的でした。帰ってカヤックのコーポレートサイトを調べてみたら、仕事だけでなく採用活動や働く環境も斬新な取り組みをしていて面白い会社だと思ったので、新卒採用に応募することにしました。

― 説明会などではなく、会社の制作物を見たのが始まりだったのですね。就職活動でポートフォリオは活用されましたか。

村上さん:通常、ディレクター職の場合、ポートフォリオの提出は必須ではないんです。私もいわゆる冊子にしたポートフォリオはつくっていなかったのですが、カヤックの面接ではポートフォリオを見せることもできるということを面接前日に気づいて、東京行きの新幹線で急いで制作したことを覚えています(笑)。私は作品の量よりも『どういう考えで制作に取り組んでいるのか』ということを知ってもらいたかったので、A4の紙2枚に見せたい作品を厳選して載せました。楽しかった課題としんどかった課題をランキングにして、その理由や画像、URLなどをつけてまとめたんです。面接当日はその紙を見せながらプレゼンして、一次面接、二次面接と順調に通過することができたのですが、最終面接前に会った社員の方に「やってること自体は面白いけど、もう少し自分の言葉でわかりやすく伝える練習をしないと、最終面接は通らないよ」と言われてしまいました。それから話し方などに気をつけて、自分の口で考えや思いを伝える練習に力を入れて、最終面接に臨みました。そうして無事、大学4年生の4月1日に内定をいただくことができたんです。

― 面接でプレゼン能力が求められていたんですね。入社後はどのようなお仕事を担当されたのですか。

村上さん:入社して最初の2年間は、クライアントワークのディレクターとして働いていました。記憶に強く残っているお仕事は、グランフロント大阪に新設されたPanasonicさんのショールーム開発のお仕事です。ショールームをガイドするアプリや、モニターの前に立ったときに映るARコンテンツの制作など、ショールーム内で使われる演出の制作を全て任されていました。大阪出身なので、地元の仕事ができたのはすごく嬉しかったです。
そして、入社3年目のタイミングでコミュニティ事業部に異動して、スマートフォンゲームチャットアプリ「Lobi」の運営を担当しました。アプリの中で行われるイベントを企画したり、どうすればユーザーにLobiを活用してもらえるか、Lobiのブランド価値が高めることを常に考えて仕事していました。

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粘り強さが美大生の強み。
デッサンでつけた根性や頭の使い方が、仕事に活きる。

― その後、現職である人事部に配属されたのですね。人事部への移動は村上さんが希望されたのでしょうか。

村上さん:希望して人事部に異動しました。採用企画を通して「面白法人」という会社のブランドを築く、新しいことに挑戦してみたいと思いました。

― 人事部に異動してみていかがでしたか。

村上さん:入社してからクライアントワーク、自社サービス、人事部と3部署を異動したのですが、それぞれ使う脳が全然違うんです。クライアントワークは、クライアントの企業さんからもらったお題にどう返すかという、大喜利に近い頭を使います。ですが、人事などコーポレートの仕事は「カヤック」という会社自体のことを考えます。カヤックがどうしたいのか、どう思われたいのか「カヤックの社員」から「カヤック」へ、視点が動きました。今の「面白い会社」というブランドはこれまでの積み重ねで出来たものなので、企画を出すときも中途半端なものは出せません。難しいことも多いですが、それがやりがいでもあるので楽しいですね。
私が人事部に配属されて期待されているのは、クライアントワークなどの現場経験をいかに人事にいかせるかというところだと思います。なので、現場で身につけた力を人事の仕事に流入して還元するという、一歩踏み込んだ結果が出せるように意識しています。

― 新たな部署でこれまでの経験を生かして仕事をされているのですね。働く上で、美大生出身ならではの強みを感じることはありましたか。

村上さん:粘り強いところは強みだと思います。美大生はデッサンや作品など作った物を、講評会などで他人の前で強くダメ出しされたりして、プライドをずたずたにされるような経験を沢山しているんですよ。なので“出したものが自身の全てで、結果である”という感覚が身についているんです。また、大学受験の時に行う鉛筆デッサンは、制限時間内でどれだけ描き込めるか、見せどころを作れるかが勝負になるので、実はテクニックや計算がすごくいるんですね。その訓練で培った時間配分の仕方や、物の見せ方・作り込み方は、人からの依頼内容を噛み砕いて言葉で説明できるものにする能力に繋がると思うんです。それはどんな仕事にも共通する考え方だと思っているので、デッサンを学ぶことは根性もつくし、すごく良いと思っています。

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自分の価値観と、社会が求めるものが交差する
失敗や成功を繰り返して成長できるのが“社会”

― デッサンで養われた力が、仕事の基盤にもなっているのですね!では、村上さんが働く上で大切にしていることを教えてください。

村上さん:自分で納得して、自分の言葉で説明できるものを作ることです。長く会社にいると、人に言われたことをやるだけで感謝されることもあるのですが、自分で新しいことを考えて今よりもっと良いものを作ることや、もっと良い方法を模索する感覚は持ち続けるようにしています。簡単なようで続けることは難しいことだと思うんですけど、自分も相手も納得できるものを作り続けられるようにしていきたいですね。
また、人事の仕事は向かい合う相手が社員になるので、入ってくる人・今いる人・出ていく人、ひとりひとりに柔軟に対応できるよう心がけています。

― 村上さんは、美術やデザインを学ぶ学生に総合職で働くことををおすすめしますか。

村上さん:「自分の考えを残す」という形でものづくりを捉えられるのであれば、総合職で活躍できる場はたくさんあると思います。人事という仕事も『面白採用キャンペーン』などを通して、自分でアイデアを提案してカタチにする機会は沢山あるので、ものづくりから離れたという意識はありません。社長から課題をもらうことも増えたのですが、「こういうの考えてよ」という社長の投げかけに対して、企画にして打ち返し続けています(笑)。
美大にいる時って、いかに人と違うアイデア出せるか、個性をつくれるか、そういうことを考えながら物をつくっていますよね。でも社会では、どんなに自分が良いと思ってつくったものも、人に理解されなかったら意味がないですし、社会に出してもたいした反応はもらえません。そういった「自分の価値観」と「社会が求めるもの」が交差するところは、いろんな仕事に繰り返し挑戦してみないとわからないと思うんです。
お金をもらって物をつくるということは、それだけ責任も大きいのですが、成功した時に得られるものは多いです。思った通りにいかなかったり、失敗したり、社会に揉まれてみることは、いずれ良い経験になりますから。美大生の子って、働くことに対して恐怖心を持っている人も多いと思うのですが、社会に出て働くことは思っているほど怖くないですよ!と伝えたいです。

― 村上さん、お話ありがとうございました!

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面白法人カヤック

(2016.11.6)

著者

後藤あゆみ

はたらくビビビット編集長。 フリーランスで“『ツクル』を仕事にしたい未来の子供たちのために。”を、コンセプトとして活動。クリエイター支援、スタートアップ支援を行っています。おばあちゃんになるまでに美術館をつくるのが夢です 。

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