デザイナーが経営に関わる時代へ。HAKUHODO DESIGN永井一史さんに聞く、デザイナーのこれから

昨今、デザイナーが活躍するフィールドは多様化しています。デザイナー自身の志向性にもよりますが、「ビジネスが生まれる場面」でデザイナーが活躍する状況も増えてきています。
学生のいまからそう言われるとなんだか難しそうですが、今回インタビューを受けていただいたHAKUHODO DESIGN代表の永井一史さんは、「経験によってデザイナーの関心レベルは変化する」と語ります。永井さんが造形に加えてビジネス面にも関心を持つようになったあるエピソードから、審査員として参加される内閣府主催の「経営デザインシート」リ・デザインコンペティション(2019年9月まで開催、株式会社ビビビット運営)についてまでを、デザインを志す学生に向けて語っていただきました!編集・執筆 / YOSHIKO INOUE

永井 一史ながい かずふみ

株式会社HAKUHODO DESIGN 代表取締役社長/多摩美術大学教授
アートディレクター/クリエイティブディレクター

1985年に多摩美術大学美術学部卒業後、株式会社博報堂に入社。2003年、デザインによるブランディングを専門とする会社HAKUHODO DESIGNを設立。 多数の企業・商品や行政施策のブランディング、VIデザイン、プロジェクトデザインを手 掛けている。2015年からは東京都「東京ブランド」クリエイティブディレクターを担当。2015年から2017年まではグッドデザイン賞審査委員長を務めた。経済産業省・特許庁「産業競争力とデザインを考える研究会」委員。国内外で受賞歴多数。著書・共著書に『博報堂デザインのブランディング』、『経営はデザインそのものである』など。
HAKUHODO DESIGN

◎経験レベルで変わる、デザイナーの関心。
とあるリブランディングの仕事で……


永井さん:多摩美術大学を卒業後、博報堂でデザイナー・アートディレクター・クリエイティブディレクター・ECD(エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター)を経て、HAKUHODO DESIGNという会社を立ち上げました。

会社立ち上げの背景にはそれまでのいろいろな経験がありますが、一つきっかけを挙げるとすると、あるブランドのリブランディングの仕事です。リブランディングを行った結果、その会社の業績がV字回復した……そんなエピソードなのですが、それまでの私は「デザインすること自体が楽しい、それが評価されて嬉しい」という、デザイナーとしてある種ピュアなモチベーションで仕事をしていました。ですがその仕事をきっかけに、アウトプットだけではなく、クライアントと話し合いながら一歩一歩進めていく喜びや楽しさ、また結果を出すことの重要性も感じるようになったんです。並走してきた中心メンバーから「本当にありがとうございました、社内に活気が出ました!」と言われたときに、自分の深いところでの喜びを感じたんですよね。「デザインというものは、こんなことにも役に立てるんだ」と気付かされる大きな経験となりました。
その時期から、自分の仕事のスタイルが確立していったように感じます。

▼永井さんが手掛けたリーガルコーポレーションのブランディング



永井さんデザイナーの関心は、経験レベルによって変わっていくものだと思います。
一番始めの関心は、「どんな造形でデザインを生み出せるか」というところ。覚えたことをアウトプットするのに精一杯で、アウトプットできたことそのものに喜びを感じますよね。その次に、造形の先にある人の気持ち評価に関心が向くのではないでしょうか。作ったものがどう「魅力的に思ってもらえるか」「人の気持ちを変えられるか」「世の中に影響を与えられるか」といったところです。ビジネスとデザインの領域や、デザイン経営などは、そういった“影響力”への関心の延長上にあると思うんですね。
もちろん、そういった“影響力”より表現の深みを追求していくタイプもいるでしょう。例えばー枚のポスターにこだわりを持って、その中で表現を追求していくような人。それぞれの経験や志向性、価値観によってデザイナーのタイプは分かれていくものだと思います。

◎移りゆくデザイナーを取り巻く環境。
「企業の重要な役割」もデザイナーのキャリアパスになるのでは

永井さん:本来デザインとは「新しい関係性をつくること」。
新しい関係性をつくるには、アウトプットだけでなく、プロセスをしっかり経ることが大事です。さらに、プロセスの中ではいくつもの決断が求められるため、決断するための判断軸が必要です。そして判断軸を持つためには、たくさんの経験や情報、知識が必要になるのです。
例えば、何か形を思いついたとしても、その発想が適切かどうかは、最低限の情報がないと判断ができません。造形力もとても大事ですが、きれいな造形だけをつくれば良いわけでもなくて。そこがどんな状況で、そこに人が触れたら何を感じるか。そういったことを考え抜く必要があります。そんなプロセスを踏んで表出されるものが、その状況にあるべき形だと思うんですね。


永井さん:デザインを取り巻く環境は変化しています。きれいな造形が大きな競争を生むような時代もありましたが、ものにあふれた現代はそれだけでは駄目です。デザイナーは、最終的な造形や人にとっての心地良さ、生活の豊かさをどう提供するかという視点に加え、それが事業として成立するかを考える必要もあるのです。そのため、激しい環境変化の中で新しいことを生みだせるデザイナーが、これからどんどん価値を生みだしていくと思います。造形力に加え、それが事業として成立するかというフィジビリティ(実現可能性)を考え、提案できるデザイナーですね。
なので、これからのデザイナーのキャリアパスには、「デザイナーとして一旗揚げる」に加えて、「企業において重要な役割を担う」というものも加わっていくと思います。

◎複雑なものをシンプルに。
そんなデザインにモチベーションを感じる人に取り組んでほしい


合わせて読みたい:「経営デザインシート」って何?


永井さん:今回の「経営デザインシート」のリ・デザインですが、何かをシンプルに解いていくことがデザイナーとしてのモチベーションになる人は取り組みやすいのではないでしょうか。
デザインにはいろんな側面があり、その一つに「複雑なことをシンプルに解決する」面があります。このシートのリ・デザインも、ビジネスや大きな企業体という非常にスケールの大きいものを、シンプルなフレームで定義づける、とも言えますよね。
また、影響力という点でいうと、このシートのユーザーや対象者って、全国の5万社以上の経営者ですよね。その多くの人や事業に影響力を与えられる可能性がある。そんな重要な役割を持つシートを自分がデザインするんだということに、モチベーションを感じられる人にも取り組んでみてほしいです。

発想の取っ掛かりとしては、例えば自分たちの部活など、自分自身の環境に置き換えてみることが良いのではないでしょうか。「資源」や「外部環境」など、シートには難しい言葉がたくさん出てきますが、それも「らしさ」や「売り」、その他に置き換えられると思います。まずは自分に引き寄せ、自分の言語に翻訳し、解釈してから取り掛かるのが良いのではないかと思います。

◎価値が生まれる場面にデザイナーがいる未来。学生へメッセージ


永井さん:これからのデザイナーの一つのモデルに、「ビジネスが生まれるプロセスに関わるデザイナー」というものが挙げられます。すでにシリコンバレーでは、企業のパートナーにデザイナーが入ることは一般化していますよね。ビジネスが生まれるということは、価値が生まれるということです。
19世紀末にデザイナーという概念が生まれた背景には、“生産”と“設計”が分離したところによるものがあります。それから産業や経済などさまざまなものにデザインが浸透し、役割を担っていきました。例えば広告をつくるアートディレクター、製品をつくるプロダクトデザイナー。そういう市場の中で最大限発揮される力が、デザイナーが生み出す価値そのものだったと思うんですね。しかし、これだけ環境が変わったいま、ビジネスそのものが生まれるプロセス、つまり何を“生産”するのか、どんな事業なのかということにデザイナーがもっと入ってくる時代が来ているのかなと感じます。

そんな場面で活躍するデザイナーには、もちろんビジネスへの理解が求められますが、このシートに取り組むことで、ビジネスとデザインを掛け合わせる接点の一つにしてほしいと思います。こういったフレームワークが経験値として自分の頭の中にインプットされることで、他の場面での解釈や思考の基礎力になるでしょう。
デザインを学ぶ学生からすると、「経営」はかなり遠い存在かもしれません。けれど、経営から遠い思考性や感性を持った立ち位置から臨むのもありだと思うんですね。どんな状況でも、デザイン的な思考やイマジネーション、考え方は生かせると思うので。一つのチャレンジとして取り組んでみてほしいです。

ーー 永井さん、ありがとうございました!

ビジネスが生まれる場面は、価値が生まれる場面。
そこで活躍するデザイナーは、あなたかもしれません。

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アウトプットに向けて試行錯誤することは、きっとあなたの基礎力になりますよ。

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(2019.8.15)

著者

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井上佳子

はたらくビビビット編集長。 株式会社ビビビットの社員です。ポートフォリオづくりに役立つ情報発信を目指します。 Twitter

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